魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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闇からの脱出 祝福の風を起こせ

「あれ……ここは?」

「ようこそ、アースラへ」

 

 アースラ内に存在する転送ポート。

 

 そこにアリサとすずかは転移をしていた。

 

 瞬きをする程のその一瞬の間に、先程までとは別の場所に移動した事に驚きを隠せないでいる2人。

 

「えっと……貴方は?」

「俺の名前はゾイル……」

「ゾイ、ル……?」

「そうだ! ここは何処!? それになのはとフェイト達は!? 一体どうなってるの!?」

「ちょ、ちょっと……アリサちゃん」

 

 転移した事を素直に受け入れ、それと同時に思い出したように質問を一気に投げ掛けるアリサ。

 

「別に構わない。まあ、順番に説明をするけど、歩きながらで良いか?」

「何処へ行くんですか?」

「行けば理解るさ」

 

 アリサとすずかの質問に対し、ゾイルははぐらかしたかのような解答をして歩き始める。

 

 彼女達も、どうすれば良いのかは理解らないが、ここでじっとしているだけでは何も変わらず、意味が無い事を理解し、後を追い掛ける。

 

「先ず1つ。説明の順番が合っているかは兎も角として、ここは管理局という大きな組織が保有する艦――アースラの中。そして、この艦は今、地球の衛星軌道上にある」

「衛星軌道上!?」

「その通り。そして、君達の友人である高町なのは、フェイト・テスタロッサ、上条雄介、神威志蓮、保和歩栄、フェイトの兄であるドゥーム・テスタロッサは俗に言う魔法使い。そして、管理局で仕事をしている。ここまではOK?」

「――ちょっと待って下さい! 魔法使いだって事は兎も角、なのは達が働いてる!? それ、どういう事よ!」

 

 ゾイルの説明に、噛み付くように問い掛けるアリサ。

 

 最初は敬語だったが興奮のあまり口調が砕けてしまい、語気を強めてしまうアリサ。

 

 魔法使いという事は突飛な事であるが、働くというのは余っ程の事が無い限りこの世界でもよくある事。

 その働いているというキーワードに強く反応をする。

 

「詳しい事は、彼女等自身から聴いてくれとしか言えない」

「複雑な事情があるって事ですか?」

「その通り。そして今、彼女等は、地球にある恐い魔法のアイテムをどうにかしようと頑張っていてくれている。着いた」

「――あれ、ゾイル特務執務官!?」

 

 自動ドアが開くとそこには、通信インカムを頭に付けなのは等の行動を観て、アドバイスを出していたエイミィが居た。

 

 彼女は入ってきた3人を見て驚くが、それ以上にアリサとすずかの2人は驚愕に包まれていた。

 

「なのはにフェイト……雄介達も!」

「えっと……これは?」

「サーチャーというものを使って、中継している映像だ」

「ちょっと、どういうつもりですか!? ゾイル特務執務官!」

「彼女等は巻き込まれた。そして高町なのは等と親友関係にある。そして、何故か結界内に居た。これがどういう事か理解るか?」

「えっと……理解りません」

 

 アリサとすずかを入室させ、そして魔法技術などについて説明をしている事に対し、驚きを覚えながらも、ゾイルに対して質問をするエイミィ。

 

 逆に返ってきた質問に対し、頭の中を回転させてみるが、その答は思い付かない。

 

「闇の書の管制人格が展開した結界の中に、彼女等は居たんだ。その事を鑑みて闇の書の管制人格が彼女等を狙う可能性があるから、アースラに転移して貰った。そして、これらの説明をしているのは、もう既に巻き込まれ、無関係では無いからだ」

「それはそうですが……」

「彼女等の住む地球が危険に襲われており、高町なのは等はそれを救おうとしている。そして、そこに住む者の代表として聴き、観てもらう」

「闇の書……?」

「あの。なのは達と戦っている人は誰ですか?」

「あれは――」

「「フェイト!? / フェイトちゃん!?」」

 

 

 

「――エイミィさん!?」

《状況確認……フェイトちゃんのバイタル、まだ健在!》

 

 なのはの悲鳴に似た言葉を受け、驚愕と戸惑い、焦りなどの気持ちを抱えながらも、キーボードを叩いていくエイミィ。

 

 モニターには、なのは等の姿が映し出されているものの他、彼女等のバイタルを、状態を表示しているものもあった。

 

 表示されているバイタルの内、フェイトのバイタルを、まだしっかりと記録を続けている。

 

 もう少しだけ弄ってみると、フェイトが今どうなっているかが判明した。

 

《闇の書の内部空間に閉じ込められたみたい。救ける方法、現在検討中!》

 

 通信からでも判る程に物凄い速さでタイピングをしていくエイミィ。

 

「我が主も、あの娘も醒める事無い眠りの内に、終わり無き夢を見る。生と死の……狭間の夢……それは、永遠だ」

 

 闇の書の中で眠り、夢を見る2人の少女。

 

 彼女達は、いつ終わるとも知れない夢を――胸の内に秘めている願いがかたちになった幻を、その寿命が尽きるその時迄見続ける事になる。その死は一瞬の出来事だが、夢を見続けている彼女達は、自身の死を認識する事は無いだろう。

 

「永遠なんて、無いよ。皆、変わってく……変わっていかなきゃいけないんだ! わたしも……貴女も!」

「その通りだ、なのは! 眠り続けている姫様方を叩き起こしてやろうぜ!」

「まあ、眠り姫が目醒めるのは王子様のキスと相場が決まっている」

「必ず救い出す……フェイト!」

 

 

 

 湖の存在する森の中。

 

 その湖の真ん中に、建築物が建っている。緑が生い茂っているそれは、自然に溶け込めるように、苔などを人工的に生やしているようだ。

 

「――え!?」

 

 そんな建物の一室で、フェイトは目を覚ます。

 

 目を開き、身体を起こしてみるが、何処をどう見ても見覚えの無い部屋だ。

 

 そして、横からは誰かの――幼く可愛らしい少女によるものか、スゥスゥといった寝息が聞こえて来る。

 

 フェイトはその声の主である少女の方へと目を向け、その姿を見ると同時に驚いてしまう。

 

「此処は……?」

 

 天井は、アーチ状になっており、青色に塗られたそれに、小さな白や黄色の点が無数存在している。夜空を表しているのだろうか。

 

「フェイト、アリシア、アルフ……朝ですよ!」

 

 数回のノックの後、聞き覚えのある――もう聞く事が出来ない筈の女性の声が耳に届いてくる。

 

「――まさかっ……!」

 

 戸惑いと驚き、そしてその正体は判らないが、確信を心に秘めて横に目を向ける。

 

 そして、ドアの向こうに居るであろう彼女の呼び声に反応し、横に居た少女――アリシア・テスタロッサと、子犬フォームで布団に潜り込んでいたアルフが目を覚まし、もぞもぞと動きながら身を起こす。

 

「お早う……フェイト」

 

 寝ぼけ眼を右手で擦りながら、アリシアはフェイトに向けて朝の挨拶をする。

 

「皆、ちゃんと起きてますか?」

 

 ガチャリと音を立てながら、ドアの向こう側から女性が部屋の中へと入って来る。

 

「はーい!」

「う~ん、眠い~」

 

 アリシアの元気な返事とは反対に、アルフは正直に自身の状態を述べる。

 

「2人共、また夜更かししてたんでしょ!」

 

 そう言いながら、女性はカーテンを開いていく。

 

「ちょっとだけだよ!」

「ねー!」

 

 アリシアの言葉に同意するアルフ。

 

「早寝早起きのフェイトを見習って欲しいですね。アリシアはお姉さんなんですから!」

 

 その女性の言葉に、頬を膨らませて剥れるアリシア。

 

「あの……リニス……?」

 

 フェイトはまだ、今がどういう状況でどういった状態にあるのか、理解と判断が出来ていない。

 

 フェイトは、まだ夢を見ているような気持ちなのだ。

 

「はい? 何ですか、フェイト?」

 

フェイトの言葉に、しっかりと返事をするリニス。

 

「アリシア……」

「――ん?」

 

 自身が今居るこの場所は、本当に現実なのだろうか。これは夢なのだろうか。

それとも、先程までの世界が夢現なのだろうか。

 

「前言を撤回します。今朝は、フェイトも寝惚けやさんのようです」

 

 フェイトを見たリニスの言葉、そしてフェイト自身の様子を見て、面白く感じたのかアリシアは声を上げて笑う。

 

「さあ、着替えて。プレシアは、もう食堂ですよ」

「「はーい」」

「かあ、さん……」

 

 そのリニスの放った言葉を聞き、フェイトは目を大きく開いて、身体を震わせた。

 

 気になる事はまだあるが、震える身体を抑えて着替るフェイト。

 

 アルフは人間形態に、そしてアリシアが着替え終えると、4人は部屋から出る。

 

 廊下に出ると、そこは見覚えのあるところで、フェイトはここが時の庭園だという事に気付く。

 

「お母様! お早う!」

「お早う、プレシア!」

「アリシア、アルフ、お早う」

 

 少し歩くと開けた空間へ出、そこでかあさん(プレシア)がお茶を飲みながら座っているのが見える。

 

 机にはいろいろな料理が置かれており、その場所が食堂である事が理解出来る。

 

 お茶の入ったカップを皿に乗せ、朝の挨拶をする2人に返事をするプレシア。

 

 その3人の様子を見て、フェイトはより一層困惑してしまう。

 

 フェイト自身の記憶では、アルフとプレシアの仲は嫌悪――と言うよりも、アルフが一方的に敵意を出し、プレシアは基本的には無視をするといったふうだった。

 

 だが、目の前の彼女等はそんな素振りを見せる事も無く、楽しそうに会話を弾ませている。

 

 プレシアの笑顔は、自分の中に存在しているアリシアの記憶と同じと言える程の綺麗で柔和なものだった。

 

「プレシア……困りましたよ。今日は嵐か雪になるかもしれません」

「…………?」

「ほら、フェイト」

 

 自身の覚えているプレシアと今目の前に居るプレシアの、あまりの違いように驚くしか出来ないでいるフェイト。

 

 そんなフェイトに、陰で隠れて様子を伺っている事に気付いたプレシアは不思議そうな表情を浮かべ、リニスは出て来るように声を掛ける。

 

 恐る恐る動き、柱の陰から出るフェイト。

 

「フェイト、どうしたの?」

「どうも、怖い夢か何かを見たらしくて……今が、夢か幻だと思ってるみたいですよ」

 

 笑顔を見せて、心配そうに声を掛けるプレシア。

 

「フェイト、勉強のし過ぎとか?」

「あり得る!」

 

 誂うアリシアの言葉に対して否定をする余裕も無く、ただ立ち竦むフェイト。

 

「フェイト、いらっしゃい」

 

 プレシアの言葉に、フェイトはゆっくりと歩み寄る。

 

「…………――っ!?」

 

 顔を伏せるフェイトに、プレシアは笑顔を浮かべ、両手をフェイトの顔へと持っていく。

 

 それに対してフェイトは、ビクッと小さく身体を震わせ、半歩分だけ後ろへ退がってしまう。

 

「怖い夢を見たのね、でももう大丈夫よ。母さんもリニスもアリシアも、皆貴女の側に居るわ」

 

 プレシアの顔と声は優しく、夜泣きをする赤ん坊をあやすようにフェイトへと話し、触れる。

 

「プレシア、あたしも!」

「そう、アルフもね」

 

 抗議するアルフに、微笑みながらその言葉を肯定するプレシア。

 

「まあ……朝食を食べ終える頃には、悪い夢も覚めるでしょう」

 

 リニスの言う通りに先程迄のものが、夢であるのだとしたら。

 なのは達と出会い、友達になった事も夢だという事なのだろうか。

 

「さあ、席に着いて、頂きましょう?」

「えっと……兄さんは?」

「兄さん? 貴女に兄は居ないでしょう?」

「そうだよ。兄じゃ無くて姉は居るけどね」

 

 そのプレシアとアリシアの言葉に、愕然とするフェイト。

 

 アルフも、リニスも気にした素振りは無く、それが当たり前――ドゥーム・テスタロッサという少年は存在しないといった様子だ。

 

「…………」

 

 皆が食事を始める中で、フェイトは目の前にある料理を見るだけだ。

 

 食事が喉を通らず、食欲が湧いて来ない。

 

「(違う……これは、夢だ。かあさん(プレシア・テスタロッサ)は……私にこんな風に笑い掛けてくれた事は、一度も無かった)」

 

 自身の中にある違和感は次第に大きく強くなるのに気付き、そしてその正体をハッキリと知る。

 

 与えられたアリシア・テスタロッサ(オリジナル)の記憶の中でなら兎も角、かあさん(プレシア・テスタロッサ)は、自分(失敗作)に対しての笑顔を浮かべる事は無く、それどころかキツく当たっていた。

 

「(アリシアも、リニスも……今はもう居ない……)」

 

 (フェイト・テスタロッサ)アリシア・テスタロッサ(オリジナル)のクローン体であり、失敗作と判断された存在だった。

 (クローン)が居るからには、アリシア・テスタロッサ(オリジナル)は居る事は出来ない筈。

 

 かあさん(プレシア)の使い魔であるリニスも、(フェイト・テスタロッサ)の教育とバルディッシュをつくり終え、それとほぼ同じ時期に消えた。

 

「(でも……これは……)」

 

 これはこれで良いのかもしれない。

 

 母親であるかあさん(プレシア・テスタロッサ)アリシア・テスタロッサ(オリジナル)同様に自分に対しても笑い掛けくれて、優しく接してくれる。

 リニスも消える事は無く、居てくれる。

アリシア・テスタロッサ(オリジナル)も、死んではいない。

 

 ただ1つ、アダム・プロジェクトとプロジェクトF.A.T.E.の結果生まれたドゥーム・テスタロッサ(兄さん)が居ない事を除いて。

 

 このまま、ここに居続けても良いのではないのだろうか。

 

 だけど……。

 

「ねえ、今日は皆で街に出ましょうか?」

「ああ! 良いですねえ!」

 

 食事を終え、庭園内を5人で歩く。

 

 足取りの軽いプレシア、リニス、アルフ、アリシアに対し、フェイトのものは重い。

 

「フェイトには、新しい靴を買ってあげないとね!」

「…………」

「ああっ! フェイトばっかりズルい!」

「魔導試験満点のご褒美ですよ。アリシアも頑張らないと!」

 

 プレシアの言葉に抗議をするアリシアだが、リニスの説明にむくれながらも口を閉じる。

 

「フェイト! 今度の試験までに、補習お願い!」

「う、うん……ぅ……うぅ……」

「フェイト?」

 

 心配そうに顔を覗かせて、声を掛けるアリシアとアルフ。

 

 フェイトは思わず泣き出してしまう。

 

「(これは……私がずっと……欲しかった時間だ……何度も、何度も夢に見た時間だ……)」

 

 皆が、家族が仲良く出来る、笑い合っていられる時間と空間。

 ただ1人が居ない事を除いては。その通りのものだった。

 

 

 

「眠い……眠い……」

 

 ここは何処だろうか。

 

 ゆっくりと瞳を開き、辺りへと軽く視線を動かそうとする。

 

 薄ぼんやりとした視界に、目の前には紅い瞳で、綺麗な銀髪をした、スレンダーで大きくふくよかな胸を持っている。

 

「そのままお休みを、我が主。貴女の望みは……全て私が叶えます。目を閉じて、心静かに夢を見て下さい」

 

 何処までも広く、静かな空間で、女性の声は反響し、頭の中に直接語り掛けて来るかのような感じだ。

 

 目蓋も重く、その女性の言葉通りに、はやては目を閉じようとする。

 

 

 

 拳と桃色の魔力防壁がぶつかり合う。

 

 火花とスパークが飛び散り、周辺の魔力(マナ)と空気が大きく震える。

 

「――!?」

 

 砕かれたバリアは、ガラスのように四散。

 

 急いでその場を離れるなのはを追いかけようとする闇の書の管制人格だが、その間に雄介が割り込む。

 

「――なのは!」

【Schwarze Wirkung】

「「――きゃあっ! / ぐあああっ!」」

 

 右拳に黒い魔力を纏わせ、管制人格は雄介ごとなのはを殴り飛ばす。

 

 殴り飛ばされた2人は、荒れ狂う海の中へと落ち、海面は大きな水飛沫を立てながら波を起こす。

 

「この野郎っ!」

「女性だから、野郎じゃ無くて女郎と言うところだなあ!」

 

 (パワー)(スピード)、炎のフラグメントを使用して殴る体勢に入っているドゥーム。

 

 金色に光り輝く双剣で斬りかかろうと試みる志蓮。

 

 その2人の攻撃すらも受け止め、攻撃を返す管制人格。

 

「――これも駄目かよ!」

【Divine Buster】

 

 両手からそれぞれに放出された高威力の黒い砲撃魔法によって、2人は吹き飛ばされる。

 

「…………」

 

 そこに、海中からなのはと雄介が飛び出して来る。

 

 この場に居る管制人格以外は皆、肩で息をしており、かなりの力を消費してしまっていた。

 

『リンディさん、エイミィさん、戦闘位置を海の上に移しました! 市街地の火災をお願いします』

《大丈夫。今、災害担当の局員が向かっているわ》

 

 結界魔法は、通常空間から特定の、指定した範囲の空間を切り取り、時間信号をズラす魔法だ、この魔法によって、結界内を視認及び認識したり、結界内に侵入出来るのは魔法を使用出来る者だけで、結界内で何が起こっているかは理解らない。

 だがこの結界が解けてしまえば、結界内で破壊されたものなどはそのまま。通常空間へと上書きされてしまう。

 

 そういった事にならないようにするのが、災害担当の局員だ。

 火災が起きているのであれば、消火行動に入る。

 瓦礫が存在しているのであれば、それを除去する。

 

『それから闇の書さんは、駄々っ娘ですが、何とか話は通じそうです! もう少しやらせて下さい!』

『まあ、そういう事です。唯一気になるのは、あの龍人ですね。あいつ、ずっとあそこでじっとしているだけだし……』

『妹を、フェイトも助けないと駄目だしな!』

 

 言葉が通じ、会話をする事が出来る。

 

 そして言葉では否定をしているが、涙を流し、痛みを感じている。

 

 何よりも、主であるはやてを想い、彼女の意志や気持ちを、瞬間的に生まれてしまったものを叶えようとしている。

 

 主を想い、涙を流すヒトが人で無い筈が無い。

 

 自身の想いをぶつければ、彼女もまた同様に返してくれる。

 

 そう信じて。

 

「行くよ、レイジングハート!」

【Yes, my master. Reload】

 

 空になったマガジンを取り外し、カートリッジの入っている新しいマガジンを装填するなのは。

 

「マガジンも残り3本、カートリッジ18発……スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな?」

【I have a method. Call me "Exelion mode"】

 

 そのレイジングハートの提案に、危惧をし、息をのむなのは。

 

「駄目だよ! あれは本体の補強をするまで、使っちゃ駄目だって! 私がコントロールに失敗したら、レイジングハート、壊れちゃうんだよ!」

 

 カートリッジシステムは、その瞬時に、そして爆発的に魔力を増大させる事が出来るものだ。

 だが、その分反動は大きく、制御は難しい。

 1つ間違ってしまえば大事故――デバイスは大破し、術者も大きなダメージを負う事になる。

 

 そして“エクセリオンモード”だ。

 カートリッジをロードする事でその形態へと変形させる事が出来、その分高出力となる。

 だが、機体であるレイジングハートにも、なのはにも耐えられる限界が存在し、その限界に達してしまうかもしれない。

 その限界に達してしまうと、レイジングハートは誤爆し、自壊する可能性が著しく高い。

 だからこそ、エイミィからは使用を禁止されている。

 

【Call me. Call me, my master】

 

 それを理解しているからか、理解しているからこそなのか。

 尚も、なのはへとレイジングハートは進言をする。

 

 デバイスは、機械である為に、計算をして導き出された最適だと思われる解答を、提案をマスターへとする。

 

 だからそれは、レイジングハートが導き出した勝利への道筋なのか。

 

 機械であるにも関わらず、レイジングハートの言葉には心があるかのように熱があり、強いものが感じられた。

 

 

 

「何をしている、八神竜人?」

「俺は……」

 

 発生した火災を消化している局員等とは離れたビルの屋上。

 

 そこに、八神竜人とゾイルは居た。

 

 家族であるシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラが傷付けられ、募集する迄の間、ただ見ている事しか出来なかった。

 

 苦しみ藻掻く彼女達を……必死に抵抗しようと、一矢報いろうとしていた家族を、ただ見ているだけしか出来なかった。

 

「何時までそうしているつもりだ……?」

「何も……出来なかった……俺は――」

「そうだな」

「――ック」

「だが、それがどうした?」

「――え?」

 

 歯と唇を噛み締め、涙を流して悔しがる竜人に対して、ゾイルはあっけらかんとした態度を取る。

 

「何も出来なかった……。確かにそうかもしれないな。だが、それは今からの時間とは関係が無い。大事なのは、これから先だ」

「――だけどっ! だけど、皆は……もう……」

「こういう言い方はあまり好かないが、奴等は所謂データの塊だ。なら、闇の書が無事であるなら……その守護騎士等のデータの入っている闇の書が無事であるなら、何とかなる。そうは思わんか?」

「………!?」

 

 ゾイルのその言葉に、伏せていた顔を上げる竜人。

 

 彼にとって、その言葉は暗闇に差し込んだ一筋の光のようなものなのか。

 

「先ずは、はやてを覚醒させる(叩き起こす)必要がある。お前には辛いかもしれないが……先ずは、あの管制人格に強烈な攻撃を与えないと駄目だ、星を揺るがす程のものを」

「管制人格……!?」

 

 ゾイルが指し示すその先には、黒い翼を生やし、少年少女達と舞うように戦い続けている銀髪の女性が居る。

 

 一瞬、ほんの一瞬だが、竜人はその女性に目を奪われた。いや、奪われてしまったような気がした。

 

「あれも家族だろ?」

「家族……」

「そうだ。闇の書の管制人格なんだから、守護騎士等と同じように家族である筈だ。お前の」

「…………」

「話を戻すぞ。あの管制人格に強烈なダメージを与える。そうする事で、その衝撃ではやてを起こす事が出来る。その後は……言わ無くても、理解るな?」

 

 

 

「私は……何を……望んでたんやっけ?」

 

 暗く静かな空間で、はやては思考をする。

 

 意識がハッキリとはしていないのか、頭の中はぼんやりとしている状態だ。

 

「夢を見る事。悲しい現実は、全て夢となる。安らかな眠りを」

「そう、なんか?」

 

 ぼんやりとする意識の中で聞こえる女性の声は、赤ん坊に子守唄を唄って、寝かし付けようとしているかのように、酷く優しいものだ。

 

 もう一度、はやては瞳を閉じ、意識が深い闇に沈みそうになる。

 

「私の……本当の……望みは………あたしが……欲しかった幸せ……」

 

 

 

 街には、膨大な魔力の奔流が柱のようになり、空へ向けて昇っていく。

 

 なのはに雄介、志蓮にドゥームの4人の少年少女等と、涙で頬を濡らしている管制人格は静かに向き合っている。

 

「お前達も、もう、眠れ」

「何時かは眠るよ。だけどそれは、今じゃ無い。今は……はやてちゃんとフェイトちゃんを救ける……それから……貴女も!」

 

 レイジングハートからカートリッジが排莢される。

 

「レイジングハート……エクセリオンモード! ドライヴ!」

【Ignition】

 

 なのはの掛け声と同時に、レイジングハートが変形をする。

 

 手に握っている柄部分はそのままで、カートリッジマガジンの装填分が下部へと移動。そして先端部が白と金色の槍先となり、桃色に光り輝く翼のようなものが3枚2対の計6枚噴き出る。

 

「繰り返される悲しみも……悪い夢も……きっと、終わらせられる……」

【Photon lancer, genocide shift】

 

 なのはの言葉に対し、管制人格は静かに右手を水平に上げ、魔法を使用する。

 

 管制人格の背後に、無数のスフィアが形成される。

 その数は、かなりのものでフォトンスフィア数は76基……フェイトの使用するPhoton Lancer Phalanx Shiftの倍近い数だ。

 

「マジかよ……」

「……何て数だ」

 

 その圧倒的な数を誇るスフィアで、視界の殆どは奪われてしまったと言える程のもの。

 

 

 

 静かな、とても静かでのどかだと言える空間。

 

 鳥の囀りが、鳴き声が聞こえる中で、アリシアは草原に横たわり、フェイトは木陰で身体を休ませていた。

 

「――あれ? 雨になりそうだね。フェイト、帰ろう」

 

 流れ行く雲が白から黒いものへと変わり、空からゴロゴロといった雷らしき音が聞こえて来る。

 

 立ち上がり、帰宅の提案をするアリシア。

 

「フェイトってば!」

「ごめん、アリシア……私はもう少しここに居る」

「そうなの? じゃ、私も!」

 

 雷の音が大きくなる。

 

 フェイトの言葉に不思議がるアリシアだが、雨が降って来た事もあり、木陰に居るフェイトの横に座り込む。

 

「一緒に……雨、宿、り」

 

 雨は盛大に振り続け、どんよりとした黒い雲が流れていく。

 

 今の天気同様に、フェイトの気持ちも深く沈んだものだった。

 

「ねえ……アリシア……これは、夢、何だよね?」

「…………」

 

 雨が振り続ける中で、フェイトの質問に対して黙るアリシア。

 先程まで、疲れを知ら無いかのように元気な様子で年齢相応に笑い続けていた少女とは思えない変わりようだ。

 

 そして、その無言は肯定と言えるだろう。

 

 それにより、確かな確信を得る。これは闇の書が、自身に対して見せている心の中にある願望の一端(ゆめ)なのだと。

 

「私と貴女は……同じ世界には、居ない。貴女が生きてたら、私は……生まれなかった」

「そう、だね」

「母さんも、私にもあんなに優しくは……」

「優しい人だったんだよ。優しかったから……壊れたんだ……死んじゃった私を、生き返らせる為に」

「うん……」

 

 プレシア・テスタロッサは一人娘であるアリシア・テスタロッサを愛していた。心の底から、愛していたのだ。幸せな生活を送っていた。アリシアと飼猫のリニスの2人と一匹だけの暮らしだが、それでも十分に満ち足りていた。

 だが、ヒュードラの暴走で全てが反転してしまったのだ。

 暴走したヒュードラから発せられたエネルギーは想像以上のもので、アリシアとリニスの居る部屋――自宅に張っていた結界は意味も無く、中に居た1人の愛娘と愛猫は窒息死をしてしまった。

 発生したエネルギーは微粒子レベルの少粒であり、空気中に存在する酸素と結合し、全く別のものに変貌してしまう。

 その変貌したものは有毒であり、研究所の外へと排出されたエネルギーにより酸素の無くなった部屋の中で、アリシアとリニスは窒息したのだ。幼く小さな身体では、大人であろうとも当然それに耐える事は出来ない。どれ程の苦痛だっただろうか。幸いなのかは判らないが、睡眠を取っている時だったのか、安らかな笑顔を浮かべての死だった。

 愛する1人娘を無くし、唯一地獄に降りてきた蜘蛛の糸のように、自身が務めていた会社に告訴をする。が、結果は惨敗であり、逆に自身が失敗の原因という形で敗訴。そう記録を残されてしまう。

 そしてそこに、外道の住人であるアカマタに浸け込まれてしまったのだ。

 

「ねえ、フェイト……夢でも良いじゃない?」

 

 アリシアの提案は、耳に心地が良いものだ。

 

 だが、これは闇の書が見せているもの(都合の良い夢)なのか。それとも、自身がそう望んでいるからなのか。

 

「ここに居よ、ずっと一緒に。私、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。母さんと……アルフと……リニスと……皆と一緒に居られるんだよ!」

 

 

 

「おらあああああああっ!」

「だりゃああああああああああああああっ!」

 

 思い思いの方法で、飛来する黒い魔力弾を防ぎ、弾いていく。

 

 毎秒318発ずつ放たれる魔力弾は、約26秒も続く。

 

 回避する暇も無い程の攻撃の中で、魔力盾を使用して防御し、気と魔力を込めた手足や魔力の篭った双剣に気を纏わせ、それらで弾いていく。

 

 弾き飛ばした魔力弾は、海中や、修復途中のビル街へと向かっていく。

 

「ディバイイイイイイイン、バスタアアアアアアアアッッ!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)アアアアアアアアアアアアッッ!」

「白影竜の、咆哮おおおおおおおおおおおおおっ!」

「第四、波動おおおおおおおおおおっ!」

 

 4人同時に繰り出した攻撃で、管制人格がつくりだし発射してきた魔力弾の全てを撃ち消した。

 

 一時的に、彼等の目の前は白く、黒く、金色に包まれる。

 

「1つ覚えの砲撃、通ると思ってか?」

 

 4つの魔力砲撃と無数の魔力弾による爆発で発生した煙が晴れると、無傷の管制人格が姿を現す。

 

「通す! レイジングハートが力をくれてる! 皆が力を貸してくれてる! 力を合わせてくれてる! 生命と心を掛けて、応えてくれてる!」

 

 レイジングハートが薬莢を排莢し、なのはの魔力と気が増大及び上昇をする。

 

「――泣いてる娘を救ってあげてって!」

【A,C,S, standby】

 

 叫ぶなのはの足元に大きな魔法陣が展開され、レイジングハートにある翼が大きくなり、広がる。

 

「…………」

「アクセルチャージャー、起動……“ストライクフレーム”!」

【Open】

 

 レイジングハートの先端部が開き、魔力刃が構成される。

 

 なのはの魔力変動に対し、目を見開く管制人格。

 

【Photon lancer, genocide shift】

 

 管制人格は、再び同じ魔法を使用する。

 

 だが、そのスフィアの数は先程のものとは違い、視認して数える事が馬鹿らしく思える程だ。

 

 260ものスフィアから、一斉に黒の魔力弾が視界を覆い尽くすかのように発射されて迫り来る。

 

「――ポジトロンレーザアアアアアアッッ!」

 

 その全ての魔力弾は、別の大きなエネルギーの奔流に呑み込まれて消えてしまった。

 

「――お前は!?」

「待て、敵じゃ無い」

 

 60mをも誇るその龍の巨体。圧倒的なまでの威圧感に存在感。

 

「八神、竜人……」

「目を覚ませ、はやて! 皆は、シグナム達は、まだ死んじゃいない!」

 

 死ぬという表現には何処か違和感を覚え、違うだろうと言ってもいいだろう。

 

「竜、人……主はやての兄か……貴方もどうか、もう休んで下さい。どうか安らかな眠りと夢を――」

「醒めない眠りに、夢は無い! 夢を叶えるのならば、それは自分で掴み取り、叶えるべきものだ! 転生者である自分が言う資格は無いかもしれない……だが、他者が与える夢は、夢であって、夢じゃ無い! 例えそれがどんな結末であろうと、自分で動くからこそ、掴みとろうとするからこそ意味がある! お前の言う夢は、俺の求める夢なんかじゃ無い! 断じてだ!」

 

 竜人の口から出て来る言葉は支離滅裂ではあるが、彼の瞳は真っ直ぐであり、真剣そのものだ。

 

【master】

「うん! 行こう、レイジングハート!」

【Of course, my master】

「エクセリオンバスター、A,C,S, !」

 

 レイジングハートから出ている6枚もの魔力翼が大きくなり、翼を構成している光は炎のように震え、揺らめく。

 

「――ドライヴッ!」

 

 その掛け声と同時に、管制人格へと文字通りに突っ込んで行くなのは。

 

「させる訳、無いだろう?」

「当然だ。嫁のサポートをするのは、夫の務めだからな」

「まだ、続けているのかよ」

 

 避けようとする管制人格の腕と脚、それぞれに鎖が巻き付き、動きを阻害している。

 その鎖にも、信じられ無い程に膨大な魔力が内包されている。魔法によって出されたものでは無く、この鎖も“神話型デバイス”の1つである為に、解析は出来ても、解除は出来ない。

 

 そして、サイコキネシスによって身体はその場に固定されている。

 

 が、魔力で自身の身体を無理矢理動かしたのか。管制人格は、なのはの突撃を生み出した障壁で防ぐ。

 

「こらー! 無茶すんな! はやての身体だぞ!」

 

 それを見た竜人が叫ぶ中で、なのはと管制人格はぶつかり続けている。

 

 管制人格の障壁と、なのはとレイジングハートによるA,C,S,の魔力刃の衝突で、火花が散る。

 

 レイジングハートから、連続で4発ものカートリッジがロードされる。

 魔力翼が更に巨大化し、威力や貫通力が増加する。

 

「ブレイク……」

「――まさかっ!?」

「――シュウウウウウウウウットオオオオォォォッ!!」

 

 暫くは防ぎ続けていたが、障壁が揺らぎ始め、A,C,S,の魔力刃が障壁を通過。そして、管制人格に攻撃を当てる事に成功する。

 

 魔力刃であるストライクフレームが当たると同時に、砲撃をするなのはとレイジングハート。

 

 大きな爆発が起き、なのははその爆風に従って後退をする。

 

「……つぅ……っ……(ほぼ零距離……バリアを抜いてのエクセリオンバスター直撃……これで、駄目なら)」

「無事か? なのは?」

「うん、大丈夫なの」

 

 レイジングハートから、膨大な魔力残滓が熱となり排出される。

 

 至近距離での――零距離射撃であった為に、闇の書の管制人格にも相当なダメージを与えた筈だが、なのは自身もかなりの負担とダメージを受けてしまった。

 

 痛みに顔を顰めるが、必死に耐えてみせるなのは。

 

 レイジングハートもフレームにダメージがいっているだろうが、まだ壊れる程のものでは無く、無事だ。

 

【Master!】

「「――!?」」

 

 レイジングハートの警告に、顔を上げるなのはと雄介。

 

 そこにはまだ、健在だと言える状態の管制人格の姿があった。

 

「もう少し、頑張らないとだね!」

【Yes】

「ったく……帰りたくなりますよ」

【Please Good luck a little more, Yusuke】

「はあ……まあ、そうだけどさ」

 

 

 

「あたしが……欲しかった幸せ……」

「健康な身体……愛する者達とのずっと続いていく暮らし。眠って下さい。そうすれば、夢の中で貴女はずっと、そんな世界に居られます」

 

 目の前の女性の言葉は、どこまでも優しいものだ。

 

 彼女の言葉通りに、眠ってしまいたい。

 

 だが、心の中で、自分の中で何かが違うと。それは違うと言い続けている、訴え続けているのか、はやては数回程、首を横に振る。

 

「せやけど、それは……それは、ただの夢や……私、こんなん望んで無い。貴女も同じ筈や! 違うか?」

「私の心は、騎士達の感情と深くリンクしています。だから騎士達と同じように、私も貴女を愛おしく想います。だからこそ、貴女を殺してしまう、自分自身が赦せない」

「――え!?」

 

 銀色の女性が闇の書に深く関係している人物、管制人格である事。そして、彼女の話す言葉の意味を、はやては自然と理解出来ていた。

 

「自分では、どうにもなら無い力の暴走。貴女も侵食する事も、暴走して貴女を喰らい尽くしてしまう事も、止められ無い」

 

 彼女の感じている悲しみと無力感を強く共感するはやて。

 

 はやては話す彼女を見て、瞳を揺らし下へと顔を伏せた。

 

「覚醒の時に、今迄の事、少しは理解ったよ。望むように生きられへん哀しさ……私にも、少しは理解る! シグナム達と同じや! ずっと哀しい想い……寂しい想いして来た……」

「…………」

「せやけど、忘れたらあかん。貴女のマスターは、今は私や! マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん!」

 

 管制人格の方へと身を乗り出し、彼女の左頬に自身の右手で優しくそっと触れるはやて。

 

 驚きつつも拒否する事は無く、受け入れる彼女に、はやては諭すように話し掛ける。

 

 それと同時に、はやての足元に白く綺麗に光り輝く、古代ベルカ式特有の三角形の形をした魔法陣が展開される。

 

 

 

「フェイトが欲しかった幸せ、みんな上げるよ」ここに繋ぎとめようと、逗らせようとしているのか。アリシアは必死に言葉を出していく。

 

 それはとても嬉しいと思えるような事だった。

 

 だが、ここにはドゥーム・テスタロッサ(兄さん)が居ない。

 なのはが居ない。

 皆が居ない。

 

「ごめんね、アリシア。だけど、私は行かなくちゃ」

「…………」

「――!?」

 

 そのフェイトの言葉に、静かに小さな手を差し出して、開くアリシア。

 その手の中には、フェイトの知る大事な相棒(バルディッシュ)が居た。

 

 寂し気に、そして優しい笑顔を浮かべるアリシア。

 

 彼女とバルディッシュを見て、必死に耐えていた筈の涙が溢れ落ちる。

 

 フェイトがバルディッシュを受け取ると同時に、アリシアは抱きつき、それを受け入れるフェイト。

 

 それは抱擁と呼べるものであり、包容でもあった。

 

「ありがとう……ごめんね……アリシア」

「良いよ。私は、フェイトのお姉さんだもん」

 

 確かな感触と熱を感じる。

 

 小さな身体で精一杯に、優しく抱きしめる。

 

 それは、今をこの瞬間を強く感じる為のもの。

 この瞬間を覚え、忘れないようにする為のもの。

 

「待ってるんでしょ? 優しくて強い子達が?」

「うん……」

「じゃあ、行ってらっしゃい、フェイト」

「うん……」

「現実でも、こんな風に居たかったなぁ」

 

 その言葉を最後にして、アリシアの身体が光輝き、消えていく。

 小さな身体が消失すると同時に、その熱や感触も失われる。

 

 おそらく、この空間に居たアルフも、リニスも、かあさん(プレシア・テスタロッサ)も同時に消えているだろう。

 

 

 

「名前をあげる。もう闇の書とか“呪いの魔道書”なんて言わせへん……私が呼ばせへん!」

 

 はやての言葉に、覚悟に、想いの決壊が切れ、崩れたかのように涙を流し始める管制人格。

 

「私は管理者や、私には、それが出来る!」

「無理です。自動防御プログラムが止まりません……管理局の魔導師と竜人が戦っていますが、それでも……」

「――止まって……」

 

 たった1言。

 

 はやてのその1言で、外で動いていた闇の書の管制人格が――“融合事故”を起こしている八神はやての身体の動きがピタリと止まる。

 

「――え!?」

『外の方! えっと……管理局の方!』

 

 その言葉に、声を聞き、なのはを始め、戦闘をしている皆がはやてが目を醒ました事に気付く。

 

『えっと……そこに居る娘の保護者、八神はやてです』

「はやてちゃん!?」

「――はやて! 良かった……」

『なのはちゃん!? それに、竜人兄ちゃん!? ほんまに!?』

「なのはだよ! 竜人さんも。いろいろあって、闇の書さんと戦ってるの!」

『ごめん、なのはちゃん……何とか、その娘、止めてあげてくれる?』

 

 目を醒ましたはやてと会話をしている間も、管制人格のかたちと力を奮う事の出来るはやての身体は、管理者である八神はやての命令を無視し、今にも動き出そうとしている。

 

『魔道書本体からはコントロールを切り離したんやけど……その娘が走ってると、暴れとると管理者権限が使えへん! 今そっちに出てるのは、自動防御のプログラムだけやから!』

 

 はやての放ったその言葉に対し、なのはは驚きのあまり目を大きく開き、瞬きをする。

 

「(闇の書の完成後に、管理者が覚醒めてる? これなら……)」

 

 その様子や情報はなのはやその周辺に居る者だけでは無く、未だ結界内の離れた場所に居るユーノとアルフ、そしてアースラ内の局員等にも知り渡る。

 

『理解り易く伝えるよ……今から言う事をなのは達が出来れば、はやてちゃんもフェイトも、外に出られる!』

「うん!」

『どんな方法でも良い、魔力ダメージでぶっ飛ばして! 全力全開! 手加減無しで!』

「さっすが、ユーノ君! わっかり易い!」

 

 ユーノからの言葉に大きく首肯きながら、なのははエクセリオンモード状態のレイジングハートを目標へと向ける。

 

【It's so】

「シンプルイズベストってか?」

 

 それぞれに、魔力と気を高めていき、魔力ダメージを与える準備に入る。

 

「エクセリオンバスター、バレル展開! 中距離砲撃モード!」

【All right. Barrel shot】

 

 カートリッジがレイジングハートによって4発ロードされる。

 

 柄の部分が伸び、大きな魔力翼が発生し、砲撃の為の桃色の魔力がレイジングハート先端に集まっていく。

 

 薄い魔力の渦が発生し、それが引き寄せられるようにレイジングハートの先端部に集まる。

 

 集まっていた魔力渦が風のようになり、目標へと吹き荒れ、一時的ではあるが十字架に張り付けるかのように四肢の動きを封じる。

 

 

 

「夜天の主の名に於いて、汝に新たな名を送る」

 

 暗い空間に居る2人、管制人格の濡れている頬に優しく触れながら、知識を総動員して相応しいだろうと思える言葉を思い浮かべる。

 

「強く支える者」

 

 今回に於いて、最後の最後迄姿を現す事無く、陰で家族を想い、忍び耐え、力となり、支え続けてくれていた。

 

「幸運の追い風……」

 

 そしてこの先、呪いの魔道書では無く、幸運を呼び寄せ、それに対して皆と彼女自身に幸運への追い風を生み出す存在となって欲しい。

 

「祝福のエール――リインフォース」

 

 願わくは、彼女に祝福を――。

 

 

 

 かつて何度も目にし、行動をした時の庭園。

 

 自身の記憶を読み込み、闇の書が再現したその空間の中に1人と1機。

 

「バルディッシュ、ここから出るよ。ザンバーフォーム、いける?」

【Yes, sir】

「良い子だ」

 

 フェイトの言葉に、短く返答をするバルディッシュ。

 

 簡素な返事だが、彼女等の間ではそれだけで良かった。それだけで十分だった。

 

【Zamber form】

 

 カートリッジ2発を消費し、変形をするバルディッシュ。

 斧部分はスライドし、可動変形。2つに別れ、鍔となる。そこから、樋部分が出現し、フェイトの持つ金色の魔力光で構成された大きな魔力刃が発生する。

 

 魔力変換資質による影響で、フェイト自身の身長よりも大きな刀身に母親であるプレシア・テスタロッサから受け継いだ紫の電撃が疾走る。

 

「(例え幻でも、逢えて良かった……プレシア・テスタロッサ(かあさん)……リニス…・…アリシア・テスタロッサ(姉さん))……疾風迅雷!」

 

足元には巨大な魔法陣が展開される。

 

「――スプライトザンバアアアアアアアアアアアアアアーーッッ!!」

 

 ――私もだよ……フェイト……。

 

 闇の書が生み出した夢の中から脱出をするフェイトは、遠くから姉であるアリシアの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

「エクセリオンバスター、フォースバースト!」

 

 レイジングハートの柄最後部に小さな、次いで中位の、先端部には大きなリング状の環状魔法陣が計3つ展開される。

 先端部には膨大な量と質で圧縮された魔力球が次第に大きくなり、同様に環状魔法陣が魔力球を囲うように展開する。

 

 目標は、ユーノとアルフのチェーンバインド、ドゥームのサイコキネシスとカンダタストリング、そして志蓮の天の鎖(エルキドゥ)によって四肢は完全に拘束され、動け無い状態だ。

 

「その糸は、神にしか切れない!」

「そして、その鎖は神を封じ込めるものだ! 頑張れ、エルキドゥ!」

「あれ? 俺何もして無くね?」

 

 最大まで高まりつつある桃色の魔力球。

 

「――ブレイクシュゥゥウウウウウトオオオオオオオオッッ!!」

 

 なのはが放った下方からの砲撃、そして上空からは空間を超えて、フェイトの斬撃らしきものが動け無い目標へと直撃をする。

 

「――あっ!? フェイト!」

 

 空を見ると、闇の書から脱出をしたフェイトの姿が、そこにあった。

 

 

 

「新名称――リインフォース、認識。管理者権限の使用が可能になります。ですが、防御プログラムの暴走は止まりません。管理から外された膨大な力が、じき暴れ出します」

「うん。まあ、何とかしよう」

 

 管制人格改め、リインフォースは主である八神はやてへと現状を報告する。

 

 取り敢えずとは言えるが、問題が解消された訳でも、無くなった訳でも無い。

 

 何とかしよう。そう言葉にするしかない程度のものだ。

 

 きっと2人なら、この場に居る皆で力を合わせれば何とかなる。そう思えるのだから不思議なものだ。

 

「行こか、リインフォース」

「はい、我が主」

 

 闇の書――暴走プログラムである闇の書の闇を分離させた事で闇から夜天へとその機能を取り戻した魔道書を抱き、告げるはやて。

 

 

 

《皆、気を付けて! 闇の書の反応、まだ消えて無いよ!》

《さて、ここからが本番よ。クロノ、準備は良い?》

『はい、もう現場に着きます』

《アルカンシェル……使わずに、済めば良いけど……》




まだもう少し掛かるかな……。

あと少しで、A's編は終了だが……予定ではまだ数話程残っている。

速く終わらせられるようにして、次の章の話を考えたい。
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