グレイ・フォックス。
フランク・イェーガーを撃退したヴェノム・スネークは
道を進んでいた。
エレベーターを降り、B2と書かれた階層で降りる。
《スネーク、フランクの事は》
「カズ、そのことは彼奴に任せよう」
《デイビッドにか……スネーク、ボス。そうだな》
カズは言いたい言葉を呑み込んだ。
ヴェノム・スネークとフランク・イェーガーの戦いは、
言わばザンジバーランドの残り香だ。
あの姿になってしまったのも、ヴェノムとネイキッド。
2人のBIGBOSSが巻き込んだからに他ならない。
ヴェノム・スネークには責任がある。
だからこそ、彼の。
グレイ・フォックスの決着を邪魔する訳には行かない。
「なっ…」
ヴェノム・スネークが扉を開けると、
黄色いガスが充満していた。
それだけではない、床が所々スパークし閃光を発する。
直ぐ様扉を閉め、前のフロアに戻る。
「ガスか…くそ……」
《スネーク、今の装備じゃあどうしようもない。
そのフロアの探索は諦めるんだ》
「わかった…まずい」
《どうした、スネーク!ボス!》
話し過ぎて居たのだろう。
スネークはエレベーターが動いているのに気付かなかった。
兵士が降りてきたのだろう、銃声でばれる訳にはいかない。
降りてきた敵兵をCQCで制圧しようとした。
「くっ…」
だが、何処か確かなミームを感じるCQCで受け流される。
それでも、ヴェノム・スネークには及ばない。
エレベーターから引き摺り出し、地面に叩きつける。
「まさか、ここまで来れたとはな……
あの時の新兵が」
「BIGBOSS!」
それは己に瓜二つの声。
あの時の、憧れの存在にしてもう一人の自分と
瓜二つの顔を持つ兵士。
「!」
「ふん」
倒れた体勢から身体を回転させ、足を狙っての攻撃。
ヴェノム・スネークはそれを見切り、
敢えて男を自身の正面に立たせた。
「久し振りだな、ソリッド・スネーク」
「……」
ソリッド・スネークはBIGBOSSにソーコムピストルを向ける。
その呼吸音は荒く、
歴戦の兵士とは思えない程に心が乱れている。
当たり前だ。
ソリッド・スネークにとってBIGBOSSとの戦いは、
苦しみの歴史なのだ。
友を殺し、民間人も見捨てる形となり、実の父親も殺した。
その結果、PTSDとなりアラスカで隠遁生活をしていたのだ。
それなのに、自身のトラウマとも言える男が目の前にいる。
それだけで、激しく呼吸が崩れてしまう。
「落ち着け、私は敵ではない」
「黙れ!FOXHOUNDの叛乱もお前の差し金じゃないのか!」
「落ち着けと言った、貴様は新兵ではないだろう。
ソリッド・スネーク」
ソリッド・スネークの前ではどうしても、
FOXHOUND指揮官時代の言葉遣いになってしまう。
ソリッド・スネークはヴェノム・スネークにとって教え子。
その教え子が師を越えたというのは、
複雑な感情が絡み合うが己個人としては嬉しさが勝つ。
「…ふぅ……」
ソリッド・スネークをリラックスさせる為、
目の前でファントムシガーを吸ってみせる。
「お前も吸うのだろう、一度仕切り直しだ」
「……」
ソリッド・スネークは何とも言えない顔をしながら、
タバコに火をつける。
親子ではないが、師弟としてこうして話すのは初めてだった。
「アウターヘブン以降、何をしていた」
「アウターヘブン?ザンジバーランドだろうが」
「……そうか」
その反応でソリッド・スネーク。デイビッドと
リキッド・スネーク。イーライの知識の差を理解する。
今、此処で話すことでもないだろう。
無駄に混乱させるだけだ。
「アンタは、この叛乱をどうするつもりだ!
また、あんな事をするつもりか!」
「……私の任務は終わった。
私は、私の生き方という物がある」
水蒸気を吐き出し、ソリッド・スネークからの言葉を待つ。
ソリッド・スネークは言いたい事が多すぎる。
だが、完全に整理できていない。
「指揮官は誰だ」
「…話す必要がない」
「そうだな、お前からすれば私はテロリストだ。
しかし、随分と鈍っている」
「…」
ヴェノム・スネークは理解していた。
ソリッド・スネークは年を取り、経験を得て、
歴戦の兵士になっただろう。
しかし、CQCを。二人のボスの系譜を使っていない。
自信が部下達に叩き込んだ技を、
あえて使わず殴る蹴るとスタンダードな戦法だ。
「……何故、生きている」
「何故か…そうだな。
私を死なせてくれない女が一人いる。
彼女に救われた、最もあれから寝ていたがな」
カズがソリッド・スネークに声をかけないのは、
指揮官を警戒してだろう。
こちらに対しての反応も極力、
零にするように心がけているようだ。
「BIGBOSS、何故裏切った!何故、」
「…任務だった、俺のボスからのな」
そう、ヴェノム・スネークにあるサイファーへの報復心。
それは、1975年の事件に他ならない。
だが、それを主導したスカルフェイスは、
ヴェノム・スネークとカズヒラ・ミラー、
そして不本意ながらエメリッヒ博士、ヒューイによって
トドメを刺されアフガニスタンで死亡。
その後、ダイアモンド・ドッグスにおいて焼かれた。
だが、真のサイファー。
ゼロへの報復心は真のBIGBOSSに植え付けられたもの。
あの日、アウターヘブンでソリッド・スネークに敗れ、
BIGBOSSとしての任務も終わったのだ。
「……なら、何のために来た」
「イーライを、いやお前に言わせればリキッド・スネークを
止めるためだ」
「リキッド・スネーク…イーライだと?!」
「…彼奴の過去をお前は知らないだろう。
イーライの報復心は俺に向けられている物だった。
それが、何時しか世界への報復心へと変わった」
「世界への…報復心」
そう、イーライにとって
BIGBOSSとはネイキッド・スネークではない。
ヴェノム・スネークなのだ。
己の部隊を無に返し、さらに王国まで破壊した。
血の繋がりのあるオリジナル。
ネイキッド・スネークも確かに報復の対象であろうが、
己から部隊も、銃も、指揮官としての立場も奪い、
子供という一括りに押し込んだヴェノム・スネークに
対しての報復心が最も高い。
「そうだ、ソリッド・スネーク。
お前はBIGBOSSを殺した。
奴にとってBIGBOSSとは報復の対象でしかない。
だが、報復心に突き動かされながら奴は
俺達を越えたいと思っている」
それは何処か嬉しそうにソリッド・スネークには聞こえた。
まるで弟子が師匠を越えたいと足掻く姿を微笑むように、
いやまるで父親が子供の我儘を見守るようだ。
「ふぅ…はぁ……
話は終わりだ、ソリッド・スネーク。
その先には毒ガス。床には高圧電流が流れている」
「…何故教える」
「今は貴様の敵ではないからだ。
アウターヘブンでは、
貴様が罠に掛かって死ぬことを望んだが…
それはあくまでも過去の事だ。
また会おう、ソリッド・スネーク」
ヴェノム・スネークはエレベーターに乗り込むと、
静かに扉を閉める前、
何かを告げるようにソリッド・スネークに向き合った。
「ソリッド・スネーク、ここにお前の因縁がある。
リキッド・スネークやFOXHOUND。
ましてや、俺のことでもない。
彼奴は、貴様に殺される事を望むだろう。
俺では、奴を導くことはできても解放はできない」
そう、グレイ・フォックスはヴェノム・スネークの弟子である。
弟子であり、CQCというミームを受け継ぐ一人。
しかし、グレイ・フォックスは既に骸だ。
生きているだけの骸だ。
サイボーグ忍者となり、薬漬けにされもう未来は無い。
恐らく、
自らそう思いヴェノム・スネークに攻撃を仕掛けたのだ。
だが、理解しているのだ。
ヴェノム・スネークは知っている。
己の過去、アフガニスタンで再開いや、
初対面したソ連軍将校。
エヴゲニー・ボリソヴィッチ・ヴォルギン。
『燃える男』となりながら、心のBIGBOSS。
ネイキッド・スネークを追い続けた亡霊。
奴は報復心だろう、しかしグレイ・フォックスは違うだろう。
「……奴を頼む」
ヴェノム・スネークはそれだけを告げ、
静かにエレベーターの扉を閉じた。