3話目、ハープーンが到着するまでの艦娘たちの視点です。
戦闘盛モリ
見切り発車トレイン、今日も出発
……1月24日
僕たちは佐世保鎮守府から東シナ海域→南西諸島→フィリピン海域へと危険度の確認をするために出撃。所謂威力偵察というやつだ。
旗艦は重巡洋艦の最上。
軽巡洋艦の由良。
駆逐艦は夕立、雪風、睦月、そして僕。時雨。
小規模編成。
威力偵察だけだし、戦闘はできるだけ避けつつ敵艦の情報を集めるだけの簡単なもの。
『交戦は避け、情報収集を最優先。交戦しても回避を優先』
作戦前のブリーフィングで何度も繰り返された言葉。
そう、思っていた。今頃鎮守府に帰って、みんなで暖かいご飯を食べて。寝る前にお喋りをして……ふかふかのベットで寝て…………
だけど、そんな幻想は最初の砲撃音が響いた瞬間、作戦という概念と一緒に霧散した。
秩序は崩れ、想定は裏切られ、状況は雪崩のように転げ落ちていく。
水柱が空高くまで突き上がり、海面は弾け飛ぶ。
索敵範囲の外側――こちらが気付く前に、敵はもう撃っていた。
レーダーの反応は異常値。
沈黙の海に潜んでいたのは、単なる哨戒艦ではない。
戦艦ル級。
レーダー反応から囲まれていることがすぐわかった。
鎮守府に通信わ飛ばす。
けれど、帰ってきた通信はノイズの海。
指揮系統は断たれ、判断は旗艦の最上に委ねられる。
「全速後退。陣形複縦陣!」
最上から撤退の号令。
号令と共に僕たちは陣形を単縦陣から複縦陣に変える。
全力でスクリューを回し、海水を巻き上げながら加速する。
だけど、後方から追う砲雷撃は続き、僕たちの逃げる背中を的とするように正確だった。
──ッドォァン!!!!ドォン!!!
至近弾
目の前に水柱が上がり、視界が遮られる。
そして何より、次は自分に当たるかもしれないという恐怖。
ドォン……!
ドォン……………!
射程範囲から抜け出した僕たちは、佐世保鎮守府に向かって全力で航行する。
此処を抜ければ安全海域に出られる。
でも、現実は甘くなかった。
「全員!戦闘準備!」
ハッと前を見る。
黒い兵装。独特なシルエット。圧倒的威圧感。
「敵艦6!みんな、必ず生きて帰るよ!」
後ろの艦隊に追いつかれる前に、ここを突破しなければ……!!
ドォン!!ドガァアン!!!
水柱が、炎上した炎が高く上がる………
───僕達は、必死に戦った。全力で、みんなで生きて帰るために……
結果として、僕たちの戦略的勝利。だけど、時間がかかってしまった。
また、至近弾が飛んできた。
勢いよく水柱が上がる。
さっきの戦闘で僕たちは疲弊してしまった。
雪風は小破
睦月、最上は中破
由良は大破
無傷なのは僕と夕立だけだった。
それでも、諦める訳には行かない。みんなまだ諦めてない。
だから──
「戦闘開始!!」
再び、戦いの幕があがった。
───────────────
…
………
……………「砲撃、来るよ!!」
短い警告。
瞬時に僕たちは速力を上げ、回避行動をとる。
黒く禍々しいシルエット。深海棲艦。ル級の砲塔がゆっくりとこちらに向けられる。
僕たちを殺すためのだけと言わんばかりの目。
心臓を掴まれたかのような感覚。
カッっと閃光が走る。
──ッドォァン!!!!
「っ……くっ!」
僕には当たっていない。被害がない。
当たったのは……後ろ!
「睦月!大丈夫?!」
後ろを振り向く。
睦月の発した声は悲鳴というより、息が漏れる音だった。
煙と鉄錆の匂いが漂う中、みんなが駆け寄る。
声は震え、しかし必死に抑えられていた。
「カハッ………睦月、少しは…役に……立てたのか…にゃ………」
睦月の側頭部から流れる赤い線は、止まる気配がない。視線は焦点を失い、呼吸は浅い。
砲撃の衝撃で主砲は折れ、艤装も半ば以上吹き飛んでいた。
「時雨、あたしが担ぐよ」
「夕立……」
夕立の手は恐怖と焦燥感で震えている。
だが、それでも睦月を抱き寄せようとするその手は、確かに仲間を失いたくないと叫んでいるようだった。
『───ジジッ──ッ──』
通信回線は沈黙したまま。何度呼びかけてもノイズすら返ってこない。
鎮守府はここで何が起きているか知らないだろう。
援軍の期待はできない。
この中で負傷も少なく、最高戦速で動けるのは僕だけ。
「僕が囮になる……!」
静かに告げた瞬間、夕立が顔を上げた。
涙ではなく怒りと恐怖が入り混じった瞳。
「時雨……ダメ…だよ………そんな、ッグッ…!自殺行為の、ようなもの……旗艦として、ボクが許さない………」
再び海の向こうから低く、重たい砲塔の駆動音が聞こえる。
まだ終わっていない。
敵は確実に照準を合わせ、次弾を準備している。
──時間が、もうない……
「幸い。僕は無傷だ。速度も出せる。振り切って逃げることだって……」
「戻って……鎮守府に君が帰れる保証は……」
最上が虚ろな目でこちらを見る。
最上の方がずっと痛く辛いだろうに、僕のことを心配してくれる。
本当……優しいな………
「無い……でも、沈む気もない」
大丈夫だよ。安心してと微笑む。
「時雨、それ本当っぽい?」
「うん、本当。だから夕立。みんなをお願いね」
「絶対だから!約束だから!必ず………!」
夕立が泣き声にもならない声で叫ぶ。
少しずつ声が遠くなって……
最上達の背中が遠くなっていく。
彼女たちを守るんだ。みんなを。
だから……
「ここは譲れない」
その瞬間、再び空気が震えた。
敵砲塔のロック音が、冷たい死の宣告のように響く。
逃げる時間は、もう残りわずか。
逃げた、必死に。
みんなの方へ行かないようにしながら全力で抵抗した。
僕が囮になれば、みんなは帰れる。
そう信じて、そう縋って――ただ海を裂くように進んだ。
けれど。
限界を越えた身体には、もう余力は残っていなかった。
「――っ……速力……落ちて……っ!」
声が掠れ、震える。
嘘じゃない。誤魔化しじゃない。
速度計が示す数字が、現実を叩きつけるように下降していく。
推進音は弱り、振動は細くなり、脚部の内部構造からは焦げた油の匂いが立ち込める
目の前には彼女らがいる。
僕を殺そうと。主砲がゆっくりとこちらを向く。
躊躇はない。
感情もない。
逃げられない。
戦えない。
抗えない。
思考の奥底で、諦めと恐怖が混ざり合い、奇妙な静寂が脳を満たす。
(──あぁ、こうして終わるのか。)
脚が震える。立っているのかどうかすら曖昧だ。
砲身の先端が、完全に僕へ照準を合わせた。
逃げ道はもうない。
ただひとつだけ、まだ消えていないものがあった。
胸の奥の、微かな願い。
「──みんな、僕の分も生きて……」
瞼を閉じてその瞬間を待つ。
………閃光と爆音が世界を塗り潰すように鳴り響いた。
ハッピーコーンです。
3話目、いかがでしたか?
本当、戦闘描写出来る人尊敬します。
さてさて、この先どうなる事やら
[次回]
【邂逅】