初投稿ゆえの未熟さをお許しください。
ジャックザリッパーの暗躍した、19世紀にレクター教授がいたらという妄想をただ書いただけです。
ハンニバル レクターは小説・映画・ドラマの人物ですが、知らなくても大丈夫です。
マッツミケルセン主演のハンニバルをモデルとしています。

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「造物主は私たちに、生きるために食うことを課し、そのために食欲をもって誘い、美味をもって支え、快楽をもって報いる」

ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン
美味礼讃 第一黙想:感覚と感覚器官について


霧都の食卓

 

 

植物が芽吹き始める四月,初春。

ゴウンゴゥンと都市に鳴り響くのは、大量の蒸気エンジン。

黒煙を吐き出す大機関の駆動音。

都に満ちるのは白い霧。

空は排煙に覆われ、鉛を貼り付けたかのようでそして視界を塞ぐほどの濃霧が充満している。

そんな下町の一角。

灰色の絵の具で描かれたかのようなくすんだ、陰鬱とした路地の片隅に二人の女が倒れ込んでいた。

 

パタリと倒れ込み,その背中の皮は裂かれ、パックリと肉々しい中身を開いて,空に晒していた。

そこから少し目をやると先ほどの女よりも少し幼い女が横たわっていた。

熟れたアケビの如くパックリと開いた腹からはみ出た腸が半刻前に降り始めた小雨に洗われて,てらてらとピンク色に光っている。

大きく見開かれた瞳孔は黒く濁り、微かに開いたくちびるから、綺麗な白色の歯がのぞいていた。

 

月の眠る昏く冷たい暗闇の中、一人の男が夜に消えていった。

 

   〜〜〜〜〜〜

 

しばらくして馬車から小ぶりで閑静な邸宅へ一人の男が降り立った。

黒いチェスターコートを羽織り、その外見は整ってはいるが地味で,平凡で,その佇まいは上品さと優雅さを感じさせる。

 

一狩り終わらせ、少しづつ湧き上がる食欲を

感じながら、ご機嫌な様子で別邸のキッチンに

戻り、男は慎重にトランクを開いた。

中にはまるで眠っているような、まだ温かい赤子が収められていた。

 

 

 

男は未知の珍味をどう調理しようかと、年甲斐も無くワクワクしていた。

 

はやる気持ちを抑えて、服を着替え,エプロンと皮をなめした長手袋を身につける。

 

解体時に最も重要な工程に移る。

 

放血は食材の下処理において最も重要な工程だ。

ここが不十分だとせっかくの特別な肉の質が数段落ちてしまうし、保存にも影響が出る。

それだけは避けねば。

 

大きな樽と漏斗を用意したのち、トランクから丁寧に取り出した食材を逆さに吊るし、頸動脈か胸部大動脈をナイフで刺し一気に放血する。

私は吊るしたが、逆さ吊りで解体するか、寝かせて解体するかは個人の好みだ。

注意点として、放血時にナイフの刺入口が大きすぎると、血が撒き散らされて掃除が大変になってしまうから気を付けなければいけない。

 

放血が終われば、素材の体表を軽く洗い,ー次は内臓の処理だ。

まずは、食材を降ろして寝かせ、内臓を傷つけないように腹を開く。

特に膀胱や小腸・大腸を傷つけると悲惨なことになるので細心の注意を払う。

その後、素早く内臓を取り出し、腹の中を冷水で洗う。

こうすることで血が抜けるだけでなく、温度が下がり身焼けを防ぐことが出来る。

同じタイミングで取り出した腸もしっかり洗っておく。

内臓の処理の次は素材の体表を軽く洗う。

洗い終わったら皮を剥ぐ。

ナイフで剥いでいる最中、刃に脂がついて切れ味が落ちることがあるが、そういったときは熱湯で湯煎すれば切れ味が戻る。

次に分割と脱骨だ。

皮をはぎ終えた素材から、頭部を外す。次に肋骨を切断して2つに割る。

最後に足を切断し、胴体の肉を各部位に切り分けていく。

普段は力尽くでも良いのだが、今回の食材は繊細な処理が求められる。

その後の分割は、解体用狩猟ナイフで丁寧にそして迅速に切り分ける。

 

眼球をくり抜き、頭に包丁で慎重に切れ込みを入れ、完全に縫合されてはいないものの邪魔な頭蓋骨を砕き、丁寧に脳も抜く。

 

   〜〜〜〜〜〜

 

さて、今日のディナーはどうしようか?

 

やはり鉄板のステーキ(レア)か。

しかしキドニーパイやハギスも捨てがたい。

 

それにしてもお腹が空いた。

 

何か、何かないのか。最高の食材の初調理にふさわしい、理想的な料理は!

  心に一筋の光が差す。

ーーソーセージ、ソーセージは如何だろう?

 

せっかく1mほどの腸があるのだ。

バラ肉やスネ肉、ウデ肉のように鉄板の部位の挽肉だけでなく、肝臓や心臓、胃などの内臓系も詰めていきたい。

食材に対してここまでワクワクする事は久しぶりだ。

ここは、一口ごとに違う食感と様々な味を楽しめるソーセージを作ってみたい。

まずは、肝臓、心臓、胃に加え、腎臓、膵臓、脳、肺、横隔膜を湯通しする。

レバーなどは特に血の塊のようなもの、このまま使うとソーセージ全体が血だらけになってしまう。

ブラッドソーセージはまた別に作る予定なので、湯に通すこととした。

この工程はあくまで余分な血や臭みを落とすためのもの。

芯まで火を通す必要はなく、サッと湯にくぐらせる程度で良い。

 

次は、今回の主目的、ミンチ制作の工程だ。

と言っても、このままだと大きすぎるので、小分けにしていく。

普段はこの時に、余分な筋や皮、脂身を取り除いておく。

だいたい2㎝角ほどにしたら、ミンシングナイフの出番だ。

最近購入したミートミンサーでも良いのだが、私の好みの大きさからすると肉を細かくしすぎる。

まな板の上に食材を移し、刻んでいく。

まな板に赤と白の肉々しい美しいコントラストが並ぶ。

それらを細かく刻み、ミンチへと変えていく。

今回は食感をある程度残したいため粗めのミンチにする。

それにしても、思っていたより楽しいなコレは。塊だった肉が細かくなっていく様がまさかこれほど風情あるものだとは思わなかった。

まさか20分ほどですべてミンチに出来るとは。

 

少し量が少ないか?

一つではなく二つ用意すべきだったか?

まぁ次から二つ用意すればいいだろう。

何はともあれ、これを腸詰めしていけばソーセージの完成だ。

一度食材を冷やしてからソーセージスタッファーを使い、肉を腸に詰める。

 

まずは、ソーセージスタッファーの先端に腸を取り付けていく。

 

それにしても今回酒にも薬物にも汚されていない素晴らしい上物が手に入ったのは僥倖だった、、、、。

お腹が空くと集中が削がれるな、ソーセージ作りに戻ろう。

先ほどミンチにした肉をソーセージメーカーに入れたのち、軽く押し出す。

こうすることによって、ソーセージメーカーの先端部分まで肉で

満たすことが出来る。

次に、腸の先端を結び、空気が入らないように気を付けながら肉を押し出していく。

どうしても空気が入ってしまったなら、針で空気を抜けばいい。

この時に肉を詰めすぎると、あとで茹でた際に破けてしまうから、余裕をもって入れることを心掛けないといけない。

また適当な長さになったら、腸を捻り紐で縛ると、区切りが出来るので食べやすくなる。

 入れる肉の順番だが、肉から詰め始め,臓器は味わいの濃いものから詰める。

徐々に味と食感が変化していくことを意識した順番となっている。

色合いがどうなるかも含めて楽しみだ。

 

思ったよりも具材の量が少ないな。

大き目のソーセージにしたとはいえ、一体をほぼ丸々使ってこれだけとは。

まぁ良い。

湯を七十度程に保ち、ソーセージをそっと沈める。

湯の揺らぎが腸をほんのり透かし、

肉の色がわずかに濃くなる。

二十分ほど茹でれば完成だ。

その間に赤子の親から収穫して保存しておいたレバーを取り出す。

表面の薄い膜を丁寧に剥ぎ、血管を抜く。

レバーは扱いを誤ると雑味が出るが、手順さえ守れば驚くほど上品な甘さを持つ。

小ぶりの銅鍋にバターを落とし、弱火で溶かす。

そこへ粗みじんの玉ねぎとエシャロットを加え、焦げつかないように木ベラで静かに混ぜる。

透明感が出たところで、レバーを一口大に切り、加える。

レバーにほんのり火が通った瞬間、少量のブランデーを注ぐ。

青白い炎が瞬き、アルコールが抜けると同時に香りだけが残る。

これをフードミルにかけ、生クリームとバターを加えて裏漉しする。

滑らかで光沢のある、淡いピンク色のムースがボウルへ落ちていく。

ムースは軽く冷やし、皿に盛り付ける。

 

 

次に、スープの準備。

本日のメインに合わせるなら、重すぎてはいけない。

軽いが旨味のある、クリームスープが良い。

収穫したばかりのガラで取っておいた白濁しかけたブイヨンを鍋に注ぎ、弱火で温める。

薄切りにしたポロネギとセロリをバターで炒め、香りが立ったところで加える。

そこへ少量のジャガイモを崩れる寸前まで煮込み、裏漉しし、生クリームで伸ばす。

濃すぎず、薄すぎず。

味の輪郭が静かに立ち上がるように塩で整える。

白磁のスープ皿に注ぐと、軽く泡が立ち、淡い香りが広がった。

 

最後に庭で摘んでおいたハコベの新芽を水で入念に洗った後に布で拭き、ざく切りにする。

何処のにでも生えている珍しくない野草だが,肉料理の付け合わせにちょうどよい苦味を持つ。

鉄のフライパンを熱し、脂身を刻んで加える。

じわりと脂が溶け出し、香りが立つ。

そこへハコベを投入し、軽く塩を振る。

ほんの数十秒で火が通るため、手早く仕上げる。

 

丁度茹で上がった主役を皿に盛り付け、

自家製マスタードと玉ねぎとパプリカのピクルス、そしてハコベのソテーを添える。

 

添えるワインは何にしようか、、。

ソーセージと言えばやはりドイツだろう。

リースリングから造られる白ワインは、一般的にフレッシュな柑橘フルーツやリンゴ、洋梨、スイカズラを想わせる白い花の香り、爽やかな酸味と生き生きとした果実感が主な特徴で、若々しい状態の時に楽しむのが主流であり、一般的にリリース後に早く楽しめるスタイルが多く、長期熟成させてから飲むタイプは少ない。

 

その一方、フランスのアルザスやドイツのより厳選された畑のブドウから造られたワインは長期熟成に耐えうるポテンシャルがあり、熟成を経ることでより香りや味わいの複雑性が増し、蜜のような甘い風味が発展し、味わいにも奥行きと広がりが感じられるようになる。

特にモーゼルは標高の高さに由来する冷涼な気候で、エレガントな酸味と余韻の長い気品に満ちたリースリングを生み出す。

あのモーゼル特有の酸味は素晴らしいものだ。

 

あのワインの甘みはソーセージの脂の甘みともよく合う事だろう。

地下のワインセラーからよく冷やされたリースリングのワインを持ってくる。

 

封を開け,グラスに注いで香りを確かめると、リンゴと白い花の気配が

静かにグラスの内側で揺れている。

 

本日のメイン

~子羊の田舎風特製ソーセージ~

外はカリッと。

でも、内側はプリッと、ジューシー。

 

シンプルであるからこそ、ソーセージには無限の

可能性が秘められている。

 

きゅっと濃厚な旨味が凝縮されたある種の芸

術。

 

それが、ソーセージという小宇宙に込められる

のは、いわば、可能性の芸術。

 

背徳と禁忌の美食をご堪能あれ!

 

 

 

 

 

 

 

すべてをワゴンに乗せ、ダイニングに移動。

ガス灯の光が低く揺れ、白い皿に淡い影を落とす。

ソーセージ、レバームースとバゲット、クリームスープ、ハコベのソテー。

どれも主張しすぎず、しかし確かな存在感を放っている。

 

グラスにワインを注ぎ、椅子に腰を下ろす。

 

食前の祈りを捧げ,まずスープを一口。

淡い旨味が舌を撫で、空腹だった胃が落ち着いていく。食事の最初に口に運ぶものとして、余計な主張がなくてちょうどいい。

次にレバームース。

バゲットの小麦の風味と硬い食感の中に冷たい食感が広がり、バゲットの香ばしさと硬い食感に、冷やしたムースがふわりと重なり、ブランデーの香りがほどよく立ち上る。

鼻孔をくすぐる匂いと、レバー本来の豊かなコクと濃厚な風味に、心が満たされていく。

味は濃厚だが、舌触りは絹のように柔らかいな。

 

リースリングを一口含むと、果実味の酸味がレバーの旨みをきれいに引き立てる。

 

 フォークでソーセージを一刺しして、口へと運ぶ。

ーー美味い。

 

皮がわずかに弾け、

中から熱い肉汁が広がる。

パリッとした皮の食感の中からあふれ出す肉汁は、これぞソーセージと言える味わいだ。

皮が破けていたらこうはいかないだろう。

上手くいったようで一安心だ。

 

 

 

このあたりはロースかな?濃厚な肉の旨みが口いっぱいに広がるようだ。

適度に脂身を感じられるのも素晴らしい。

ワインを呷る。

やはりモーゼルのリースリングは甘口ワインでも酸味が豊か、後味が爽やかで、甘すぎない。

リースリングの甘みはソーセージの脂の甘みとも合う。

まさしくマリアージュと呼ぶに相応しい。

柔らかく,優しい味わいの肉の旨みと、丹念に熟成されたワインの相性が悪いはずが無い。

これこそが美食だと自信を持って言える。

 

ふむ,脂感も少ないし、このあたりはスネ肉やネックだろうか。

素朴で奥行きある旨みだ。

付け合わせのハコベのソテーも、野の香りと脂の旨味が舌を駆け巡る。

思っていたよりも食べ応えもあり、非常に美味い

が、ロース部分の方が私は好きだな。

そうだ、マスタードを付けて味を変えてみよう。

ソーセージは素の味もいいが、マスタードのピリリとした酸味と共に味わわねば。

マスタードをたっぷり塗ったところで一口、

 

これは良い!

マスタードの酸味と辛さを添えた事で肉の味と香りがより引き立つようになっている。

少々物足りなさを感じていた食欲が再び湧き上がるというものだ。

ふむ、食感がまた変わったぞ。

ここらあたりは内臓系か。

挽肉にし、ソーセージにしてもこの独特の食感は失われていないようだ。

 

肉汁とともにあふれ出す旨味を飲み込むたびに、満足感が心から湧き出るかのようだ。

などと味わっている間に、また違う味になったな。

今度はレバーか。

 

今までとはガラリと味わいが変わる。

内臓系のコクとほのかな鉄の香り。

 

今回は血の香りを最初に少し落としたが、今度はもっと野趣を効かせてブラッドソーセージにしてもいいかもしれないな。

様々な味とワインが私の味覚を襲う。

次は何の味かと考えるとワクワクする。

これだから異なる部位の食べ比べはやめられない。

 

最後の一口を飲み込み、

心地よいほのかな酩酊感に包まれながら満ち足りたため息を落とす。

 

気が付けば完食してしまった。

次に食べる機会があればもう少し素材を調達しておこう。

 

肉に癖がなく非常に美味かったし、何より場所ごとに味や食感が変わり、とても楽しい食事だった。

手間をかけた甲斐があったというもの。

 

やはり美味しい食事は素晴らしいものだ。

 

 


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