時雨推しの私は原潜として転生しました。   作:ハッピーコーン

9 / 10
探検だね、主人公

ご飯食べてから




散策

「ご馳走様でした!」

 

「ご馳走様でした」「ご馳走様っぽい!」

 

「天照。夕立。行こっか」

 

「おーー!」「ぽーーい!」

 

わいわいと賑やかに食堂を出る。

廊下に出ると、食堂の温かい空気が背中から離れ、朝のひんやりした空気が肌に触れた。

 

時雨が横を歩きながら、鎮守府の案内をしてくれる。

 

「この鎮守府にあるのは、

司令部、ドック、工廠、埠頭・港湾、宿舎・寮、食堂・厨房、倉庫、演習場、観測所・通信施設、お風呂、図書室、医務室

だいたいこんなところだけど、天照。行ってみたいところはあるかい?」

 

指を口元に当て、少し考える。

 

「うーん、そうだなぁ。寮って、私の部屋もうあるの?」

 

「あー、提督から聞いてないかも……」

 

夕立がぴょこんと手を挙げる。

 

「じゃあ聞きに行くっぽい!」

 

「じゃあ司令室、行こっか」

 

三人で歩き出す。

朝の光が廊下の窓から差し込み、床に細い光の帯を作っていた。

どこかで整備員の声がして、遠くから海鳥の鳴き声も聞こえる。

 

日常の音が、風景が、温かい気配が、少しずつ私を包み込んでくれる。

 

 

「ねぇねぇ、天照〜。部屋にお菓子置いていいかな?一緒に食べるっぽい!」

 

「夕立ちゃん……まだ私の部屋あるかどうかの段階だよ……?」

 

「ぽい……!でも楽しみっぽい!」

 

「はは……ほんと、元気だね」

 

そんな会話をしながら、私たちは司令室へ向かう曲がり角をゆっくり曲がった。

 

 

 

──コンコン

 

「どうぞ、入ってくれ」

 

「失礼します」

 

大きな机には書類の山、窓から差し込む陽光が紙の端を照らしている。

提督はペンを置き、こちらに優しい眼差しを向けた。

 

「おぉ、ちょうどいい所に来たね」

 

その声に私たちは顔を見合わせる。

 

「…?」「…ぽい?」

 

提督は少しだけ口元を緩め、椅子の背にもたれた。

 

「いや何。天照の寮の部屋割りを考えていてな、3人さえ良ければ同じ部屋にしてもいいか聞こうと思っていてな」

 

「そういうことなら、いいっぽい!」

 

夕立の声が弾けるように響いた。

時雨もふっと表情を和らげる。

 

「うん。僕もいいよ。提督」

 

提督は満足そうに頷き、視線を私へ向ける。

 

「わかった。天照もそれでいいかな?」

 

ふたりと同じ部屋……同じ時間……同じ空気。

そんなの、嬉しくないわけがない。

 

「もちろんです!」

 

提督は机の引き出しを開け、銀色に光る鍵を取り出す。

光に照らされた鍵は、小さな未来のようにきらりと揺れた。

 

「わかった。ただ、今の部屋は3人だと狭いだろうから大きめの部屋にお引越しだ。場所は2階の角部屋だ。

風通しもいいし、窓から海もよく見える。

鍵を渡しておくから、好きなときに向かってくれ」

 

差し出された鍵を受け取ると、金属のひんやりとした感触が手に広がる。

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

三人揃って頭を下げる。

 

「では、行ってらっしゃい」

 

「失礼しました!」

 

扉を閉めた瞬間、提督室の静けさから一転。

 

夕立はもう抑えきれないとばかりに跳ねた。

 

「お引越しっぽい!!やったっぽいー!!」

 

時雨も口元に柔らかな笑みを浮かべる。

 

「……にぎやかになるね。天照」

 

「……うん。すごく嬉しいよ」

 

言いながら、自分でも驚くくらい自然に笑えていた。

窓から射し込む光が床を照らし、

三人の影が並んで伸びている。

 

まるで、新しい生活を歓迎してくれているかのように。

 

「じゃあ……新しいお部屋、見に行こっか!」

 

夕立が私の手をとり、時雨がそっと横に並ぶ。

 

寮へと駆け出していく。

 

 

……

 

…………

 

 

「ひっろーーい!」

 

「ここが私たちの部屋……」

 

部屋は4人部屋程の広さの部屋だった。

 

「早速荷物を持ってこようか」

 

「ぽい!天照、少し待っててね」

 

「おっけー、私は部屋の掃除でもしておくね」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「じゃあ、行ってくるっぽーい!」

 

「行ってくるね」

 

「行ってらっしゃい」

 

二人が飛び出していった後の部屋には、急に静寂が落ちた。

窓から差し込む朝日だけが、まだ誰も住んでいない空間の中をゆっくりと照らしている。

 

部屋の中央に立って見渡すと、広々としているのに、どこか冷たくて寂しい。

家具は最低限しか置かれておらず、ベットが三つ置かれているだけの殺風景な空間だ。

 

「さて……掃除、しよっか」

 

私は小さく息を吐き、腕まくりをした。

 

まずは窓を開ける。

冷たい朝の風がふわりと入り込み、カーテンをやさしく揺らす。

外から聞こえてくるカモメの声と潮の匂いが、一気に空気を入れ替えてくれた。

 

部屋の隅に置いてあった掃除道具を手に取り、まずは床へと視線を落とす。

木目の優しい色をした床は、ところどころに薄く埃が積もっている。

箒を握り、ゆっくり掃く。

 

サッ、サッ──

 

木の床を滑る箒の音が静かな部屋に響く。

埃が舞い上がると太陽の光に照らされてキラキラと光る。

 

(……綺麗にしてあげなきゃ)

 

角や隙間に溜まった埃も丁寧に掻き出す。

床を掃き終えると、ぞうきんを水で湿らせ、手で固く絞った。

指先に水の冷たさが沁みる。

 

ゆっくり……ゆっくり……

 

雑巾を床に滑らせるたびに、ほこりや薄い汚れが取れていく。

拭いた部分は光を反射して、すこしずつ綺麗になっていく。

 

机の上も布で磨く。

指先が木のなめらかさを確かめるように動く。

新品ではない、でもずっと誰かに大切に使われてきたような優しい手触り。

 

次に窓の縁──

 

指でなぞると、薄く白い埃がつく。

 

「んっ……」

 

少し背伸びして拭き取ると、外の海がより鮮明に見えるようになった。

青が深くて、きらきら光っていて……

 

まるで「ここでの生活を楽しんでね」と言ってくれているみたいだ。

最後に軽くベッドの位置を整え、三人で並ぶように角度を揃える。

布団をふわりと広げると、ほのかな洗剤の匂いがした。

 

「……うん。これでいいかな」

 

掃除を終えた部屋は、さっきまでとはまるで違う顔を見せていた。

陽射しが柔らかく反射して、空気まで澄んだように感じる。

ここで三人で眠って、笑って、たくさんの朝を迎える。

そんな未来を少しだけ想像して、私は静かに息を吐いた。

 

「天照。戻ったよ」

 

遠くから時雨の声が聞こえる。

 

「もどったっぽーい!!荷物いっぱい!」

 

夕立の元気な声が重なる。

私は笑って部屋の扉へ向かった。

 

「おかえり。部屋、綺麗にしておいたよ」

 

2人は部屋を見て驚いた表情でこちらを見る。

 

「どうかした?二人とも」

 

「……天照、掃除上手なんだね」

 

「……ぽい、短時間でこんなに綺麗になるなんて……」

 

「そこそこ掃除は得意だからね〜。ささ、荷物置いちゃって」

 

「うん!」

「ぽい!」

 

布団や服、日用品を運び入れ、三人でわいわい言いながら配置を決めていく。

朝の光が差し込んで、まだ何もない大きな部屋が少しずつ生活の匂いを帯びていく。

 

しばらくして──

 

「設置完了っぽい!」

 

夕立が両手を広げて宣言する。

 

「僕もこれで終わり」

 

時雨が小さく満足げに笑う。

 

「いい感じになったねぇ。私たちの部屋、って感じがする」

 

部屋の真ん中でくるりと一回転すると、夕立が「ぽい!」と嬉しそうに笑い、時雨もどこか安心したように微笑んだ。

 

「寮も引越しは終わったし──次はどこに行く?」

 

「次は〜……。あ、私の艤装ってどこにある?」

 

訊いた瞬間、時雨が「あぁ」と手を打つ。

 

「艤装なら工廠にあるんじゃないかな。行ってみる?」

 

「行く!」

 

「わかった。じゃあ行こっか」

 

三人並んで部屋を出る。

引っ越したばかりの我が家はまだ新しい匂いがして、扉を閉めたあともどこか未練がましくその匂いが残った。

 

「じゃ、工廠にレッツゴーっぽい!」

 

「はいはい、走らないの」

 

「え、ちょっと待ってよ〜!」

 

そんな何気ないやり取りをしながら、三人で工廠へ向かって歩き出した。

 

……

 

………

 

工廠の金属音が、朝の空気の中で軽やかに響く。

油の匂い、冷えた鉄の匂い、そしてどこか甘い整備用洗剤の匂い──

この場所独特のにおいが鼻をくすぐる。

 

「明石、夕張。いるー?」

 

時雨が顔を出すと、すぐにひょこっと奥から緑髪がのぞく。

 

「明石さんは今いないけど、私ならいるよ」

 

「夕張さん、おはようございます!」

 

「おぉ!天照!艤装の名前変え終わってるよ」

 

「ほぇ?……あ!ほんとだSEA-BATからアマテラスになってる!」

 

「さっき提督に頼まれてね〜。本当はもっと兵装積みたかったんだけど、提督がダメって言うからさ〜……」

 

夕張が頬を膨らませる。

 

「あ、あはは……」

 

「で、3人とも何か工廠に用?」

 

夕張がくるっと回って聞き返す。

作業着の袖がひらりと揺れ、工具の金属光がちらりと光る。

 

「いえ、とくに用事がある訳では無いんですが。私の艤装がどうなってるかなって」

 

「なるほどね。それで2人は付き添いってことね。」

 

整備スペースへ向かって指を差した。

 

「じゃあ案内してあげる。アマテラスの艤装、すっごく面白いんだよ! 明石さんが目を輝かせて触ってたもん!」

 

「こ、怖いんだけど……?」

 

「大丈夫大丈夫〜。壊したら私が怒られるだけだから!」

 

「それはそれで怖いよ夕張さん!」

 

三人の笑い声が工廠の鉄骨に反響する。

 

……

 

…………

 

「天照、少しいいかい」

 

振り返ると、提督が工廠の入り口に立っていた。

相変わらず落ち着いた表情だが、どこか柔らかい声だった。

 

「あ、提督。どうかされましたか」

 

「あぁ、演習日時が決まったから。それを伝えにね

演習は5日後の13時00分だ。

よろしく頼むよ」

 

「はい!了解しました!」

 

胸を張って答えると、提督は小さく頷いて去っていく。

その背中を見送っていると、横から時雨が覗き込んだ。

 

「提督、なんて?」

 

「演習の日時が決まったってさ」

 

「そっか。じゃあ、5日後までゆっくりできるね」

 

「ぽい!その間に遊んだり楽しいことするっぽい!」

 

夕立がぴょんと跳ねる。

 

工廠の時計を見ると、いつの間にか夕方近くになっていた。

 

「ねぇ、2人とも、そろそろ寮に戻る?」

 

「もうこんな時間か……夕張の説明、長かったね」

 

時雨が苦笑する。

 

「うん……なかなか止まらないよね〜」

 

私も肩をすくめる。

 

「じゃあ、帰ろっか」

 

「帰ろ〜」

 

「ぽーーい!」

 

夕暮れの工廠をあとにして、私たちはのんびりと寮への道を歩き出した。

 

 

──寮へ続く道は、夕暮れ特有の柔らかい空気に包まれていた。

遠くでカモメの声、港で作業していた整備員たちの足音、寮の方からは夕飯の支度の匂いが漂ってくる。

 

「夕飯、なんだろうね〜」

 

「今日は確か、唐揚げって聞いたけど」

 

時雨が少し申し訳なさそうに振り返る。

 

「人気で、すぐ無くなるんだよね……早く行かなきゃ」

 

「ぽいっ!? それ先に言ってほしかったっぽい!急ぐっぽい!」

 

夕立が駆け足で前に飛び出す。

 

「わっ、ちょっと夕立!そんな走ったら転ぶ……って、あぁもう」

 

「夕立ちゃん元気だね〜」

 

くすっと笑って、自然に時雨の隣に寄る。

 

時雨は夕立の背中を見ながらため息をついたが、すぐにこちらの方を見て微笑んだ。

 

(なんだかドキドキする……)

 

胸がじんわり温かくなる。

 

「ねぇ、時雨ちゃん」

 

「なんだい?天照」

 

「私…ここに来てよかった」

 

「……そっか。それならよかった」

 

その一言で、時雨の表情がふっと緩んだ。

 

ちょうどその時、寮が見えてくる。

ほんのり灯った明かりは、冬の夕方にはやけにあたたかく見えた。

玄関の前で夕立が全力で手を振る。

 

「天照〜!時雨〜!はやくー!唐揚げが逃げるっぽい!!」

 

「夕立……唐揚げは逃げないよ」

 

3人で顔を見合わせ、笑い合い──

 

そのまま食堂の中へと走り込んだ。

ただの、平凡で幸せな夕暮れ。

そんな時間が、ずっと続くように思えた。

 

 

夕飯を食べ、お風呂に入った私たちは部屋に戻る。

 

「ふあぁ〜。眠いっぽい」

 

湯気の余韻がまだ肌に残っていて、ぽかぽかする。

 

「だね〜」

 

「まったく、ご飯を食べてる時は夜更かしするんだー!って息巻いてたのに」

 

時雨も、まだ髪先から湯の匂いがほんのり漂っている。

 

「それはしたいけど、夜更かししちゃうと明日に響いちゃうし今日はもう寝よっか」

 

夕立は布団にダイブするように倒れこみ、時雨は苦笑しながらタオルで濡れた前髪を整えている。

湯上がりの空気はどこか柔らかくて、ふたりとの距離がより近く感じられた。

 

「……ぽぃ………ねむぃっぽい」

 

夕立の声がすでにとろけている。

 

「じゃあ寝る準備しよっか。歯磨きした?」

 

「したっぽい〜……」

 

「天照も、もう寝る?」

 

「うん。今日は疲れたしね」

 

「わかった。じゃあ消すよ〜」

 

「はーい」「…………ぽい…………」

 

部屋は、夜の静けさに溶けていく。

 

薄暗い月明かりがカーテンの隙間から入り、二人の寝顔を淡く照らしていた。

横になった布団からは、柔らかな布の擦れる音と、時雨と夕立の小さな寝息が重なり合う。

 

──ゆっくりと瞼を閉じる。

 

ご飯の温かさ。

お風呂でほどけた身体の感覚。

そして、二人の穏やかな気配。

全部が心地よくて、胸の奥が満たされる。

 

徐々に、意識が溶けていく。

遠のいていく。

けれど最後に、すぐ近くで聞こえた声があった。

 

「……おやすみ……天照……」

 

時雨の寝ぼけ声。

返事をする気力ももうなくて、でもその声だけで、身体の力がすとんと抜けた。

 

(……おやすみ……)

 

意識はふわりと沈んで──

静かな夜に、完全に溶けていった。




ハッピーコーンです

9話目、いかがでしたか?

日常回大好きです
嵐の前の静けさってね

[次回]
【演習】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。