ヴェノム・スネークが立ち去ったのを確認した存在は、
のっそりとM1エイブラムスから身体を出した。
「BIGBOSS……流石だ」
それはかつての上官にして、アウターヘブンの指導者。
自分が知る限り最強の兵士の力を、身を持って体験したのだ。
《レイヴン、奴を仕留めたか?》
「いや、駄目だった。随伴歩兵も一人残らず無力化された。
死んでいる兵士が少ないのが救いか」
バルカン・レイヴンはM1エイブラムスが炎上爆発したにも
関わらず、その口角を上げながら笑っている。
《メディックを派遣する、それまで耐えておけ。
今、オセロットがやられた。サイボーグ忍者だ》
「……ほぉ、ボス。どうするつもりだ?」
《奴もお前と同じ様に、BIGBOSSを崇拝している。
奴をぶつける』》
「崇拝か、俺はそこまでのものじゃない。
尊敬だ、俺のガトリング砲すらよけレーザー誘導式の砲弾すら
己の身体能力1つで回避してみせたあの男へのな」
《…ふん、良いだろう。
適当な所でカードキーを兄弟にくれてやれ》
「良いのか?それは」
《構わん、奴にはやってもらう事があるからな》
それ以降、ボスと呼ばれた男とレイヴンの通信はなかった。
だが、レイヴンは心を躍らせる。
BIGBOSS、そしてBIGBOSSの子供達。
レイヴンは今、あの時。
アウターヘブンの時と同じ様に高揚している。
相手、ソリッド・スネークはボスと同じ禁じられた魂。
しかし、一度はあのBIGBOSSを破った男。
「面白くなりそうだ」
レイヴンはそう言うと部下達と共に兵士の応急手当を行う。
作業していると、増援としてメディックだけでなく、
新たなM1エイブラムスまでも到着する。
「楽しませて貰おうか、蛇よ」
BIGBOSS、そして二人の蛇。
シャーマンとして、一人の戦士として、レイヴンは
行く末を見届けたくて仕方が無かった。
「はけ」
「こっ……この先は核兵器施設で……」
「そうか」
「ぐ……」
ヴェノム・スネークはナイフを首に刺し、
警備兵を始末する。
そのまま遺体を引き摺り、物陰へと隠した。
「カズ、聞こえるか」
《核廃棄施設、杜撰な管理だな》
「武器は使うなと言う事か」
《そうだ、ボス。麻酔銃は持ってるか?》
「生憎だが、寝てたのを彼奴から
無理矢理送り込まれたらしくてな。
麻酔銃と言った装備はない」
《あの女、まったく…》
かつてのような憎悪など無く、
カズはクワイエットを純粋に使えないとでも
言いたげに溜息をつく。
己はクワイエットに救われておきながら、
どうしてもあの女スナイパーには一線引いてしまうのだ。
「カズ、そう言えばクワイエットは」
《俺を助けにな》
「助けに?どういう事だ」
ヴェノム・スネークはカズが襲われた事を知らない為、
驚いた声を上げる。
アウターヘブン以降のカズの動向は知らないが、
何があったかは想像がつく。
《イーライの部下だろう。
ボス、俺は奴を……ネイキッド・スネークを殺した。
彼奴の息子を、ソリッド・スネークを使ってな》
「…カズ」
ヴェノム・スネークからしてもカズの声は贖罪が混じっていた。
それが誰に対するものなのか、理解できる。
《奴は、俺を利用し捨てた。それは…もういい。
アンタという、俺の理想のBIGBOSSに出会えたんだからな》
「…カズ、俺は」
《判ってる、でもな。俺にとって、俺達にとって、
あの時、あの姿に俺は本物を見たんだ》
「死してなおも輝く。俺は、彼奴等の苗床だ。
彼奴等を殺したのは、俺なんだ」
ヴェノム・スネークは懐に触れる。
アウターヘブンでも所持していたダイヤモンド。
仲間達、ダイヤモンドドッグズの遺灰から造られたもの。
己が殺した部下たちの魂、それをヴェノム・スネークが
忘れる事はない。
《ボス。
俺はアンタがアウターヘブンで死んだと聞いた時、
激しい虚無感に襲われた。
だが、彼奴が……あの女がそれを許さなかった。
アンタがファントムであると知ったクワイエットは
俺を使ったんだ。アンタを利用した、
ネイキッド・スネークへの復讐。
そして、俺達のBIGBOSSを護る為に》
「カズ」
クワイエットだけではファントムをゼロ、
サイファーから守り切るのは難しいだろう。
しかし、カズならと協力を求めたと言うのだ。
《俺はネイキッド・スネークを殺した後、
アンタとクワイエットを連れてアラスカに移住した。
困ったぞ、アラスカは良くて診療所程度。
昔の伝手、それこそ仲間達を頼ったんだ。
アウターヘブンに参加しなくても、
ボスのため、ヴェノム・スネークの為ならと
態々アラスカに飛んできた奴等がいた。
だが……それが不味かった》
「……」
《俺達はイーライの、
FOXHOUNDの反乱の情報を手に入れた。
俺を暗殺しようとする動きもな。
俺はアンタを守る自信が無かった。
だが……クワイエットがアンタをそこに送ったんだ。
俺は俺で仲間達と脱出を謀った。
だが………あの時だ。
マザーベースをもう一度見たようだった》
「…カズ」
カズの言うマザーベースとはMSF時代のマザーベースだろう。
自分を逃がす為、恐らくは死んだのだ。
《ボス。…オセロット、奴は信用するな。
奴はBIGBOSSいや、ネイキッド・スネークの為に動いている。
それは今でも変わらん》
「ああ」
《…生きてくれよ。俺達にはアンタが必要だ。
アンタはファントムなんかじゃない。
アンタこそ、真のBIGBOSSだ》
「あぁ、変わらない。
俺は、戦う事しか知らない人間だ。
カズ、お前は」
言葉を続けようとした時、
ヴェノム・スネークのSENSEが何かを感じ取る。
《ボス、どうした》
「カズ、敵だ。見えない何かがいる」
《ステルス迷彩…ボス!NVGだ!あれは熱探知もできる!
あの女と戦った時を思い出せ!》
あの女、クワイエットのことだとすぐ理解した。
あの時はアフガニスタンで開けていたが、
今は通路で狭い。
「くっ!」
ヴェノム・スネークのSENSEが光った。
振り下ろされた刀を左腕の義手で受け止める。
「BIGBOSS」
「……お前は」
BIGBOSSという自身を呼ぶ声に聞き覚えがあった。
それは自分が育てた兵士であり、
アウターヘブンで捕らえた兵士。
「グレイ・フォックス?!」
「俺は囚われている、BIGBOSS。
俺は貴方を………」
電子音が混ざった様な声。
ヴェノム・スネークはアウターヘブン以降の
グレイ・フォックスを知らない。
FOXHOUNDで最も優秀だった彼が、何故このような姿に。
「……いや、フランク。フランク・イェーガー」
「……BIGBOSS」
ヴェノム・スネークはネイキッド・スネークの記憶がある。
だからこそ、今だけは彼になる。
ファントムとして、ネイキッド・スネークに。
BIGBOSSになる。
「もう一度止めてやる、サンヒエロニモの時のように」
「……ボス!」
グレイ・フォックスは刀を振り下ろすが、
ヴェノム・スネークはこの程度の相手など慣れている。
ステルス迷彩をしてこようと、霧の中に消えるどころか、
実態が一瞬消え去る【スカルズ】という特異すぎる
存在と戦っていたのだ。
それに比べれば、瞬時に消えようが実態があるのだから
関係ない。
「ぐっ…流石だ、BIGBOSS」
「くっ…どうなってる!」
ヴェノム・スネークは確かに義手の一撃を
グレイ・フォックスの顔面に叩き込んだ。
通常の兵士であれば、吹き飛びながら気絶する程の一撃だ。
だが、グレイ・フォックスは少し首を動かし、
CQCの構えを取る。
《ボス!グレイ・フォックスの情報が判った!》
「カズ、聞かせてくれ!」
《グレイ・フォックスはザンジバーランドで
意識不明の重体で回収され、クラーク博士。
いや、パラメディックの実験材料にされたらしい。
今のグレイ・フォックスはサイボーグ、もう人間じゃない》
「クラークか……」
通信を終え、再びグレイ・フォックスに向き合う。
この男も、BIGBOSSと出会った事で運命が変わってしまった。
かつて、絶対兵士として自我すら隠蔽され、
今はその身体すら奪われた。
「良いぞ、戦いの基本は格闘だ!
BIGBOSS、貴方が教えてくれた!」
「…あぁ、そうだな。グレイ・フォックス」
グレイ・フォックスのCQCの腕は優れている。
だが、どうしても違うのだ。
ヴェノム・スネークには見えている。
ボスとして、仲間を導いてきた経験からグレイ・フォックスは
BIGBOSSではない、誰かを望んでいる。
「…ソリッド・スネークか」
「……スネーク……ぐっ……あぁ………」
「グレイ・フォックス!」
「よるな……」
ソリッド・スネーク、その名をヴェノムが呼んだ瞬間。
グレイ・フォックスは激しく混乱していく。
「あッ……あぁぉぁぁぁ………」
「フォックス!」
ステルス迷彩を起動し、消えていく。
ヴェノム・スネークは消えたかつての部下を思い、
静かにベルトを確認する。
ファントムシガー、電子タバコのこれは
煙は気分を楽しむためのフェイクで、健康に害はない。
「……カズ、彼奴も」
《ボス、アンタは悪くない。
彼奴も戦場に居場所を求めていたんだ。
悪いのはクラークだ》
「あぁ、だが……」
《彼奴を解放できるとしたら、デイビッドだけだ》
それは知っているからこその言葉。
カズヒラ・ミラーではなく、マクドネル・ミラー。
FOXHOUNDの教官としての言葉。
《ボス、先に進もう。イーライを止めるんだ》
「あぁ………」
ヴェノム・スネークはグレイ・フォックスの去った方向を
一瞥し、先へと進んで行く。
イーライ、いやリキッド・スネークを止めるために。