艦内には触手のようなものが闇の書から発生しており、艦の操舵を不能にし、侵食を始めていた。
そんな状況であってもまだ正常に動き続けているのは、艦内警報であるALERT、艦橋に集中している機能、そして自爆装置だけだった。
「――っうお!?」
管理局次元航行艦船エスティアの中の殆どは、小規模な爆発を起こし、それは艦橋もまた例外では無かった。
艦内の監視カメラの全ては触手によって壊されており、砂嵐を映し出すだけのモニター群。
砂嵐特有のザザーッという音と、ALERTだけが無情にもけたたましく鳴り響いているだけだ。
「……こちら、2番艦……エスティア……」
電気系などがショートし、ところどころで規模は違えど爆発が起き始めている中で、クライド・ハラオウンは1人、辛うじて生きている通信機能を使って、護衛艦として共に行動をしていた艦船へと連絡を取ろうと試みる。
彼の額からは血が流れ落ちており、視界も赤く染まりつつある。
「闇の書の暴走……止まりません……既に、ブリッジも奪われました」
彼の周囲には、純粋な魔力で構成されている触手が生い茂っており、エスティアは、その機能を失おうとしていた。
艦橋内に設置されていた計器類を含めた機械群から火花が散り、爆発を起こし始める。
天井からは埃が落ち、今にも崩れ去って自身を押し潰されてしまうのではと恐怖を感じてしまう。
《――操舵システムも……アルカンシェルのコントロールも……》
「――ッ!」
「エスティア、アルカンシェルのチャージ反応!」
「発射軌道上に、本艦隊!」
クライドからの通信での報告通り、艦内の機能のその9割9分は、闇の書によって奪われてしまったと判断しても良いだろう。
管理局の保有する艦船武装の中でも屈指の――トップクラスの殲滅力と破壊力を誇るアルカンシェル。
それは、一番艦であるこの艦と2番艦であるエスティアにも搭載されている。
それを起動し、撃つ為には、幾つかの手順を踏む必要があり、魔力をチャージするのにかなりの時間を要する。
だが、エスティアは闇の書から魔力供給を受け、かなりの速さでアルカンシェルを撃つ為の魔力チャージに入っている。
報告されたその内容は、状況は、絶望的なものだと言えるだろう。
「クライド提督! 脱出を急げ! エスティアは……破棄する……」
暴走を続ける闇の書が、中から圧迫し、艦内に存在している機材の爆発もあってか、映像に映し出されているエスティアのあちこちから、爆発が起き、火災が発生しているのが見て取れる。
こうなってしまえばもう、コントロールを取り戻す事は出来ない。出来たとしても、艦そのものが限界を迎えているのだから、無駄であり無意味なだけだと言えるだろう。
そしてこのまま放置を続ければ、こちらの艦にまで被害が及ぶ。
あと数分もすれば、エスティアに搭載されているアルカンシェルの準備が完了して、発射される事になるだろう。
この艦が沈めば後は、闇の書が暴走を続け、この世界を含めた周辺に存在する幾つかの次元世界が崩壊してしまう可能性がある。
こちらもアルカンシェルを撃ち、沈み掛けているエスティアを破棄。雷撃処分をする他無いだろう。
《先程、全クルーの避難を確認しました》
クライドの言葉通り、エスティアからそう遠くない場所に小型の次元航行船が何隻か確認出来た。
《こちらのアルカンシェルのチャージは、後1分程度で完了してしまいます。こちらのチャージタイムのカウントを出します。発射前に……この船を……堕として下さい》
エスティアの艦橋を映し出していたモニターの画面、そして音が乱れる。
その乱れている映像が映し出したものは、今の状況を変える為に覚悟を決め、敬礼を取るクライドの姿。
砂嵐のような音を立て、通信は途絶し、彼の姿の変わりにチャージまでのタイムカウントが送られて来る。
「――通信がっ!?」
リーゼロッテの悲痛な叫びが響く。
「エスティア艦……チャージ終了まで、残り68秒。こちらは、チャージ……完了してます。何時でも……撃てます」
エスティアから受信したカウントを確認し、報告をするリーゼロッテ。
彼女の声も震えていながらも公私を区別して、しっかりと仕事を熟している。
彼女からのその報告を耳にし、思わずモニターから顔を背けてしまう。
「――父様っ!」
「…………」
リーゼロッテの悲鳴に似た言葉に、黙り込んでしまう。
額には大粒の汗が流れ、その汗は艦橋の床へポタリと落ちる。
映し出され、今にも変動し続けているカウントは、まるで断頭台に登る階段の段数を表しているようで、一刻一刻と減り続けている。
死が、近付いて来ている。
このまま何もせずにいると、エスティアからはアルカンシェルが発射され、この艦は堕ちてしまうだろう。
そして、周囲の次元世界を含め、崩壊及び滅亡。
最悪の結末だ。
だからと言って、クライドを見捨てるという事に対して強い抵抗はある。
「…………」
目を閉じると、クライドが最後に見せた顔と瞳が浮かび上がって来る。
落ち着いた表情と声で、淡々と現状の報告をして来ていた。瞳は、真っ直ぐにこちらを向いて、どうするべきかを教えようとして来てくれていた。
だが、実際のところ、彼はどう思っていたのだろう。
死にたくない筈だ。まだ、生きていたい筈だ。彼には愛する妻と息子がおり、彼女達を残した状態で逝きたくはない筈だ。
それなのに、艦内に居たスタッフを始めとした局員全員を先に避難させ、確認。自身の避難が無理だと悟ると、こちらに状況などの情報を報告した。
このまま何も行動を起こさないでいると、彼の気持ちを、覚悟を裏切り、踏みにじるような事と同じだと言えるのでは無いだろうか。
「アルカンシェル、バレル展開……」
緊張が張り詰めている艦橋内はやけに静かなもので、声が響く。
こうしている間にも、表示されている数字は減っている。
「カウント0になる前に……エスティアを堕とす……」
艦橋内の誰のものかは判らないが、唾を呑み込む音や心臓の鼓動音がハッキリと聞こえるように感じさせる。
それはもしかすると、自分のものであるのかもしれない。
艦に存在する2つの先端部の前方に、大きさの違う3つの環状魔法陣が不規則に展開される。
魔法陣の手前から、最前方に存在する魔法陣の間に魔力が集まっていき、その魔力は白銀の光を放ち始める。
3つの環状魔法陣は回転を続け、魔力を収束、集まったそれを圧縮し、加速させる準備に入った。
2つ目の魔法陣の真ん中で、魔力が集まり、巨大化していく。
その光は、ある程度の処理をしないと、目を灼いてしまう程のものだ。
限界まで大きくなった魔導弾は、真っ直ぐに、静かに、確実にエスティアへと吸い込まれるように向かっていく。
エスティアに直撃、着弾をすると同時に空間が揺らぎ、歪み始める。
エスティアを中心にしてその周囲、直径1000kmの空間が歪曲し、光がリング状に伸び、散る。
3回程瞬き、消滅をした。
クライド・ハラオウン、享年25歳。
彼は、アルカンシェルによる砲撃により、暴走した闇の書と制御を奪われたエスティアと共に、この世界から事実上消え去る。
クライド・ハラオウン殉職をした。
「(私のミスだった。闇の書の暴走が……艦船のコントロールを乗っ取る程のものだとは予想出来なかった)」
11年前の出来事ではあるが、それでも、今でも鮮明に、あの時の事を思い出す事が出来る。
部下であったクライドを、この手で殺してしまった。そう言っても可怪しくは、間違いは無いだろう。
「…………」
書類を手にし、机に置かれている写真立てに目を向ける。
写真の中のクライドは愛息子であるクロノを肩車をしており、愛妻であるリンディは夫である彼に寄り添っている。
映し出されているクライド、リンディ、クロノの3人は眩しい程の笑顔を浮かべていた。
「対象領域の通信妨害、消滅」
「映像、来ます!」
地球の衛星軌道上で待機を続けていたアースラも、海鳴市で起きている異常をしっかりと感知していた。
だが、何者かの手によって、通信は妨害され、サーチャーを送る事すらも出来ないでいたのだ。
それが、その通信を妨害していた者の意志か、それともその存在に何かが起きたのか。妨害していたものは消え、映像での確認を取る事が出来るようになった。
「――!? クロノとゾイル特務執務官は……?」
「両名共、既に現地へ飛んでいます」
「良し、結界は張り直せた。デュランダルの準備は?」
「出来ている」
その仮面の男の言葉に従い、カード状のデバイスが出現する。
白を基調としており、青い宝石が真ん中に設置されている。
「それにしても、特務執務官とその補佐の介入、そして八神竜人が暴走が無くて良かった」
「全くだ」
離れた位置に存在するビルの屋上に、黒く大きな魔力球が浮かんでいるのが見えた。
「デアボリック・エミッション」
黒雷を纏った黒く巨大な魔力球がゆったりとした速度で上昇をしていく。
「――!」
「空間攻撃!」
その魔力球を見て、術式を看破。
そして、その特性を知り、驚きを隠せないなのはとフェイト。
「闇に、染まれ」
そう唱える銀髪の女性――闇の書の
黒い魔力球は、爆弾のように中心部から外周部へといった方向で広がり、その向きへ衝撃が広がっていく。
【Round shield】
なのはが前に出て防御魔法を発動させる。
だが、見ただけでも、威力と衝撃はかなりのものである事が理解出来る。
「さてと……
なのはの、更に前に志蓮は出、自身の持つ最高級の盾を展開する。
彼が前に差し出した手に従い、高濃度且つ超圧縮された純粋魔力の塊の7枚の花弁が展開される。
その7枚の花弁は、それぞれ彼等全員である6人を囲う。
そしてその花弁からもまた、膨大な魔力が放出。その魔力が壁になって、管制人格が放ったDiabolic Emissionによる強力な衝撃を吸収……緩和して、防御を成功させる。
「保つかな、あの子達……?」
「暴走開始のその瞬間迄、保って欲しいな」
離れた位置に存在するビルの屋上から、仮面の男は管制人格の行使した魔法を見ていた。
その威力は、周辺のビルを巻き込んで、崩壊させていき、かなりのものである事を教えてきた。
それを見て、思わず少年少女達の無事を祈る2人。
「「――!?」」
彼等の周囲に水色の光を放つ小さな魔力球が多数発生する。異変に気付いたのは、その瞬間だ。
だが既に時は遅く、水色の魔力縄がそれぞれ3つずつ、彼等の脚元に発生している魔法陣から伸びて縛り上げ、動きを封じる。
2人は術式を解析し、解除をしようと足掻いてみるが、強固且つ複雑なものであるのか、なかなか振り解け無い。
「ストラグルバインド」
「――な!?」
「相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する」
上空から声が聞こえ、そちらへと顔を向ける2人。
そこには、黒いバリアジャケットに身を包んでいる少年が――十分過ぎる程に知っている少年の姿があった。
「あまり使い処の無い魔法だけど……こういう時には、役に立つ……」
黒い少年が手にしている杖を屋上の床部分へと叩きつけると同時に、その魔法の真の効果が発揮される。
「……変身魔法も、強制的に解除するからね……」
抵抗しようと試みる仮面の男2人。
だが、その抵抗も虚しく、自身へと掛けていた魔法が――変身魔法が解除されてしまう。
仮面が外れ、重力に引かれて落ちる。
変身魔法が解けた事で現れたその姿は、彼には馴染み深く見覚えのある2人だった。
カランといった軽い音を立てながら、仮面が転がる。
「クロノ! ……このおっ!」
「こんな魔法、教えて無かったんだがな……」
「1人でも精進しろと教えたのは、君達だろう? アリア、ロッテ……?」
ロッテとアリアを見て、瞳を揺らすクロノ。
予想はしていたが、やはり信じたくはなかったのだろう。
自身に魔法と格闘技術を教え、親しくしてくれていた、師匠であり師匠っぽく無い2人が仮面の男である事を。
「(隠れたか……)」
Diabolic Emissionを発動した後、空に少年少女等が浮かんでいない事に気付く管制人格。
だが、1人だけその場に残っていた。
「…………」
八神竜人だ。
Imperial Dragon fighter modeの状態の彼は、頭を垂れながら浮かんでいる。
だが、それだけであり、全く動く事も何かしらの反応を示す事は無い。
「なのは、志蓮……ごめん。……大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「ああ、問題無い」
Diabolic Emissionによる広範囲空間攻撃に対しての防御に成功し、避けると同時に、管制人格から姿を隠すようにして、ビルの影に移動をした5人。
「あの娘、広域攻撃型だね。避けるのは難しいかな」
次に、同じ攻撃が来た場合、発動を感知出来れば回避は問題無く出来るだろう。が、今のように視界が遮られている状態では、それも難しいだろう。それどころか、周りを気にする事無く魔法を使える管制人格の方が優位だと言えるか。
「バルディッシュ」
【Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form】
広範囲に対して有効な上に、更に威力も高いであろうあの攻撃は、スピードがあるとは言えどもSonic formの状態では無理があるだろう。
移動出来る距離にも限界があり、それも考慮した範囲魔法を使用される可能性があるのだから。
Sonic formと比べて気持ち程度ではあるが、多少防御力があるLightning formへと形態を換装させる。
「なのは!」
「フェイト!」
「ユーノ君! アルフさん!」
背後から聞こえて来た声に対し、振り向く。
するとそこには、増援として来たのか、ユーノとアルフがそれぞれバリアジャケットを展開して、近付いて来る。
「くっそ……ゾイルとブロンは何やってるんだよ!」
「ブロンの方は判らない。だけど、ゾイル……ゾイル特務執務官の方は、外道衆の相手を」
「奴等も来てるのか?」
「うん」
気と魔力を探ってみると、確かにゾイルとクロノの持つ気と魔力を感じ取る。
それと同時に、禍々しくも澄んだ気の存在を感じ取った。
「これって……ゾイルと水虎……?」
「多分、そう。水虎とナナシ連中を独りで引き付けてくれてる。だから」
「闇の書の管制人格は、俺達がってか……」
「主よ……貴女の望みを叶えます」
目を閉じ、胸に手を当てる管制人格。
脚元に黒い古代ベルカ式魔法陣を展開し、魔力を上昇させていく。
「愛おしき守護者達よ……傷付けた者達よ……今、破壊します」
【Gefängnis der Magie】
闇の書に記載されている文字が光り、魔法が発動される。
彼女を中心にして、封鎖領域が展開。仮面の男――リーゼ姉妹が展開していた封鎖結界を上書きするかのように展開される。
結界内は、先程よりも暗くなり、上空は黒いものなる。
「――何!?」
「前と同じ、閉じ込める結界だ」
「やっぱり……私達を狙ってるんだ!」
ビルの陰に隠れているにも関わらず、結界展開時に起きる衝撃波が襲って来る。
驚くなのはに、アルフは今の魔法についての解析を口にする。
フェイトは今のその状況を知り、管制人格の行動を受けて、彼女の真意を感じ取る。
Crystal Cage内に閉じ込められている間に、リーゼ姉妹はなのはとフェイトに姿を変え、八神はやてに対して、闇の書の主としての覚醒を促した。
それが関係しているのか。それとも、別の理由があるのか。
管制人格は、自分達が外に出れ無いようにする結界魔法を行使したのだ。
「今……クロノが解決法を探してる。援護も向かっているんだけど、まだ時間が」
「それまで、私達で何とかするしか無いか……」
その瞬間、離れた位置で大きな爆発が起きる。
「水虎、だったか……すまないが、俺と遊んでくれないか? いや、実験台になってくれ」
「はて……どういう意味でしょうか? ――があぁっ!?」
ザフィーラと別れた後、水虎とナナシ連中が隙間を通って出て来るのを目にし、こちらの相手をする事にしたゾイル。
ゾイルは話し掛けると同時に、水虎が吹き飛ばされる。
「ふむ……成功といったところか……」
「どういう事でしょうか?
「これ、どう思う?」
水虎の言葉を遮るかたちで喋り、手にしている携帯電話に似たものを見せる。
「――それは?」
それには、対外道といった文字が記載されている。
そこからは確かに、モヂカラと呼べる力の波動が出ていた。
「漸く理解したか? ならば次は、撲滅されろ、消し飛ばされろ、塵芥と化し消滅しろ」
そのゾイルの言葉と同時に、再び殴り飛ばされる水虎。
周りに居たナナシ連中も、同様に殴られ、吹き飛ばされていく。
「どう、いう事だ!? 何をしているんだ、貴様!」
ゾイル自身は何も手を出さず、動かずにいる。
だが、次々と殴られる感触を感じ、吹き飛ばされていく。
ナナシ連中もまたそうであるのが確認出来、それが現実である事を教えて来る。
驚き、大声を上げる水虎に対し、ゾイルはただ静かに立っているだけだ。
「見えないか? 見えないだろうなあ……そうだろうなあ。当然だ! だが、知らないのか? お前等は、今まで見た事も体験した事も無かったのか?」
もし、この場に波紋の呼吸を使える者が、もしくは資格あるものが居れば、それを目にする事が出来ただろう。
その場には、ヒト型の存在が3体程居り、ナナシ連中を吹き飛ばしていた。
1体は、身体の表面にベルギーワッフルのような凸凹のある
もう1体は、三角形のマスクを被ったよう顔をしており、背中にはタンクのような物体が付いている上、手の甲にその能力を象徴するかのような時計のマークある
そして、最後の1体。他2体とは違って頭髪があり、青い肌をしたよりヒトに似た姿を持つ
その全てがパワータイプであり、力強い拳はナナシ連中を潰し、殴り飛ばしていく。
かなりの速さと攻撃力を誇り、ブンブンと空気を切り裂く音が鳴り続けている。
スタンドを認識する事が出来ない者からすると、それはただの自然現象であり、純粋に恐怖を感じるだけだろう。
「成る程な……見えはしないが、空気中に存在する水素の動きが可怪しい。何か、居るな……」
「感付いたか……言わない方が良かったかもしれないな」
スタンドを使用している事に気付いた水虎の言動に対し、ゾイルは少し後悔をするが、即座に切り替える。
「だがまあ、気付いたところで――」
その瞬間、3体の
「――なっ!?」
今度は、ゾイルが驚く番だった。
水虎は、自身の身体を、殴られる箇所を水へと変え、物理攻撃である殴打は無意味になってしまっていた。
「ほう……」
試しに、キング・クリムゾン・アルティメット《燃え盛る深紅の王》が殴るが、ものの見事に、水虎の身体を素通りしてしまう。
「何かが通った気はしますが、相変わらず見えないですね。どこか気味が悪い……」
「水か……」
その小さな変化を見過ごす事も無く、ゾイルは気付いて、その先にどうするかを考え出す。
「(膨大な熱量で蒸発させる……気温を低下させて凍らせ、跡形も無く砕く……どちらも絶対に倒せるという訳では無いだろうが……)先ずは……」
「――があぁっ!?」
熱の流法で、体内で流れ続けている血液を1000000℃にまで加温沸騰させていく。グツグツと煮え滾った血液が流れる身体は、通常時よりも少し熱を感じる程度のもの。
水であれば蒸発どころでは済まないだろうが、ゾイルの身体を流れる血液は特殊であり、何も異常と言える変化は起きない。
ジュエルシード事件時に転生者同士での模擬戦をした時と比べ、加温沸騰可能な温度は遥かに上昇している。
そして、手にしたデバイスからの熱のモヂカラの効果で更に、増大していく。
それは、一瞬の出来事だった筈だ。そこは瞬間的、爆発的に気温が上昇する。
それによって、水虎の身体は酸素原子核と陽子、電子にまで電離してしまった。
その結果、ゾイルと
周囲のビルなどが白く融解し、分解されていく。
そして、核爆発に似た規模の大きな爆発を起こした。
「――ッケホッ……ふぅ……ちょっとやり過ぎちゃったかな」
爆発は起きた。確かに起きた。
だが、ゾイルはその瞬間にそのエネルギーを身体の中に吸い込み、身体の中から爆発をしたものだ。
その熱量とエネルギー、そして破壊力は核爆弾によるものの比では無い。それを遥かに凌ぎ、白色矮星の温度とエネルギーをも超えている。
だが、それ程の、言葉にするのが馬鹿らしく思える程のものを呑み込み、平常状態を維持している。
呑み込んだその結果、大きな爆発音が鳴り響き、閃光が奔っただけなのだ。
周りの建物、大地は溶け、抉れ、見事に変貌を遂げてしまっている。
「……クレイジー・ダイヤモンド・アルティメット」
全身にハートマークがあしらわれ、頸部には数本のパイプのようなものがある
[ドラララララララララララララララララララララララララララララララララッッッ、ドラアアアアアアッッ!!]
ただ只管に壊れた場所を、溶けた場所を、抉れている場所を殴り続けるクレイジー・ダイヤモンド・アルティメット。
その
元に戻らないのは、倒し、消滅させた水虎とナナシ連中だけだった。
「爆発が収まった……この魔力は……
【Sleipnir】
爆発と、その地点から大きな魔力の存在を感知する管制人格。
結界内に、化物染みた力を持つ存在を入れてしまった事に気付き、入れないように調整をしなかった事に後悔するが、気持ちを切り替える。
呟く言葉に従うかのように背中の黒い6つの翼がはためき、空へと飛び上がる。
「リーゼ達の行動は、貴方の指示ですね? グレアム提督?」
「違う、クロノ!」
「あたし達の独断だ。父様には関係無い!」
「ロッテ、アリア。良いんだ」
時空管理局本局のグレアムに与えられている執務用の部屋で、クロノは3人に対して、事情聴取を執り行っていた。
確認をするクロノに対し、庇うようにして否定をするロッテとアリア。
グレアムは、全てを諦めたのか。全てを潔く認め、受け入れようとしているのか、クロノの言葉を、確認の為の質問に肯定をする。
「クロノはもう、粗方の事は掴んでる。違うかい?」
「……11年前の、闇の書事件以降……提督は、独自に闇の書の転生先を捜していましたね? そして、発見した……闇の書の在り処と現在の主、八神はやてを」
空間モニターに、闇の書とはやての写真が映し出される。
「しかし、完成前に闇の書と主を押さえても……余り意味が無い。主を捕らえようと、闇の書を破壊しようと……直ぐに転生してしまうから」
ユーノが無限書庫で調べあげ、見付けた資料にもあった通り、闇の書には転生機能が搭載されている。
主を捕らえ、募集行為を出来ないようにしていても、主の寿命が尽きれば、死んでしまえば、別の、新しい主を探し、その主の元へと転生をする。
破壊しようと試みても、その全てが壊される前に、闇の書は転移をして、新しい主の元へと転生をしてしまう。
「だから、監視をしながら、闇の書の完成を待った。……見付けたんですね? 闇の書の、永久封印の方法を?」
「両親に死なれ、身体を悪くしているあの娘を見て……心が痛んだが……運命だと思った」
「あの娘の父の友人を騙って、生活の援助をしていてのも……提督ですね?」
写真を取り出し、グレアムとリーゼ姉妹に見えるように、机の上に置くクロノ。
写真には、楽しそうな笑顔を浮かべている八神家の住人が写し出されていた。
「永遠の眠りにつく前くらい、幸せにしてやりたかった……偽善だな」
「封印の方法は……?」
自嘲するグレアムに対し、ただ静かに、淡々と質問をするクロノ。
グレアムの気持ちも理解出来ない事は無いが、今のクロノは執務官だ。
そして、今も最前線で戦い続けている仲間が居て、待っていてくれているのだ。
「……闇の書を主ごと凍結させて……次元の狭間か、氷結世界に閉じ込める……そんなところですね?」
「そう。それならば、闇の書の転生機能は働かない。あの娘だけじゃ無く、兄であるあの少年も一緒に封印をしてやろうと思っていた……」
クロノの言葉に否定をする事無く、そのまま自身の考えていたプランを話すグレアム。
「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてるんだ! それと何にも変わんない!」
ロッテの言葉通り、それは今まで管理局が闇の書の主に対して行なって来た事と何も変わりはしない。それどころか、転生機能を働かせないようにする点から見て、betterな方法だと言えるのかもしれない。
「クロノ、今からでも遅くない。私達を解放して。凍結が掛けられるのは、暴走が始まる数分の瞬間だけなんだ!」
「その時点ではまだ、闇の書の主は……永久凍結をされるような犯罪者じゃ無い。違法だ」
「その所為で! ……そんな決まりの所為で悲劇が繰り返されてんだ。クライド君だって……あんたの父さんだって、それで――」
「――ロッテ……」
アリアの提案を聴き、それを否定するクロノ。
ロッテは、そんなクロノに対して思いの丈をぶつけようとするが、グレアムに諌められ、開いていた口を閉じる。
「法以外にも、提督のプランには問題があります。先ず、凍結の解除は、そう難しく無い筈です。何処に隠そうと、どんなに守ろうと……何時かは誰かが手にして、使おうとする。怒りや悲しみ、欲望や切望。そんな願いが導いてしまう。封じられた力へと」
「…………」
クロノの尤もだと思える意見と考察、推測に対し、言葉を返せないグレアムとリーゼ姉妹。
「現場が心配なので、すみません、一旦、失礼します」
「クロノ」
「はい?」
部屋を退出しようとするクロノに、グレアムは意を決したのか声を掛ける。
「デュランダルを、彼に」
「父様……」
「そんな……」
「私達に、もうチャンスは無いよ。持っていたって、役に立たん」
グレアムの言葉に顔を伏せるリーゼ。
クロノがこの部屋から出たとしても、部屋の外には局員が監視をするかのように立っている。
ここから次元転移をしたとしても、罪状が余計に増えてしまうだけだ。
使うチャンスも機会も無いのであれば、ならば……と。
「どう使うかは、君に任せる。“氷結の杖デュランダル”だ」
アリアが差し出したそれは、一枚の白いカード型デバイスだった。
真ん中にある青い宝石がキラリと輝く。
上空で、フェイトと闇の書の管制人格がぶつかり、離れる。
そして、その管制人格が後退した場所に雄介とドゥームが殴りに掛かり、あしらわれると同時に、志蓮が斬り掛かる。
それらが避けられると、なのはが砲撃をして管制人格の行動を阻害する。
これを、一連の行動及びコンビネーションによる攻撃をどれだけ繰り返しているだろうか。
何度も何度も試してはいるが、その全てを避けられ、防御され、当たったとしても、大きなダメージにはならず、掠り傷程度のものしか与えられてはいない。
「砕け」
【Breakup】
ユーノとアルフによる2人掛かりのバインドでさえも、管制人格軽々と解除し、抜けだしてしまう。
攻撃と妨害の全てに魔力だけでは無く、気を込める。
防御と回避にも、魔力と気を同時運用していく。
だが、魔力だけでの行動をしているであろう管制人格は、表情を変える事もせず簡単に対応して来るのだ。
【Plasma smasher】
【Divine buster, extension】
「――ファイアッ!」
「――シューットッ!」
フェイトの左掌の前方に、魔法陣が展開し、魔力弾が発射される。
レイジングハートから、バリア貫通能力を付与されたDivine Buster Extensionが発射される。
「盾」
【Panzerschild】
管制人格から見て、右上空からはPlasma Smasherが、左下方からはDivine Buster Extensionが迫り来る。
だが、たった1言だけで、左右両掌を面にして、強固な三角形型の盾が出現し、彼女等の攻撃が断たれてしまう。
「「――白竜の鉤爪っ!!」」
なのはとフェイトの放った、それぞれの魔力砲撃による光の中から、雄介とドゥームは飛び出して、Panzerschildが展開されていない上空へと移動し、光を纏わせた拳で殴りに掛かる。
【Pferde】
管制人格両足元に、魔力の渦が発生し、その彼等2人の攻撃を避けてみせる。
「刃を以って、血に染めよ」
【Blutiger Dolch】
「「「「――!!」」」」
「穿て、ブラッディダガー」
回避を成功させると同時に、管制人格はなのはとフェイト、雄介にドゥーム、ユーノ、アルフ、志蓮の全員をロックオンし、血のように紅い鋼の短剣を飛ばす。
その短剣は、純粋魔力を物質化したものであり、自動誘導型の魔法だ。
気で強化しているにも関わらず、視認する事が敵わず、直撃、炸裂する。
「――くそっ、涼しい顔しやがって……」
爆発で発生した煙から脱出をするが、その瞬間にまた、回避行動に入る。
「咎人達に、滅びの光を……」
「「「「「「――!?」」」」」」
管制人格の右掌前方に、魔法陣が展開される。
その魔法陣へと目掛けて、空気中に存在する
「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」
「スターライト、ブレイカー?」
自身の持つ最大級の魔法が発動されようとしている様を見て、驚きを隠せないでいるなのは。
集まっていく魔力は、見る見るうちに大きく肥大化していく。
幸いだと言えるのか、闇の書の管制人格にはなのは程の魔力収束技術を持ってい無いからか、撃つまでのチャージタイムにやけに時間を掛けている。
「なのはの魔法を使うなんて!」
「なのはは1度、収集されてる。その時にコピーされたんだ」
「――全く、だから嫌なんだ!」
回避行動をする為に、距離を取ろうと全速力で管制人格から離れていく。
闇の書の特性により、なのはの魔法はコピーされている。
おそらく、フェイトの魔法も使えるだろう。
「フェイトちゃん! こんなに離れなくても」
「至近で喰らったら、防御の上からでも堕とされる! 回避距離を取らなきゃ」
必死に離れようとする皆を、不思議そうに見ながら付いていくなのは。
だが、フェイトは実際にそれを喰らった事があり、推測ではあるが、闇の書の膨大な魔力量によって、なのはのものよりも遥かに強力なものに変化している筈だ。
自身の技であるにも関わらず、喰らったフェイトがその特性をよく理解しているというのはどういう事だろうか。
経験者は語るという事なのか。
【Sir, there are noncombatants on the left at three hundred yards】
「「――え!?」」
だが、回避距離を取る為に移動をしていると、バルディッシュから予想だにしていなかった言葉が発せられ、なのはとフェイトは驚く。
「やっぱり誰も居ないよお! 急にヒトが居無くなっちゃった……」
「…………」
「辺りは暗くなるし……なんか、光ってるし……一体何が起きてるの!?」
誰の、ヒトや犬や猫などといった他の動物の気配すらも感じ無い程に、静かで、不気味だと思える空間。
そんな結界空間に、アリサとすずかは、何の手違いか閉じ込められてしまった。
何回か大きな爆発音が聞こえ、そして空では激しい光の明滅が繰り返されている。
そして、それらが止んだかと思うと、上空には大きな光の弾が浮かんでいるのを目にしてしまう。
これを異常と言わず、何を異常だと言えるのだろうか。
魔法という技術体系などを知らない彼女等からしたら、不気味や異常だといったそんなありきたりな言葉しか浮かんで来なかった。
「取り敢えず逃げよう! 成る可く遠くへ!」
「う、うん!」
だが、そんな状況でも自身というものを失わず、アリサは戸惑うすずかの腕を掴む。
そんなアリサを見て、すずかもまた同様に自身を失う事無く、提案されたその言葉に強く頷く。
【Distance. Seventy, sixty, fifty……】
「なのは、この辺!」
「うん!」
安全且つ確実に回避と防御が出来る距離へ、そして紛れ込んでしまった民間人を保護する為に、フェイトとなのはは高速で移動を続ける。
背後からは、強く圧倒的な魔力が背中を撫でて来ているように思え、思わず唾を呑み込んでしまう。
バルディッシュによって報告され続ける民間人との距離、レイジングハートによる発射されるまでの予想時間のカウントダウン、そして管制人格が集めていく魔力量が大きくなる度に、
なのはは、飛び降りると同時に、道路に着地する。
かなりの速さがあったのか、道路と足が擦れ、煙と誇りが舞い上がる。
フェイトは、抱き抱えていたなのはと離れ、近い場所にあった信号機の上へと着地を成功させる。
【Twenty, eighteen】
舞い上がる煙と埃が舞い上がる中、周囲を見渡すなのはとフェイト。
「――! あの……すみません! 危ないですから、そこでじっとしていて下さい!」
煙が晴れると同時に、その場から離れようとしている2人の少女を見付けるなのは。
「――え!?」
「今の声って……」
聞き覚えのある声が耳に届き、脚を止めて振り向くアリサとすずか。
「なのは?」
「フェイトちゃん?」
煙が完全に晴れると同時に、互いの顔をはっきりと確認し、驚いてしまう。
「貫け! 閃光! スターライト、ブレイカー」
「――!?」
チャージが完了したのか、爆音と共に管制人格から放たれた膨大な魔力の塊である光が迫り来る。
「――
迫り来る光の壁を、7枚の魔力花弁が防ぐ。
「こなくそっ!」
なのはの放つスターライトブレイカーよりは威力が低く、貫通能力などは無いが、それでも膨大な魔力量に任せた勢いなどもあって、志蓮は押され始める。
7枚の花弁を1つに重ねて防御をするが、それでもジリジリと後ろへ追いやられていく。
【Defenser plus】
【Wide area protection】
フェイトとなのはは後ろに居るアリサとすずかを護る為に、防御魔法を発動させる。
アリサとすずかの周りには金色のドーム状のバリアが展開され、なのはとフェイトはそれぞれ、自身の身を護る為の防御魔法を発動させる。
【Explosion】
志蓮の持つ剣型のデバイスがカートリッジをロードし、
だが、それはほんの一瞬の悪足掻きのようなものだ。
『なのは? なのは? 大丈夫!?』
『フェイト!?』
『大丈夫、だけど……』
『アリサとすずかが、結界内に取り残されてるんだ……』
スターライトブレイカーによる衝撃などを防ごうと努力する一方で、ユーノとアルフからの念話に応えるなのはとフェイト。
その2人の返事に驚きつつも、ユーノは落ち着いてエイミィへと報告する。
『エイミィさん!』
《余波が収まり次第……直ぐ避難させる! 何とか堪えて!》
『『――はい!』』
『――あいよおおっ!!』
アースラ内に存在するモニターは、闇の書の管制人格がスターライトブレイカーを放つところも、しっかりと捉えていた。
管制人格のものか、主であるはやてのものなのか。
彼女の資質がスターライトブレイカーに影響を与え、その魔力砲撃は広域攻撃型へと変貌していた。
その為に、防御を成功させた3人と残りの6人は無事ではあったが、街が被った被害はかなりのものとなった。結界を張っていなければ、大惨事と呼べるものだっただろう。
「もう大丈夫だ」
「直ぐ安全な場所に運んで貰うから……もう少し、じっとしててね!」
抱き合い、身を寄せあって震えているアリサとすずかの2人に、声を掛けるフェイトとなのは。
2人は自身と、友人の無事を確認すると同時に安堵の息を吐き出す。
「あの……なのはちゃん……フェイトちゃん……それに、雄介君に志蓮君、ドゥームさんも……」
「ねえ、ちょっと……」
不安に瞳を揺らしながら、質問を投げ掛けようとするすずかとアリサ。
「「――え!?」」
だが、その質問を言葉にする前に、彼女等は脚元に出現した魔法陣の効果で、アースラ内へと強制転移させられる。
「見られちゃったね……」
「うん……」
「まあ、何時かは教えようと思ってたんだろ? なら、良い機会じゃないか」
落ち込むなのはとフェイトに、雄介志蓮は自身の考えを口にする。
『ユーノ君、ごめん。エイミィさん達は忙しいだろうし、2人に説明をしてあげてくれるかな?』
『アルフも、御願い』
『でも……フェイト!』
『行こう、アルフ』
『でもさ……』
『気掛かりがあると、2人が思い切り戦えないから……』
なのはとフェイトの頼みに対し、渋るアルフ。
ユーノの言葉に渋々ながらも理解と納得をしたのか、2人はアースラへの転移を開始する。
《皆! クロノ君から連絡。闇の書の主に、はやてちゃんに投降と停止を呼び掛けてって!》
『はい!』
エイミィからの連絡を通して、クロノからの命令を受ける。
なのはとフェイトは互いに頷き合い、彼女等へとチャンネルを合わせ、念話を開始する。
『はやてちゃん! それに、闇の書さん……止まって下さい! ヴィータちゃん達を傷付けたの、私達じゃ無いんです!』
『シグナム達と……私達は……』
『話が主は……この世界が――自分の愛する者達を奪った世界が、悪い夢であって欲しいと願った。我はただ、それを叶えるのみ』
なのはとフェイトの呼び掛けに、抑揚も無くただ静かに応える管制人格。
『主には……穏やかな夢の内で、
『『――!?』』
『そして……愛する騎士達を奪った者には……
その言葉と共に、管制人格の脚元には魔法陣が展開される。
「――闇の書さん!」
「お前も……私を、その名前で呼ぶのだな。それでも良い」
突如として道路が裂け、そこから地球とは違う世界での生物が姿を現す。
「こいつ、確か……!」
ヴィータやシグナムが、リンカーコアを募集する為に獲物として選んだ生物。
その生物の持っていたリンカーコアから身体構造などのデータを読み込み、再現をしたという事だろうか。
その生物に生えている無数の触手が、なのはとフェイト、そして彼女等2人だけで無く、雄介と志蓮、ドゥームの3人にも同じように絡み付き、拘束をする。
やはりと言うか、藻掻けば藻掻く程に、足掻けば足掻く程により強くキツく締め付けてくる触手。
幼い少女の身体に巻き付き動きを阻害するそれは、何処か犯罪臭を匂わせてくる。
「だからああああっ、野郎の触手プレイなんて一体誰得なんだああああああああっ!! ――っう!?」
身体を強く振り動かしてみせる雄介。
だが、強く大きく動きすぎた為に、触手もまたその分だけ強く締め付けて来る。
「私は、主の願いを叶えるだけだ」
「願いを叶えるだけ? そんな願いを叶えて……それで、はやてちゃんは本当に喜ぶの!? 心を閉ざして……何も考えずに……主の願いを叶える道具で居て……貴女は、それで良いの!?」
なのはは心からの疑問と思いを、感情を以って、管制人格へと言葉を放つ。
「我は魔道書、ただの道具だ」
「だけど……言葉を使えるでしょ? 心があるでしょ!? そうでなきゃ可怪しいよ! 本当に心が無いんなら……泣いたりなんか、しないよ!」
そのなのはから出た訴え掛けるかのような叫び声を聞き、自身から涙が溢れ、流れ落ちている事に気付く。
「この涙は、主の涙。私は道具だ。悲しみなど……無い」
だが、それでも管制人格は否定をする。
はやての身体を依代にしているのだから、涙を流すした事は自然だろう。
だが、流し続けているという事は、はやてだけが悲しみを感じている訳では無い事を教えて来る。
「バリアジャケット、パージ」
【Sonic form】
バリアジャケットを構成している魔力の全てを瞬間的ではあるが、全面解放し、自身等を拘束している触手の全てを破壊するフェイト。
そして、また瞬時にバリアジャケットであるSonic formを纏い、なのはとドゥーム、雄介に志蓮と共に後ろへ退がる。
「悲しみなど無い? その言葉を……そんな悲しい顔で言ったって、誰が信じるもんか!」
「貴女にも心があるんだよ! 悲しいって言って良いんだよ! 貴女のマスターは……はやてちゃんは……きっとそれに応えてくれる、優しい娘だよ!」
「だから、はやてを解放して! 武装を解いて! お願い!」
フェイトとなのはは必死に説得を試みるが、管制人格の意志は堅く硬い。強固なものだ。
涙を流しながらも、静かに見下ろして来るだけ。
地面が割れ、裂かれていく。
そこから、マグマに似た高エネルギーの奔流が吹き出て、地面と空気を揺らし始める。
「早いな。もう崩壊が始まったか。私もじき、意識を失くす。そうなれば、直ぐに暴走が始まる」
彼女の言っている事は正しいのだろう。
管制人格である彼女が起きているという事は、コントロールが出来ている。管制がされている事を表している。
だが、その彼女の人格や意志が失われれば。
「意識のある内に、主の望みを叶えたい」
自身の手を見詰めながら、涙を流し続ける管制人格。
【Blutiger Dolch】
闇の書に記載されている文字と、開かれているページ全体が光り始める。
「――な!?」
管制人格が手を前に振り翳すと同時に、なのはやフェイト、そして全員の周囲、それぞれを囲うようにして16発分ずつのBlutiger Dolchが出現する。
「闇に、沈め……」
静かに告げられた言葉に反応し、Blutiger Dolchが向かって来る。
「…………」
だが、2回目という事もあり、回避を成功さあせる。
Blutiger Dolch同士がぶつかった事で発生した爆炎から、俺達は抜け出す。
「この……駄々っ娘!」
【Sonic drive】
「言う事を、聴けええええっ!!」
【Ignition】
フィンブレードとソニックセイルを展開し、空を蹴るフェイト。
その勢いのまま、バルディッシュを振り翳しながら、闇の書の管制人格へと突っ込んで行く。
「お前も、我が内で眠ると良い」
「はああああああああああああああっ!!」
斬り掛かるフェイトに対し、黒い三角形の魔法陣型シールドで防ぐ管制人格。
そして、シールドとバルディッシュから出ている魔力刃がぶつかると同時に、フェイトの身体は、小さな金色の魔力光へと分解されていく。
「――なっ!?」
「――フェイトちゃん!?」
自身に掛かる異常と異変に気付き、後退をしようとするフェイト。
だが、時既に遅く、彼女は分解されながら落ちていく。
【Absorption】
フェイトの身体は完全にデータに変換及び分解され、闇の書の中に閉じ込められてしまった。
「総ては、安らかな眠りの内に……」
管制人格が目を閉じると同時に、開かれていた闇の書は無情にも閉じられる。
連投という訳ではないが、それなりに速く投稿完了出来た。良かった。
この調子で、25日中にA's編を終了させるのです!
さて早速……執筆作業を続ける準備だあ!