「漸くお出ましですか、サイヤ人……いや、転生者」
「セーフ……と言えるような状況じゃあ無いな。生きてるか? ええっと……」
振り下ろされた鉄鼠の拳を掴み、ヤハウェへの攻撃を防ぐ事に成功する。
ヤハウェはというと、顔と唇の色は真っ青と言えるレベルであり、胸が上下する速さも尋常なものでは無い。
最早死に体、瀕死とでも言えるような状態だ。
肺と喉などがやられているのか、コヒューといったような空気の抜けていく音が聞こえないでもない。
だが、流石は神様と言うべきなのだろう。
ヤハウェの身体に出来ていた傷の全ては一瞬で塞がり、顔と唇の色は元の健康的なものに。
呼吸をする速さも、健康なヒトと大して変わらないものになる。
「好きに呼んでくれて構わない、ブロン」
「じゃあ、えっと……ヤハウェ?」
こちらの呼び掛けに、ニコリと笑顔を浮かべて応えてくれるヤハウェ。
だが、直ぐに彼の表情は暗いものに変わる。
「すまない……どうやら俺では、私では鉄鼠に勝つ事も、止める事も出来そうにない。界王神様のところから見ていたのだろう?」
「ああ……」
界王神界でシェンと共に居た俺は水晶からなのは達が奮闘している様子を、そしてヤハウェと鉄鼠の戦闘も観ていた。
アリサとすずかの2人が巻き込まれ、今はアースラにおり、保護されている事。
はやてが覚醒し、募集されて消えてしまった
そして、ゾイルが戦闘不能の状態になっているという事も理解している。
地球の1神である天照やオーディンも、単体の状態であってもかなりの力を感じさせていた。
そして、全ての神が1人に戻った事で、桁違いの力となった。取り戻したのだ。
だが、そんなヤハウェでも鉄鼠には勝てないでいる。
正しくは、闇の書の闇を吸収した鉄鼠に、だが。
古代ベルカで造り出された夜天の書は、主を変える度に改変を受け続けた。
その改変時に発生したエラーが積もり積もってバグとなり、夜天の書は闇の書になってしまったらしい。
闇の書は、無数の魔導師や他の生命の持つリンカーコアから魔力を募集し、力を暴走させて来た。
その力は、闇の書が居るその次元世界そのものを崩壊させて来たのだ。
その力の原因は、十中八九転生者の存在によるものだろう。
何らかの方法で転生者の持つリンカーコアが募集され、その次元世界が耐えれられ無い程の力を何度と無く暴発して来たのだ。
そんな力を持っている鉄鼠に、どのようにして勝てば良いのだろうか。
「(ハッキリ言って絶望的、だよな……)」
目の前に居る鉄鼠は、動かないでいるこちらの様子を見ているだけだ。
そうであっても、鉄鼠からは常に膨大な魔力と気が放たれており、月面上の空間を歪め掛けている。
「ブロン……逃げるんだ」
「え?」
「アースラで、皆を連れて逃げるんだ……正直、恥ずかしくも申し訳無さもあるが、この際、そんなのはもう意味を持たない。彼奴は桁違いだ。勝てる訳が無い。だから――」
「――だから逃げろ、と。だが、断る……ってね」
この太陽系で生命が住んでいる星はこの地球だけだ。
その地球で、神様をしているヤハウェにも相当な実力がある。
そのヤハウェが弱気になっているのが見ていられなかった。
放ってはおけなかった。
「正直に言うと、俺もブルって来てるんだよなあ……かなりの実力差だろ? でもさあ、皆が、なのは達が頑張ってるんだ。俺も動かねえとなあ」
「ですが」
「世界を救うだなんて、御大層なセリフや目標なんていうのはねえ……でも、さ……泣きそうになってる奴とか、頑張ってる奴を放っておける訳が無いよな?」
真っ直ぐに鉄鼠を睨み付け、変身魔法を使用して20代前半同様の姿となってゆっくりと歩を進ませる。
「別れの話は……遺言は残せたか? 転生者ぁ?」
「ああ。話は済ませた……後はお前を」
正直に言ってしまうと脚も内心もガクガクと、ブルブルと震えている。
恐怖を感じているからだろう。
目の前に居る奴は、今まで何度も何度も銀河系どころでは無く、世界そのものを破壊し続けて来た存在の力を持っているのだから。
恐怖を感じていない方がどうかしているかもしれない。
だが、やはりと言うか何と言うのだろうか。
闘志も湧き上がっているような気がしてならなかった。
戦闘民族であるサイヤ人の血が沸々と湧き上がり、ワクワクしているのだ。
「俺を倒す気か?」
「――違う。お前を殺す気だ」
鉄鼠の言葉を一蹴し、それ以上の言葉を投げ返す。
気を悪くしたのか、鉄鼠の表情は歪む。
「面白い冗談だ。お前も……いや、俺達と同じ外道の者が冗談を言うなんてなあ……いや、だからこそか……」
「同じ外道だと?」
「そうだろ?」
鉄鼠が言ったその言葉に、今度はこちらの表情が大きく歪んでしまう。
外道と言ったのだ、此奴は。
何故、どういった理由から、どういった観点で、どういった思考で外道だと言ってのけたのか。
「確か、本来は仏教用語で、悟りを得る内道に対する言葉だったか……だが、今では道に外れた人全般をも意味するようじゃないか」
「それが、どうした……」
鉄鼠が口を開く度に、汗が出て、流れ始める。
心臓の鼓動数が倍以上に多くなり、速くなっていくかのように感じられる。
「お前達転生者は、前世だったか……今のお前達になる前に、脛齧りだったらしいじゃないか?」
「…………」
「親などの家族、親族に大きな負担を掛けて生き続ける毎日。さぞや、食事も旨く感じたのだろうなあ」
喉がカラカラと乾き始める。水分を求め、口内で発生した唾をゴクリと飲み込む。
息が苦しくなり始め、肩を上下に揺らして呼吸が大きく乱れる。
流れている血液が、冷たい水のように思えてくる。
「社会人や文明人などの枠組みや道から外れているのだ……これを外道と呼んで、他に何を外道と呼ぶんだ?」
視界が一瞬、暗転をする。
倒れ掛かけてしまうその身体を、誰かが受け止めてくれる。
「落ち着け、ブロン……奴の言葉に耳を傾けるな。必要以上に、自身を追い込む事になってしまうぞ」
「……ぅぁ……あ……」
何時の間にか近くに来ていたヤハウェに、身体を支えて貰う。
乱れた呼吸を必死に戻そうと、努力をし、目の前の鉄鼠を睨み付ける。
「おおッ! 恐い、怖い! そんなに睨み付けないでくれ。でないと……無性に殺したくなる……今直ぐ殺してしまうかもしれない」
場の空気が一変をする。
身体が鉛のように重く、胃や腸、口には高温で溶かされた液状の鉄が流し込まれたかのように、強烈な痛みに似た熱を感じる。
いや、熱を通り越して、冷たいという感じだろうか。
上手く言葉に出来無い。
「まあ、最初からゆっくりと嬲り殺してやるつもりなんですがね」
冗談を言ってみせたかのように、クツクツと笑う鉄鼠。
呼吸を整え終えた俺は、手を貸してくれたヤハウェに礼を言うと同時に、拳をつくり、握り締める。
「では、始めましょうか? こちらには、闇の書の募集機能も残っているんです。貴方を瀕死にして、そこからリンカーコアを抜き取りましょうか」
「出来ると思うか?」
「出来ますとも……先程の事を思い返して御覧なさい……貴方達転生者は皆、精神が未熟というか、子供というか……精神攻撃に弱いですからねえ」
腹を動かして嗤う鉄鼠に、思わず怒りを込めた視線を向ける。
そんな視線を感じてもいないといったふうに、鉄鼠はニヤリと目を細めた。
「そちらから、どうぞ?」
その言葉を聞くと同時に、俺は鉄鼠を殴り飛ばす。
飛んでいく鉄鼠を追い掛ける事はせず、ボロボロになったショドウフォンで火の文字を書く。
「参る……」
腰に下げているシンケンマルを手にして、ベルト内部に収めている秘伝ディスクを装填する。
鉄鼠へと向かって斬り掛かる。
一つ目の太刀は最速なる風の如く稲光よりも速く、二つ目の太刀は林の如く無の境地で振り翳す。
「火炎の舞!」
鍔として装填している秘伝ディスクを廻す事で火のモヂカラが解放され、刀身が炎を纏う。
三つ目の太刀は、今にも世界を滅ぼさんとしている鉄鼠へと向けた永久に消えぬ烈火の如く怒りの焔を込めて
四つ目の太刀は、雄山の如く心を落ち着かせた上で強く振り下ろす。
シンケンマルに鍔として装填している秘伝ディスクを廻して、烈火大斬刀へと変える。
刀モードの烈火大斬刀に双ディスクを装填し、廻す。
「烈火大斬刀……」
自身の倍もの大きさを誇る烈火大斬刀を2振り――二刀流として持ち、構える。
「ほう……シンケンレッドですか」
「行くぞっ」
螺旋を描くように身体を回転させ、その勢いを利用し、烈火大斬刀で鉄鼠に斬り付ける。
鉄鼠の身体にある鉄とぶつかり合い、大きく火花とスパークを周囲に散らす。
空いている両腕で、鉄鼠はこちらを掴みに掛かろうとする。
「――ンガッ!?」
が、2振りの烈火大斬刀を地面に突き立て、両足で鉄鼠の顎を強く蹴る。
蹴り上げられた鉄鼠は、空中で姿勢を整え、こちらへと鉄の針を飛ばし始める。
「――無駄だ」
烈火大斬刀を盾にして、飛んで来る無数の鉄針を防ぐ。
烈火大斬刀の大きさは身体の倍以上もあるので、完全に防ぐ事が出来た。
だが、上に持ち上げている為に、視界が塞がってしまう。
「隙ありっ!」
視界が塞がっている事を隙だと判断したのか、鉄鼠は光速で背後を取ろうと移動をして来る。
だが、放ち続けられている膨大な
避けた鉄鼠が、身体を上下に回転させて、足にある鋭い鉄で斬り掛かる。
「――っちぃ!」
烈火大斬刀を、もう一度盾にして防ぐ。
勢い良く叩き付けられた鉄鼠の鉄足と、烈火大斬刀がぶつかり合い、月面が大きく沈み削れる。
沈むと同時に、クレーターが出来上がり、そこに大きなヒビが入り始める。
「――おらああっ!」
力任せに烈火大斬刀を動かし、鉄鼠を振り払う。
離れた場所で着地をした鉄鼠は、余裕の笑みでこちらを観ている。
「くそったれ……やっぱ自分が
変身を解除すると同時に、手にしたショドウフォンで気の文字を書く。
書かれた気の文字は、身体に吸い込まれていき、気のモヂカラが隅々に広がっていく。
「――はあ、あああああああああああーーーっっ!!」
自身の中の気を解放し、高める。
身体の周りに白く透明なオーラが展開され、空気が張り詰める。
「おやまあ……シンケンレッドでの戦いは、もう終わりですか」
「ああ。俺にはこっちの方が向いている。いや、こっちの方が好きだからな」
言葉を交わしたその刹那、相対的に重なる幾つもの光が炸裂する。
一瞬で、ヤハウェの前から両者の姿が消え失せる。
「……み、見えん。この神の目にも……彼奴はまだ、本気じゃ無かったというのか」
拳と拳のぶつかり合う衝撃が、戦っている事を彼に教えて来るだけだ。
握り締めた拳同士がぶつかり合う度に、身体の中に激しく強い電流が疾走り抜けるような感覚に襲われ、顔を顰めてしまう。
生まれる衝撃波が月と地球を削り取っていく。
高速だった戦闘が亜音速に。亜音速から音速。亜光速から光速へと次第にエスカレートしていく。
放たれる攻撃の1つ1つも、スピードが増していく度にその速さが上乗せされて、威力は途方も無いレベルになっていく。
「なかなかやるじゃないですか……転生者」
「俺もそうだが、お前も借り物の力でよくここ迄やれるもんだな、って思えるぜ」
口元に付いている血を、拳で拭き取る鉄鼠。
俺は呼吸を整えると同時に、出来たばかりの擦り傷と掠り傷を波紋の呼吸の副次効果を使い塞いでいく。
「気付いているか? 転生者ぁ? 地球や月から離れている事に……」
「――何!?」
鉄鼠の言葉を聞いて周囲を見渡してみると、月からかなり離れた場所に居る事に気付く。
どうやら、戦いながら移動をし、それに気付かない侭続けていたようだ。
青い筈の地球は、三途の川の水の影響でその殆どが紅く染まり始めていた。
「見てみろ。地球が赤くなっていくぞ。早く俺を倒さないと、地球は、俺達外道衆のものになる……ふふっ」
地球に三途の川の水が溢れ出るように仕向けているのは、目の前で嗤っている鉄鼠本人だ。
闇の書の闇の力を得た事で、増強されたその力を振るって、水かさを増加させ続けている。
「参ったな。このままじゃ、何時まで経っても、勝てやしない。時間切れになっちまう」
地球ではなのはが、フェイトが、はやてが、皆が頑張ってくれている。
が、ナナシ連中達を倒しているだけじゃ焼け石に水を掛けているだけのようなもの。
と言うよりも、全くの無意味であり無駄だと言えるだろう。
何とかしようと思ったら、目の前の鉄鼠を倒す他無いのだ。
「俺は、宇宙空間でも活動が出来るようになった……だがお前はどうだ? 数十分も経てば、呼吸を停止してしまうんじゃあないのか?」
「(このバリアジャケットを展開している限りは、そんな心配は無いんだ)……余計なお世話だ」
道着のかたちをしたバリアジャケットを着ている自分の胸を軽く叩いてみせる。
バリアジャケットは魔力によって作成された強化服であり、魔法攻撃や衝撃や温度変化などから守ってくれる
そういった機能が働き、過酷な環境である宇宙空間でも活動出来るように調整してくれているのだ。
魔力で構成されているのだから、自身の
つまり、それまでに決着を着ければ良いという話。
「はああああああああああああああああっっ!!」
高めた気を昇華させていく。
真っ暗だった宇宙空間の一点だけが、太陽の陽光が射し込んで来ない暗闇であるこの月の裏側から離れた場所に、光が発生する。
髪の毛が金色に変色して逆立ち、目の色は碧色になる。
身体の周囲には、青白い電撃が迸っている。
「超サイヤ人だったか……力は大して変わら無いんですね。そんな程度のパワーでは話になりませんよ」
「(潜在能力の解放をして貰ったけど……あれだけじゃ足り無いしな。使わないって決めた筈なのに、また頼っちまったよ)……」
界王神による潜在能力の解放は本来、それだけで超サイヤ人への変身以上の力を得る事が出来る。
そして、超サイヤ人と同じように変身しているのと同じように力を解放しているのだ。
潜在能力を開放している状態で、超サイヤ人には変身出来無い。
だが、創り出したスキルの効果で、潜在能力を解放した状態から更に超サイヤ人へ変身出来るようにした。
潜在能力を解放する事で得られる力の倍率はよくは判らないが、通常時の4万倍くらいだろうか。
超サイヤ人2に変身をすると通常時の100倍の戦闘力を得る事が出来る。
つまり、通常時の400万倍の戦闘力を得ている事になる。
かなり戦闘力が上昇した筈だ。
「(でも……これでも足り無いのか……鉄鼠の言葉を信じるなら、まだ……)」
鉄鼠の言った通りなのか、鉄鼠から放たれている気と魔力は今の俺では勝てないと思える程に強力なものだ。
思わず握った拳に、必要以上の力を込めてしまう。
爪が食い込み、血が流れ出る。
流れ出た血液が球形になり、浮遊、移動していく。
「これでも足り無いと言ったな? 話にならないって……ならこれはどうだ? 真・四身の拳っ、超界王拳200倍だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
3人の分身を創り出し、4人共が超界王拳を発動する。
赤いオーラが身体に纏い付き、身体中の筋肉が大きく膨れ上がり、血管が浮き出る。
「なかなかどうして、上昇したじゃないですか……」
4に同時に、光速で移動をして鉄鼠へと向かって行く。
1人は、真正面から。
1人は、左側から。
1人は、右側から。
1人は、背後に。
4方向からほぼ同時に殴り掛かる。
「――ですが、まだ足りませんね……」
全ての拳や脚による攻撃を、ヒラリヒラリと躱し続ける鉄鼠。
突き出していた拳や脚は虚しく空を穿ち、切り裂いていく。
鉄鼠は表情を1つも変える事無く、俺の放ったその拳全てに拳をぶつけ返してくる。
そして鉄鼠は、気合砲に似た攻撃で4人の俺を吹き飛ばした。
「そして、忘れてませんか?」
一瞬で、分身の俺の1人に下から上へと向けて現れる鉄鼠。
鉄鼠は、分身の俺の腹に拳を喰らわせ、回し蹴りをしてみせた。
「ここでの戦闘をするなら、全方向に気を配らないと……敵である貴方に忠告をするなんて、俺も甘くなったなあ」
「「――ぐはっ!?」」
蹴り飛ばされた分身体はもう一体の分身体に勢い良く激突をして、口から血を吐き出してしまう。
3人の分身体が消え失せ、再びオリジナルである俺1人になる。
それと同時に超サイヤ人2状態と変身魔法が解けて、聖王としての姿を現してしまった。
「……はぁ……はぁはぁ……はぁ……っ……ぅう……」
身体中が「これ以上は無理だ」と、「止めてくれ」といったふうに悲鳴を上げている。
当然だろう。
身体に負担を掛ける超サイヤ人2と界王拳を両方同時に使ったのだから。しかも、界王拳の方は200倍だ。
戦闘力の差に愕然とする余裕も無く、ただただ力無く笑う事しか出来そうにない。
新しいスキルを創り出せば良いのだろうが、それだけの気力が湧いて来ない。
ハッキリと言うと、諦めかけているのだ。
「そろそろ地球も、我々外道衆のものになってしまいますよ……良いんですか?」
「ぐっ……」
ここからでは、地球の様子を目にする事は出来無い。
だが、地上に居る皆が必死に抵抗をしている事だけは理解出来た。
なのは達全員の気と魔力が動いているのが感じ取れた。
「っ……だ……」
「おや? まだやりますか?」
身体は動く。
ピクリとも動か無いのであれば兎も角、まだ力を込める事が出来、動かす事が出来る。
目を閉じれば、必死に戦っている皆の様子がイメージとして頭の中に浮かび上がって来る。
モヂカラの込めたカートリッジを使い果たしながらも、自身の魔力と気でナナシ連中を吹き飛ばしていくなのはとフェイト、雄介、志蓮、ドゥーム、クロノ。
覚醒めたばかりで慣れていない筈なのに、それでも明日の為に、家族の為に戦っているはやて。
そんなはやてを護りながら、戦っているヴォルケンリッターと竜人。
彼等をサポートしながら、戦っているユーノとアルフ。
壊れてしまうのではと思える程に揺れ続け、ALERTが鳴るアースラの中で必死に祈り、応援をしているリンディ、エイミィ、アリサ、すずか、局員達。
そして、神としてのプライドをかなぐり捨て、今にも泣き出しそうな顔で、逃げるように言ったヤハウェの顔が浮かび上がる。
「へへっ……1人で戦ってる訳じゃないんだ……1人で……闘っている訳じゃ」
身体が悲鳴を上げて動か無いのであれば、波紋の呼吸によって生まれるエネルギーで痛みを和らげて、気と魔力で操作すれば良い。
気と魔力が足り無いのであれば、明日の分を捻り出せば良い。
それでも足りなければ、明後日、明々後日の分。
そのつもりで動けば良い。
寿命が縮まろうがどうという事は無いだろう。
前世で動けなかった分を今動かなく、ていつ動くというのだろうか。
「――ぐっ……ぐぐっ……」
気と魔力を身体の隅々に行き渡らせ、無理矢理操縦の真似事をする。
今の俺の動きはきっと、切れかけた糸に引かれて動く操り人形のようだろう。
「ぐがっ……がががっ……ぎぃ……」
サイヤ人という特典を望んでいた時から、選んだ時から……サイヤ人として転生を済ませた時からこうなる事は理解っていたのかもしれない。
身体を無理矢理動かす度に、喉元を上がって口から血が出ようとする。
重力下であれば喉元で溜まって呼吸困難になっていただろうが、無重力である為にそうなる事は無い。
あるのは、ただの違和感と痛み、気味の悪さに加えた苦い鉄の味だけだ。
「はああ……はあ……」
「頑張りますね。諦めたらどうです?」
諦める。
その言葉を聞いて、ピクリと反応をしてしまう。
前世で何度と無く繰り返して来た行為であり、自分自身を象徴するかのような言葉だ。
そうだ、鉄鼠の言う通りだ。
諦めてしまえば良いのだろう。
地球を護る事を止めて。友達を護る事を止めて。泣き出しそうな顔をしていた人物を放置して。
足掻く事を止めて。生きる事を止めて。
全てを諦める。そうすればどれだけ楽になるのだろうか。
「出来る、訳……ねえ、だろ……2度目のチャンスなんだ……2回目の人生なんだ……また転生のチャンスがあるなんて思って諦めたら、次もきっと……いや、絶対に諦める事になる。繰り返しちまう事になるかもしれねえんだよ」
血反吐を吐きながらも、自然と身体と口が動き続けている。
身体を起こすと同時に、握った拳を鉄鼠へと向ける。
超サイヤ人への変身が解けている今、真っ暗なこの空間では判らないだろう。
だが、鉄鼠が発している魔力と気を頼りに居るであろうと思える場所へと向かって、真っ直ぐに拳を向ける。
「それだけはやっちゃいけねえ……駄目なんだ……胸を張って、笑顔で顔向け出来ねえからさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!」
体内の奥底で静かに蠢いていた気が――溜まっていた気が一気に爆発をする。
その気の爆発に影響を受けたのか太陽のコロナが、紅炎の動きが大きく乱れる。
地球の大地が大きく揺れ動き、隆起や沈降を繰り返す。海面が激しく揺らぎ、大津波が発生する。大気の流れが大きく変動し、雲などが瞬間的に逆向きに流れる。
太陽系に存在する全ての星に大きく影響を与え、乱れさせる。
衛星軌道上で揺れ動いていたアースラでも、その変化は感知していた。
「――な、何が起きてるの?」
「理解りません! ただこのままだと、次元断層が起こってしまう可能性がっ! ――きゃああっ!?」
リンディの叫びに似た状況確認に、エイミィも答えようとはするが、理解る筈も無く、その場にあるものに必死にしがみつく。
けたたましくALERTが鳴り続け、計器類が小規模ではあるが爆発を起こす。
「判っている事は、月の裏側で起きているものが、この事態の原因としかっ!」
「もう! 何が何なのよおおっ!!」
「…………」
アリサは自身の理解の外にある状況に対してただ叫び、皆の無事を神に祈る。
激しく揺れ続けている艦体の中ですずかはしっかりと立ち、祈るようにして静かにモニターを見続けている。
艦体が軋む中で、アースラ内の医務室で眠り続けていたゾイルの目が開かれる。
「こ、これは……!?」
ナナシ連中達を吹き飛ばすと同時に、月の裏側で消え掛かっていた筈の見知った気と魔力が、今度は逆に爆発的に膨れ上がるのを感じ取るクロノ。
紅い色をした海面は揺れ、津波を起こす。
「地球全体が震えているようだ……一体、月の裏側で何が起こっているんだ?」
揺れ続けているのは、何もアースラや地球だけでは無い。
この次元世界そのものが揺れていると言っても良いだろう。
閻魔界でも、界王界でも。そして、界王神界でも。
「流石です、ブロンさん。この界王神界にまで、エナジーを届かせるなんて。いえ、他の人達のエナジーも届いてはいたのですが、ここまででは無かったですね……」
界王神界では、大きな揺れは起きていないが、それでも空気の流れなどは少し変わってしまっていた。
シェンの手にしている水晶には、ブロンと鉄鼠による戦闘の様子が映し出されている。
「ですが、このままでは……戦場をここに変える必要があるかもしれませんね」
地球の衛星である月の裏側で、金色の光が激しく明滅を繰り返している。
ブロンから放出されている気は、暴力的なまでの気の嵐となり、鉄鼠を吹き飛ばそうとする。
「一体、何なんだ!? これも、転生者としての力なのか? だとしたら」
驚きを隠せないでいる鉄鼠の身体に傷を付けていく気の嵐。
金色の髪は光り輝きだし、そのままの状態で徐々に伸び始める。
眉毛が消失し、眼窩上隆起が起き始める。
瞳も翠色へと再び変色する。
「――がああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」
「――あっ! ああっ!?」
ブロンは、変身を完了させると同時に、鉄鼠を、その翠の瞳で強く睨み付ける。
その目付きは、以前のものと比べて更に鋭くなっており、抜身の刃とでも言えるだろう。
「お、驚きましたよ……まさか、ここまで変わるなんて」
「そうだな。俺自身もかなり驚いてるぜ」
相変わらず、身体は大きな声で「もう止めてくれ」と悲鳴を上げ続けている。
だが、身体の内から不思議な位に力が湧き上がって来ている。
「(どうやら、シェンにして貰った潜在能力解放は、完全にものに出来たみたいだな……その上で超サイヤ人3になれてるみたいだ)」
試しに、掌に気弾をつくり出して、鉄鼠へと向けて発射をする。
先程までとは比べられない程の速さで向かい命中をした。
「――この、糞猿があああああっ!!」
「おっと」
光の速度を超えた拳が飛んで来るが、それを難無く受け止める事に成功する。
止められた事に気付くと同時に、鉄鼠は距離を取り、魔力と気を混合させたエネルギー弾を発射して来る。
身体を少し撚るだけで、回避を成功させてしまった。
「……!?」
「来いよ」
それに対して驚く鉄鼠を前に、思わず挑発をしてしまった。
悪い癖だという事は理解しているが、なかなかどうしてやってしまう。
サイヤ人の本能に根付いているのだろうかと思わせる程だ。
まあ、してしまった事はしてしまった事だ。
気を取り直して、鉄鼠へと視線を向ける。
その瞬間に、鉄鼠から先程と同様の技ではあるが連続で、先程のそれよりも速いものを発射して来る。
「――よ、避けた、だと……!? そんな筈は……」
「当ててみろよ」
もう一度、力を込めたエネルギー弾を発射して来る鉄鼠。
それが大した脅威と感じる事が出来ず、直撃コースであるにも関わらず、じっとして待ち構える。
「…………」
「――なぁ……あっ……!?」
微動だにしなかった事もあって額に受けはしたが、予想通り大きなダメージにはなら無かった。
と言うよりも、全く痛く無かった。
「世界は壊せても、たった1人の人間は壊せないようだな……」
「ふ、ふんっ……貴様の精神が脆弱である事に変わりは無いんだ。そして、俺はまだ、マックスパワーを出しちゃいない……今までは、ほんの3割程度でしか無いんだからな」
「例えそうであっても、俺は貴様を倒す。それだけだ」
握った拳を振り翳し、鉄鼠を殴り飛ばす。
「――うがぁ!?」
飛ばされた鉄鼠の身体は、かなりの速度を保ちながら飛び続け、月の表側へと、地球へと向かって飛んで行く。
「まだ、終わりじゃ無い!」
両手を1つの拳として握り締め、その拳で地球に向けて叩き付ける。
大気圏を突入しながら、鉄鼠の身体は堕ちて行く。
加熱されながら堕ちて行く鉄鼠は必死に体勢を整えようとするが、速さとダメージが原因なのか、そのまま大地に激突をする。
俺は上昇して落ちる速度に我が身を任せて、鉄鼠を追いかけるように大気圏を突破する。
「理解っているぞ! この程度では消滅もしないし、気も失わない筈だ! さっさと起きたらどうだ!?」
「――ハハハハハハッッ!!」
「――な、何!?」
倒れている鉄鼠の元へと移動を完了させ、起き上がるように口を開くと突然、鉄鼠が嗤い出す。
「馬鹿めっ! 三途の川の水がある場所へ落としやがったな! お陰様で、力が回復したわ!」
「――し、しまったあ!」
「身体が変質した所為で、三途の川で回復が出来なくなっているかと思っていましたが……そんな事は無かったようですね」
鉄鼠の身体からは、最初の頃よりもより大きな気と魔力が放たれ始める。
その暴大な力の大きさに反応をしたのか空が裂け、そこから7色の光を放つ空間が見え始める。
「――く、空間が!?」
「あ、ああ……異空間が顔を出したのか。全く、焦りすぎだ」
驚き焦る俺に対して、鉄鼠はとても落ち着いている。
鉄鼠が放ち続けていたエネルギーを抑えると同時に、異空間に繋がる裂け目が閉じていく。
あのまま異空間が顔を出し続けて空に入っていた亀裂が広がっていったら、世界は崩壊していただろう。
「さて、と……続きを始めようじゃないか、転生者」
「――くっ……」
あ、これ……間に合わないパターンだわ。
自分で決めた期日に終わらせられそうにないわ。
ま、出来得る限りで投稿しようか。