12月22日午後4時55分。
海鳴大学病院。
目を覚ましたはやては自身が検査の為に入院をしているという事を改めて認識した。
病室には自分が横たわっているベッド、窓、花瓶などを置く事が出来る程度の大きさの机、椅子がある。
カーテンが風によって揺らめいており、夕方特有のやんわりといった陽の光が窓から射し込み、優しく身体を照らし暖めてくれている。
だが、この病室に今は自分1人だけであり、家族であり自身を主と呼び慕ってくれている守護騎士の4人、兄である竜人、友人であるすずか達は居ない。
ただ自分独りだという事を、自ずと強く感じさせてくる。
「…………」
他の誰かが居ない事で、小さな
だが、そうであっても独りで居るという事は寂しいものだ。
ほんの少し前までは竜人がバイトで出掛けて、家には自分1人しか居なかった事もある。そういった経験から慣れている筈なのに。
それなのに、寂しいという気持ちは何時まで経っても消える事は無く、いつになっても感じるものだった。
その気持ちをまた……今もまた同じように感じている。
「皆、どうしてるかな?」
そんな気持ちを感じながらも、やはり大好きな家族の事が気に掛かる。
自然と、ポツリと出た言葉は、狭い病室の中ではやけにはっきりと聞こえ、そして窓の外に消えていった。
「ええ……ここまでは上手くいってるわ」
『ああ。そっちに戻らなくなった分、管理局もこちらを追いきれていないようだ』
はやての友人である月村すずか。そして保和歩栄。
保和歩栄と、すずかの友人である少年少女達は管理局と関係のある魔導師でもある。
そんな彼女達が主であるはやての見舞いへと来てくれるのだ。
喜びこそすれ、それを拒否したりする事は出来ない。
だが、管理局の魔導師である可能性が多いにあるのだから、守護騎士である自分達が迂闊にはやての病室に居て彼女達と接触をしてしまうと、はやてが闇の書の主であるという事に気付かれてしまうかもしれない。
そういった理由などもあり、シグナムにヴィータ、ザフィーラの3人は別次元世界での募集行為に専念しているのだ。
ただ幾つかの懸念や不安があるのだとしたら、保和歩栄が管理局にこちらの事――主であるはやての事を報告していないかという事だ。
だがまあ、管理局が地球で何のアクションも起こしていないところから考えて、それはもう無いだろうと言えるのかもしれない。
『主はやては、寂しがってはいないか?』
「私には、一言も。でも……お友達はよく来てくれてるみたいなの……すずかちゃん達」
『そうか。だが、心配させてもいけない。数日中に、一度戻る』
後は、病院内での接触だ。
もし、シャマルがはやての世話をしている時に運悪く、なのはとフェイト達が見舞いに来たとしたら。
そういった不安などはあるが、今は目の前の事に集中する事しか出来ない。
「うん。気を付けて」
『ああ』
思念通話を終了し、それぞれの役割を熟す事に専念する。
闇の書の募集もそろそろ終わりが見え始めており、現在埋まっているのは606ページ。残りは丁度60ページという状況だ。
リンカーコアからの魔力の募集についてだが、はやては他人に迷惑を掛けるという事に対して酷く強い抵抗があり、その気持ちを守護騎士等は汲んでいる。
竜人もまた、ヒトには手を出さず、募集対象としているのはリンカーコアを持つ魔法生物だけだ。
唯一の例外としては、ヴィータの先行で募集をした高町なのはのリンカーコア。そして、仮面の男の手で抜き取られたフェイトのリンカーコアだけだ。
だが、魔法生物の戦闘力はかなりのものであり、極力傷付けず、リンカーコアにも損傷を与えずに倒し、募集をするというのは難しいものである。
その為に、苦戦をしてかなりの時間を掛けてしまっていた。
そういった状況などであるにも関わらず、闇の書の主であるはやての兄――八神竜人の働きもあり、空白が埋まりつつある。
12月23日午後18時。
保和家地下にて、俺は修行に集中をしている。
相も変わらず修行室内の空気は、俺から漏れ出ている膨大な気の影響で揺れ動いており、蜃気楼のような環境となって遠くのものがぼやけて見える。
だが、修行をしてはいるが気になる事があり、それが雑念となってあまり良いと言える動きが出来ていない。
「(……ここ数日の間は外道衆も出て来ていない。奴らは何が目的なんだ……? 仮面の男である猫姉妹の初介入時に、水虎も同時に介入をして来た。だが、それっきりだ……)」
外道衆の目的は、基本的には三途の川の水をこちらの世界に溢れさせ、ここで生活を出来るようにするもの。それを成すには、人々の恐怖などのマイナスの気持ちや感情が必要の筈。
前世での記憶が正しければ、それで合っているだろう。
「(だが、ヴォルケンリッターを助けて、一体何になるんだ……? まさか――!)」
闇の書は、最終的には大きな破壊を世界へと
そして、それは主を吸収してから起きる。
闇の書の主であるはやては、猫姉妹の手によって絶望を覚え、管制人格が起き、暴走を開始する筈。
「その絶望を利用するつもりか……? そして、世界の異常に気付いた者が感じた恐怖や絶望もまた利用して、三途の川を氾濫させる……だが」
だが、この次元世界が崩壊してしまえば、奴等はどの世界に出るのだろうか。
三途の川の水が氾濫する事で、世界の崩壊は防がれる。
なんていう事はあり得ないだろう。
ならば――。
「ミッドチルダとか、か……」
三途の川からはどの次元世界であろうとも、行きたい場所へと隙間を通って移動をする事が出来た筈だ。
そう。
プレシア・テスタロッサに対して、洗脳のような事をしたアカマタがそうであったのと同様に。他の外道衆の面々も、自由に他の世界へと行く事が出来る。
何も、三途の川はこの地球だけに繋がっているという訳では無いのだから。
「だとしたらどうする……闇の書の闇をどうにかするのも大事だけど、これもまた」
「何をそんなに考えているんだ?」
「――ヘアっ!?」
驚きで変わった声と言葉を発してしまいながら後ろを振り向くと、そこに義兄であるマッドが居た。
いつものように楽しそうな笑顔を浮かべている彼の姿を見て、少しばかり羨ましくもあり、妬ましくもある。
「何をそんなに難しく考え込んでいる?」
「いや……その……」
答に窮してしまう。
何をどう言えば良いのだろうか。何を伝えれば良いのだろうか。
今、自分が気付いている事。そして、それらから推測と憶測ではあるが予測出来、
それらをどうすれば防ぎ、回避する事が出来るのか。
「もう少し頼ってくれても良いんじゃないのか? お前がどう思っていようとも、今の俺は、お前の義兄であり家族なんだから」
「…………」
「それに……俺じゃ無くても、お前の周りには優秀な奴等が居るじゃないか。もう少し、信じてみたらどうだ?」
何を迷っているのだろうか。何をぐじぐじと、うじうじとしているのだろうか。
考えているだけでは意味が無いという事は、前世での経験で嫌だと言いたい程に感じ、気付いた筈なのに。
「(考えるのは止めだ。サイヤ人はサイヤ人らしくという訳では無いけど……何も考えず壁にぶつかるか。いや、それじゃ、ただの)バカだな」
「どうした?」
「いや、何でも無い」
「そうか」
「他の皆には、まだ話して無いんだけど」
地球の衛星軌道上で、管理局の次元航行艦船であるアースラが待機をしている。
アースラには……いや、管理局の所有する殆どの次元航行艦船には、認識阻害などの機能があり、現在はそれを使用している。
肉眼で捉える事は出来ないが、天体望遠鏡や監視衛星などによって見付かってしまう可能性があるからだ。
管理外世界は魔法に関しての知識や技術が無く、管理局の法ではそれらの世界に対しては基本的に不可侵だ。
もしアースラの存在が認識されたりすると、地球で大パニックが起きたりする可能性もある。
そういった事を管理外世界で起こさせない為。そして、秘密裏に行動をして、他者に存在を気付かれないようにする為に、そういった機能が付いている。
「あれ? どうしたの? クロノ君?」
「ちょっと調べ物」
「何だ。言ってくれれば、やるのに」
キーボードを叩くとピピピといった軽い電子音が鳴り、モニターにはある人物の情報が映し出されていた。
「いや、良いんだ……個人的な事だから」
ある程度の欲しい情報は手に入れる事が出来たのか、部屋から出ていこうとするクロノ。
「ああ。闇の書についてのレポート……なのは達にも送っておいてくれたか?」
「なのはちゃん達も、闇の書の過去については複雑な気持ちみたい」
「そうか」
クロノが部屋を出て行くのを見届けた後、エイミィは彼が調べた事の内容が気になり、ログを開いてみる。
出て来た人物を見て、彼女は少し、驚いてしまった。
12月24日午後4時25分。
海鳴大学病院の病室で、シグナムやヴィータ、シャマルは顔出しと見舞いを兼ねて、はやてに逢いに来ていた。
竜人はというとここ最近は募集に出掛ける事は無くなり、シャマル同様にはやての側に居続けている。
「はやて。ごめんね……あんまり逢いに来れなくて」
「ううん。元気やったか?」
「めちゃめちゃ元気!」
謝るヴィータに対し、笑顔で彼女お頭を優しく撫でるはやて。
ヴィータもまた、それにより次第に笑顔を浮かべ始める。
「「――!?」」
そこに、扉をノックする音が聞こえて来る。
「こんにちは~」
「あれぇ? すずかちゃんや。はーい、どうぞ!」
その少女の声を聞いて、はやては連絡も無しに来た事に驚きつつも部屋への入室を許可する。
だが、その場に居る3人の守護騎士は、あまり良い感情を感じなかった。なかでも1人が抱えているのは寧ろ敵意に近いものだろうか。
1人はこうなるかもしれないと予想はしていたが、いざ現実になってしまうと、慌ててしまっている。
挨拶をして病室へと入る少女等と少年等。
皆が入ると同時に、3人の抱く気持ちはよりハッキリとしたものへと変わっていく。
だが、肝心の主であるはやて、そしてすずかとアリサは気付かずに明るい笑顔を見せている。
そしてなのはとフェイトの2人は驚き、一瞬ではあるが口を少しばかり開いてしまう。
雄介と志蓮、ドゥームの3人はこうなる事を知っており、「やはりこうなってしまった」と落ち込むだけ。
「今日は、皆さんお揃いですか?」
「こんにちは。初めまして」
シグナムはこの先どうするかを考え、シャマルはただ戸惑う様子を見せる。
竜人の方は、ただ腕を組み目を閉じている。
「あ! すみません。お邪魔でした?」
だが、そこにアリサは何かが可怪しい事に気付き、様子を伺うようにして尋ねる。
「あ……いえ」
「いらっしゃい、皆さん」
「何だ……良かった」
だが、表立っての行動は避けるべきだという事は重々に理解しており、迎え入れる事にしたシグナムとシャマル。
「ところで今日は皆、どないしたん?」
「「――サプライズプレゼント!」」
はやての疑問に応えるように、すずかとアリサは手にしているものを彼女に見せる。
それは包装されている箱であり、その中にはクリスマスプレゼントにと買ったものが入っている。
それを目にしたはやての顔は予想通り驚きと喜びで一杯になっていた。
「今日はイヴだから、はやてちゃんにクリスマスプレゼント」
「ほんまか? ありがとうな」
「皆で選んで来たんだよ」
「後で開けてみてね」
抱えているプレゼントの入った箱をはやてに手渡すアリサとすずか。
場の重い空気を感じていないのではと思わせる程に、自然な笑顔をみせる3人の少女。
なのはとフェイト、そしてシグナムとシャマルはこの状況に未だ戸惑っており、辺りを見渡し、視線を彷徨わせるだけ。
だがそんな状況の中で、なのははベッドの直ぐ側に居る赤髪の少女と目が合う。
ヴィータは敵意を隠すような事はせず、鋭い視線でなのはとフェイトを真っ直ぐに見貫いていた。
そんなヴィータに対してなのはは思わず、身を縮めてしまう。
ヴィータもヴィータで、表立って事を起こしては駄目だと理解をしているのだ。
だからこそ、彼女は精一杯の攻撃をしてみせている。
「なのはちゃん、フェイトちゃん。どないした?」
「あ……ううん。何でも」
何でも無いという訳では無い。寧ろ問題は大きく主張をしているような状況だ。
雄介や志蓮、ドゥームもまた、どうすれば良いのかが判断出来ずに居る。
「ちょっと御挨拶を……ですよね?」
「はい」
「ああ、皆……コート、預かるわ」
彼女達からコートを受け取り、タンスの中へと入れていくシャマル。
そうしている間にも、
「念話が使えない。通信妨害を?」
「シャマルはバックアップのエキスパートだ。この距離なら、造作も無い」
他の皆には聞こえないように、小さな声で話すシグナムとフェイト。
話しに花を咲かせているはやてとすずか、アリサの3人を余所に、シグナムとフェイトは互いに警戒し合い、シャマルは連絡が出来ないように妨害を……そしてヴィータはなのはの方をただ静かに睨み続けていた。
見ようによっては、鬼の形相にも思えてしまう程の迫力と気迫だ。
「えっと……そんなに睨まないで」
「睨んでねえです。こういう目付きなんです」
なのはの言葉に対して否定をしながらも、その態度を一向に変えようとはしないヴィータ。
先程よりも、その鋭さは増しているのではと思えてしまう。
「ヴィータ! 嘘はあかん! 悪い娘はこうやで!」
ヴィータにお仕置きだというように、彼女の鼻をつまみながら上下に動かすはやて。
「ブロン君はどないしたん? 何処にも見当たらんけど」
「何かやらなけりゃいけない事があるとか言って、終業式終了後に走って行っちゃってさ」
重い空気を斬り裂き、和らげるように笑いながら話をするすずかとアリサにはやて。
彼女達は敏く、この状況が可怪しいという事には既に気付いているだろう。
だが彼女達3人は、あえていつも通りの自然な感じを見せている。
「お見舞い、しても良いですか?」
「ああ」
フェイトの言葉に、シグナムはただ静かに頷き返すだけだった。
見舞いを終えるとすずかとアリサは帰り、なのは達も途中までは一緒に帰る。
だが、アリサとすずかの2人と別れると同時に再び病院への道へと戻り、守護騎士達と竜人の4人と向かい合う。
今の彼女達は病院とは離れた位置にあるビルの屋上に居り、互いに黙っているからかとてつもなく静かであり、重苦しい空気になっている。
「はやてちゃんが闇の書の主……」
「悲願は、あと僅かで叶う」
「邪魔をするなら……はやてちゃんのお友達でも……」
はやてが闇の書の主であった事に驚きを隠せないでいるなのはとフェイト。
シグナムとシャマルはそんな2人を真っ直ぐに見詰め、言葉を口にする。
それがどれだけの覚悟を持って言っているのか、行動をしているのか……想像に難くない。
「待って! ちょっと待って! 話を聴いて下さい! 駄目なんです! 闇の書が完成したら、はやてちゃんは……――っ!!」
話を言い終える事も無く、ヴィータによる空からの強襲に対して防御するなのは。
火花が散り、耐えはするが、少しと経たずになのははフェンス側まで吹き飛ばされてしまう。
「なのは! ――っ!!」
飛ばされ、フェンスへと身体をぶつけたなのはへと目を向けた瞬間。
その瞬間にフェイトもまた、シグナムに斬り掛かられる。
回避をして、バルディッシュを起動させるフェイト。
「管理局に、我等が主の事を伝えられては困るんだ」
「私の通信防御範囲から出す訳には、いかない」
身体を起こすなのはの方へとゆっくり、グラーフアイゼンを手にしながら近付いていくヴィータ。
「ヴィータ……ちゃん……」
「邪魔、すんなよ……」
赤い騎士甲冑は、この状況、そして今の気持ち的に、紅く、血に濡れたものに見える。
主であり、家族である1人の少女の為に、自ら汚れ、血に濡れる事を恐れず、怖れず、
「あとちょっとで助けられるんだ……はやてが元気になって、あたし達のところに帰って来るんだ」
ヴィータは溢れ出る涙を目蓋で溜めながら、声を震わせながら必死に口を開く。
「必死に頑張ってきたんだ」
グラーフアイゼンを握っている手も大きく震えており、今にも激情が溢れ出しそうな程だ。
「もうあとちょっとなんだから……邪魔すんなああああああっ!!」
涙が零れ落ち、グラーフアイゼンを強く振り
グラーフアイゼンからカートリッジである薬莢が排出される。
夜のビルの屋上で、強い光が起き、爆発した。
その爆発の影響で、屋上は炎を上げて燃えている。
その中から白い服を着た少女が――寸でのところでバリアジャケットを展開したなのはが歩き、姿を現す。
「――悪魔め」
炎の中から出た事もあってか。彼女達自身の心からの願いを壊そうとしている様に見えるそんななのはの姿は、今のヴィータにとって正しく悪魔と呼べる程のものだった。
「悪魔で、良いよ……悪魔らしいやり方で、話を聴いて貰うから!」
【Accel mode. Drive ignition】
Accel modeであるレイジングハートがカートリッジがロードして、なのはの魔力が上昇する。
話を聴いて貰えない。話を訊かせて貰えないのであれば、それが出来るまで、必死にぶつかり続けるだけ。
いつも通りだ。
強く心を決め、彼女達の気持ちを受け止める為に、なのはは真っ直ぐにヴィータを見据えた。
「頼む、シェン! 俺の潜在能力を解放させてくれ!」
界王神界で俺は、シェンに対して土下座をしながら頼み込んでいる。
闇の書の守護騎士達は転生者と渡り合う事が出来る程の力を持っており、その事から闇の書の闇はそれ以上の力を持っている筈だ。
もしそれを外道衆である水虎が手にしてしまえばどうなってしまうのかは、考えたくもない。
「…………」
「知り合いの女の子のほっかほっかなエッチな写真撮って、その生写真あげっからさ」
「…………」
「ほら~、欲しいでしょう?」
「…………」
ここに来てからどれくらいの時間が経過したのだろうか。
シェンに必死に頼み込み交渉をしてはいるのだが、一向に首を縦に動かしてはくれない。
そうこうしている間にも、地球で戦闘が開始された事を感じ取る。
なのはとフェイト、雄介、志蓮、ドゥームの気と魔力が大きくなると同時に、結界か何かによって遮られているのか、感じ取り難くなる。
シェンの側に置かれている水晶には、彼女達が守護騎士である3人、竜人と戦闘をしているのが映し出されている。
「私はロリコンではありません」
「誰も幼女の写真とは言ってないだろうに……誰を思い浮かべたんだ?」
「…………」
俺の言葉を耳にし、顔を赤くするシェン。
「頼む! この通りだ!!」
皆が動き始めた事で俺は焦りを感じ始め、思わず語気を強めてしまう。
「理解りました」
「本当か?」
「ええ。ですが、それなりに時間は掛かりますよ」
何とか承諾を得る事が出来、胸を撫で下ろしそうになる。
だが、事態が良い方向に向いているという訳ではないので踏み留まる。
「ではそこに座って下さい。何があっても気持ちを乱さないように。出来る限り平静に」
「シャマル。お前は離れて、通信妨害に集中していろ」
「うん」
シグナムの言葉に従い、緑色の騎士甲冑を纏って後方へと後退するシャマル。
「闇の書は悪意ある改変を受けて、壊れてしまっている。今の状態で完成させたら、はやては……」
フェイトの言葉にシグナムはただ、レヴァンティンを彼女へと向けるだけだ。
「確か、そんな事を保和歩栄も言っていたか……」
「ブロンが……?」
テスタロッサのリンカーコアを募集して、竜人と保和歩栄の戦闘が終わった後に介入。
その後に聴かされた事を思い出すシグナム。
だが、その時は到底信じられずにいたが、こうも続けて言われると気にはなるものだろう。
「だが、な……我々はある意味で、闇の書の一部だ」
「だから、当たり前だ。私達が一番、闇の書の事を知ってんだ!」
「ならどうして!」
【Accel shooter】
ヴィータの攻撃を防御しながら、Accel shooterを展開。
ヴィータは、それに危険を感じて後方へと退がる。
「どうして闇の書なんて呼ぶの!」
「――え?」
「何で、本当の名前で呼ばないの?」
なのはのその言葉により、ヴィータは内に存在し続けていた違和感の正体に一歩近付けた気がした。
ここ数日間の事ではあるが……保和歩栄の言葉を聴いてからではあるが、ずっと、何かが可怪しいとは感じていたのだ。
「本当の……名前……?」
【Barrier jacket. Sonic form】
金色の魔力、そして紫光を纏いながら、バリアジャケットを展開するフェイト。
だが、そのバリアジャケットは今までのものとは違った。
【Haken】
カートリッジをロードしたバルディッシュは、変形をする。
「薄い装甲を更に薄くしたか」
シグナムの言葉通り、フェイトが纏っているバリアジャケットはかなり薄いものになっている。
簡単に言ってしまうと、殆どレオタードにスパッツといった風であり、手足にはバルディッシュが出している金色の魔力光を放つフィンブレード、なのはの使用するFlier Finに似た、ソニックセイルがそれぞれ3つずつ生えており、右手の甲には装甲が付いている。
「その分、速く動けます」
「緩い攻撃でも、当たれば死ぬぞ。正気か? テスタロッサ?」
運動性、機動性、攻撃速度を手にする為に、編み出した換装形態であるSonic form。
だが正直なところ、シグナムの言葉通り、防御能力は手足以外には無いに等しいものだ。
「貴女に勝つ為です。強い貴女に立ち向かうには、これしか無いと思ったから」
フェイトに応えるように、紫炎を起こしながら騎士甲冑を纏うシグナム。
「こんな出会いをしていなければ……私とお前は、一体どれ程の友になれただろうか……」
「まだ……間に合います!」
「止まれん。我等守護騎士……主の笑顔の為なら、騎士の誇りすら捨てると決めた。もう、止まれんのだ!」
レヴァンティンを構え、顔を上げるシグナムは顔を涙で濡らしている。
それが、どれだけの覚悟での行動なのかを感じさせる。
互いの脚元には、それぞれの魔法体系特有の魔法陣が展開され、魔力が徐々に上昇していく。
「止めます……私とバルディッシュが……」
【Yes, sir】
「やはり邪魔をするんだな」
「邪魔をするつもりなんて、これっぽちっも思っちゃ――」
「――煩い!」
【Imperial Dragon fighter mode】
そう叫ぶと同時に、竜人はImperial Dragon fighter modeへと姿を変え、3人の転生者等へと突っ込む。
60mもの巨体が光速で迫り来る様は圧巻とも言える程であり、3人は一瞬だけではあるが後ろへと退がってしまう3人の少年達。
「――やるっきゃねえっ!」
「ああ!」
雄介は自身の魔力と気を上昇させていく。炎が身体の周囲を覆うように燃え盛り、火花がチリチリと飛び散っていく。
ドゥームもまた、魔力と気を上げて、拳をつくりだす。
志蓮は、
その金色の武器からは、今まで出してきたものとは比べられない程に膨大な魔力が込められており、剣だけでは無く、志蓮の身体を護るオーラのようになっている。
白銀に光輝く刀身に加え、柄には蒼い宝石が。刀身は常に振動を続けており、かなりの熱を出している。宝石には神代の魔力である真エーテルが大量に込められており、その魔力量は、ジュエルシード21個分すらも遥かに超える程のものだ。
「来るぞ!」
叫び声にも近い雄介の言葉を聞くと同時に、ドゥームが龍人と接触をする。
互いの右拳がぶつかり合い、あたり一面に強烈な衝撃波が起こる。
龍人の手の大きさはかなりのものであり、ヒト1人なんていうのは簡単に握り潰せる程のものだ。
龍人に与えられる、実際のダメージはどれ程のものかは理解らないが、見た目だけで判断をするとするならば、蚊が刺しているだけと言える程度のものだろう。
「――っく!」
「がああああああっ!!」
周辺のビルや道路の表側が捲れ上がり、吹き飛んでいく。
龍人の拳は、ドゥームの予想していたものよりも遥か上の力が込められており、
「サイコキネシス!」
拳と拳がぶつかった瞬間、サイコキネシスを使って龍人の動きを封じに掛かるドゥーム。
だが、龍人は易易と抜けだし、そのままドゥームを殴り飛ばそうとする。
「最初から全開だ。イルバーニア! イルアームズ! イルアーマー!
移動速度、攻撃力、防御力の倍加に、全属性への耐性上昇、全身体能力の上昇をこの結界内に居る味方――なのは、フェイト、志蓮、ドゥームに、そして自分へと掛ける。
「――斬り裂く!」
震え、熱を放ち続けている刀身に宝石の魔力を乗せ、龍人へと斬り掛かる志蓮。
ドゥームが龍人を引きつけており、その龍人にとっての右側から斬り掛かる。
だが、龍人はその右手を軽く動かして、志蓮を吹き飛ばす。
その強さは大きさも相まってか、ブロンが大猿になった時に発生した衝撃波や風などとは比べられない程のもの。
気と魔力、そして雄介の魔法であるイルアーマーで防御力と身体能力を強化し、上昇させていないと、身体はバラバラになっていたかもしれない。
【Spear mode】
「――っしゃあらあ!」
志蓮の手にしている剣は、槍の形へと変わる。
先端部はドリルのようになっており、紅く禍々しい魔力を放っている。柄の部分はただの棒と言える見た目だが、その槍全体からは、やはり高濃度且つ膨大な魔力が漏れ出ている。
「――
その槍を志蓮は、龍人へと向けて投げる。
槍は真っ直ぐに、風を物ともせずに向かっていく。
「モード雷炎竜! 雷炎竜の……」
雄介の口元に膨大な魔力が集まっていく。
口内からは炎と雷が見え隠れしており、口の中で蓄えられている魔力の全ては炎と雷に変換される。
「「――咆哮おおおおおおっ!!」」
少し離れた位置から雄介が。そして、ほぼゼロ距離と言える場所でドゥームが同じ技を放つ。
投げ放たれた槍と放たれた魔力雷炎は龍人に直撃して、大きな爆発と強力な爆風を巻き起こした。
周辺にヒトが居ない事を確認しながら、寒空の下で、ザフィーラは飛行魔法を使って移動をしていた。
「(誰にも通信が繋がらん。一体何があった?)」
病院付近に存在するビル街を中心にして、封鎖領域であるGefängnis der Magieが展開されているのを、ザフィーラは八神家からでも感じ取る事が出来た。
そして、その封鎖領域が展開されているという事は何かがあったという事だ。
それが何かを確認する為に、他の守護騎士等に思念通話での連絡を取ろうと試みたが、一行に返事が無く、それどころか繋がってすらも無いのだ。
その事から、管理局が関係しているのではと思い、急いで向かっているのだが。
「管理局の魔導師か……」
「久し振りという訳でも無いな。約2週間振りだというところか……なあ、盾の守護獣」
飛行を続けていたザフィーラの前に、管理局の魔導師だろうと思える人物が1人浮かび、立ちはだかるようにして、前に姿を現す。
「確か、あの時の……」
「今、構っている暇は無いとでも言いた気な顔をしているな」
「そう思うなら邪魔をしないで貰おう」
「邪魔はしないさ。ただ、俺も、あの領域に用があってな。どうだ? あそこに行く迄は休戦といこうじゃないか。ここで戦闘をすれば、民間人に姿を見られるかもしれない」
強く睨みつけはするが、かといって攻撃をする気は無い。
「良いだろう」
ゾイルの提案を受け、それを了承するザフィーラ。
彼等2人は移動するスピードを上げ、封鎖領域の存在する場所へと急いだ。
「――はあああああっ!!」
「――ふんっ!」
Haken formのバルディッシュとSchwert formのレヴァンティンがぶつかり合い、火花が散る。
火花が散るのと同時に、2人は瞬時に離れ、再び斬り結ぶ。
魔導師と騎士の斬り合いはかなり熾烈なものであり、流れるように斬り掛かっては、離れるという行動を繰り返していく。
「(やっぱり強い……Sonic formで速さを底上げして、気と魔力も使用……雄介のイルバーニアでかなり速さも上がっている筈なのに、もう対応して来てる。イルアームズでの攻撃力増加とイルアーマーでの防御力増加もしてくれてるみたいだけど……)」
「(何とか対応してみせたが、驚いたな……予想以上に速い、そして強い。だが、皆の為、そして主はやての為にこの戦い、負けられない)……どうした、テスタロッサ? もう終わりか?」
「いえ。まだです!」
「本当の名前があったでしょ?」
「闇の書の……本当の名前……?」
なのはの言葉、そして自身が感じている違和感と疑問に対して戸惑うヴィータ。
「「――!?」」
その瞬間、青色をした魔力縄が拘束輪のようになって、なのはの周囲に展開され、そして彼女を捕縛する。
「バインド!? また!?」
なのはは抜け出そうと必死に藻掻いてはみるが、より強く身を縛り始める拘束輪。
「なのは!」
なのはを襲う異常に気付き、シグナムとの鍔迫り合いから身を引くフェイト。
【Plasma lancer】
主の意を汲み、魔力弾を生み出すバルディッシュ。
フェイトは周囲を見渡し、周辺の空気や魔力の流れの可怪しいところ、目で確認出来る者達以外の気を探る。
「――そこ!」
フェイトが攻撃をした空間は、一見何も無いように見える。
だが、Plasma lancerは真っ直ぐに飛んで行くと、何かにぶつかったのか、爆発を起こす。
「はあああああああ!!」
Haken formであるバルディッシュを振り翳し、爆発をした空間を魔力刃で斬り裂く。
すると、その空間が揺らぎ始め、仮面の男が姿を現した。
仮面の男の服は、魔力刃によって斬り裂かれた跡が見事に出来ている。
「この間みたいに、いかない!」
バルディッシュのコッキングカバーがスライドし、圧縮魔力の残滓が排気熱のようにして排出される。
もう一度切り掛かろうとするフェイトに対し、横から蹴り技が入れられる。
「――うわあああああああっ!」
錐揉み回転をしながら落ちていくフェイトに、仮面の男は魔法を発動。フェイトの動きを拘束輪で封じ込める。
「――2人!?」
なのはは、その仮面の男を見て、驚いてしまう。
自身の魔力砲撃を止めた相手。フェイトに不意打ちをして、リンカーコアを抜き出した相手。
単独犯だと思われていたその仮面の男が、彼女の目の前には2人居るのだ。
「…………」
2人の内の1人が、20枚近くものカードを取り出して、魔法を発動する。
魔力で編まれた拘束輪は、雄介と志蓮、ドゥームは勿論、シャマル、シグナム、ヴィータ、龍人の動きも封じ込める。
「おい! 拘束プレイは良いけど、野郎が拘束されてるのを見て、誰が喜ぶってんだよ!」
雄介の叫びを無視して、互いに顔を合わせる2人の仮面の男。
「この人数だと……彼等の実力も鑑みて、バインドも通信妨害も、あまり保たん。速く頼む」
「ああ!」
その仮面の男の言葉と同時に、彼の手元に闇の書が転移してくる。
「――な! いつの間に!?」
闇の書が開き、それと同時にヴィータ、シグナム、シャマルの3人は苦しみだす。
募集だ。守護騎士から魔力を――リンカーコアを募集しようとしているのだ。
彼女等の身体から、それぞれの魔力光を放ったリンカーコアが飛び出す。
ヴィータからは赤色の、シグナムからは薄めの紫であるラベンダー、シャマルからはミントグリーンに光り輝く小さく膨大な魔力の塊が。
「ヴィータ! シグナム! シャマル!」
闇の書から放たれている魔力光はより強く、そして不気味なものへと変貌し、そして飛び出したリンカーコアが引き寄せられていく。
「最後のページは、不要となった守護者自身が差し出す。これまでも幾度か、そうだった筈だ……」
【Sammlung】
闇の書から出たその音声は何処までも機械的であり、義務的なものだ。
闇の書はその言葉と共に、守護騎士のリンカーコアを募集し始める。
「壊れかけた
苦しみながら、断末魔のように悲鳴を上げながら、身体を分解させ、粒となり、幻だるかのように消滅していくシャマルとシグナム。
なのはとフェイト、ヴィータ、そして雄介と志蓮、ドゥーム、龍人達はただ見ている事しか出来ない。
自身を縛るBindを破ろうとするが、そういった気配は全く無い。
ただ見る事しか出来ない。
「――シャマル! シグナム! 何なんだ……何なんだよ、てめえ等!」
ヴィータは悲痛な声で、仮面の男に向けて泣き叫ぶ。
だが、彼等2人は何も応える事は無く、返事の変わりに闇の書の募集がなされる。
「プログラム風情が、知る必要も無い」
身を反らせながら叫び、意識を失うヴィータ。
「――てやああああああっ!!」
そんな仮面の男へと、上空から蒼い拳が殴りに掛かる。
だが、渾身の拳も、仮面の男はただ静かに、最低限の動きと防御魔法だけで、防いでしまう。
「はあああああああっ!!」
防御魔法は最低限の魔力消費だけで行使されているにも関わらずかなりの硬さを誇っており、殴りに掛かったザフィーラの拳から血が噴き出る。
「そうか……もう一匹居たな」
ザフィーラはリンカーコアが抜き出される強烈な痛みに、歯を食いしばり耐えながら、もう一度拳をつくりだし、殴る。
「奪え……」
【Sammlung】
「――だりゃあああああああああああああっっ!!」
血を出しながら振りかざした拳は防がれてしまう。
そしてザフィーラもまた、その身体を崩壊させていく。
「ザフィーラアアアアアッッ!!」
消えていくザフィーラの姿を目にし、龍人は大きく叫び、ワナワナと巨体を震わせた。
海鳴大学病院の一室。
「え? ――っ!?」
ベッドの上で横になっていたはやては何か予感めいたものを感じ、身体を起こす。
そして、突然に、今までに無い程に強烈な、大きな痛みが
「あの子供達は……彼女等は大丈夫か?」
「6重のバインドに、通常よりも強力なCrystal Cageだ。余程の事が無い限り、抜け出すのに数分は掛かる」
なのはを始め、彼女等は半透明な四角錐状の檻の中に閉じ込められていた。
龍人や、その彼に対抗してみせた少年等が居るという事もあり、バインドの数も多く、Crystal Cageの大きさもかなりのものだ。
その分だけ魔力消費は大きく、早々に行動を済ませなければと急ぎ動き出す仮面の男2人。
「闇の書の主……
「いいや……因縁の……終焉の時だ」
そう言いながら、彼等の姿と声はなのはとフェイトの2人の少女のものへと変わる。
ビルの屋上に、青色の魔法陣が展開される。
するとそこに、病室に居た筈のはやてが転移をし、姿を見せた。
「――!? なのはちゃん……? フェイトちゃん……?」
空に浮かぶ2人の少女の姿を目にし、驚きを隠せないでいるはやて。
やはり
「な……何なん、これ……?」
「君は病気なんだよ……闇の書の呪いっていう病気」
「もうね……治らないんだ」
その2人の言葉にただ唖然とし、2人の顔を覗くはやて。
「闇の書が完成しても、助からない」
「君が救われる事は、無いんだ」
その言葉は、有り体に言えば余命宣告、死刑宣告のようなものだ。
「――!?」
その宣告に、声も出せずに驚くはやて。
覚悟はしていた筈だった。
だが、実際にそれを、他人の口から言われると堪えるものがある。
12月の夜、そしてビルの屋上に居る事もあり、冷たい風が身体を撫で上げ、身体の芯、身体の底までをも冷たく、重くさせていく。
「そんなん……ええねん……ヴィータを離して。ザフィーラに、何したん?」
「この
「とっくに壊された闇の書の機能を……まだ使えると思い込んで……無駄な努力を続けてた」
「――無駄じゃ無いやん! シグナムは? シャマルは?」
「…………」
はやての質問に、言葉では無くて首を動かして応える少女。
その答に、恐る恐る振り返るはやて。
「――!?」
その場に残されているのは、風に
「壊れた機械は、役に立た無いよね」
「だから、壊しちゃおう」
「――え!?
「止めて欲しかったら……」
「力尽くで、どうぞ……?」
「何で!? 何でやねん!? 何でこんなん!?」
動かない脚を引き摺り、手を伸ばして、必死にヴィータとザフィーラを救けに向かおうとするはやて。
「ねえ、はやてちゃん……」
「運命って……残酷なんだ」
「駄目!
屋上に、蒼い閃光が迸り抜ける。
その叫びを、願いを断ち切り、粉砕するかのようにヴィータとザフィーラの持っていた残りの魔力は募集され、その姿は、身体は、殻は消滅してしまう。
小さな身体に耐え難い程の痛みと、心に胸を抉り取られたかのような痛みが起きる。
「……ぁ……がぁ……!」
【Guten Morgen, Meister】
はやての脚元に、古代ベルカ式特有の魔法陣が展開される。
そして、綺麗な白色をしていた魔法陣は、その色を黒色へと変色させていく。
「……っ……ぅ……ぅぁ……う……うわああああああああああああああああああ!!!!!!」
小さな身体からは信じられない程の大きく悲痛な叫びが、天を貫いた。
「「はやてちゃん! / はやて!」」
Crystal Cageを壊し、抜け出す事に成功する皆。
だが時は既に遅く、闇の書のページ全て――666ページは
「我は闇の書の主なり……この手に力を」
純粋魔力の柱の中心で、はやては浮かんでいる。
彼女の瞳は宙を彷徨っており、虚ろなものだ。
声は機械的なものであり、ただ何処か文章や文字を読み上げているだけのような感じを与えてくる。
「封印、解放……」
【Freilassung】
手にしている闇の書から膨大な魔力が煙のように出、黒雷がはやての身体の周りを疾走っている。
はやての小さな身体は、魔力の上昇と同時に大きく変化し始めた。
「……くそっ、始まっちまった! 始まっちまったよ!」
「……何で裸なの? とか訊いちゃいけないんだよなあ……変身する為なんだから」
「マモレナカッタ……」
小さな肢体は伸びていく。胸も同様に大きくなっていっき、髪は銀色の長髪に。
紅い帯が腕と脚に絡み付き、金色の装飾がなされている黒色の騎士甲冑を身に纏う。
背中には、大きく黒い翼が大小3対生え、頬に紅い線のような痣が浮かび上がる。
開かれた瞳は、血のように紅い。
「お
「……
黒い翼を開くと、そこから無数の羽が飛び散る。
「また……また、全てが終わってしまった……一体幾度、こんな悲しみを繰り返せば良い……?」
「はやてちゃん!」
「はやて……」
その変わりように、驚く事しか出来ないなのはとフェイト。
彼女の目からは涙が流れ落ちており、紅い痣を伝うようにして、顔を濡らしている。
「我は闇の書……我が力の全ては……」
【Diabolic emission】
彼女は柔らかな動きで腕を上に向ける。
闇の書が光を放つと同時に、彼女の掌に黒色の魔力が集まる。
「「――え!?」」
その魔力量はかなりのものであり、一瞬で彼女自身の身体の10倍程の大きさにまで膨れ上がる。
「……主の願いの、その侭に」
大掃除と言うか掃除する必要のある場所は掃除し終えたし、やっとゆっくり出来る。
と思ったら、もう23日。
明後日25日にはA's編を終わらせたい。急ピッチで執筆をしないと。