BIGBOSSがエレベーターに乗り込むのを見送った
ソリッド・スネーク。
直ぐ様体内通信をかけ、キャンベル大佐へCALLした。
「大佐、どうやら生きているようだぞ」
《あぁ、私自身も驚いているよ、スネーク。
…あれが偽物である可能性はないか?》
「…偽物だったら何れ程良かっただろうな。
少なくとも、あのCQCの腕前。それだけじゃない。
あの喋り方、動き、何もかも俺の知っているBIGBOSS。
いや、むしろザンジバーランドよりもスムーズだ」
ソリッド・スネークは思ったことをキャンベル大佐に伝えたが、
帰ってきたのは唸り声だった。
《しかし、テロリストはBIGBOSSの遺体も》
「大佐、逆にBIGBOSSの遺体が偽物と言う可能性はないか?
奴がここに居るんだ。そう思う方が自然だろ」
《スネーク、本当にBIGBOSSが居るの?》
「ナオミか?」
それはナオミ・ハンター。
FOXHOUNDに所属する医療スタッフであり、
今回の作戦のサポートを務めている一人だ。
「奴はBIGBOSSだ、俺が殺した筈のな」
ソリッド・スネークのその言葉には深い悲しみが詰まっている。
自分に深い傷跡を残した男は生きており、
さらにここシャドーモセス島に居る。
「それに、BIGBOSSのあの言葉」
(ここにお前の因縁がある。
リキッド・スネークやFOXHOUND。
ましてや、俺のことでもない。
彼奴は、貴様に殺される事を望むだろう。
俺では、奴を導くことはできても解放はできない)
(……奴を頼む)
ソリッド・スネークには思い当たる人物が一人だけ居た。
だが、あり得ないのだ。死んでいる筈の人物。
「大佐、彼奴は……グレイ・フォックスは死んだのか」
そう、死んでいる筈の人物ならBIGBOSSもそうだ。
そして、BIGBOSSが奴と、何処か感慨深そうに話すのは、
たった一人だけであろう。
己と因縁があり、BIGBOSSとも繋がる人物。
グレイ・フォックスただ一人。
《まさか、彼は地雷原で》
「死んだ筈の男なら、
俺達は既にBIGBOSSに出会っている。
奴が助かって居るんだ、グレイ・フォックスも…」
《…う~む》
《スネーク、グレイ・フォックスの事は私の方で調べてみる。
今は先に進む事を優先して》
《そうだスネーク。
BIGBOSSを信じるなら毒ガスと、床には高圧電流。
わかっていると思うが、高圧電流の上を歩こうなんて思うなよ。
一瞬で感電死してしまうぞ?》
「大佐、俺がそんなに馬鹿だと思ってるのか」
「警句だよ、スネーク。メイ・リンたしか」
メイ・リン。
ソリッド・スネークのセーブを担当してくれるサポーターだ。
ことわざも教えてくれる。
《この場合だと、石橋を叩いて渡る。
かしら、意味はね。非常に堅固な石橋ですら、
安全を確認してから渡るという、
用心の上に用心を重ねる慎重な態度を表しているわ。
スネーク、毒ガスと高圧電流の何方かに対処して、
もう片方を疎かにしては駄目よ。
貴方は今、たった一人で潜入しているのよ。
協力者が居ると言っても、基本は単独行動。
たった一つのミスが命取りになるわ。気を付けてね》
「俺もメイ・リンから『ことわざ』を
教わりきって居ないからな。小さなミスにも気を付けよう」
仲間達との会話を終え、再び進む。
「…フォックス、俺は」
スネークは既にアウターヘブンの新兵でも、
ザンジバーランドの後の燻った燃え滓でもない。
今此処に、一人の戦士として、ソリッド・スネークとして、
再び銃を取っている。
「…待っていろ」
それはBIGBOSSに言われたからではない。
一人の戦士として、グレイ・フォックスの戦友として、
グレイ・フォックスとの再会を望んでいるのだ。
それが、例え苦しみだとしても。
ソリッド・スネークに後を任せたヴェノム・スネーク。
2人の教え子の戦いに水をささせる訳にはいかないと、
たった一人、ゲノム兵達を殺害していた。
監視カメラを破壊し、確認しに来る兵士の頭を撃ち、
返事のない兵士を確認しに来た増援の首を絞め、
尋問の後、ナイフで暗殺する。
ヴェノム・スネークは本来、殺戮者ではない。
だが、目的の為なら殺戮も厭わない戦士だ。
「……くっ」
「新兵か、武器を捨てろ。
戦う意志のないものまで殺すつもりはない」
「武器を捨てるのは貴方よ!」
声高らかに叫ぶ女兵士だったが、
ヴェノム・スネークは手慣れた流れでFA-MASを奪い去ると、
弾倉、薬室にある弾薬を抜き取り、
更に瞬時に解体までしてみせる。
「くっ」「吐け」
ヴェノム・スネークのバリトンボイスが響く。
並の兵士ならその威圧により恐怖するだろうが、
目の前の女兵士は違った。
「だ……誰が喋るか」
怯えているだろうが、反骨精神だけは一丁前にある。
MSF時代、ドクターストップをかけていたのにも関わらず、
ボスとミラーに対して「仕事をさせろ」
と叫んでいた彼女を思い出す。
《ボス、スネーク!その女兵士だ!
名前を聞いてみてくれ!!》
「カズ、今はナンパしてる場合じゃ」
ヴェノム・スネークはカズヒラ・ミラーの悪い癖を思い出す。
女癖の悪さ、ダイアモンド・ドッグスでは
ミラーの悪癖は収まっていたが、こんなところで…
《何を考えているか知らんが違うからな!》
「わかった、わかった。新兵、名前は?」
「レディに名乗らせるなら、先に自分の名前を教えれば?」
「……ヴェノム・スネーク。
かつて、BIGBOSSと呼ばれた男だ」
「…BIGBOSS、ザンジバーランドで死んだ筈の」
女兵士はそれを嘘だと切り捨てようとしたが、
今さっきまでの行動で思い出す。
流れるような殺戮、いや、暗殺だろう。
罠を用意し、おびき寄せ殺す。
それだけでなく、不意に後ろに周り音なく首を絞める。
「…メリル。メリル・シルバーバーグよ」
《やっぱりだ!ボス、此奴はキャンベルの姪だ!》
「キャンベル?姪?何の話」
「ねぇ、誰と通信してるのよ」
《ボス、メリルに俺の周波数を教えてやってくれ!
彼女なら信用できる!!》
カズからの言葉を受け、拘束を解く。
だがライフルを構えるのはやめずに指示を出す。
「わかった、メリルだったな。通信機は持ってるな」
「えぇ、奪ったものが…」
「おい、180.96を入れてみろ」
「なによ……」
メリルは渋々いれると大きな声が響く。
《久しぶりだなぁ!メリル!!いったい何年ぶりだ?
キャンベルは元気か?オヤジさんやオフクロさんは?》
「ミラーおじさん?!」
《ミラーおじさんじゃない、お兄さんだ!》
「カズ、お兄さんなんて歳じゃないだろうが」
《静かにスネーク!俺はおじさんじゃない!!》
MSF時代は確かこんな感じだったが、
メリルと話始めた瞬間どうしてこうなった。
《キャサリーとも何年ぶりだ?
いやぁ~、俺も引退して長いからなぁ。
しっかし、特殊部隊とはキャンベルもきっと鼻が》
「カズ、いい加減にしろ。
お前の知り合いなのはわかった、それで?
何故、キャンベルの姪が此処に居る」
「…キャンベルね、伯父をしって」
「…サンヒエロニモ半島、お前の叔父とは戦友だった。
当時グリーンベレーだったが、FOXに捕まり俺が脱獄させ、
マラリアに感染した彼奴に薬も届けた」
「フォックス?狐?」
「…そうか、お前の世代はFOXは知らないのか」
当たり前だ。
FOXはサンヒエロニモ半島での事件の後に解体され、
新たに狐狩り部隊。FOXHOUNDが結成されたのだから。
「じゃあ、伯父の戦友が稀代のテロリストなのは何故?
貴方はFOXHOUNDを結成して、アメリカを」
「Need to know」
「…そう、私も軍人よ。それは理解敵るわ。
でも、テロリストの言葉を信用しろと言われてできるとでも?」
「なら俺ではなく、彼奴。
ソリッド・スネークの為に手伝え。
俺の今の任務はリキッド・スネークを止めること。
それこそ、彼奴の命を奪ってでも」
イーライへ父親らしい事は一度もできなかった。
時折、CQCの相手をしてやりいなし、倒す程度。
カズに言わせれば、手痛い勉強をしていた。
だが、それが屈辱だったのだろう。
自分の生まれを呪い、父親と信じた男は別人。
自分と何の血の繋がりもない赤の他人だったのだ。
その赤の他人が、態々生み出された自分達よりも遥かに優秀。
存在意義すら否定された事だろう。
「……シルバーバーグ。
奴らの装備から剥いだトランペット用のマガジンだ。
つけられるだけ付けておけ、弾薬が兵士の命綱だ。
だが、命綱を過信しすぎるな」
「……はい、BIGBOSS。しかし、私は」
「弱点撃ち考えるな、屋内戦であればアーマーも貫通する。
腹部等、狙いやすい位置を撃ち最後にトドメをさせ。
一撃で仕留めるのはスナイパーの仕事だ。
それにお前はまだ新兵だろう、見ればわかる。
人を殺したのも、此処が始めてだな」
「はい、まだ陸軍に入ったばかりでした」
「……殺す事を躊躇うなとは言わん。
だが、忘れるな。人間は一度銃を握れば等しく地獄に堕ちる。
それが国家の大義、正義、何であれだ」
「……」
「俺達は、地獄に行く。だが、今を生きている奴等は違う。
俺はよりよい未来の為に戦う。
俺達のような存在でも、世界の、歴史の土台になる」
カズは言葉を発しない。それはかつて聞いた言葉である。
世界は一度だけ、核と言う悪魔の炎が失われた。
ヴェノム・スネーク率いるダイアモンド・ドッグス。
全ての国家とPFに潜入し核兵器を奪い去り、
世界にたった数週間であるが、核の亡き世界を創り上げた。
核抑止と言う言葉が存在せず、核戦争におびえない日々。
だが、結局は幻想だった。
各国はありもしない核を抑止力につかい、
数週間で新たな核兵器を創り上げた。
《ボス、アンタは……》
カズは理解している。未来の為に、次の世代の為に。
結婚する以前は思いもしなかった。
だが、今は違う。娘の生きる世界。生きる未来。
いずれ生まれる孫や子孫のいる世界。
その礎となるのならと。
「……一つ聞かせて、貴方は…貴方は何故。裏切ったの?」
「最後の任務だ、あの日、あの時。
俺は自分が何者であり、誰であるかを再認識した」
ー俺は……Medic、そうだろ。クワイエット
「……無駄話が過ぎたな。
機会があればカズを経由して通信も可能だ。
彼奴に…ソリッド・スネークに会うことがあれば伝えろ」
「何を」
「お前は何に忠を尽くすか。
お前の答えを聞かせてほしい」
「……伝えるわ、必ず」
メリルには一人の老兵しか映ってしない。
今回、ただ数回言葉を交わしたに過ぎないが、
その背中は大きく、確かな戦士だった。