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「ったくよ、こんなところで寝てたら風邪ひくぜ。」
誰かの声が聞こえてきた、もうどうでもよかったから、ほっといてほしいので無視をした。
「行き倒れか?」
鞄の中を物色されているようで目を開けようとするが微睡により僕は意識を手放した。
意識を取り戻すと様々な人が僕をのぞき込んでいる。訝しげな目が僕を支配している。
「よかった、目を覚ましたんですね。」
その重い視線の中で、大人びていながらも柔らかな目元をした少女が僕に声をかけてくる。
「私の名は
妖怪、この世にはいないはずだけど目の前の言う人の目には疑いと戸惑いが見える。そして此処は何処だろうか、先程まで山にいたはずなのに。
「あ、もしかして貴方は外からやってこられたんですか?」
彼女はそう言うと部屋から出ていってしまう。
「すみません、阿求はどうやら書くものを取りに行ったようです。しばしお待ちいただけますか?」
老婆の声が僕を宥めるように言った。
「あ、はい。僕はどうして此処にいるのでしょうか。そして今いる状況が全くわからない上に何もかもわからないのです。」
目に入る光景は豪華な部屋が第一印象だけど物足りない。まずはこの部屋を照らすのは電球ではなく床に置かれていた行燈だ。
そして先ほど出て行った少女が阿求さんね、大層良い身分なんだろうな。言葉に何を続けばいいか悩んでいると再び戻ってきた。
「外の世界とは妖怪がいない世界の事ですね、詳しく話を聞いてもよろしいでしょうか?」
僕は一瞬黙ってしまう、此処の世界に妖怪がいるということは常識が僕のいた世界と違う可能性が高い。
けれど同時に居心地の良さも感じている、目の前の人に強く必要とされているのがとても嬉しく有難いと思ってしまう。
「言葉が浮かばないのも無理はありません、では私の方から幻想郷について説明いたしましょう。」
彼女は息を吸った。
「まず今貴方がいるのは幻想郷、私たちが外の世界と呼んでいる世界とは全く別の世界です。人が忘れた物語、目を背けた真実がたどり着く先と言った方が適切かもしれません。」
目を背けた真実か、それなら本能寺の変の真相もわかるのかな。今となっては知ったとしても意味はないのだけど。
「人は非科学的な事を妖怪のせいにして真実から目を背けた。けど実際に妖怪はいたのです、人がいる限り彼らは存在した。ここは彼らにとって楽園であり人にとっても都合がよい場所なのです。だから誰かは此処を幻想郷と呼び始めたのでしょう。」
「つまり妖怪と人間は共依存のような関係なんですね。」
「共依存ですか、そうかもしれませんね。貴方が思っているよりもこの世界はずっと過酷かもしれませんが。」
彼女の瞳に一瞬の戸惑いが映る。どうしてだろうか、この瞳をどこかで見た事がある。
「此処まで話して貴方のいた世界との大きな違いはありますか?あなたがこれまで感じた違和感を全部私に話していただけませんか?それを記録するのが私の仕事ですし、貴方の認識の再確認ができます。」
「まず初めにどうして貴女は筆で書いてるんですか?ボールペンや鉛筆の方が筆よりも書きやすいと思うのですが。」
彼女は不満気な顔を見せた。
「外の世界は筆よりも良いものがあると貴方は言うんですか?私はずっと筆で書いてきました、そして貴方の言う筆や鉛筆なんてものは此処にはありません。」
此処には僕の知らない常識が山ほどあるのだと実感してしまう。
「すみません。僕みたいに外から来た人は他にいないのでしょうか。」
「いたのはいましたが彼女からそういう話は一切聞いてないですね。」
その人も迷い込んでから元の世界に帰ったんだろうか。
「その方は幻想郷に住みました。」
彼女は一旦筆を置いた。
「元の世界に戻らなかった理由は、一つには、この幻想郷から外の世界へ戻ることが、貴方が思うほど簡単なことではないからです。結界は、容易な出入りを許しません。それに彼女は此処に居場所を見つけたのが大きいかもしれません。」
彼女の眼はただ僕だけを見ていた。
「貴方が此処に迷いこんだ理由はわかりませんが何かあれば私たちや町の人たちを頼ってください。」
彼女はそう言うと一息つく。
「貴方がいずれ外の世界へ帰るのは寂しいですがまだいてくれそうなのでまた記録させてください。」
その言葉だけは信念を持っていた。僕は彼女の家から出ると見慣れない光景に唖然とした。
帰り方と帰る家が何処にもない、元々なかったのかとさえ思ってしまう。
「あ、そういえば名前をお聞きしてませんでした。」
彼女は急いでいたのか少し息を切らしている。
「
そう言うと彼女は笑い一言だけ放つ。
「ふふ、それなら私の家の蔵にでも泊っていきますか?泊まる所がないなら明日にでも建築準備でも頼んでみるわ。」
楽しそうな笑顔だったから僕はそれをずっと見ていたいと感じるのだった。