10年後…後の神凪リオは雑誌のインタビューでこう語った
『ええ…あの試合も自分の人生の中で大きな転機となった試合の一つですね』
『それはどのような点でご自身に影響を与えたのでしょうか?』
『そうですね…まぁ自分で言うのもなんですけど俺は他人より恵まれていると思うんです…』
『…』
『体格…才気…環境…全てにおいて俺はバレーという競技において恵まれていた…勿論それ相応の努力はしましたけどね…それでもあの時点で俺は自分のことを少なからず心の中では"最強"だと自負していました。』
『それは勿論私たち記者やファンの皆さんも思ってることですよ!』
『ありがとうございます…ただ個人の実力がどこまで高くてもそれはチームが勝てるという保証にはなり得ない…』
『それは…』
『とどのつまり俺は驕っていたんですよ。…自らの力を過信して【俺がいるなら負ける筈がない】…とね』
『あの試合で…ほんと頬を殴られたような気がしましたよ…【お前程度の実力で驕っている暇があるのか】…とね。
当たり前ですけど個人の実力も勿論大事ですけどバレーはチームスポーツです…当時の中学校にはバレー部すら存在しませんでした。…その中で親友と部活を立ち上げ色々とツテを使って環境を整えていきましたけどそれでも…バレーという競技に全てをかけそれこそ"命懸け"で挑んでいるような強豪校の選手たちとは比べものになりません』
『勿論その中学に進んだことに後悔はありませんよ。いい思い出だしいい仲間にも出会えた…ただその時思ったんです。…いや思ってしまったんですよ…俺は彼等のように"最善を…それ相応の覚悟の証明"を果たしのか…とね』
『元々親の転勤の都合で宮城に行ったんですけど選択としては海外…それもイタリアのプロチームの下部組織に入る選択肢もあった…でも俺は日本を選んだ。…選んでしまったんですよ。バレー選手として強くなるための最善が他にもあったにも関わらず俺は楽な道を選んでしまった』
『その"覚悟の違い"をまざまざと見せつけられた試合でしたね』
『…ありがとうございます…それが今のご自身のご活躍につながるという訳なんですね』
『まぁ直接という訳ではないですけどね…』
『本日はありがとうございました!』
これが後にイタリア・セリエa【ALi Roma】で様々なシーズン記録を更新し【英雄の再来】と呼ばれるまでに至った男の物語の序章であったのだった
《20:8白鳥沢リード》
「くそここまで差があるなんて…リオと翔ちゃんだけなら絶対負けてないのに…」
「俺…本当に何も出来てない…それどころか…狙われて…完全にお荷物だ」
第一セットを奪取されたのも束の間…そのまま悪い流れを断ち切れずなにより…
「はぁ…はぁ…はぁ…ま、まだやれるぞ俺は!」
「はぁ…ぼ、僕も」
うちのチームでも最も運動量が多い翔陽と…俺についてフル稼働している佐藤くんの体力が限界を迎えてしまったことがコチラの勢いを終息させるに至った。
観客もすでにコチラの逆転なんて希望を抱いているモノすら見当たらない。完全に俺たちの負けを確信している。
相手の白鳥沢ですら…
「いいか!最後の最後まで油断するなよ!」
「「「はい!」」」
「んでも意外とあっけなかったな」
「アホか…どう考えてもよくやってる方だろ。チームの半分以上が素人のなか第一セットを俺らと接戦してんだぞ?お前にできんのかよ」
「お、怒るなよ。悪かったって…油断はしてない」
「そうだぞ。それに誰がどう見ても個人で見たら向こうの1番がこのコート場で1番点取ってるし1番つえぇ…」
「いやでも!勝つのは俺らだから俺らの勝ちだろ!」
「そ!…それは間違いない…これはチームスポーツ…奴がどれだけ強くても他が見合ってなきゃ意味がない」
そしてそれを見ていたのは観客だけでなく…上のステージで戦う彼等も…
コート場を腕を組みながら神妙な面持ちで見つめる老人がいる
"鷲匠鍛治" 白鳥沢学園"高等部"の監督である
「どうですか…」
「……ふぅ…どうもこうもあるか…いずれはこうなる事はわかっていた事だ。…なまじ全国を知る前で良かったと言うべきか…」
「…神凪君はどう見ます?」
「…この程度で評価が変動するなら初めからここまで高く評価しとらんわ…バレーはチームスポーツ…巨大で強い武器を持っててもそれを使いこなすチームがいなきゃ宝の持ち腐れだわ」
そしてコチラ…県内白鳥沢一強を阻む秀才集団…青葉城西高校…
「…ふん…勿体無い」
「ん?どうした及川」
「……」
「はい無視〜機嫌悪いとすぐこれなんだから」
「機嫌悪くないし!適当な事言わないでくれるマッキー!」
「なんでもいいが…お前がえらく気にしてる1番…大丈夫なのか…」
「あの程度で折れるような奴には見えなかったけど…てかそもそもこの状況が生まれたのはひどく必然…むしろ遅かったくらいに自然の結果だよ…あの時忠告はしておいたからね…後はこの後ウチに来てくれるかどうか…」
「なんだお前直接誘ってたのかよ」
「まぁね…ウシワカの野郎とタイミング被ってたけど…ま、この試合で嫌でも思うところはあるでしょ…彼に1番必要なのはあの素晴らしい楽器を使いこなしてくれる指揮者…だからね」
「何カッコつけてんだよ気色悪い」
「ひど!」
はは…あんだけ言っておいてこのザマかよ…マジでダセェ。
…みんな死に物狂いで頑張ってる…一年生もイズミンもコージも素人なりに何かしようとしてる。
…佐藤君と翔陽に至っては今このコート場で最も自分のやるべきことをやり通した人間だろうな。
…ところで俺はこんなとこで…こんな時に…何をしている…みんなが死に物狂いで足掻いている時にこんな下向いて拗ねている場合か…俺も全てを曝け出して足掻くしか信じてついてきてくれたこいつらに合わせる顔がねぇ…
…残ってる余力を"最後の一滴まで捻り出す"
「……………」
「…リオ先輩?」「…リオ?」
まず異変に気づいたのは隣の佐藤と目の前にいる日向だった
顔を上げた――その瞬間、何かが変わった。
観客席のざわめきが、応援の声援が急に遠くなったように感じた。まるでコートだけが切り取られ、世界から隔離されたような静けさが流れ込む。
「何かがおかしい…嫌な雰囲気だ」
最前列で試合を見ていた白鳥沢の監督が眉をひそめる。
視線の先、選手の瞳が静かに研ぎ澄まされていくのが分かった。呼吸は深く、無駄な動きひとつしない。
ーードン!ーー
白鳥沢の選手のスパイクサーブが放たれる。この終盤にも関わらず、すぐにでも高校クラスでも通用するような鋭いサーブ
それなのにも関わらず――俺の視界には
動くボールがスローモーションのように映っていた。
ボールの軌道、回転、自らの脳の思考…すべてがクリアに感じ…線で結ばれ、
まるでそうするべきだと言われているように自然に体が動く
体を落とし素早く着弾地点に飛び込む
(手応え…完璧)
ーードン!ーー
一歩踏み込むだけで、音が消えるようだった。
次に聞こえたのは、自分の心臓の鼓動だけ。
世界が自分を中心に回っているかのような感覚にすら陥る
「ナイスレシーブゥゥ!」
「「…」」
ーーコクッーー
すぐに立ち上がり体勢を整え前進する。前進する過程で翔陽とアイコンタクトを交わしお互いに意思の疎通を図る
翔陽がボールの落下地点に入りセットの体勢に入る
そしてそれを見た白鳥沢は
「1番だ!1番でくるぞ!」
「打ち落として楽にしてやる!」「ここで決める!」
翔陽がトスを上げる時点で俺がスパイクを放つことを確信して俺に対して3枚のブロックが張り付いている
全員が180はあるだろうか…この壁が3枚も揃っており尚且つ打つ相手が晒され正面から勝負せざる負えない状況は中学生レベルならまともに勝負して勝ち目がある奴は全国にもそういないだろう
ーーがーー
ーードン!!ーー
「んな!」「たけぇ!」「くそ!」
周りがスローモーションに見えカメラのフィルム一枚に収まってるかのように目の前が全てクリアに透き通る
俺が狙うはリベロとその右横の選手の間…
もはやこの景色から見える中でブロックなどあってないようなものだった
そして側で観戦している観客やチームメイトや敵チームにはその跳躍している姿が空中で止まって見えるほどの圧巻の跳躍を見せる
そして己の視点がボールの軌道を射抜き、左腕という力点がそこへ吸い寄せられるように収束する──その一致が生んだ一撃が、コートを裂いた。
ーーバギャァァァァァァァァァァァァン!!ーー
「!?」
「くっ!」
そして俺の左腕が振り抜かれた刹那の瞬間…轟音と同時に放たれたボールは一瞬でコート内に着弾し相手選手が触れる隙も与える事は無かったのだった
《20:9白鳥沢リード》
「「「お、お、うぉぉぉぉ!!」」」
「この終盤…この展開でまだこんなプレー出来んのかよ!」「いやまぁ元々こいつ自体は止められてなかったわけだし!」「いやいや…この展開で今のプレーが出来ること自体がすげぇのよ!」
『な、な、なんと!試合も終盤のこの場面で超中学級のスパイクを放って見せました雪ヶ丘1番神凪リオ!』
『本当に惚れ惚れする跳躍力とスパイクですよね!』
圧巻のプレーをするリオを見て日向は
「リオお前…」
「…翔陽…ここからだろ?」
「…おう!!」
そして久方ぶりに巡ってきた雪ヶ丘のサーブ権…そして奇しくもそれはこの男の手に渡った
ーーダンーーダンーーダンーー
「………ふぅ」
いつも通りのサーブルーティーンをするリオを目にしてチームメイト…ないしは日向だけは必ずこのサーブは決まると言う確信を抱いていた
ーーダン!ドパァァァァァァァァン!!ーー
轟音のような破裂音から放たれた弾丸サーブは触れることすら許さずコート右側のライン上に着弾する
「…まじかよ」
「…くそっ」
《20:10白鳥沢リード》
相手チームの反応すら置き去りするまさに圧巻の一撃は見るものを魅了するものだった
そして上から見下ろしていた強者たちもその異変に気づきつつあった
勿論特に実力が近接しているこの2人はより一層その違和感も肌で感じつつある
「1番の奴急に元気になりやがったな。」
「いやあれは元気っつうか明らかに余力残してたんじゃね?」
「…」
「…お前はどう思う及川」
「…あくまで持論だけどこの場合…この状況下で金髪くんが余力を残しておくような選手だとは思えないね。…むしろこれは…」
「ワカトシく〜ん!ワカトシくんが注目してる彼!突然雰囲気変わったみたいだ!」
「ワカトシならなんでも知ってると思うなよ天童…」
「わかんないの?」
「…奴のこれまでの気性的におそらく気力を残していたということは無いだろう…何より奴のスタイルがそれを許さないはずだ…となると」
【【"ゾーン"】】
試合の最中、ふと世界が静まり返る瞬間がある。観客席のざわめきも、相手の足音も、まるで深い水の底へ沈んでいったかのように遠ざかる。
選手はまだコートに立っている。しかし、感覚だけが別の場所へ滑り込む。
視界は奇妙なほど澄み渡り、ボールの軌道が糸のようにくっきりと浮かび上がる。時間が伸びていくような錯覚――いや、錯覚ではない。脳が極限まで研ぎ澄まされ、必要な情報だけを拾い上げているのだ。
呼吸は深く、重力すら軽くなる。筋肉の動きが自分の意思より先に進み、考えるよりも先に身体が答えを出してくれる。迷いも焦りもない。ただ、次の一歩がどこに着地するべきか、次の一撃がどこに刺さるべきか――すべてが“分かってしまう”。
周囲から見れば、それは突然の覚醒だ。
凡ミスをしていた選手が、急に別人のようなプレーを始める。反応速度は跳ね上がり、判断は寸分の狂いもなく、まるで競技そのものの神髄を体現する存在になったかのように。
だが、当の本人は気づいていない。
ただ、心の奥底で静かな確信だけが灯っている。
――今なら、どんな相手でも超えられる。
今だけは、自分が最強だ。
これが、“ゾーン”。
意図して入れるものではなく、極度の集中と積み重ねた努力が、ある日ふと噛み合ったときだけ訪れる、短くて残酷な奇跡。
しかし、自らもその領域に踏み入れている存在であるが故
今語った2人の選手…及川徹と牛島若利は理解していた…
一瞬であれ、この領域に踏み込んだ経験が、その後の競技人生のすべてを変えてしまうことを。…そしてその領域に至ったものが手に入れることのできる能力と引き換えに陥る決定的な弱点でさえも…
現在 《20:16 白鳥沢リード》
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「大丈夫かリオ!?」
「「リオ!(先輩)」」
「だ、大丈夫…」
ーーガタッーー
「リオ!」
翔陽が倒れかかった俺を両肩を掴んで支えてくれているがそれすら理解ができないほど俺は疲労困憊の状態だった。
(…クソッ…こんなとこで…後少しで…追いつける…のに…意識が…)
「タンカーッ!医療班!急いでタンカーを準備してくれ!」
リオの状態を確認した審判が慌てて緊急の指令を出しゲート口からタンカーが運ばれてくる
そして支えながら乗せられるリオを見ながら
「リオ!」
翔陽が焦りながら手を握り声をかける。
よく見ると目尻に涙を溜め…まるで後悔を滲ませるかのように悲壮感を漂わせる
「…っなんつぅ顔してんだよ…」
「…リオ」
「…俺がいなくなったらこのチームを任せられるのは翔陽しかいないんだぞ」
「…」
「…雪ヶ丘を頼むぞ」
「…ふぅ…任せとけ!」
そう言い残しタンカーに運ばれながらコートを後にする。
「終わったな」
「あいつがいたからここまでせった試合になったと言っても過言じゃないからな」
唯一の希望が潰えた光景を目撃しながら他校やそれを見ていた観客たちも雪ヶ丘の敗北を思い浮かべた
(くそっ…ごめん…みんな…ごめんな…翔陽…)
リオにとって初めてにして最後の中学生としての大会はリオのこれからの人生に大きな影を落とすことになることをこの時は誰も知らなかった