魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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もう2人の魔法使い登場 猫屋敷での初邂逅

 「ふぅ……」

 

 息を吐く。

 

 自分以外誰もいないその空間はとても静かで己の呼吸音が、息をしている音が、心臓の鼓動音だけが鳴り響いている様な錯覚を与え、その様に感じさせてくる。

 

 「はあああぁぁ」

 

 少し自身に気合を込め、気を開放する。

 

 すると意識が分裂し、もう1人の自分が出現する。真・四身の拳だ。

 

 お互いがお互いを、自分同士を見ながら歩を進め、距離を取る。相手の全身が視界に入る距離まで離れるのだ。

 

 「さて、やるか……」

 「ああ」

 

 その言葉と同時に姿が消える。

 

 消えたというのには語弊があるだろう。ごく普通のヒトには、動物の目には追えない、追いつけない程のスピードで動いているだけなのだから。

 

 「だりゃああっ!!」

 「なんのっ!!」

 

 目の前に存在している自分自身に攻撃を与え、それと同時に向かってくる攻撃を逸らし、躱し、防御する。

 

 自分自身との闘い。これは当にこの言葉通りだった。自分と同じ力を、戦闘力を持つ存在同士のぶつかり合い。自分と同じ思考を持った存在が読み合って闘っているのだから。

 

 鏡で自身を見るのとは違い、目の前にもう1人の自分が居るという事はとても違和感があり、それと同時にとても気持ちの悪いものだ。

 

 だが、その感覚は麻痺してきたのか最初の頃とは違い、慣れてきたのか落ち着いて修行に勤しむことが出来るようになってきた。

 

 「おらあああぁぁぁぁ!!!」

 

 殴り殴られ、蹴り蹴られる。そんな原始的な闘いの応酬が繰り広げられている。

 

 そのやり取りは唯の殴り合いのようでそれだけではない。一撃一撃が重く速いのだ。その拳は、蹴りはとてつもなく重く、気を高めて防御力を向上させているのにもかかわらず身体に大きな痛みを、負担を掛けてくる。

 

 するとピピピとこの場面に似つかわしくない、相応しくない電子的な音が鳴り渡る。

腕に付けているデバイスから鳴っているのだ。

 

 「もうこんな時間か……」

 

 設定されたアラーム音を鳴らし続けているデバイスを操作し音を止める。

 

 「さて…朝御飯の準備に取り掛かるか」

 

 真・四身の拳を解除し、風呂場に向かう。先ずは汗をどうにかしないといけないのだから。

 

 

 

 

 「(もう少しで壁を超えることが出来そうなんだけどな……)」

 

 風呂場にて湯船に身を委ね浸かりながら俺は悩んでいた。

 

 壁。此処でいう壁というのは超サイヤ人の壁のことだ。超サイヤ人(スーパーサイヤジン)から“超サイヤ人(スーパーサイヤジン)2”へと変身出来るかどうかという壁だ。

 

 とても大きく深く激しい怒りが必要なのか、それともそもそもの実力が足りていないのか。

 

 目に見えないその壁はとても大きく、高く、頑丈に感じられる。そしてその壁には亀裂が走っているのだ。

 

 だが、その壁をぶち壊す為の決定的な一撃が出せないでいる。

 

 「あとちょっとなんだけどな……」

 

 未だに見えない、超える事の出来ない壁に対してどのように挑戦し超えるかを考える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 「おはよう。雄介君、ブロン君」

 「おはよう、なのは」

 「おはようございます、恭也さん」

 「それじゃ、行こうか」

 

 挨拶を終えて俺と雄介、なのはと恭也さんはバスに乗る。

 

 今日はすずかの家、要するに月村家に遊びに行くのだ。

 

 家に向かう途中、窓から海が見える。海面は光が反射してキラキラと輝いておりとても眩しい。

 

 「(海か……)」

 

 前世では海には小さな頃に1度しか遊びに行ったことは無かった。

 

 1回だけでも行くことが出来たというのはそれだけで幸せなことなのだろうが、如何せん幼い時のことなので全然覚えていないのだ。

 

 況してや前世での出来事なので今の俺にはもう殆どが思い出せない様になってきているのだが。

 

 「(みんなどうしてるかな?)」

 

 前世で置いてきた家族を、親戚を、友達を想い、俺は少し泣きそうになる。確実に、だけどゆっくりと記憶が朧気になり思い出せなくなりつつあるのだ。

 

 「はぁ……」

 

 これから遊ぶというのに溜め息を吐き、ブルーな気持ちを吐き出す事しか出来なかった。

 

 

 

 

 「いらっしゃいませ」

 「ああ、お招きに預かって」

 「こんにちは」

 「どうもです」

 「こんちゃーす」

 

 インターホンを鳴らし、少し待つとドアからノエルさんが迎えに出てくる。

 

 「どうぞ、此方です」

 

 促され、家の中に足を踏み入れる。

 

 家に入るとその大きく静かな空間に足音が鳴り響く。

 

 「(やはり大きいな)」

 

 玄関だけでもかなりの大きさだ。これでは家というよりも屋敷という方が正しいだろう。家の大きさといい、メイドさんが居ることといい良家だということが十二分に理解できる。

 

 

 

 部屋に入るとそこには既にアリサが来ていて、何か飲み物を飲んでいた。

 

 椅子の上に猫が丸まっていて、床の方は子猫達が短い足を使いながらじゃれ合っていた。

 

 「なのはちゃん、恭也さん、雄介君、ブロン君」

 

 此方に気付いたのかすずかが歩き、近づいて来る。

 

 「なのはちゃん、雄介君、ブロン君……いらっしゃい」

 「すずかちゃん、アリサちゃん、ファリンさん」

 「キュ」

 

 その声に応える様になのははそれぞれの名前を呼ぶ。

 

 「ユーノ君もいらっしゃい」

 「恭也、いらっしゃい」

 「ああ」

 

 俺達が入ってくると同時に忍さんは恭也さんの方へと足を向ける。恭也さんの方も優しい感じの笑みを浮かべながら忍さんと向き合っている。

 

 「お茶を御用意致しましょう。何がよろしいですか?」

 「任せるよ」

 「なのはお嬢様は?」

 「私もお任せします」

 「「俺達もお任せで」」

 

 質問をされる前に答えておく。

 

 お任せでというのは無責任な発言なのかもしれない。相手側からすると選ぶのに苦労し、これほど難しい物はないのだから。

 

 自分の意見を言えとよく言われるが、これが自分の意見なのだからどうしようもない。仕方が無いのだ。

 

 それにお茶と言ってもそれほど知識も無く、拘りもないのだ。

 

 お任せすることしか俺の中には選択肢は無かった。

 

 「かしこまりました」

 

 そんな言葉にたいした反応を見せず、嫌な顔ひとつしないでニコリとした笑顔で了解と答えてくれるノエルさん。

 

 「(流石というか何と言うか……)」

 「ファリン」

 「了解です、お姉様」

 

 そのノエルさんの言葉にすずかの近くに居たファリンは入ってきた扉の方へと向かい、退出する。

 

 「じゃ、私と恭也は部屋に居るから」

 

 そう言いながら忍さんは自然な感じで恭也さんの手を取る。当たり前の様に、何時もしているというような感じでスッと手を握っている。

 

 「はい、そちらにお持ちします」

 

 ノエルさんとファリンさんが部屋から出るとなのはは椅子に座るために上に居座っていた猫を抱き、床に下ろす。

 

 「おはよう」

 「うん、おはよう」

 「相変わらずすずかのお姉ちゃんとなのはのお兄ちゃんはラブラブだよね」

 「うん」

 

 そのアリサの言葉を聞きながら今にも退出しようとしている2人を視界に入れる。

 

 2人は腕を組みながら歩いており、とても楽しそうだ。

 

 「お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってからずっと幸せそうだよ」

 「家のお兄ちゃんはどうかな…でも、昔に比べて何だか優しくなったかな。よく笑うようになったかも」

 

 「リア充爆発しろ、パルパルパルパルパルパルパル」

 

 その雄介の妬みを含めた言葉に俺は前世で彼女が居なかった為にただ力無く笑う事しか出来なかった。

 

 ふと視線を下に向けるとユーノはかばんから抜け出している。

 だが何処か様子がおかしい。何かを警戒しているかの様に、蛇に睨まれた蛙のように動かない。

 いや、動けないでいるのだ。よく見るとユーノ前には猫が居て、今にも跳びかかりそうな様子なのだから。

 

 『見てないで助けてくれないかな……』

 『オコトワリシマス』

 『薄情者ーーっ!!』

 

 他人の不幸は蜜の味と言いますか、見ている分には面白いので、ユーノには悪いが放置する事にした。

 

 「そう言えば今日は誘ってくれてありがとね」

 「こっちこそ来てくれてありがとう」

 「今日は元気そうね」

 「へ?」

 「なのはちゃん、最近少し元気なかったから」

 

 そのアリサとすずかの2人の言葉にハッとするなのは。

 

 「(何を驚いているのやら。顔に出やすいということに気付いてないのか)」

 「もし何か心配事があるなら話してくれないかなって、2人で話してたんだけど……」

 「すずかちゃん、アリサちゃん」

 

 よく見ているなと思いながら近くに居た猫をモフる。ひたすらモフっていく。フシャ-っと嫌がられるまでただただモフり続ける。

 

 この屋敷に居る殆どの猫は気性が大人しいのか、撫で続けていてもそれ程強く怒ったりする事が無い。

 

 「(猫か…時間軸的に“リニス”は死んでいるのだろうか。A’sでは“ロッテ”と“アリア”の“リーゼ姉妹”も出て来るし、どうしたものか……)」

 

 そう考えているとユーノの悲鳴が聞こえてくる。

 

 「キュー、キュキュキュ」

 「ユーノ君?」

 「アイン駄目だよ」

 

 ふと目を向けると先程の猫がフェレット形態のユーノを追いかけているのだ。

 

 「は~い、お待たせしました。いちごミルクティとクリームチーズクッキーで~す」

 

 運が悪いのか、間が悪いのかそこにおやつを持ったファリンがやって来る。

 

 その彼女の足元をグルグルとユーノが、アインが回り、それに対して慌てた彼女はバランスを崩してしまう。

 

 「ファリン危ないっ!」

 

 その拍子に何枚か皿が宙を舞う。

 

 「セーフ」

 

 何とかなのはとすずかの2人が倒れそうになるファリンを背中から支える。

が、空中を飛んだ皿は床へと落ちて見事真っ二つに割れていた。

 

 「すずかちゃん、なのはちゃん。ごめんなさ~い」

 

 

 

 「しっかし相変わらずすずかの家はネコ天国よね」

 

 アリサのその言葉を聞き、改めて辺りを見渡すとそこには猫、猫、猫。沢山の猫が居る。猫カフェでも開けそうなほどの数の猫が居るのだ。そこら中で猫がにゃーにゃーと鳴き、じゃれ合っている。猫好きには堪らない空間だろう。

 漢字にすると猫、猫、猫、猫猫猫猫猫猫猫猫猫。これだけでもまだごく一部で全ての猫を漢字で書くと猫という漢字に対してゲシュタルト崩壊してしまいそうになる。

 

 「子猫たち可愛いよね」

 「うん。里親が決まってる子も居るからお別れもしなきゃならないけど」

 「そっか……ちょっと寂しいね」

 「でも、子猫たちが大きくなっていくのは嬉しいよ」

 「そうだね」

 「――!?」

 

 話をしているとそこにジュエルシードの魔力が流れてくる。まだ、完全に発動はしていないが、放っておくと大変なことになるのは目に見えている。自明の理なのだ。

 

 『なのは、雄介、ブロン』

 『うん。すぐ近くだ』

 『反応はこの屋敷の敷地内だ』

 『どうする?』

 『えっと……えっと……』

 

 猫と遊んでいるすずかとアリサを見ながらどうしようか悩んでいるなのは。

 

 『そうだ』

 「ユーノ君?」

 

 助け舟を出すかのようにユーノは何かを思いついたのかなのはの膝の上からおり、駆け出す。

 

 「あらら、ユーノどうかしたの?」

 「うん、何か見つけたのかも。ちょ、ちょっと探してくるね」

 「一緒に行こうか?」

 「俺が行くよ」

 

 そう言い、雄介となのはは走り去ったユーノを追いかけていく。

 

 その不可解な行動と言動にアリサとすずかの2人はただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 「発動した?」

 「此処だと人目が…結界をつくらなきゃ」

 

 結界。動物病院やプールでユーノが使用していた魔法だ。

 

 通常空間から特定の空間を切り取り、魔法効果の生じている空間と時間信号をズラす魔法。術者が許可した者と、結界内を視認、結界内に進入する魔法を持つ者以外には結界内で起こっていることの認識や内部への侵入が出来ず、魔法戦での周囲への被害を与えたり目撃されたりしないようにできるのだ。

 

 詰まるところ身も蓋もない表現だが便利な空間をつくりだすといった感じだろうか。

 

 「あまり広い空間は切り取れないけどこの家の付近くらいならなんとか」

 

 その言葉と同時にユーノは魔法を発動させる。

 

 なのはと雄介の目の前には大きな円形の魔法陣が地面に展開されており、その魔法陣の大きさにただ驚くことしか出来なかった。

 

 「にゃあ~」

 「ふぇ?」

 「え?」

 

 目の前には大きな猫が居た。

 

 「あ、あ、あ、あれは………」

 「た、多分、あの猫の大きくなりたいって思いが正しく叶えられたんじゃないかなと……」

 

 「そ、そっか………」

 

 文字通りに大きいのだ。歩く度に地面は揺れる。

 

 結界で時間信号をズラしていないと地震か何かじゃないかと騒ぎになっていたかもしれない。

 

 大きくなりたいという願いがそのままの意味で叶えられたのだろう。それが本当の意味で、願い通りに叶えられたかどうかはともかくとしてだが。

 

 「大人になりたいっていう願いだったのかもしれないけどな」

 「だけど、このままじゃ危険だから元に戻さないと」

 「確かにそうだな」

 「流石にあのサイズだとすずかちゃんも困っちゃうだろうし」

 「そういう問題じゃないと僕は思うんだけどな……」

 「襲ってくる様子も無さそうだしササッと封印を……レイジングハート」

 

 そこに何処からか魔法による攻撃がその大きな猫に命中する。

 

 「にゃああ」

 「“バルディッシュ”……フォトンランサー連撃」

 【“Photon lancer” Full auto fire】

 

 金色の魔法弾が連続で猫に向かい放たれる。

 

 その金色に光り輝く魔法弾が当たり、大きな子猫は悲鳴を上げる。

 

 「な!? 魔法の光……そんな……」

 

 目の前の猫に気を取られ、意識が集中していたのかユーノはもう1人の魔法使いの接近に気が付かなかった。

 

 「気付けよ……」

 「――ごめん」

 

 気付かなかったユーノに対してか、自身に対してか放ったその言葉に対してユーノは自分のミスだと謝る事しかできなかった。

 

 「レイジングハート、お願い」

 【Stand by ready. Set up】

 

 攻撃を受けたからか猫はその場から逃げようとする。

 

 だが普段は俊敏な猫であっても、体が大きいからかその動きはノソノソとしていてとても遅く感じられる。

 

 【“Flier fin”】

 

 なのはの足に小さな光の翼が形成される。

 

 軽くジャンプをして猫の元へと向かうなのは。

 

 そこに先程の魔法使いが再び攻撃魔法を繰り出してくる。

 

 【“Wide area Protection”】

 

 その攻撃をprotectionで防御し、猫を守る。

 

 「魔導師……」

 

 彼女はそう呟きながら猫への攻撃は止めない。

 

 防御をしているなのはを無視して彼女は猫の足元へと攻撃をした。

 

 「にゃああ!!」

 

 その足元への攻撃が見事に命中し、バランスを崩したのか猫は木々を薙ぎ倒しながら倒れる。

 

 「(そろそろ驚かなくなってきたけど、僕がなのはに教える事はもう何も無いのかも)」

 「同型の魔導師…ロストロギアの探索者か」

 「間違いない…僕と同じ世界の住人。ジュエルシードの正体を」

 

 その魔導師というキーワードで確信したのかユーノは大きな声をあげる。

 

 「バルディッシュと同型の“インテリジェントデバイス”……」

 

 なのはの手に握られているレイジングハートを見ながら彼女はそう呟く。

 

 「バル…ディッシュ……」

 

 それに対して彼女の手に握られている黒を基調とした杖を目にしながら呟くなのは。

 

 「ロストロギア……ジュエルシード」

 【“Scythe form” Set up.】

 

 頭に当たる部分が直角に展開、変形する。それと同時に先端部分に金色の魔力光が発生する。鎌の様な見た目だ。

 

 彼女のバリアジャケットは黒く、そのデバイスと同時に、一緒にみると幼く可愛らしい死神の様な印象を周囲に与える。

 

 「――申し訳ないけど……頂いていきます」

 

 その言葉と同時に彼女はなのはに向かい一直線に飛び掛かる。

 

 【Evasion. Flier fin】

 

 何とか相手の攻撃を躱し上空に移動するなのは。

 

 【“Arc Saber”】

 

 そんな回避をしたなのはに向けて先端に形成されている魔力光を飛ばしてくる彼女。その攻撃は回転をしながらかなりのスピードでなのはに向かっていく。

 

 【Protection】

 「なのはっ!!」

 

 防御すると同時になのはを中心にして大きく爆発が起きる。

 

 更に上空へと退避しようとするなのはに彼女は追い打ちをかける様に近接攻撃を仕掛ける。

 

 「!?」

 

 そこに雄介が攻撃を仕掛けるが彼女はスルリと避けた。

 

 「避けたか」

 

 手に炎を灯しながら雄介は1人そう呟く。

 

 「雄介君?」

 「悪ぃなのは……ミスった」

 

 軽い感じで謝罪の言葉を述べる。

 

 「あなたは……」

 

 そう言いながら見下ろす彼女に対して笑いながら見返す雄介。

 

 「2対1は流石に卑怯だと思うんだがな……」

 「誰だ!?」

 

 声のした方向をよく見ると木の上に少年が立っていた。彼女と兄妹なのだろうか何処か顔が似ていて、髪の色は同じ金色だ。だが彼には額に水晶のようなものがあり、彼女とは違った存在だという事を推測させる。

 

 「お前の相手は俺がしてやる。フェイト、チャッチャと封印しちまおう」

 「――わかってる」

 

 その言葉と同時に彼は雄介に殴りかかる。

 

 

 

 

 「“イルバーニア”ッ!!」

 

 雄介は自身の移動速度を倍加させ、相手の攻撃を避けながらこの先どうするかを考える。

 

 「(ブロンを呼ぶか? いや……あいつに頼ってるばかりじゃ駄目だ。俺達だけでどうにか打開を)」

 「オラオラどうしたぁ?」

 

 彼の拳は速く、鋭く次々と繰り出される。

 だが、ブロンとの訓練の成果が出ているのかその拳はゆっくりに見え、避けるのに然程苦労することはないようだ。

 

 「お前、転生者だな?」

 「そうだとしたら?」

 

 額に水晶の付いている少年はその質問に対して当たり前だという感じに答えると同時に疑問を投げかけてくる。

 

 お互いがお互いに拳をぶつけ合いながらなのはやユーノ達に聞こえないくらいの大きさの声で会話をする。

 

 「お前、フェイトの何なんだ?」

 「兄だよっ!!!」

 

 その攻撃を避けているとなのは達から離れていく。

 

 「(クソッ)」

 

 焦る雄介に対して目の前の彼は余裕だと言わんばかりに笑っている。

 

 「そう言うお前はどうなんだ? なのはの側に居るようだが」

 「幼馴染みだ」

 

 言葉を放ちながら己の拳を目の前の不敵な顔を浮かべている少年に向ける。

 

 だが、彼の方もスルリと攻撃を避けながら反撃をしてくる。

 

 「(――魔法でスピードを上げてるのにっ)。これならどうだっ、“白竜の咆哮”っ!!!」

 

 口からレーザーのような鋭い閃光のブレスを放つ。その光は凄まじく強く、周囲を焼くほどでとても眩しい。

 

 「ぐっ!!」

 

 彼はその光に眼を瞑り避けることが出来ずに、防御する。彼はガードをすることにより少し後ろに退がった程度だった。

 

 彼の足元は足を引きずったかのように地面が削れ、抉れていた。

 

 「“覚えた”……」

 「何?」

 

 何を覚えたというのか。

 

 雄介にはそれが理解できなかったが、その彼の小さな言葉は何処か不安を感じさせるものがあった。

 

 「こう使うのか? 白竜の……」

 「まさか……」

 「咆哮ッ!!!!!!」

 

 その言葉と同時に彼の口からもまた雄介が放ったものと同じ閃光が放たれる。

 

 「ちぃ」

 

 舌打ちをしながら回避する雄介。

 

 先程雄介が居た場所は、地面は大きく削れ、相当のダメージを与えるほどの威力を誇っていることを示した。

 

 「お前のその能力……」

 「そう、俺の能力は…この力は“ZERO”の“フラグメント”。お前が魔法を使えば使う度に俺はそれを覚え、同じ魔法を使えるようになる」

 

 ――ZERO。

 それは他者の能力による技を体感や観察によって理解することでその能力を使えるようになる力だ。本来はフラグメントと呼ばれる特殊能力に対してだけだったのだがこの世界においては魔法に対しても適応されるようになったのだろうか。

 

 「面倒くさい能力だな…だが、覚える事が出来ても使えるかどうかは別だろ」

 「…………」

 「だから、より強くて難解な技を使えばいいだけの話だ」

 「面白い。掛かって来いよ、ハリーハリーハリー」

 「燃えてきたぜ」

 

 

 

 

 「何で、何で急にこんな……」

 「答えても、多分……意味は無い」

 

 その会話を終えると同時に一気にお互いに離れ、距離を取る。

 

 なのはは猫の方へ、彼女は木の枝の上に。

 

 【“Device form”】

 

 斧のような形へと変形するバルディッシュ。

 

 【Shooting mode. “Divine buster” Stand by】

 【Photon lancer Get set】

 

 それぞれがお互いのデバイスを相手に向けて構える。

 

 緊張が走り、一瞬…一瞬だけ時間が止まったかのように感じさせる。

 

 「…………」

 「…………」

 「(きっと私と同い年くらい……綺麗な瞳ときれいな髪。だけど……この娘……)」

 「にゃああ」

 

 先程まで倒れていた猫が鳴く。

 

 それに気を取られたからだろうか、それがなのはの敗因となった。

 

 「ごめんね」

 

 小さな、とても小さな声で黒色のバリアジャケットを着用している金色の彼女は呟く。その謝罪の言葉は猫に対してのものなのか、それともなのはに対してのものなのか。だが、その言葉は彼女が優しい性格だということを理解させるには充分だった。

 

 【Fire】

 

 「――!?」

 

 バルディッシュから放たれた金色の光は辺りを包み込み盛大に爆発する。その爆発によりなのはは空に、空中に投げ飛ばされた。

 

 「なのは!!」

 

 そんななのはの所へユーノは急いで駆けつけ、魔法陣によるクッションをつくり上げる。

 

 【“Sealing form”. Set up】

 

 Device modeの時とは反対に頭の部分が反転し、光の翼が出ている。

 

 立ち上がる猫に彼女は杖を向ける。

 

 その彼女から魔力によるものか、周囲を電撃がビリビリと走っている。

 

 「捕獲」

 

 大きく振りかぶりビリビリと魔力を放っているバルディッシュの先端部を地面に付ける。そこから地面の中を進み、猫に命中する。

 

 「にゃああああああ」

 

 その猫の大きな身体からⅩⅣと表示されたジュエルシードが摘出される。

 

 【Order】

 「ロストロギア、ジュエルシード…シリアルⅩⅣ……封印」

 【Yes sir】

 

 上に向け、魔力を込めた光を空へと向けて放つ。すると空中に黒い渦が、雲が出来、そこから無数の光の矢がジュエルシードに降り注ぐ。

 

 【Sealing】

 

 あとにはグッタリとした子猫と封印が完了したジュエルシードがそこにあるだけだった。

 

 【Captured】

 

 その宝石はバルディッシュに吸い込まれるように移動し、収められた。

 

 「…………」

 

 気を失っているなのはに目を向ける彼女。ただそれだけで他に何かをするでもなくその場をあとにする。

 

 ユーノはその後姿を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 「おらおら、どうしたどうした」

 「この野郎っ」

 

 振りかざすその拳はスルリと避けられ、避けようとするも見事にその攻撃を喰らってしまう。

 

 状況を打開しようと魔法を使用するもその殆どの攻撃魔法は覚えれれコピーされる。

 

 「(くそっ、どうすれば)」

 「終わりか?」

 「――んな訳無えだろっ……。(だけどどうする…このままじゃジリ貧どころか不利になるばかりだ。此処は魔法じゃなくてこの前覚えた技を使うべきか……)」

 「――!?」

 「何だ!?」

 

 相手を見据えながら思考の海に潜っているとそこに、大きな光と魔力の爆発を感知した。

 

 目を向けるとなのはは宙に舞い、力無く落下しようとしている。

 

 「なのはっ!!」

 「フェイトか……ま、当たり前だよなぁ」

 

 概ね原作通りだと言っても良い展開だ。なのははフェイトとの初邂逅時の戦闘では負ける。自分達転生者による歪みの発生は無く、問題は無い。

 

 だが雄介の胸の中には大きなショックが、怒りがフツフツと湧き起こっていた。

 

 「(なのはが……なのはが……)」

 

 こうなることは予想いて覚悟していたが、長い時間を一緒に過ごしてきたのだ。その大事な幼馴染みがやられているのを見てただただじっとしている事は出来なかった。

 

 「何処へ行くんだぁ?」

 「勿論、アイツを助けに」

 「それは無理だな…お前の相手は俺なんだか――」

 

 そこで言葉は途切れる。

 

 「(此奴……さっきまでと大違いだ。守りたいものがあるっていうのはこれ程まで変えるものなのか……)」

 

 雄介の姿自体はそれほど変わりはしてはいなかった。だが、注視すればその変化に気付く事が出来るだろう。

 全身に白と黒の模様が浮き出ていて肌は鱗状に、全ての歯は鋭く犬歯のように、背中、手首、足首には魔力出できた透明の羽が出来ている。

 その彼の様子は“稀少古代種”である“真竜”を想像させる程のものだ。

 

 「………っ」

 

 その変貌に、迫力を前にして彼は動けずにいた。

 

 「終わったよ」

 

 そこにジュエルシードの封印を終えたフェイトが来る。

 

 「それじゃあな」

 

 そう言いながら背を向けて自分達の目的は達した、用は無いといった感じにその場から離れていく2人。

 

 「はあぁ……」

 

 大きな溜め息を吐く。

 

 「なのははっ!?」

 

 落ちていった彼女の方へと思い出したよう様に向かい走りだす。

 

 既に先程の変化は消え失せ、いつもと変わらない彼の姿が其処にあった。

 

 

 

 

 「どうしたの、その怪我?」

 

 なのはを背負いながら戻ってきた雄介。

 

 その雄介の服はボロボロで身体の至るところに擦り傷が出来ていた。

 

 「ユーノを追いかけてるとなのはが転んでさ……それをかばってこのザマよ」

 「ごめんね、雄介君」

 「キュ」

 『ブロン……』

 『フェイトか』

 『ああ。転生者も居た…彼奴はフェイトの兄だと自称していたが……』

 『そうか』

 『取り敢えず今夜、会議かな』

 『――そうだな』

 

 

 

 

 その夜。時間は22:00だろうか。良い子は寝ている時間だ。

 

 『――フェイトの方は原作と対して変わらなかったんだな』

 『ああ、そうだ。……転生者の方は強い。俺の攻撃が簡単に避けられた……それだけじゃない。俺の滅竜魔法がコピーされた』

 『マジかよ』

 

 念話で俺は雄介、志蓮との3人で会話をしている。

 

 重い目蓋を必死に開けながら起きていた最初の頃がとても懐かしく感じられる。

 

 『魔法による攻撃は殆ど覚えられると思った方がいい』

 

 昼の戦闘を思い出してか苦虫を噛み潰したかの様な感じに忠告をしてくる雄介。余程に悔しかったのだろう。声だけであってもその気持ちが伝わってくる。

 

 『其奴の能力、何て言ったけ?』

 『ZERO』

 『そうだ、ZEROだ。それは確か“アダム・プロジェクト”の』

 『“NEEDLESS”だったっけ?』

 『それってどんな作品なんだ?』

 『簡単に言うと超能力バトルものだ。フラグメントと呼ばれる特殊能力を使って戦う基本ギャグ要素のとても強い俺TUEEEEE作品だ』

 『そうか……』

 『念動力とかの強力な力を持ってるかもしれないな…使っていないだけで』

 『兎に角、警戒する方針で』

 『ま、結局だけど最終的には手を結ぶ事になるだろうけどな』

 『――取り敢えず今日はこれで会議終了という事で』

 『ああ』

 『お休み』

 『お休…zzzzzzzz』

 

 自身が今打つかっている壁、雄介と戦った転生者。

 

 悩みの種は尽きず増える一方だ。時間が解決してくれるだろうと思うがどうしても気になり、考えてしまう。

 

 「考えても仕方がないよな……俺も寝よう」

 

 寝室にて布団の中で身体を丸めながら目を閉じる。

 

 出来るのであれば原作通りに、それ以上に平和に平穏に事が進み、無事事件が解決する様にと祈りながら俺の意識は睡眠という谷底へと落ちていった。




2つ以上の作品を同時に書いている人は純粋に、素直に凄いと思う。

自分は1つ書くだけでも精一杯なのだから。
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