鱗滝の養子   作:松雪草

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25話

 夜明け前の空が、藍色から白茶けた色へと変わろうとしていた。

 橋の下を流れる川音だけが、変わらずに響き続けている。

 

 俺は、白鼠色の刀を鞘に収め、呆然と立ち尽くしていた。

 

 足元には、鬼が崩れ去ったあとの灰が、風に吹かれて散り散りになろうとしている。

 その少し離れた場所には、異様な光景が広がっていた。

 

 人の皮の山。

 無造作に積み上げられた、かつて誰かだったものたちの抜け殻。

 

 そして、岩陰には、俺が助け出した男が一人、気を失って横たわっている。

 

(……終わったのか?)

 

 確かに鬼は斬った。

 この男の命も守った。

 だが、胸の奥には鉛を飲み込んだような重苦しさが残っていた。

 

 この山が築かれた時点で、もう手遅れだった命がこれだけある。

 俺が来る前に、奪われてしまった日常がこれだけある。

 

(……この人を、町まで送り届けないとな)

 

 男を背負おうと身をかがめた時だった。

 

 ふと、橋の上から複数の足音が聞こえてきた。

 

 誰かが、橋の縁から身を乗り出して下を覗き込んでいる。

 

「……こちらです!」

 

 低い声がして、数人分の足音が一斉に動き始める。

 

「鬼殺隊士、鱗滝宗右衛殿でお間違いないでしょうか」

 

「は、はい」

 

 顔を上げると、黒い装束に身を包み、顔の下半分を布で隠した男たちが数人、橋の欄干から身軽に飛び降りてきた。

 背中には大きく『隠』の一文字。

 

 鬼殺隊の事後処理部隊、「隠(かくし)」だ。

 

「隠の者です。お怪我はありませんか?」

 

 代表らしき男が、手際よく周囲を見渡しながら俺に問う。

 

「はい。怪我はありません。

 鬼は……斬りました」

 

「ご苦労様です。状況は?」

 

 俺は努めて冷静に、事実だけを伝えた。

 人の皮を被って他人に成りすます鬼だったこと。

 ここにある皮の山は、すべてその犠牲者であること。

 そして、この気絶している男が、今夜の獲物になるはずだったこと。

 

 隠たちは、眉一つ動かさずに俺の話を聞いていたが、皮の山を見た瞬間、僅かに息を呑む気配がした。

 

「……承知いたしました。

 ここから先は、我々にお任せください」

 

 隠の一人が、手際よく男を担架に乗せようとする。

 別の一人は、皮の山へと近づいていく。

 

「あの、俺も手伝います」

 

 思わず口に出していた。

 これだけの惨状だ。少しでも人手が欲しいはずだ。

 それに、俺だけがここで「終わった」顔をして帰るわけにはいかない気がした。

 

 だが、代表の隠は、静かに首を横に振った。

 

「お気持ちは有難いですが、無用です。

 鬼を斬っていただいたうえに、後始末までまでさせるわけには参りません。

 それが、我々の役目ですので」

 

 丁寧に、しかし拒絶の意志を含んだ言葉だった。

 

 言い返そうとして、言葉に詰まる。

 

(……役目、か)

 

 俺は刀の柄を握りしめた。

 彼らの言うことはもっともだ。

 だが、助けられなかった人間の方が多いのに、こうして感謝され、労われることに、どうにも落ち着かない。

 

 何かしなければいけない気がする一方で、他人の仕事を取り上げてまで手を出すのは違うようにも思えた。

 

「じゃあ……せめて、見ていてもいいですか?」

 

 俺が言うと、隠は少しだけ驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。

 

「もちろんです。

 お疲れでしたら、藤の家にお戻りいただいても構いません。」

 

「いえ。少し、ここにいさせてください」

 

 俺は橋脚にもたれかかり、彼らの作業を見守ることにした。

 

―――

 

 隠たちの仕事は、迅速かつ丁寧だった。

 

 一人が皮の山を崩し、一枚ずつ丁寧に広げて、大きな白布の上に並べていく。

 まるで、遺体を扱うように――。

 そんな感想が浮かんでしまうほどの異様な遺体だ。

 

 もう一人は、皮の近くに落ちていた指輪や髪飾り、巾着などの遺品を拾い集め、小さな布袋に分類していく。

 

 気を失っている男は、簡易の担架に乗せられ、布をかけられた。

 

 淡々と進む作業をじっと見守る。

 

 隠たちの目元からは感情の起伏はあまり読み取れない。

 ただ、仕事の重さだけが、その背中の張りつめ方に滲んでいる。

 

「……そういえば」

 

 俺は、男を運ぼうとしていた隠に声をかけた。

 

「その男の人には、どう説明するんですか?」

 

「昨夜、橋の近くで酔いつぶれていたところを保護した、とだけ申し上げます」

 

 作業の手を止めずに、隠の男が答える。

 

「細かいことは、聞かれない限りこちらからは言いません。

 真実を知ることが、救いになるとは限りませんから」」

 

「……被害にあった人たちには?」

 

 その問いには、隠の男の手が一瞬だけ止まった。

 ほんのわずかに、肩が重く沈んだように見えた。

 

「行方不明のままだと、いつまでも探し続けてしまうご家族も多いのです」

 

 彼は淡々とした口調のまま、ゆっくりと言葉を継いだ。

 

「遺品と共に、『亡くなった』と伝えます。

 川に落ちたか、獣に襲われたか……遺体が見つからない理由はいくらでも作れます。

 せめて、神仏のもとへ行ったのだと、諦めをつけていただけるように」

 

「納得……してもらえるんですか」

 

「おそらくは、していただけないでしょう」

 

 そう言って、男は苦笑ともため息ともつかない息を漏らした。

 

「けれど、何も知らされないまま、帰らぬ人を待ち続けさせるのは……もっと酷なことでしょう」

 

 隠は布袋の口を縛りながら言った。

 

「我々に出来るのは、少しでもましになるような道を選ぶことだけです」

 

 その言葉が、胸に刺さった。

 

 少しでもましな道。

 それは、決して「救い」ではない。

 ただの、悲しみの整理だ。

 

 その言葉には、長くこの役目を続けてきた者にしか出せない重さがあった。

 

 この人たちはこれから、あの遺品だけを手がかりに、家族へ「死んだ」と伝えに行くのだという。

 しかも、そのうえで真実を隠さねばならないのだ、と。

 

 それでも、誰かが伝えなければならない。

 

(俺は、これで守ったと言えるのか……)

 

 改めて、皮の山を見る。

 それぞれに名前があり、家があり、生きていた時間があったはずだ。

 

 鬼に成り代わられていた若旦那は、どんな人だったのだろう。

 どんな仕事をして、どんな家族がいて、どんな夢を見ていたのだろう。

 

 皮一枚残して消えてしまった彼らの人生を、俺は守れなかった。

 

 考えれば考えるほど、胸の奥に鉛が溜まっていくようだった。

 

 少なくとも、もう神隠しは起きない。

 これ以上、悲しむ人は増えない。

 胸を張れるのは、そこだけだ。

 

 作業がひと段落した頃には、空はすっかり白んでいた。

 

「ここから先は、町の者と連携して行います。

 宗右衛様も、どうぞお休みを」

 

「……ああ。ありがとう」

 

 俺は頭を下げ、その場を離れた。

 「休む」という言葉が、どこか他人事のように響いていた。

 

―――

 

 朝の町は、昨夜とはまた違う空気をしていた。

 

 行き交う人の数は少なく、店先にはまだ戸が下りているところも多い。

 それでも、遠くからは屋台を引く音や、井戸端で水を汲む音が聞こえてくる。

 

 「神隠し」は、今日もこの町のどこかで話題になっているのだろうか。

 

 考えながら歩いているうちに、藤の紋の屋敷へたどり着いた。

 

 藤の花の家紋の屋敷に戻ると、戸口で女将が待っていた。

 

「お帰りなさいませ、宗右衛様」

 

 その柔らかな声に、張り詰めていた糸が少しだけ緩むのを感じた。

 

「……ただいま戻りました」

 

 俺は縁側に上がらせてもらいながら、簡潔に顛末を話した。

 

 鬼を斬ったこと。

 神隠しの元凶がその鬼だったこと。

 もう、同じことは起こらないはずだということ。

 

 女将は目を閉じて、じっと俺の話を聞いていた。

 そして、静かに目を開け、深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

 その言葉に、俺は思わず顔を背けた。

 

「いえ。礼を言われるようなことは……」

 

「宗右衛様?」

 

 思わず言い淀む。

 

「せいぜい自分は、目の前の鬼を斬っただけで……多くの犠牲を許してしまいました」

 

 口に出した瞬間、自分で自分にとどめを刺したような気分になった。

 情けなさと、惨めさと、何か得体の知れないものが喉に引っかかる。

 

 事後処理の手伝いすら断られて、たった一人助けただけで帰ってきた。

 

「……宗右衛様」

 

 女将が、静かに俺の名を呼んだ。

 

 ハッとして顔をあげると、女将が俺をじっと見ていた。

 

「私には、宗右衛様のお心のすべては分かりません」

 

「はい」

 

「けれど、一つだけ確かなことがあります」

 

 女将は、まっすぐに俺を見た。

 

「それでも、こうして『誰も消えなかった朝』を迎えられたのは、紛れもなく貴方様のおかげなのです」

 

 その言葉には、俺を慰めたり、同情するような響きがなかった。

 自分がそう感じているから、そのまま口にした、という感じだった。

 

「私たちは、それぞれに出来ることを、それぞれにしているだけです」

 

「出来ることを……」

 

 俺は言葉を反芻する。

 

 隠の『我々の役目』という言葉が頭の中によみがえる。

 

 俺は、鬼を斬った。

 役目を果たした。

 

 ならばなぜ、こんなにも気持ちが晴れないのか。

 

 そうして、はたと気付く。

 

「そう、ですよね……。

 そうか、俺は……助けられなかった人たちのことばかり考えていました」

 

 どんな人だったのか。

 家族はいたのか。

 痛かっただろうか。

 怖かっただろうか。

 そんなことばかりが、頭の中をぐるぐると回っていた。

 

 勝手に、自分のことで手いっぱいになっていた。

 

 皆がそれぞれ役目を果たしている中で、俺だけがお礼の言葉すら素直に受け取らなかったことを思うと、とても子供じみた、失礼なことをしたように思えた。

 

「……い、いやー、助けにきたはずなのに、逆に慰められてるんじゃ、鬼狩り失格ですね。

 はは……」

 

 誤魔化すように笑って、頬を掻く。

 照れ隠しと、自己嫌悪が混ざり合った、苦い笑いだった。

 

「いいえ」

 

 女将はきっぱりと否定した。

 

「宗右衛様は命を懸けて鬼を斬ってくださいました。

 それは、私には決して出来ない立派なことです」

 

 指先が、そっと膝の上で組まれる。

 

「隠の皆様は、鬼が残していったものを片付け、ご遺族に伝えてくださっています。

 それも、私には出来ない立派なことです」

 

 女将の視線が、廊下の向こう、町の方角へ向けられる。

 そして、女将は少しだけ微笑んだ。

 

「私には、この宿を整え、皆様の帰りを待つことしかできません。

 ですが、こうして宗右衛様のお話を聞くことが出来ます。

 それが、私に出来ることなのだと思います」

 

 声は穏やかだったが、その目には強い意志が宿っていた。

 

 その言葉を聞いて、俺の中で何かがすとんと落ちた気がした。

 

 役割。

 そうか、そういうことか。

 

(……俺は馬鹿だ)

 

 ギリ、と奥歯を噛み締める。

 

 俺は鬼殺隊になれた時、心のどこかで、鬼を斬って大勢の人を守れる英雄のような、何か立派なモノになれるような気がしていた。

 

 でも現実は違う。

 

 俺は、鬼が被害を出したところに駆けつけて、『これ以上の』被害が出ないようにするだけなんだ。

 

 それが、鬼殺隊という仕事の本質なのかもしれない。

 常に後手に回り、失われたものを取り返すことはできず、ただ被害を食い止めるだけの、泥臭い仕事。

 

 錆兎も義勇も、きっと櫛那も、そんなことはとっくに分かっていたはずだ。

 彼らは、鬼に家族を奪われた人だから。

 

 俺だけが、勘違いをしていた。

 当たり前のことを、分かっていなかった。

 

 恥ずかしさと、申し訳なさで、合わせる顔がない。

 俺は深く俯いて、膝の上で拳を握りしめた。

 

「……すみません。

 鬼を斬った報告をするはずが、こんな……泣き言みたいなことばかり」

 

 喉の奥から絞り出した声は、自分でも情けないほど震えていた。

 けれど女将は、そんな俺を咎めるでもなく、ただ静かに言葉を紡いだ。

 

「宗右衛様が『助けられなかった』と背負っているお気持ち……その幾ばくかを、こうして私に話してくださるだけでも。

 ……それもきっと、無駄ではないのだと思いますよ」

 

 女将の言葉が、じんわりと心に染み渡る。

 胸の重石が、少しだけ溶けていくような感覚。

 

「……ありがとうございます。

 女将さんのおかげで、少しだけ、楽になりました。

 女将さんのお仕事も、俺には出来ない、とても素敵なものだと思います」

 

 俺は深く頭を下げた。

 

 なんだか頭がすっきりとしたような気がする。

 

 ゆっくりと、大きく息を吸って、吐き出す。

 もやがかっていた思考が晴れていく。

 

 そうだ、鱗滝さんに報告の手紙を出さなきゃ。

 それに、錆兎と義勇の安否も確かめないと。

 

 やるべきことが、次々と浮かんでくる。

 

 それは、生きている俺の役目でもあった。

 

―――

 

 それから数日間、俺は藤の家に滞在した。

 

 身体を休めながら、鬼の残党がいないか町を巡回する。

 あの橋の下にも何度か足を運んだが、そこにはもう何も残っていなかった。

 皮の山も、血の跡も、隠たちが綺麗に片付けていったあとだった。

 

 町の様子は、相変わらず雑多で騒がしい。

 けれど、初日ほど頭が痛くなることはなかった。

 人混みの中で、どの色を見て、どの色を見ないか。

 識彩との距離感が、ほんの少しだけ掴めてきたような気がする。

 

 ある日の午後、通りで一人の男を見かけた。

 あの夜、俺が助けた男だ。

 妻らしき女性と、小さな子供の手を引いて歩いている。

 

 男の周りには、町と同じように、雑多でそれでも穏やかな色が揺れている。

 

 男は俺のことなど知らない。

 俺も、声をかけるつもりはない。

 

(……これでいい)

 

 礼を言われるほど立派なことをしたとは、今でも思えない。

 けれど、守れたものが確かにここにある。

 それだけで、十分だった。

 

 三日目の夕方。

 中庭の縁側で風に当たっていると、空から聞き慣れた羽音が降ってきた。

 

「戻ったぞ! 戻ったぞ!

 手紙を預かってきている! 喜べ!」

 

 鎹烏が、俺の膝の上に手紙を落とす。

 

「ご苦労様。……みんな、無事か?」

 

「無事だ! お前ら三人は優秀だと、お館様も褒めておられた!」

 

 俺は安堵の息を吐き、手紙を手に取った。

 二通ある。錆兎と、義勇からだ。

 

 まずは錆兎の手紙を開く。

 相変わらず、紙からはみ出しそうなほど大きな字だ。行間も狭い。

 

『宗右衛! 無事でなにより!

 俺の方は峠の鬼を叩き斬ってやったぞ!

 思ったより骨のある奴だったが、俺の敵じゃなかったな!

 ただ、山道を一つ間違えて迷ってしまってな、着くのが遅れたのが誤算だった。

 宿場の婆さんに飯をご馳走になったんだが、「よく食べるねぇ」と驚かれたぞ。

 昔は宗右衛の食う量に呆れてたのにな、いつの間にか俺も似てきたらしい!』

 

 読んでいて、思わず吹き出しそうになる。

 あの声が聞こえてくるようだ。

 

『俺たち三人で、必ず柱になろうな!』

 

 力強い言葉に、胸が熱くなる。

 

 次に、義勇の手紙。

 端正な字だが、余白が多い。育ちの良さと、口数の少なさがそのまま表れている。

 

『宗右衛さんへ。

 こちらの任務も無事に完了しました。

 まだうまくやれているとは言えませんが、何とかやれています。

 時々、姉さんのことを思い出すこともありますが、鱗滝さんがくれた羽織に、背中を押してもらえている気がします』

 

 短い文面の中に、義勇なりの成長と、前を向こうとする意志が詰まっていた。

 

『宗右衛さんも、無事でいてほしいです』

 

 最後の一行に、俺は目頭が熱くなった。

 

(二人とも、ちゃんとやってるんだな)

 

 自分も負けていられない。

 改めて、そう強く思った。

 

―――

 

 部屋に戻り、机に向かう。

 まずは本部への報告書だ。

 北西の町での鬼討伐の結果。

 被害状況。藤の家での援助内容。

 感情を交えず、事務的に、簡潔に記す。

 

 書き終えてから、新しい紙を広げた。

 鱗滝さんへの手紙だ。

 

 筆を墨に浸し、書き出しを考える。

 

『鱗滝さんへ。

 宗右衛です。無事に最初の任務を終えました』

 

 そこまで書いて、筆が止まった。

 

 ここ数日も何度か鱗滝さんに手紙を書こうとして、止まってしまっていた。

 

 何を書けばいいのだろう。

 皮の山のこと。鬼の色。女将の言葉。

 頭の中で、色々なことがごちゃごちゃになっている。

 

(でも……今ここで書かないと、もう一生書けない気がする)

 

 俺は意を決して、筆を走らせた。

 

 鬼を斬る時に、迷ってしまったこと。

 鬼狩りになったからと言って、全員を救えるわけではないと痛感したこと。

 それでも、守れた人たちが確かにいること。

 

『救えなかった人たちのことが、まだ胸のどこかに残っています。

 藤の家の女将さんに「それぞれに出来ることをしているだけだ」と言われ、少しだけ楽になりました』

 

 そして、最後の一文。

 あの夜、狭霧山を発つ時に誓った言葉を思い出す。

 

『――生きて、鬼殺隊になりました』

 

 書き終えた瞬間、胸の奥にあった何かが、少しだけ形を変えたように感じた。

 さっきまで胸の中でぐらついていた石が、すうっと沈んで、そこに落ち着いたような。

 重さは変わらない。

 けれど、それはもう「重荷」ではなく、「碇」のような確かな重みに変わっていた。

 

 墨が乾くのを待って、手紙を畳む。

 烏の足に結びつける。

 

「鱗滝さんのところまで、ちゃんと届けてくれよ」

 

「任せろ! 任せろ!」

 

 烏が元気に鳴いて、夕暮れの空へと飛び立っていった。

 

 空の色が、茜色から群青色へと変わっていく。

 町にはポツポツと灯りがともり始め、遠くから家路を急ぐ子供たちの笑い声が聞こえてくる。

 

 これからもきっと、俺は迷いながら鬼を斬るのだろう。

 これからも、取り返せない命に出会い、歯噛みすることになるのだろう。

 

 それでも。

 

(……見ていよう)

 

 俺は心に誓った。

 

 斬ったあとの色まで、ちゃんと見ていたい。

 守られた側の色も、失われた側の色も。

 そして、それを支える人たちの色も。

 

 俺の目は、そのためにあるのだから。

 

 北西の町での最初の任務は、こうして静かに幕を下ろした。

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