月の光が差し込む静かな校庭に6つの影が存在している。その中の4つは人の形をしている。1つは4足の小さな動物。そして最後の1つは今にも消えようとしていた。
【Stand by ready】
「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアルⅩⅩ…封印っ!!」
【Sealing】
その言葉とともに杖から放たれた封印魔法による光が校庭に存在していたジュエルシードの思念体を包み込んでいく。
その光は月明かりよりも明るく、校舎にある窓ガラス1つ1つを一瞬だけだが綺麗に照らした。
封印作業を終えたレイジングハートから封印時に使用した魔力により溜まったその熱が排気される。
その熱の量はあまりにも膨大な為に蒸気となり、一時的に周囲に漂い、そして曇らせた。
その煙が晴れるとそこには魔力の大量使用により息を切らしているなのはの姿があった。
「なのは、お疲れ様」
ユーノのその労いの言葉とほぼ同時に、封印されたジュエルシードが空からレイジングハートへと、なのはの方へと落ちてくる。
そのジュエルシードには大きく黒い字でⅩⅩと表示されていた。
「大丈夫、なのは?」
未だにSealing modeの状態のレイジングハートを引き摺りながら帰路へと、ヨロヨロと歩くなのはに対してユーノは声をかける。
彼女は相棒であるレイジングハートをあろうことか杖代わりにしていた。
「大丈夫なんだけど、ちょっと疲れた……」
ユーノの言葉に応えると同時にバタッという感じで力無くアスファルトの上に倒れるなのは。
やはりと言うか当然というべきなのだろうか使い始めたばかりの魔法で、大量の魔力を消費したのだ。疲労で動けなくなってしまうのは仕方がないことだろう。慣れない事をすべきでは無い。
「ヤムチャしやがって…」
そんな雄介のセリフはただ聞いただけでは単なるネタだと感じられるがしっかりと聴いてみるとなのはを心配している事が理解出来る。彼の着ている服はボロボロになっており、ジュエルシードの暴走体との戦闘がどれだけ壮絶だったのか暗に物語っていた。
「やはり俺がしっかりしないと……」
志蓮の方はというとなのはの様子を見て自分に言い聞かせる様にそっと呟いている。その目は決意に満ちていて、何か強いものが感じられる。そんな彼の服もまた、雄介のものと同様にボロボロになっている。
「やれやれだぜ……」
そんな俺の言葉は静かな夜空に吸い込まれるように消えていった。
翌朝の5時。
起きる人は起きているだろうが、基本的に大抵の人が未だに布団の中で夢を見ている時間帯だ。
それ程寝てはいない筈なのだが、目はパッチリと覚めてしまいこれ以上寝る事は出来ないだろう。仕方無く起きる事にした。
起きたからといって特に変わった事は1つも無く、俺はいつもの習慣通りに地下で修行をしていた。
「10009……10010……10011……」
片腕での腕立て伏せをしている。最初の頃は全く出来なかったがコツさえ掴めば簡単に、あっという間に出来る様になった。
額にはかなりの量の汗が流れており、身体の下には流れ落ちた汗で水溜まりが出来ている。
動かしている身体から発せられる熱の所為なのか、汗で出来た水溜まりから蒸気が発生して周囲が蜃気楼の様に揺らいで見える。
それと同時に、汗の水溜りが熱せられている為に異様な臭いが立ち込めてしまっていた。
「……20000……。ふうぃ~疲れた……」
予め決めていた回数に達したので終了する。
腕に付けられているデバイスには100000と表示されている。この数字は自身に対して通常の10万倍の重力を加算し、加えている事を表しているのだ。
それは身体に当然ながら強い負担を掛けてくる。
片腕に自身の体重全てが集まるのだから、その支柱となっている腕がとてつもなく痛い。右腕から左腕へと変えたりと繰り返しながらそれぞれ2万回ずつ、合計で4万回もの腕立て伏せをする。
その結果、大きな重力と回数の影響か腕はパンパンであり、かなりの痛みを感じる。
「やっぱ、しんどいな……」
その声にはかなり大きな疲労が感じられるが顔の方は達成感を感じていますというぐらいに輝き、満ち溢れていた。
「さて……あれ?」
浴場にてシャワーを浴びようとした時にふと思いついた。思い出したと言った方が良いだろうか。
――どうして自分はこんなにも頑張っているのだろうか。
前世では何をするでもなく、何かをするでもなく、何かをしようとも、行おうともせずにダラダラと日々を過ごしていたのだ。変わらない事を望み、意味のない現状を無理やり維持して親の、家族や親族に失望を与えて、買っていた。
そんな同仕様も無かった自分が目標を立て、その目標に向かって汗水を流しながら叶うかどうかも分からないのに必死に努力をしている。
「ふむ……」
サイヤ人の血の所為か、それとも環境が変化した所為か。
自分の事である筈なのに、自分の事だからこそなのだろうか。それが全く理解する事が出来ないのだ。
「考えてると何だか気力が抜けてきたな……」
前世での沢山の失敗を思い出した所為か、自身を責め立て、また無気力になりかけてしまう。
どうでも良いと、したくないと、頑張ってどうなるんだと、どうせ無駄なんだと。否定的な考えが、ネガティブな気持ちが頭のなかに居座り渦巻いていく。
「駄目だ駄目だ…考えるのは止めた。それよりも飯だ、腹減って力出ねぇし」
その考えを、嫌な思い出から逃げる様に振り払い、払い落とす様にタオルでしっかりと入念に、汗の流れているその身体を強く拭いていく。
「修行した後の御飯は実に美味いな」
簡単に調理した朝御飯を食べながら夜中の事を思い出していく。
「(確実にアニメで観たモノよりも戦闘力は上だ。見ただけでも分かる…スピードもパワーも遥かに超えている。修行してなかったら一瞬で殺されていただろうな……)」
ジュエルシードの思念体はアニメで観た限りでは魔法と出会ったばかりのなのはだけでも対処は出来ていた。
だが、この世界の思念体との戦闘はなのは、雄介と志蓮の転生者2人を含めた3人でも苦戦する時は苦戦するのだ。
実際に夜中の戦闘時に思念体はかなりのスピードで動き、3人は翻弄されていた。
この強さの理由は何だろうか。
偶々なのか。それとも俺たち転生者というモノが存在していることによる弊害――副作用。イレギュラー要素なのだろうか。
「考えても仕方が無い事だけどな……」
意味が無いという事を理解しているが、その疑問は皆と会うまでの間、頭の中を螺旋階段を永遠と登っていく様にグルグルと回り続けていた。
川岸。
其処では少年サッカーの試合が行われていた。
元気良く声を出しながらボールを蹴り、それを妨害したりする少年たち。
それに対し彼等を応援する少女たちの声もまた元気に溢れより一層場を盛り上げていた。
「頑張れ、頑張れ」
「みんな頑張ってー」
『これってこっちの世界のスポーツなんだよね』
『うん、そうだよ。サッカーて言うの。ボールを足で蹴って相手のゴールに入れたら1点。手を使って良いのはゴールの前にいる1人だけ』
『面白そうだね』
なのはの説明を聞きながら目の前で繰り広げられている試合を興味津々といった感じで見つめているユーノ。
なのははマルチタスクによる分割思考に大分慣れたのか意識を逸らす事無くしっかりと説明をしながら試合を観戦している。
その為、最初の頃は周りに不審に思われていたが今ではそんな素振りを見せる事も無く身体を動かし、目の前にあるものを消化していきながら別のものに対して思考するという事も簡単に出来る様になった。
『ユーノ君の世界にはこういうスポーツってあるの?』
『あるよ。僕は研究と発掘ばかりであまりやってなかったけど』
スポーツというものの知識は持っているがそれだけで、実際はした事が無いからだろうか。ユーノは喰い付く様にして目を向けている。
『にゃはは……私と一緒だ。スポーツはちょっと苦手』
「試合終了です。2対1で翠屋JFCの勝利」
ピーッと鳴るホイッスルとともに、なのはの父親である“高町士郎”さんがオーナー兼コーチをしているチームの勝利が告げられる。
「よーし。みんなよく頑張った。良い出来だったぞ、練習通りだ。じゃ、勝ったお祝いに飯でも食うか」
その士郎さんの言葉にメンバー全員が元気良く手を上げて喜ぶ。
身体を思いきり動かした後、ましてや勝利した後の食事はとても美味しく感じられるものだ。その喜びは俺にも共感し理解することができる。
前世では体力が無く、走っていると5分も経過していないのに目眩が、息切れが起きていたのだ。
その為、身体を動かすことは今と比べて真逆と言って良いくらいに嫌いで、体力を増やす為に運動する気力も起きず、ひたすら家の中でゲームをしていた。
だが、今世では転生特典の御かげでもあるのか身体を動かすことが苦に感じることが無く、それどころかゲームや漫画と同じくらいに好きな部類に入っているのだ。
その事に思わず苦笑してしまう。本当に変わってしまったんだなと、変わる事が出来たんだなと思った。
なのはの両親が経営している喫茶翠屋の中では現在、勝利の余韻に浸り、分かち合い、メンバーは食事をして、活気に満ち溢れていた。
俺達は中と比べると比較的静かに、それでも充分に、何時も通りに盛り上がりながら会話をしながら店外で食事をしている。
「それにしても改めて見るとこの子、フェレットとはちょっと違わない?」
アリサが放ったその懐疑の言葉になのはは思わずギクッといった感じに驚く。
そのなのはの驚き様が可愛らしく、面白く俺は思わずニヤけてしまう。
「そういう言えばそうかな…動物病院の先生も変わった子だねって言ってたし……」
すずかの方も前から気になってはいたのかアリサのその言葉に同意する。
「くくっ」
雄介の方も我慢しているのか小さな声で彼女達に気付かれない様に出来るだけ静かに、腹を手で抑えながら笑っている。
志蓮の方は我関せずと言わんばかりに目の前のケーキを黙々と食している。だが、その目は何処か楽しそうだ。
「ああ、ええっと…まぁ、ちょっと変わったフェレットってことで。ほらユーノ君、お手」
「キュ」
「おおっ」
「可愛い」
その慌てながらも必死になのははアドリブをきかせて、ユーノはそれに対し合わせるように彼女の手に自身の前足をのせる。
アリサとすずかはそのユーノを見てよほど気に入ったのか可愛がり何度も何度も撫でる。
『ごめんね、ユーノ君……』
そのなのはの謝罪の言葉にユーノはただ大丈夫だと返す事しか出来なかった。
「皆……今日はすっげえ良い出来だったぞ。来週からまた練習頑張って次の大会もこの調子で勝とうな」
士郎さんのその言葉で何かを思い出したのかアリサは俺、雄介、志蓮の3人に質問を投げかけてくる。
「あんた達はサッカーやらないの?」
「俺は興味ないから」
「何だ、出て欲しいのか?」
「ダルいから」
三者三様に答えを返していく。
だけど俺のしない実際の理由の方は身体能力にかなりの差が存在しているからだ。これで実際にサッカーの試合に参加するとなると周りは俺達の動きに着いて行けず、ただ立っているだけのカカシ状態になってしまう。ボールをゴールの方へとシュートするとキーパーは勿論、サッカーゴールの方も唯では済まない。言う慣れば超次元サッカーといった感じになり、俺達専用のゴールやボールをつくらなければ駄目になる。勿論、気の操作でどうにかなるといえばどうにかなるのだが少し気を抜くと相手を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
学校の授業では仕方が無いので参加しているが出来る限り、こういった事は避けておきたいのだ。
そんな事を言っても信じる事は出来ない筈なので、ただただ適当に答えておく事しか出来ない。
「………」
サッカーチームのメンバーが解散する中で、キーパーをしていた子が持参してきたであろう鞄の中からひし形の宝石を取り出す。
「あっ!!」
なのはそれに気付いたのかその彼の方へと目を向ける。
彼の後ろをマネージャーと思しき少女が追いかけ一緒に帰っていく。
その不安気ななのはの視線に気付く事無く彼等はその場を後にした。
「あ~面白かった。はい、なのは」
「え?」
余所見をしていたなのはに対してアリサが差し出したその手にはグッタリとして目を回しているユーノがそこに居た。
「さて、私達も解散?」
「うん、そうだね」
そう言いながらアリサとすずかは持って来た鞄を手に取り帰宅の準備をする。
「そっか。今日は2人とも午後から用があるんだよね」
「お姉ちゃんと御出かけ」
「パパとお買い物」
その2人の声は何処か弾んでいるように感じられる。それだけ楽しみということだろうか。家族仲が良いという事が理解できる。
「良いね。月曜日にお話聞かせてね」
「みんなも解散か?」
そこに片付けをしに来たのか士郎さんが話しかけてくる。
「あ、お父さん」
「今日はお誘い頂きまして有難う御座いました」
「試合、格好良かったです」
家の、親の教育がしっかりと行き届いているのか、それとも厳しく躾けられているのか。並みの小学生では出来ない様なしっかりとした御礼の言葉を述べるアリサとすずか。
「すずかちゃんもアリサちゃんも有り難うな、応援してくれて。帰るんなら送って行こうか?」
「いえ、迎えに来て貰いますので」
「同じくです」
元気よくそれでいてハッキリと答える2人に微笑みながら了承する士郎さん。
「そっか。なのははどうする?」
「お家に帰ってのんびりする」
「父さんも家に帰って一風呂浴びてお仕事再開だ。一緒に帰るか?」
「うん」
親と子。家族が仲良く出来るというのはとても良いものだ。
前世では俺の態度が、生活が駄目だった所為で親からは常に疎まれている様に、責められている様に感じられ居場所が殆ど無く、ヘッドホンで耳を塞ぎ、壊れたステレオの様に繰り返される親の小言から、嫌な言葉をシャットアウトして、現実を見つめながらも2次元に逃げて、目を背ける事しか出来なかった。
その家族に対しての罪悪感からか、仲の良い家族を見ているととても眩しく、どうしても嫉妬してしまうのだ。
「(自分の所為なんだけどな……感情というのは本当にコントロールが難しいな………)」
充分に恵まれていた筈なのだ。恵まれた環境で過ごしていたのだ。
それに甘えてしまっていたのかどうかは分からないが、動く事もなく、変わる事も出来ず終えてしまった人生。
2度目がある。2度あることは3度あるというがだからと言ってこのまま何もせずにまた死ぬのだけは嫌なのだ。
だからこそ今、目標を立て修行をしている。
もし大事な誰かが出来たなら、大事なモノを、大事な皆を、自分をしっかりと守る事が出来る様に。
「君たちもご苦労様。今度、練習に参加してみないか?」
「「「気が向いたら宜しくお願いします」」」
見事に返答の声はハモり、やんわりとお断りをする俺達。
その答えに士郎さんはガクッと肩を落とした。
解散し、家に帰っている途中。先程、キーパーが持っていたジュエルシードの事が頭の中を占めていた。
「(なのはとユーノに連絡して、すぐに封印するべきか…なのはの方はちゃんと気付いていたみたいだけど………。此処はなのはの成長の為に知らせないでおくべきか……)」
キーパーである彼が、一緒に帰った彼女が発動させた場合どの様な事になるか、どんな事が起きるか。知識の中では知っている。覚えているのだ。
だが、どうするべきなのかが判断できない。決断できないのだ。
なのはの成長の為だというが結局のところ言い訳に彼女を使っているだけで、動こうとしていない。
「(こう云うところは前世と全く変わらないな……考えれば考えた分だけドツボに嵌まって動くことが出来なくなる……)」
何度も何度も、繰り返し繰り返し頭のなかを反芻する。それが悪いという事では無いのだろうが、そこから抜け出す方法を、抜け出し方を、そこからどう動くべきなのかが思いつかない。答というものが存在しないものなのか、スキルも働かない。
「――なんだ!?」
ウロボロスのように自分に噛み付きグルグルと、思考という名前のメビウスの回廊を走り廻り続けていると突然大きな魔力の波動を感じた。
「まさか……」
ジュエルシードが発動したのだろう。
俺は急いでその現場に向かう事にした。先程までの不毛な考えは嘘のように消え去り、泥沼からの脱出は出来ていた。
「おーい」
とあるマンションの屋上で魔力を開放しバリアジャケットを展開するなのは。
その魔力を辿り、その場所に集合する。
辿り着くと同時に目に入るその光景は余りにも現実的で、現実離れしていた。
「あ!?」
「あれは……」
「ファッ!?」
「凄い事になってるな」
「…………」
目の前にはビルを覆い隠すほどの大きな樹が存在していた。
その樹の根はアスファルトの地面を突き破り道路を、車や人々の通行を遮り邪魔をしている。それどころかその大きな根は車を突き破り壊していたり、引っ掛かって怪我をしてしまうヒトまで出てくる始末だ。
余りの大きさの所為か、魔力を感知してから行動という後出しの結果なのか結界を張る事が出来ない。
これでは沢山の人の記憶に残ってしまし、記憶の改竄というのも難しいだろう。白昼夢ということで済めば良いだろうが、発動時に発生した地震、根が突き破って出来た穴、砕けた道路などのアスファルトはどうしようとも誤魔化す事が出来ないだろう。
「酷い……」
その一言で済ますことが出来るかとそういう訳ではないが、この惨状に対して表現出来る言葉は今のところそれぐらいしか浮かんでこない。
「多分、人間が発動させちゃったんだ…強い思いを持つものが願いをもって発動させた時、ジュエルシードは一番強い力を発揮するから」
そのユーノの予想による言葉になのはは解散前にキーパーの少年が持っていた所を見たことを思い出す。
「やっぱりあの時の子が持ってたんだ…私気付いていた筈なのに……こんなことになる前に止められたかもしれないのに………」
「なのは……」
そのなのはの様子を見て俺の心には暗い影が過り、自身を爪を立て、責め立てていく。
「(分かっていた…分かっていたんだ……覚悟はしていたはずなんだけどな………)」
気が付くと俺の手は、拳はグーの形で強く握られており手に平には爪の跡が出来ていた。
「なのは?」
なのはが何かを思ったのかそれに応えるようにレイジングハートは強く光る。
「ユーノ君、ブロン君…こういう時はどうしたら良いの?」
「え?」
「そうだな……」
その疑問の言葉に思わず、喉が詰まってしまったかのような錯覚に陥り対応策という言葉が出て来ない。そんなことはないはずなのに、まるで自分が責め立てられているかのように感じる。息苦しさを、居心地の悪さを感じてしまう。
「封印するには接近しないと駄目だ。先ずは元となっている部分を見つけないと…でもこれだけ広い範囲に広がっちゃうとどうやって探したら良いか………」
黙っている俺の代わりに平静さを取り戻したユーノはなのはの質問に対する回答を出す。
「元を見付ければ良いんだね?」
その単純であると同時に難しいことをやってみる言わんばかりに口にするなのは。
「えっ?」
そのなのはの言葉に驚きを隠せないユーノだが先日のプールの件という前例が存在しているために無理だと否定することが出来ない。
【“Area Search”】
「リリカル…マジカル……探して、災厄の根源を」
その言葉と共にレイジングハートから光が発せられ、それは複数に分散し、蜘蛛の子を散らすよう様に周囲に、街一帯に飛び散り広がった。
その光の玉である“サーチャー”を通して色々な場所の光景が、状況が頭のなかに浮かんでくる。
その情報量はマルチタスクを使用することが出来なければ混乱を、運が悪ければ頭の中がパンクして気がどうにかしていたであろう。
「――見つけた! すぐ封印するから」
「此処からじゃ無理だよ、近くに行かなきゃ」
そのユーノの言葉を否定し、なのはは強く応える。
「出来るよ! 大丈夫! そうだよね、レイジングハート……」
天へとレイジングハートを掲げながらなのはは自身に言い聞かせるかのように声にする。
【“Shooting mode” Set up】
そのなのはの言葉に対して自信を持たせるように、後押しをするように音声を鳴らしながら変形をするレイジングハート。その形は杖の上の方に、前方に魔力を集中させる為なのか、音叉状に変形し、魔力光で出来た光の羽が広げられている。
「行って、捕まえて!!」
レイジングハートから放たれたその大きな魔力の光は災厄の根源となってしまった発動者、つまりキーパーの少年と一緒に居た女の子を包み込む。
【Stand by ready】
「リリカルマジカル…ジュエルシード、シリアルⅩ……封印っ!!」
その言葉とともに駄目押しと言わんばかりに再度巨大な魔力光線を放つ。
【Sealing】
その光は確実に彼等を包み込み、暴走したジュエルシードを封印した。
封印に成功した為か、街を覆うほどの大樹は光となり本当に夢であったかのように消滅した。だが、その道路などに出来た破壊の跡は、人々に出来た傷の痕は残り、夢では無かったことを語っている。
発動源となっていた少年に握られていたジュエルシードは吸い込まれるようにレイジングハートの方へと飛び、収納される。
【Receipt NumberⅩ. Mode Release】
沢山の魔力を使用し、高威力の封印砲撃をした際に蓄積された熱を排気するレイジングハート。その蒸気は煙の様に周りに立ち籠め、蒸発して消えていった。
「ありがとう…レイジングハート」
【Good bye】
「(僕にも使えない遠距離魔法…この子、一体どれだけの魔法の才能を持っているんだ……)」
「いろんな人に迷惑かけちゃったね………」
「…………」
「何言ってるんだ、なのははちゃんとやってくれてるよ」
「そうだぞ、なのは。お前はちゃんとやってる」
「流石は俺の嫁だな。初めての魔法でしっかりとやってのけるなんて」
そのユーノ、雄介、志蓮の励ましの言葉は効果が無く、なのはは悲しそうな顔と声をして独白をする。
「私、気付いてたんだ…あの子が持ってるの。……でも、気の所為だって思っちゃった………」
「なのは。お願い、悲しい顔をしないで…元々は僕が原因で」
「はい、そこまでだ。このことに関してだけど誰の責任でもないよ。次からはどうすべきか、次からはどうしたらこんなことが起きるのを防ぐことが出来るかを考えるのが大事なんだから」
雄介のその言葉は俺の心のなかに重くのしかかる。それと同時に何かが軽くなるのが感じられた。
それは当たり前であると同時に、それだけ難しいことでもあるのだ。理解と行動は別物なのだから実際に出来るとは限らない。
「(そうだ、言い訳して見逃して発動させてしまったけど…次からどうするかが大事なんだ……だけど………)」
その帰り道で見た夕焼けはとても眩しく、自分の心のなかの汚れた部分が陽光に照らされて、周りに見透かされているかの様に感じられた。
「はぁ……」
お風呂に入りながら今日の出来事を思い出す。
夜中は学校でジュエルシードの思念体との戦闘。昼間から夕方にかけて人の願いにより暴走したジュエルシードの封印。
両方共なのはとユーノ、雄介、志蓮がしたのだが自分がそれをしたかのように疲れを感じてしまう。
普段ならばお湯に使っているだけで疲れというものが吹き飛ぶような思いになるのだが、精神的疲労によるものか、自信を責めている所為か、身体は心に引っ張られて雨が降っているようにどんよりとして、鉛のようにずっしりと重く感じられる。
「どうすれば良かったのかな……?」
口を開けばこの言葉ばかりだ。
もしも、たら、れば、なんてそんなことを口にしていればそれには星の数よりも遥かに多く、上限が、限りというものが無く、永遠と続いていく。
過去の可能性の話をしても無駄だというのに。
「寝よう…朝になればきっと……」
前向きでポジティブな考えが太陽の様に昇り、浮かび、出来る様になる筈だ。
楽しい、きっと明るい1日が始まる筈なのだ。
寝間着である子供用のパジャマに着替え、ベッドの上に敷いてある布団の上に身を倒す。
疲れたその心と体にはその布団は優しく包み込んでくれているかのように感じられた。
二次創作というのは予め完成されたモノに何かを付け足したり、デコレーションしたりするのと同じように思う。
1から新しく創りだすことと比べると大分楽な方なのかもしれないがそれでも難しいことに変わりはない。
元が同じ作品であろうともその二次創作物の作者による解釈や付け足したもの、思いなどにより千差万別、十人十色な色々な特色を持ったモノが出来上がる。
この時代に0から新しくモノをつくるというのは不可能でジャンルやカテゴリなどの予め用意されているモノから生み出す他ない。