クラフトゲーマーは王国をクラフトする!   作:おんせんみかん

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13話 悪意の足音

 

道中、数匹のゴブリンが姿を現したが、俺が集団の殿(しんがり)から姿を見せた瞬間にクロスボウで射貫き、瞬殺する。

 インベントリから取り出した装填済みクロスボウの連射であっという間に片がついた。ガルドが剣を構える頃には、既に事態は収束しており、彼は呆然と立ち尽くしていた。

 ピムがまるで自分の手柄のように空中で腕を組み、ドヤ顔をしているのが少し癪に障る。

 俺は死体の横を通り過ぎる瞬間に、さりげなくインベントリへと回収した。

 人が増えた分、これからいくら食料があっても足りない。当てはあるといえばあるが、確実とは言えないからだ。

 拠点に戻る頃には、たっぷりと夜は更けていた。

 森の木々を抜け、俺たちの拠点を囲む高い石壁が見えてくると、後ろをついてきていた亜人たちからどよめきが漏れた。

 

「……なんだ、この壁は」

 

「継ぎ目がない……魔法で作ったのか?」

 

 難民達が突如として現れた頑丈な建造物に、驚嘆を露わにする。

 俺が作った防壁は、ただの石積みではない。クラフトスキルで生成した、強固な一枚岩の如き『城壁』だ。野生の魔物程度なら爪も立たない。尚且つ、スパイクも壁に設置しているためにオークでも、そう簡単には破壊はできない。

 

「着いたぞ。ここが俺の拠点だ」

 

 門に手を触れ、ロックを解除する。

 重厚な石の扉が地響きを立てて左右に開くと、かなりの広さを誇る敷地と、その奥の中央に佇む屋敷が現れた。

 

「お兄ちゃーん! 遅いー!」

 

 待ち構えていたルイが、玄関から飛び出してくる。

 だが、俺の後ろにぞろぞろと続く薄汚れた集団を見て、ぴたりと足を止め、目を丸くした。

 

「その人達がピムちゃんが言ってたお客さん? いっぱい連れてきたんだね!」

 

「ああ、これから一緒に住むことになった連中だ。ルイ、悪いがリファを呼んでくれないか? 流石に俺が風呂を案内するわけにはいかないからな。女性陣を案内してやってくれって伝えてくれ」

 

「うん、わかった! えへへ、賑やかになるね!」

 

 ルイの無邪気な反応に、緊張していた亜人たちの表情が少しだけ緩む。子供の存在は、警戒心を解くのに一役買ってくれそうだ。

 

「さて、と……」

 

 感傷に浸っている暇はない。やることは山積みだ。

 俺は中庭の広場に全員を集めると、パンパンと手を叩いて注目させた。

 

「まずは身体を綺麗にしてもらう。怪我人も多いし、そのままだと感染症も怖いからな」

 

「き、綺麗にといっても……水浴びでもするのか? この寒空の下で」

 

 ガルドが怪訝な顔をする。無理もない。今の季節、水浴びは苦行でしかない。

 しかも、今は全員が疲弊しきっている。そんな状態で冷水を浴びようものなら、死人が出てもおかしくはない。

 

(本当は風呂も止めた方がいいんだろうが、この衛生状態を放置した方が危険だろ)

 

 俺は親指で中庭の奥を指差した。

 

「うちはそんな野蛮な真似はさせない。あっちに『風呂』がある。湯は沸いてるから、男と女で時間を分けて入れ。……あと、これを湯に混ぜておく」

 

 俺はインベントリから『下級ポーション』の瓶を数本取り出し、ガルドに放り投げた。

 

「ポ、ポーション!? こんな高価なものを、ただの水浴びに使うのか!?」

 

「薄めて使うから効果は落ちるが、切り傷や打撲くらいなら一晩で塞がるはずだ。さっさと行け。まずは女子供からだ」

 

 ポーションを見た亜人たちが色めき立つ。彼らにとってそれは、金貨にも等しい命の水だ。それを惜しげもなく風呂に投入するという俺の行動は、彼らの常識を完全に破壊していた。

 俺に取っては薬草から作れる初期の傷薬程度のにんしきなんだが……

 リファとルイに連れられて女性陣が風呂へ向かうと、すぐに「きゃああっ!」「温かい……!」という悲鳴のような歓声が聞こえてきた。

 それを聞いた男たちは、ゴクリと喉を鳴らし、俺を見る目が明らかに変わっていた。恐怖から、得体の知れないものを見る目に。

 待っている間、ここにいるだけでも冷えで体力を消耗しかねない。

 俺は焚き火台をインベントリから出して設置し、木材を放り込んで点火した。

 火種も使わずにいきなり高火力の炎を出したことに、男達はビクリとして警戒する。

 

「悪いが男連中の番が回ってくるまで、これで暖を取っててくれ。俺は他にもやる事があるからな」

 

 そっけなくそう告げると、焚き火の前から離れて広場の空いている場所へと向かう。

 篝火(かがりび)の灯りも届かない暗闇に、まずは照明を設置して視界を確保する。

 マップで逐一、難民の動向を確認しているが、当初、赤色だった点は、今は黄色い点(中立)に変化している。今のところ赤い点(敵対)は一つだけだ。

 確かずっとこっちを睨んでいた子供がいたことを思い出した。

 

「そりゃ、大人みてぇに割り切れるもんじゃねーわな」

 

 推測だが、近しい誰かを人間に殺されでもしたのだろう。

 憎むのは仕方がないとは俺もわかる。だが、だからと言ってリファとルイに危害を加えるようなら、その時は覚悟が必要だなと、俺は深い溜め息を吐いた。

 さて、女性と子供達が風呂に入っている間に、寝床の確保だ。

 母屋は俺たち三人だけで手狭だ。二十人が寝泊まりできるスペースはない。

 

「……資材が減るな」

 

 俺はぼやきつつ、メニュー画面を開いた。

 貯めていた資材を確認し、また一つ溜息をつく。

 頭の中で設計するのは、天井がやや低い体育館のような建物だ。別に難民だから体育館を連想したわけではない。

 ただの体育館とは違い、石造りで内張に木材を使う。耐久値も高く、結構な断熱効果も期待できるだろう。

 灯りには壁際に蝋燭台を設置する。我が家にもあるが、この蝋燭台はなぜか火を灯していても“蝋燭が減らない”のだ。その辺りはゲーム準拠ではあるのだが、地味に謎物質である。

 

(あー、そうだ! ついでだから実験的なアレも試してみるか?)

 

 俺は思いつきで、建物の床下にパイプを通す形に設計を変更する。

 満足がいく設計に仕上がり、笑みを浮かべて一つ頷いた。そして、設置場所を指定し、決定ボタンを押した。

 

 ズズズズズズッ……!!

 

 重低音と共に、何もない地面から光の粒子が噴き上がり、木材と石材が自動的に組み上がっていく。

 柱が立ち、壁が張られ、屋根が覆う。

 わずか十数秒。

 更地だった場所に、二十人が余裕を持って寝られる横長の石造りの建物が出現した。

 

「な、ななな、なんだこれはぁぁぁッ!?」

 

 風呂の順番待ちをしていた男たちが、腰を抜かして絶叫した。

 ガルドに至っては、開いた口が塞がらず、パクパクと金魚のように口を動かしている。

 

「おい、ガルド。なに馬鹿面さらしてる?」

 

「お、お前……人間、なのか? 魔法使いでも、こんな……城を一瞬で建てるような真似は……」

 

「俺はクラフターだと言ったろ。……よし、次は中身だ」

 

 俺は完成したばかりの宿舎に入り、『簡易ベッド』と『毛布』を人数分クラフトして並べていく。

 殺風景だが、清潔で雨風は凌げる。彼らが今まで寝ていたであろう洞窟や森の地面に比べれば、天国のような環境のはずだ。

 最後の仕上げとして、家の外にボイラーを設置し、土台部分からはみ出しているパイプと接続させる。

 ボイラータンクに水を目一杯入れて、燃料に採れたての石炭を投入し、ツマミを回した。

 するとすぐにタンク部分から湯気が上がり始めた。

 最後に中を確認し、実験の成功を喜んだ。作業を終えて外に出ると、ちょうど風呂から上がった女性たちが、湯けむりと共に戻ってきたところだった。

 ボロボロだった服の代わりに、俺が用意した清潔な衣服を身につけている。

 ポーション入りの湯のおかげか、顔色は幾分マシになり、小さな子供の擦り傷は綺麗に消えていた。

 

「すごい……本当に傷が消えてる……」

 

「温かいお湯なんて、いつぶりだろう……」

 

 涙ぐみながら互いの無事を確認し合う彼女たちを見て、俺はようやく少しだけ肩の荷が下りるのを感じた。

 

「おい、男共。次はお前らの番だ。さっさと入ってこい。上がったら飯にするぞ」

 

 俺が声をかけると、男たちは弾かれたように風呂場へとダッシュした。

 その背中は、最初に出会った時の殺気立った獣のものではなく、ただの風呂を楽しみにする疲れた男たちのそれだった。

 

「……ふん、現金な奴らだ」

 

「ハルカ」

 

 いつの間にか、リファが隣に立っていた。

 さっぱりとした表情で、風呂上がりの髪からいい匂いをさせている。

 

「ありがとう。……やっぱり、ハルカは優しいね」

 

「別にそんなんじゃない。精霊王との契約だからだよ」

 

 俺はそっぽを向きながら答えた。

 リファはクスクスと笑い、俺の服の袖をちょんと摘んだ。

 

「うん。そういうことにしておく。……ご飯、作ろうか? 今日は大勢だから、たくさん作らないとね」

 

「ああ、頼む。とびきり美味いもんを作って、あいつらの胃袋も掴んでやろうぜ。そうだ! これ。岩塩もちゃんと見つけたんだ」

 

 俺は洞窟で取ってきた一塊もあるピンク色の結晶を、リファへと手渡した。

 リファは表面を軽く撫でてから、ひと舐めすると目を輝かせた。

 

「わ。やったね! ハルカ、これでみんなが驚くような料理を頑張って作るわね!」

 

「俺も楽しみにしてるよ。腹がぺこぺこだ……」

 

 リファは俺の様子に笑みを浮かべると、インベントリから出した幾つかの肉とハーブ類を持って家へと戻っていった。

 夜の帳が完全に下りた頃、中庭には大きな焚き火と、いくつかの松明が焚かれ、昼間のような明るさに包まれていた。

 大鍋から立ち昇るのは、塩とハーブで煮た牛肉のスープの匂いだ。

 それらは、飢えた亜人たちの胃袋を容赦なく刺激していた。

 

「……こ、これは、夢か?」

 

 配給された木の椀に並々と注がれた大量の肉入りスープを前に、信じられないといった顔で凝視する。

 震える手でそれを口に運んだ一人の獣人が、一口食べた瞬間、ボロボロと涙を流し始めた。

 

「うまい……うまい……ッ!」

「温かい……こんなに肉が入ってる……!」

 

 そこかしこで嗚咽と咀嚼音が混ざり合う。

 彼らにとって、それはただの食事ではなかった。生きていることの実感であり、人としての扱いを受けた証だった。

 

「……すまない。礼を言う」

 

 ガルドが俺の隣に座り、椀の中身を大事そうに飲み干してから口を開いた。

 

「これほどの食事、我々には過ぎた待遇だ」

 

「気にするな。精霊王との取引だ。だが、しっかり食って、明日から働いてもらう」

 

 俺はそっけなく答えつつ、自分のスープを口にする。

 少し濃いめの塩気が疲れた体に染み渡る。おそらく今これを口にしている亜人達にとっては、さらに染みていることだろう。

 少し落ち着いた様子のガルドに、俺は気になっていたことを尋ねた。

 

「なあ、ガルド。外はどうなってる? ただの差別にしては、お前らの追い立てられ方は異常だぞ」

 

 ガルドの顔が曇る。彼は焚き火の炎を睨みつけながら、重い口を開いた。

 

「……王都で布告が出たのだ。『亜人排斥令』だ。隣国との戦争準備のために、我々亜人を『資源』として徴収するというな」

 

「資源、だと?」

 

「魔力持ちのエルフは魔力タンクに、腕力のあるドワーフや獣人は最前線の肉の盾や前線構築の工夫に……。要は使い捨ての道具だ。それに乗じて、金目当ての『亜人狩り』どもが活発になっている。我々を追っているのも、その手の連中だ」

 

 予想以上にきな臭い話だった。国ぐるみでの迫害となれば、ここもいつまで安全か分からない。

 だが、もう賽は投げられたのだ。

 

「……ハルカよ」

 

 重苦しい空気を払拭するように、ピムがふわりと俺の目の前に飛んできた。

 

「腹も満ちたようじゃな。……そろそろ、『契約』の履行と行こうか」

 

 その言葉に、俺と、そして隣にいたリファが息を呑む。

 周囲の亜人たちも、何事かと食事の手を止めてこちらに注目した。

 

「リファ、こちらへ」

 

 ピムに促され、リファが焚き火の前へと進み出る。

 俺は彼女の隣に立ち、その肩を抱き寄せた。震えているのが分かった。

 

「……痛くはないか?」

 

「わからぬ。精霊王様の御業じゃ。人の(ことわり)の外にある」

 

 ピムが空中で印を結ぶと、リファの右腕――俺が作った木製の義手が、淡い緑色の光に包まれた。

 

「森の源流、生命の息吹よ。失われし形を紡ぎ、在るべき姿へ還せ」

 

 ピムの詠唱と共に、光が強さを増す。

 

 バキッ、メキメキッ……。

 

 義手がきしむ音がしたかと思うと、木製のパーツが光の粒子となって分解され、宙に溶けていく。

 代わりに、光の中から現れたのは――骨、神経、筋肉、そして皮膚。

 まるで早回しの映像を見るように、失われたはずの腕が、指先まで再構成されていく。

 それは俺のクラフトとは全くの別種、まさに奇跡とも呼べる光景だった。

 

「なっ……!?」

 

「腕が……生えてきた……?」

 

 ガルドたちが驚愕に目を見開く中、光が収束し、パキンと弾けた。

 そこには、白くなめらかな、リファの「本物の右腕」があった。

 

「……あ……」

 

 リファが呆然と自分の右手を見つめる。

 恐る恐る指を動かす。親指、人差し指、中指……。

 自分の意思で、滑らかに動く指先。

 

「うご……く……。あったかい……」

 

 リファは震える右手で、そっと俺の頬に触れた。

 先ほどまでの冷たい木の感触ではない。

 柔らかく、温かい、人間の手のひらの温度。

 

「ハルカ……温度が、わかるよ……。ハルカの顔、あったかい……っ」

 

「……ああ。俺にも伝わってるよ、リファ」

 

 リファの瞳から大粒の涙が溢れ出し、彼女は俺の胸に飛び込んできた。

 俺は強く彼女を抱きしめ返す。その背中に回された両腕の感触を、俺は一生忘れないだろう。

 中庭は静寂に包まれ、やがて誰からともなく拍手が起こり、それは万雷の喝采へと変わった。

 奇跡を目の当たりにした亜人たちは、涙を流しながら精霊と、そして彼らを受け入れた俺たちを称えた。

 

 ――だが。

 

 この温かな時間が、長くは続かないことを俺たちはまだ知らなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 同時刻。

 拠点から数キロ離れた森の中。

 ざっ、ざっ、と枯れ葉を踏みしめる集団があった。

 揃いの革鎧に身を包み、腰には長剣や捕縛用の鎖を携えた男たち。その数は三十名ほど。

 

 その先頭を行く男が、地面に片膝をつき、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「……見つけたぜ。やはり、この先に逃げ込んだか」

 

 男が指でなぞった地面には、真新しい足跡が残されていた。

 そして、その視線の先――木々の隙間から、夜空に向けて微かに立ち昇る緑色の光が見えていた。

 

「おいおい、あんな派手な魔力光出しやがって。居場所を教えてくれてるようなもんじゃねえか」

 

「隊長、どうします? 罠の可能性もありますが」

 

 部下の問いに、隊長と呼ばれた男は嗜虐的な笑みを深め、腰の剣をすらりと引き抜いた。

 

「関係ねえ。亜人どもの隠れ家だ。抵抗する奴は皆殺しにしちまえ。ただ、金になりそうなメスとガキだけ生け捕りにする。メスは色々と使えるからなぁ。いろいろとなぁ」

 

 男は緑の光の方角を剣先で指し示した。

 

「行くぞ。今日は大漁だ」

 

 殺意を含んだ風が、森を吹き抜けていった。

 平穏な拠点のすぐそこまで、悪意の足音が迫っていた。

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