クラフトゲーマーは王国をクラフトする!   作:おんせんみかん

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6話 鉄の素晴らしさを小一時間語りたい。

 

 食事を終えて一息ついた俺は、先ほど確認しかけた空中のウィンドウに意識を集中した。

 

【レベルアップメニュー】

・現在のレベル: 1 ⇒ 2

・獲得スキルポイント: 5

・新規クラフト

・[設備]簡易炉、(かまど)、鉄の建材

・[武器]鉄のナイフ、鉄の剣、鉄の槍

・[道具]鉄のツルハシ、鉄の斧

 

(やっぱりだ! レベルが上がって新しいレシピが出てる!)

 

 表示された項目を見て、俺は小さくガッツポーズをする。

 石の武器でもゴブリンは倒せたが、やはり心許ない。今後、もっと強い魔物が出てくる可能性を考えれば、鉄装備への更新は急務だ。

 それに《簡易炉》があれば、金属の加工も可能になるだろうし、(かまど)があれば煮炊きも出来るから食生活も劇的に良くなる。

 

「よし……決まりだ」

 

 俺は顔を上げて、くつろいでいる二人に声をかけた。

 

「二人とも、少し休憩していてくれ。俺はちょっと周辺を探索してくる」

 

「探索? またゴブリンが出るかもしれないわよ?」

 

 リファが心配そうに身を起こす。

 

「ああ、だから遠くへは行かない。この小屋の裏手、岩場になっていただろ? あそこで少し探し物をしたいんだ」

 

「探し物?」

 

「鉄だ。もっと強い武器を作るには、石じゃ限界があるから鉄がいる!」

 

 インベントリから石のツルハシを取り出して肩に担ぐ。

 

「もし何かあったら大声で叫んでくれ。すぐ戻るから」

 

「わかったわ。ハルカも気をつけてね」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 二人の声に見送られ、俺は再び外へと出る。

 小屋の裏手は、切り立った崖と大小の岩が転がる荒地になっていた。

 湧き水が出るということは、地下水脈があり、地層が露出している可能性が高い。ゲームの定石で言えば、こういう場所には鉱脈があるはずだ。

 

「さてと……頼むからあってくれよ……」

 

 俺は目を凝らして岩肌を観察し始めた。

 ただの灰色の石灰岩や、苔むした岩ばかりが目につく。だが、諦めずに奥へと進んでいくと、崖の亀裂付近に、他とは明らかに色の違う岩が露出している。

 赤茶色く錆びついたような色合い。周囲の岩よりも黒ずんでいて、重厚感があった。

 

「これ……もしかして」

 

 俺は近づいて、その岩の表面を撫でてみた。ザラザラとしていて、手に赤っぽい粉がつく。酸化鉄だ。

 

「ビンゴだ!」

 

 俺は石のツルハシを構えると、その赤茶色の岩に向かって大きく振りかぶった。

 

 ──ガキンッ!!

 

 甲高い音が響き、手に強烈な痺れが走る。

 さすがに硬い。だが、岩の表面には確実にヒビが入っていた。

 

「硬ってぇ……でも、壊せない硬さじゃない!」

 

 ガキンッ! ガキンッ! ガゴッ!

 俺は無心でツルハシを振るう。

 一撃ごとに体力(スタミナ)ゲージが少しずつ減っていくのが見えるが、朝の肉効果か、回復速度が早くて気にならない。

 十回ほど叩きつけたところで、ボロリと岩の一部が崩れ落ちる。

• [鉄鉱石]を手に入れた。

• 採掘スキルを習得しました。

「よしっ! まずは一個!」

 

 足元に転がった、ゴツゴツとした黒っぽい石の塊。

 それを拾い上げると、ずしりとした重みを感じる。

 俺はそれをインベントリへと放り込んだ。

 

「さて、ここからが本番だ。あの『解体』機能……鉱石にも使えるのか?」

 

 俺は緊張しながら、インベントリ内の[鉄鉱石]に意識を向ける。

 通常なら、炉を作って、燃料を入れて、時間をかけて精錬しなければならない工程だ。

 だが、このチートインベントリなら――。

 

• 鉄鉱石

精錬しますか? YES/NO

 

「ははっ……やっぱりな! 便利すぎて笑いが止まらねぇ!」

 

 俺は迷わずYESを選択した。

 ゴブリンの時と同じように、鉄鉱石のアイコンが一瞬光り、別のアイテムへと変化する。

 

• 鉄のインゴット×2

• 石ころ×3

「精錬時間がゼロな上に、不純物まで分けてくれるのかよ……」

 

 試しにインゴットを取り出してみると、銀色に輝く美しい長方形の延べ棒が現れた。

 熱を持っているわけでもなく、ひんやりとしている。純度100%の鉄だ。

 

「これなら……いける!」

 

 俺は興奮を抑えきれず、残りの鉱脈に向かってツルハシを振り下ろした。

 この岩場にある鉄鉱石をあらかた採掘し終える頃には、俺のインベントリには十分な量の鉄インゴットが積み上がっているはずだ。

 そうすれば、槍も、剣も、もしかしたら防具だって作れるかもしれない。

 サバイバルの質が、上がる前兆を感じる。

 

「待ってろよ二人とも。今夜はもっと安心して眠れるようにしてやるからな!」

 

 俺は乾いた音を響かせながら、夢中でツルハシを振るい続けた。

 インベントリ内には、合計で鉄のインゴットが18個、そして大量の石材となぜか数個の宝石の原石が入っていた。

 このチート能力のおかげで、もはや資材集めは苦労ではない。

 

「これだけあれば、当面は大丈夫だろう」

 

 俺は満足して小屋へと戻った。

 小屋に入ると、ルイは焚き火のそばで眠ってしまっており、リファが横で、ルイに膝枕をしていた。

 

「お帰りなさい、ハルカ。何か見つかった?」

 

 リファが小声で尋ねる。

 

「ああ、ばっちりだ。まずはこれを見てくれ」

 

 俺はインベントリから、キラキラと輝く銀色の鉄のインゴットを一つ取り出した。

 

「鉄のインゴットだ。これでようやく、まともな武器や道具が作れる」

 

「すごい……こんな綺麗な鉄の塊、どうやって……?」

 

 リファは驚きながらも、すぐにハッとした顔になり、口元に人差し指をあてて、はにかんだ笑みを浮かべた。

 

「そうね、聞かないでおくわ。とにかく、手に入ってよかった」

 

 これで心置きなく作業ができる。

 俺は早速、作業台のクラフトメニューを開いた。

 

「よし。まずは二人のための装備と、この小屋の補強だ」

 

 まずは、リファとルイの分のナイフと、俺の新しい武器からだ。

 わずか数分で、柄が木製で刃が銀色に輝く大小二振りのナイフと、頑丈そうな鉄の穂先がついた新しい槍が完成した。

 俺はルイとリファのナイフを纏めて渡す。

 

「リファ、これを使ってくれ。護身用にはなる。小さい方は危険じゃなければ、ルイにあげてくれ」

 

「ありがとう……! こんなにしっかりとしたもの……」

 

 リファは鉄のナイフの重みを片手で確かめ、その冷たい感触に目を見開いた。

 

「それと、俺はこの石の槍を、これに替える」

 

 新しい鉄の槍を手に持つと、安心感が段違いだった。攻撃力も格段に上がっているはずだ。

 さらに余った鉄のインゴットを使い、ツールも石から鉄へとグレードアップさせる。

 

「ごめん! もう一度採掘に行く。今度は少し深めに潜るから声が聞こえないかもしれない。厳重に戸締りをしてくれ。なるべく早く戻るから」

 

「大丈夫よ。ハルカがこれをくれたから、ゴブリンや森オオカミが来ても、戻ってくるまで耐えてみせるわ」 

 

「はは、頼んだ!」

 

 俺は出来上がったばかりのツルハシを担ぎ、インベントリには鉄のスコップと、鉄の斧も入っている。

 それから一時間と少しの時間、たまに水とキノコを齧るだけで掘り続ける。鉄のツルハシの性能のおかげか面白いように鉄鉱石が掘れる。しかも中には宝石や宝石とは少し毛色が違うものまでインベントリに収納されていた。

 夢中になって掘っていたせいで、予定よりも少し遅くなってしまった。俺は慌てて小屋へと戻った。

 そこには出た時と全く変わらない小屋があったので、安心する。

 

「ただいま! ごめん。少し遅くなった!」

 

 小屋の扉を開けて、中に入るとふわりと暖炉の温もりとともに、リファとルイ。二人の笑顔が飛び込んできた。

 

「お帰りなさい。ハルカお疲れ様」

 

「ハルカおかーりー! 晩御飯はどうする? またあのお肉?」

 

 二人の出迎えを見て、俺の中で何が暖かいものが生まれたような気がして、自然と笑みが溢れでる。

 

「こら! あれは特別なものだから……って、ハルカどうしたの?」

 

「ハルカ、泣いてる?」

 

 ルイの言葉に頬を触ってみると、そこで涙を流している自分に気がついた。

 

「あー、いや。少し煙が目に入ってなー! ちょっと換気した方がいいかもな!」

 

 俺は苦しいなと思いながらも、二人に対してそう言って背を向けた。

 もちろん、クラフトで作った焚き火台はなぜか煙が出ないのだが……

 

「そうね……少し換気しましょ。ここは煙いから……ハルカは水を汲んできてくれる?」

 

 リファはそっと立ち上がって向けられた俺の背に、ピッタリとくっつくようにそう言って、入り口に向かって、軽く押し出してくれた。

 

(ほんと、良い女だよ。リファ。足向けて眠れねーわ)

 

 俺は外に出て湧き水の場所へと来ると、インベントリから水を取り出して顔を洗った。

 そして気分も落ち着いた事を確認して、小屋へと戻ってきた。

 すでに昼を過ぎて、まもなく斜陽が差し込んでくる時間帯になる。

 俺は急いで拠点の強化の準備を始める。

 作業台に向かい、必要な建材を次々制作スロットにぶち込んでいく。

 そして出来たらスロットへと移し、空いた制作スロットに新しい建材の予約を入れる。

 そうこうしているうちに、太陽もかなり傾いてきていた。

 まずは昨日のゴブリンの襲撃でわかったが、壁の耐久度の減りから、ゲームの初期敵とほぼ攻撃力が同じと考えられる。

 そのためにまず木製の土台と壁、窓を全て石に進化させることにした。

 そして肝心の窓と扉だが。

 

 【クラフト:簡易の鉄格子】

 鉄のインゴット×4、木材×10)

 

 小屋の入り口の扉は、頑丈な木材で横木が組まれ、その外側から鉄のインゴットを加工した格子状の補強材が縦に取り付けられた。これでドアをこじ開けられる心配はほぼ無くなる筈だ。

 

「これで、壁とドアは頑丈になった。次は窓だ」

 

 窓の大きさは普通のサイズへと変更されたが、細い鉄の棒を編んだ格子を取り付けた。これで外の様子を(うかが)いながら、魔物が侵入するのを防げる。

 

 さらに格子もすり抜けるような小型の生物や防寒に、スライド式の鉄の補強窓板を取り付けた。

 焚き火台も一旦撤去して、代わりに(かまど)を設置した。これで炎が安定し、熱効率も上がる。

 

「あとは、食事をもっと快適に」

 

 すぐに薄い鉄板と、小さな持ち手付きの鍋がインベントリから現れた。

 

「これを(かまど)にかければ、キノコや肉を焦がさずに焼けるし、湧き水を使ってスープだって作れる!」

 

 調理器具を(かまど)の上に設置し、試しに水を入れてみる。火にかけなくても、炉の余熱でほんのり温かい。

 

「すごい……たった半日で、こんなに変わるなんて」

 

 リファは補強されたドア、炉、そして調理器具を驚きの目で見つめていた。

 

「これで食料の心配はなくなったし、夜も前よりは安心して眠れるはずだよ。これで、今できる最低限の拠点は完成だ。あとは、この森から出て、リファが言っていた『西の街』にいく準備を始めよう」

 

「本当にありがとう。どれだけ感謝してもしきれないわ!」

 

「あー、うん。それと……その……あれだ! うん。あとこれを二人に」

 

 俺はなるべく照れないように、リファにインベントリからあるものを渡す。

 

「これは……服と……義手?」

 

「あー、うん。服は二人が集めてくれた蔦とかから繊維を取って作ったやつだから。これから移動も寒くなるし、その格好じゃ二人とも外は寒いだろ? それとほら。リファは、その……片腕がないから歩く時にバランスが取りづらそうにしてただろ? だからさ。とりあえずは木製だけど……」

 

 おそらく、俺は今顔が真っ赤になっているだろうが、きっと優しい彼女なら焚き火の照り返しとか言って見て見ぬふりをしてくれるに違いない。なんて、考えていると不意に体に衝撃がきた。

 

「バカ! 顔を真っ赤にしてまで……ハルカのバカっ! こんな事されたら──ここまでされたら恩が返しきれないじゃない!」

 

 涙を流しながら抱きついてきたリファを抱き止めて、頭を優しく撫でながら、苦笑を漏らしながら言う。

 

「笑顔で受け取ってくれよ……。恩とかさ。ほんと返さなくてもいいし、むしろこれは俺からの恩返しみたいなもんなんだから……」

 

「……ばか……ありがとう。ハルカ。私は一生、今日のことは忘れないわ」

 

 そう言って、俺の体から離れたリファの顔は真っ赤に見えたが、これは焚き火の照り返しに違いない。っと、柄にもなく浸っていると、下から裾が小さく引っ張られた。

 

「ねー、ルイのは?」

 

 小さなお姫様が物欲しげに姉が持つ物と俺を見比べて、上目遣いで訴えてくる。

 

(この年でおねだり上手とか将来が恐ろしいぜ!)

 

 俺は小さく微笑むと、インベントリから服を取り出した。

 

「もちろん、あるに決まってるだろ」

 

 しゃがみ込んで視線を合わせて、服を手渡す。

 

「わーい! ハルカ大好き!」

 

 しゃがみ込んだままの俺に、抱きついてきたと思ったらほっぺにキスをしてきた。

 俺は突然のことに体が硬直して、リファは目を見開いて見ていた。

 

「全く、末恐ろしいお子様だよ」

 

「もしかして、私もした方がいいかしら? ねぇ、ハルカ」

 

 肩を竦めながら立ち上がると、リファがいたずらっ子のような表情で、下から覗き込むように問いかけてきた。

 俺は真っ赤に染まった顔を、片手で覆った。

 

「──勘弁してくれ」

 

 そんな様子の俺の姿を、リファはケラケラと楽しそうに笑い、ルイも釣られるように笑い声をあげて、部屋の周りを駆け回っていた。

 少し経って、室内が落ち着いた頃を見計らって、最後の作業を始める。

 これはあまり使いたくないのだが、防衛の基本にして奥義を使うことにした。

 

 ──それは……

 

「スパイクせんせーしょーーーかん!」

 

 俺は石にバージョンアップした小屋の周囲に、切り出した木を乱雑に組んだだけの刺付きバリケード。ゲームでの愛称は『スパイク先生』を設置する。見た目は悪いが、獣やゴブリンの突進を防ぐには十分だった。

 使いたくなかった理由は、敵への効果的な防衛には、もっとも適した設置物なのだが、いかんせん。触れた者は全て傷付ける思春期みたいなトラップのため、子供がいる今はなるべく設置したくはなかった。

 しかし、拠点防衛には凄まじい威力を保つために、使わざるを得ない。

 整然と小屋の周囲を囲うスパイク群に、俺は満足感に包まれながら、達成感と疲労を感じていた。

 気がつけば陽はすでに沈みかけていた。

 空が茜色に染まり、まるで血のように見える。

 その時、昨日ゴブリンが出てきた森の奥から、大きな枝を踏み砕くような音が聞こえた。

 その音は、ゴブリンの軽やかな足音とは明らかに違う、重く、大きな獣の足音だった。

 

「リファ……」

 

 俺は急いで小屋の中へと入ると、鉄のかんぬきをかけて、窓を開けて、格子から外の様子を伺う。

 鉄の槍を構えて、緊張感から唾を飲んだ。

 

「何か、来るぞ……」

 

 もはや、陽の光が落ちきって、夜の闇が世界を支配している錯覚を覚える。

 そんな闇の中を明らかに重量のある何かが足音を立てて、こちらへと近付いてくるのが音でわかった。

 森の木がバキバキと折れる音を出しながら、それは現れた。

 それは熊と猪を足したような異形の姿の化け物が二足歩行で木の枝を折りつつ、森の中から姿を現した。

 体長は森の木から推定するだけで、俺の倍以上はあるのがわかる。

 

「ハルカ! オークよ! まだそんな季節じゃないはずなのに!」

 

 リファが遠目から窓の外のオークを見て、叫ぶようにそう言った。

 ルイは怯えてリファに、縋り付いて震えている。

 

「大丈夫だ! 昨日とは違う。拠点も強化してあるし、外にはスパイクも設置されている。ここは安全だ!」

 

 昨日と違って、自分でまるでホラーの序盤でフラグになりそうなこと言っているなと考えるほど、少し冷めた部分が残されているのは、おそらくはストレス耐性のおかげだろう。

 

『プギィ?』

 

 オークの声だろうか。少し間の抜けた声が聞こえた直後に、スパイクに触れてダメージを受けたのだろう。突然建物を振動させる大声が響き渡る。

 

『ぶぎぃいいぃぃいぃぃいぃ』

 

 それはまさに咆哮といった様相で、外からドスンドスンという建物を揺らすような振動すら感じられた。

 

「これ! 本当に大丈夫なの!?」

 

「だ、大丈夫だ! この程度じゃ、建物にダメージ入らない!」

 

 リファが引き攣った顔で、俺に縋るような視線を向けてくるが、俺も引き攣った笑顔で答えを返す。

 事実、俺の目に映る壁の耐久度は全く減ってはいない。

 上手くスパイク先生が攻撃を防ぎつつ、ダメージを返しているようで、小屋が揺れるほどのの衝撃が時折くるが、その度に悲痛な絶叫が上がることでわかる。

 

(大丈夫だ! スパイクの耐久値は木の壁と同程度だが、その分、ダメージも向こうに与えるから、壊れる前にオークは引くはず!)

 

 室内からスパイクの耐久値が見えないために、不安感が拭えないが、最悪、スパイク先生が破壊されたとしても、石の壁の耐久度は木の壁なんかとは比べ物にならないほど高い。

 

『プギィィィィ、ゴァァァアァ!』

 

 ──バキバキバキバキィ!

 

 一段と高い咆哮を上げたかと思うと、激しい衝撃と共に、決定的な破砕音が響き渡ったことで、スパイク先生がお亡くなりになられたことを理解させられた。

 

「は…ハルカ?」

 

 腕に暖かな感触に気付いて、横を見ると、怯えた顔を見せたリファと視線が交差する。

 俺は意を決すると、リファに声をかけた。

 

「これから俺がすることは頭がおかしく見えるかも知らないけれど、信じてくれ!」

 

「何をする気!?」

 

 俺はしがみ付くリファの手をそっと引き剥がして、ドアの方へと向かっていく。

 

「危ないことはやめてっ!」

 

「大丈夫! ちゃんと考えはある!」

 

 確かに恐怖心が強く警鐘を鳴らすが、それよりもこのまま、相手が諦めるまで、待って傷を負わせたままで、逃がしていいのかと考えたのだ。

 

(田舎の叔父さんが言ってた。銃を撃つ時は、半矢──手負いにして逃すな。矢をかけたら、命掛けて止めをさせってな)

 

 弓矢ではないが、スパイクで相当な傷を負っていると想像できる。

 もしも、奴が今諦めたとしても果たして大人しく別の場所に行くだろうか? 答えはわからない。

 ならば、自分に出来ることは、ただ一つだけだ。 

 

「この場で確実に殺す! そうじゃないとこっちにはルイだっているんだ! なんかあってから後悔なんてのはごめんだ!」

 

 俺は鉄の槍を握りしめて、ゆっくりと鉄のかんぬきを解いて、扉をゆっくりと内側へと開いた。

 その直後、血塗れの巨大な手が入り口から飛び出してきた。

 

「きゃあぁぁ!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

 後ろから二人の悲鳴が聞こえるが、俺は咄嗟に後ろに飛び退いて、手を躱した。

 油断なく鉄の槍を構えたまま様子を見る。

 しかし、肩から先は入口が小さすぎるせいで入れないようで、腕だけがこちらの気配を探して右に左に暴れている。

 

(思ったとおりだ! 見た時から絶対に体は入らないってな!)

 

 俺はその腕を無視して、入口の少し離れたところにある窓に駆け寄って、外を覗き込む。

 オークは巨体をどうにか中に捩じ込もうと、顔を扉の上部に押し付けるようにして、必死に腕を伸ばしている。

 そして俺は窓から例の作戦を開始した。

 

(ゲームシステムがまんま、活きるとしたらできるはずだ!)

 

 オークが夢中になっている反対側──オークの背後に余分に作っておいたスパイク先生を遠隔設置する。

 その後、入り口を正面に『コ』の字を描くように設置する。

 それでもオークは部屋の中に夢中で、気付くことはなかった。

そして、失神しそうなほどに恐怖している二人の元に駆け寄ると、未だ腕が飛び出ている入り口に向き直った。

 

「悪い! 準備完了だ! もう大丈夫! ここで奴を仕留める!」

 

「え!? でもどうやって!」

 

 どったんばったんと、暴れる腕が立てる大きな音に負けないように、大きな声で話す。

 

「こうするんだよ!」

 

 俺は全力の突きを体重を掛けて、暴れる手に突き入れた。

 

 ──ズブリッ

 

 想像していたよりも容易く槍がオークの手の甲付近の毛皮を貫き、穂先が丸々埋まるほど、突き刺さった。

 

『ブギィアアァァァギィ!』

 

 一段と大きい絶叫を挙げると思わず、扉から手を引っ込めて後ろへと下がってしまった。

 すでに準備万端に待ち構えるスパイクが待つ背後へ。

 

「死の舞踏でも踊ってな。豚野郎!」

 

 奴が最後に見たのは何だっただろうか? 俺が立てた中指だったら気分爽快なんだが。

 後ろに下がったオークは背後スパイク触れ、弾かれるように横へ逃げようとしたとこらに、そこにも既にスパイクが設置されている。

 それはオークの巨体を球にしたピンボールのようだ。ダメージを喰らいつつ、弾かれて止まることが出来ない。

 五分ほどで、オークの体はスパイクで串刺しにされて動かなくなっていた。

 

『はぐれオークを殺した。経験値150』

 

『称号:ジャイアントキリング。

効果:格上の相手に対してのダメージが二倍』

 

 システムメッセージがログで流れるまで、俺は中指を立てた拳を向けたまま、固まっていた。

 全く動きを見せなくなったオークを確認してから、俺はそっと入り口に向かい、外に軽く体を覗かせて、オークの体をインベントリに収納して、ようやく深い息を吐き出すことができた。

 ストレス耐性のおかげか。恐怖はそこまで感じることはなかったが、それでも緊張はしていたようで、シャツはピッタリと肌に張り付いていて、気持ち悪く感じる。

 ゆっくりと扉を閉めると、鉄のかんぬきを再び掛けた。

 

「ふぅ……まさか、二日目であんな大物に出会うなんてな」

 

 ジャイアントキリングなんて称号が付くってことは、相当に強敵だったんだろう。

 ハメを使わずに槍一本で相対していたなら、俺なんて容易く吹き飛ばされてお陀仏になっていたことは容易く想像できる相手だった。

 窓も閉めて、完全に戸締りをしてから、振り返ると部屋の奥では、リファが静かになっているルイを抱きしめたまま、ペタリと床に尻をつけてへたり込んでいた。

 

「リファ? おーい。リファさん? もう大丈夫だぞ」

 

「あ、う、あ……はぁぁぁぁぁ……」

 

 リファはあまりの恐怖に呼吸を忘れていたのか。大きな溜息を吐き出した。

 

「……お、お願いだから……無理しないで……私の心臓が、持たないから……」

 

 極度の緊張から解放されたからか、荒い息を整えながら、非難の言葉が飛んでくるのであった。

 

「ごめんなさい」

 

 俺は言い訳のしようがないので、ただ、謝ることしか出来ない。

 おそらくは、ルイが起きれば再度謝ることになるから、今のうちに肉を焼いて、ご機嫌を取る準備をしようと心に決意した。

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