(……どれくらい寝てた?
手先は冷たいけど体の芯がまだ熱い。けど…さっきまでの悪寒は消えてる気がする。)
「…ここは…」
俺が起きて周りを見渡すと慌ただしく大勢の人間が入ってきた。
「リオ!大丈夫なのか!?」
「翔ちゃん声大きいって!」「ここ病院だぞ!?」
「わ、悪りぃ!」
「はは、大丈夫だよ。今起きたばっかだけど頭痛もないしちょっと体が怠いくらいかな」
「…良かったぁ!急に倒れるから心配したんだぞ!」
「悪い悪い。自分でも知らないうちに疲労とか溜まってたのかもな」
(にしても意識を失うほど疲労してたとは思わなかったけどな)
「ま、何はともあれ…だな!」
「…ところ…でさ…」
「「「…」」」
俺が何を聞きたいのか皆んなも理解したのだろうか…一瞥に皆気まずそうな表情を浮かべ下を向くものすらいる
「試合…どうだった?」
「…っ…ごめん…」
「…っ!?…はは…そんな気にすんなよ!皆んなも!いなくなった俺も悪いんだだし謝るの禁止!な!翔陽も!」
正直直接聞くまでもなく…なんとなくその雰囲気で感じ取ってはいた。けど直接翔陽から知らされた今より実感が湧いてきて一瞬目尻に涙が浮かんだのが自分でも分かった気がした…でも俺よりも泣きそうな顔をしている…と言うか目元が赤くなっているみんなを見て試合を放棄してしまった俺なんかが泣いていい資格があるとは思えず無理やり笑顔を浮かべた
「…ごめんリオ…勝てなかった…」
「「翔ちゃん(翔陽)」」
「!?…謝んなよ…皆んな頑張ったんだろ?…みんな精一杯頑張った!なら結果はどうであれいい経験になったさ!」
(精一杯…か…俺以外はな)
「それに…言うの遅くなっちゃったけどコージもイズミンもそして後輩たちもこんな俺たちについてきてくれて本当にありがとう!最高に楽しかったよ…」
「「「…リオ(先輩)」」」
俺たち雪ヶ丘はこの日をもって正式に3年生の俺と翔陽が引退し正式に次のチームへと繋ぐこととなったのであった
皆んなが帰った後1人病室に取り残されると…様々な感情が心の底から湧き出てくるのを感じた
憤り…落胆…後悔…思い浮かべるのはどれもマイナス面の言語ばかり…
「…これで終わりか…また…かよ…また…負け…た…くそっ!…」
俺は皆んなが帰ったことと初めの表情を思い出し再び負けたことへの悔しさや怒りが表面上に現れ出し布団の中で1人泣き喚いていた
「なんで!…なんでなんだよ!…俺は…俺たちは"最強"のはずなのに!…なのに!…"また"…負けた…」
そしてそれを聞いていたものが扉の向こう側にも1人
「ぐっ…ぐすっ…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなリオ…俺が…俺がもっと点取ってたら…」
扉に背をつけながらしゃがみ込み泣いていた…翔陽はリオ以上に自責の念に駆られ後悔していた
あの時…白鳥沢相手にリオは良くやっていた。…実際1番点を取っていたのもリオだったし自分も点は取っていたがリオには及ばない…さらにリオの後半見せたあのプレー
翔陽の目から見ても今まで見てきたリオのプレーとは一線をかくすようなレベルの連続だった…しかしいつも一緒にプレーしてきた翔陽は初めから異変に気付いてた1人だった。…あの時もし自分がリオのことを止めていたらこんな事にはならなかったんじゃないのか?…そもそも自分がもっと点を取っていればあんなプレーすらしなくて良かったんじゃないか?…あそこまでリオを追い込んだのは自分だ…そう思い込んだ瞬間…翔陽は胸が張り裂けそうになり涙と吐き気が止まらなくなってしまった
そして極め付けはリオの最後の一言…リオは間違いなく今"俺たちは最強"と口にしていた。
…リオの実力は悔しいが翔陽も認めるところ間違いなく世代No. 1クラスである。口には出さないが自らも認めておりもちろん誰もが認めるところであるが…
しかしリオは今"俺達"と口にしていた。…それがリオと自分のことであることなんて聞かずともわかる程であった
リオは最後なんていった?…『雪ヶ丘を頼むぞ』…それは間違いなく翔陽という己と対等と認めた男への正面からの信頼の証の言葉だったはずだ…
それを…それを…親友からの頼みすら…裏切ってしまったのだ
その日2度目の敗北を味わったリオと初めての敗北を味わった翔陽は共に生涯でこの日の出来事を忘れることが出来ないほど後悔を残した思い出として2人の中に保存されてしまったのであった…
●翌週 放課後 体育館にて
あの試合から翌週…俺たち雪ヶ丘バレー部は放課後体育館に集合していた
そして一年生や下級生の顔には神妙な顔つきをしているものが多い…
「ま、堅苦しいことはなしにしていこうぜ。」
「??…あの今日は練習は休みじゃ?」
「何言ってんだ?俺と翔陽はこの前の試合でもう引退してんだぞ?練習には余程のことがない限りは参加しねぇぞ?」
「!?」
「「「え!?」」」
「あ、全く練習に来ないわけじゃないぞ?佐藤くん1人だと何かとしんどいこともあるだろうしアドバイスとかは的時送って行くつもりだし頼まれたらなんでもするけどな」
「じゃ、じゃあ練習には…」
「…いや…できる限りは参加しない…」
「なんで!?」
「…いつまでも俺と翔陽がこのチームの軸になってちゃあチームが成長しねぇ…それに…この2年間…俺と翔陽で佐藤くんにはできる限りのことは教えてきたつもりだ」
「…」
「…これからは自分がチームの主軸となる自覚を持て…そして必ずこれまでの経験を活かして自分なりにやってみろ!」
「っ!はい!」
「ま、3月までは俺らも学校いるんだしいつでも会えるさ…な、翔陽?」
「…お、おう!頑張れよ!」
あの日から翔陽はどこか気の抜けた表情を浮かべることが多くなった
その後バレー部を佐藤くんに引き継ぎ俺と翔陽は体育館を出て帰りの帰路に着く。
俺は翔陽の様子が気になり近くの公園に誘い2人でベンチに座りながら話を切り出す。
ベンチに座り少し息を吐き出しながら話しだす
「んで…どうしたんだ?」
「…どうしたってなにが?」
翔陽は視線を向けずに返す。
「先週の試合のこと、まだ引きずってんだろ」
その言葉に、翔陽の動きがわずかに止まる。
「引きずってない。あれは俺が――」
「だよな。どうせ“俺の責任だ”って言うと思った」
リオの声には、押し殺した苛立ちが混じっていた。
「勘違いすんなよ…あれは俺の責任だ」
「!?あれは俺の!?」
翔陽はリオの言葉に反応し思わず立ち上がる
「間違ってねぇよ。俺が倒れなきゃ、あそこで流れは切れなかった。
交代なんてしなければ――」
「交代したのは、お前のせいじゃねぇだろ!」
翔陽が声を荒げ、公園に反響した。
リオは睨み返す。
翔陽の眉間には深い皺が寄り、声が震えていた
「あれは…リオのせいじゃない…事故みたいなもんだった。負けたのは…お前に託されたのに何も出来なかった俺にあるんだ」
「は?」
こいつは何を言っているだ?
「俺が…俺がもっと点取ってたら…もっと強かったら…お前が倒れることもなく…全国にも行けたはずっ」
「うるせぇ!」
「!?」
「あれは俺のせいだ!お前のせいじゃねぇ!」
「!?じゃあなんで俺に任せたんだよ!俺なんかに…」
「俺なんかにだって!?俺はお前だからっ」
「じゃあなんで勝ててないんだよ!?お前に信頼されて託されたのにも関わらず俺はその信頼に応えれなかった!この気持ちがお前にわかんのかよ!?」
リオの言葉に興奮した翔陽はリオの胸ぐらを掴んで2人は睨み合う
胸ぐらを掴まれたリオの呼吸が、近い。
翔陽の指先には力が入りすぎて震えている。
「わかんのかよっ……!?」
翔陽の声は怒鳴り声というより、悲鳴に近かった。
リオは翔陽の手を振りほどこうとはしなかった。ただ真正面からその怒りも、悔しさも、全部受け止めるように見つめ返す。
「わかってるよ……全部、わかってるよ」
リオの声は、掠れていた。
「っ……!」
翔陽の肩がびくりと震える。
「お前がどんな気持ちであの試合に立ってたか……
俺、わかってるつもりだった。でも違った。
任せたって言ったのに……任せた“重さ”を、お前一人に押しつけてた」
「そんな…こと…言ってんじゃねぇよ……!」
翔陽の眉が歪む。
涙か汗か、どちらかわからないものが頬を伝った。
「信頼されて、嬉しかったんだよ……!
でも結果があれで……お前が倒れて……
“俺に任せたのが間違いだった”って……思われたくなかった……!」
「そんなわけ、ねぇだろ……!」
リオが翔陽の胸ぐらを掴み返した。
お互いの拳が、ぎり、と布を引き寄せる。
「俺はお前だから任せたんだよ!
翔陽じゃなきゃダメだった。
翔陽だから、俺は安心して倒れられたんだ!」
翔陽の目が大きく揺れた。
「……安心して、倒れられた……?」
「…ああ…あの…倒れた瞬間……
“翔陽なら絶対に立て直してくれる”って本気で思った。
だから悔しいのは、負けたからじゃない。
お前がひとりで全部背負おうとしたその気持ちを、気づいてやれなかった俺が悔しいんだよ」
公園の空気が、急に静まり返った。
掴み合っていた手が、すっと緩む。
翔陽の肩が落ち、まるで力が抜けたようにリオの胸に縋りつく。
「……っ、ごめん……俺……ずっと……俺のせいで負けたって…ずっと」
声にならない嗚咽が、リオの胸元に小さく響く。
「それはお互いさまだよ…俺も今自分で口にするまで俺のせいで負けたと思ってた…けどお前に言っているうちに俺ら同じこと思ってたんだなって…お前もそうだろ?」
「…あぁ。…俺さ本当は羨ましかったんだ…元は小さな巨人を追いかけてたつもりだった…でも身近にもっと目に見える距離にすごい奴がいて…こいつに負けたくねぇって思ってから必死にやってきた…でもそんな簡単じゃなくて…相手が強くなっていくうちに…俺のスパイクも通じなくなってきて…俺なんか…ってマジで思ってた時…リオが"俺たちは最強"って言ってたのを病院で聞いて…最強なのはリオ1人だったって思った」
「…お前聞いて…」
「でも!?もうそんなこと思わない!迷わない!俺はお前よりももっと上手くなって強くなっていずれ小さな巨人も超えて!お前よりも"最強"になってやる!?
だから覚えておけよリオ!」
「…はは…やっぱお前は最高だよ…あぁ俺も負けねぇよ…親友」
そうして2人は静かに突き出した拳を合わせ元通りの関係に戻っていったのであった。
●さらに1ヶ月たったある日の放課後
午後の進路指導室は、窓から差す西日が黒板をオレンジ色に染めていた。今までいくつもの高校がリオのことを勧誘に訪れたがこの日はいつもと違う光景が目の前に映っていた
面談机の前に座るリオの前には、担任と、そして――
青葉城西高校・男子バレー部監督と主将、及川徹が椅子に深く腰を下ろしている。
「…それでなんで及川さんもいるんですか?」
「なになに及川さんいたら迷惑なの!?」
「…いやもういいです…どっちでも」
そうだ。この人基本的にずっと人を揶揄ってる人だから真面目に聞く方がバカだった。
それはそうとして今日は俺の進路…高校選びをセレクトするにあたって俺を欲しいと特待をセッティングしてくれる青葉城西高校の面談日出会ったのだが…なぜか監督の他に及川さんも同席していた
「…すまないね…及川がどうしてもと言うものだから…とりあえず、初めましてかな…監督の入畑伸照です」
「…初めまして神凪リオです」
「単刀直入に言うよ?青城は、君を本気で欲しがっている。パワーと打点、それにポテンシャル。
君なら牛島とも普通にラリーができる。いや、対等以上に――」
牛島、という単語が出た瞬間だけ、リオは一瞬まばたきを止めた。
監督はそのまま熱意で押し切ろうとする。
「全国レベルのセッターと組めば、君はもっと伸びる。
そしてうちには及川がいる。及川は君には……必要な存在になると思うんだが…」
(なんかあんまそそられないな…どうせなら自分が魅力的に感じる高校を選びたい)
監督はさらに続けるが、リオの心の扉は半分閉じたまま。
空気を察したのは、壁際で黙って聞いていた及川だった。
「監督、ちょっといいっすか」
穏やかな声。
だが監督は「ああ」とだけ返し、席を外す。
及川はリオに視線を向けた。
「リオくん。……少し、外行こっか」
●屋上
放課後の屋上。
風が肌を切るように冷たい。
俺と及川さんは腰でフェンスに寄りかかっていた。
「ウシワカはさ、『俺と来い』って言うよね。
あいつは“完成された強さ”で、
“勝てる道筋”を全部自分が握ってると思ってるから」
「実際……強いと思うし。本物ですよ、あの人は」
「うん、化物だよ。でもね」
及川の声が少し低くなる。
「君は、“牛島の後釜”なんかで終わる器じゃないよ。」
その瞬間、俺の心臓が一回跳ねた。
「……どういう意味ですか」
「牛島に誘われた時、君はちょっとだけ嬉しそうだった。
でも“それでいいのか?”って目もしてた」
図星すぎて言葉が詰まる。
「牛島の横に立てば、勝てるチームは作れる。
でも——君自身の強さは、牛島の形に塗りつぶされる。
だってあいつ、君を“戦力”としてしか見てないから」
「……それは悪いことなんですか?」
「悪くないよ。でもさ」
及川は俺の目を真っ直ぐ見た。
「君、戦力…ウシワカ野郎の後釜なだけじゃなくてもっと上の“象徴”になれる才能だよ」
「象徴……?」
「君のスパイクの質、跳躍、打点、気配。
牛島と同じ“型”なのに、
牛島にはない“応用力”と“回転”がある。
俺はそれを、ただの個性じゃなくて“武器”にできる。」
俺が息を飲んだのを見て、及川の目が鋭くなる
「ウシワカは君と“同じ”スパイカー側の人間。
でも俺は君を——最強に“育て”操る側のセッターだよ」
「……育てる?」
「そう。“牛島に勝てる君”を作ってあげる。
あいつを正面から叩き潰すための、
トス、リズム、打点、全部完璧に合わせてさ。勿論ウシワカだけじゃないよ…君がきてくれるなら俺の持てる全てを使い君を最強にして見せる。…てか今最強って言われてる奴倒した方が面白くない?」
俺は自分の拳が震えていることに気づいた。
「……なんでそこまで俺に?」
「簡単だよ」
及川は笑うが、その目は全く笑っていなかった。
「——ウシワカから君を奪ったら、あいつ絶対に全力で怒る。
その顔が見たいんだよね」
思わず吹き出した。
「……動機、最低じゃん」
「最低だけど、本気だよ?」
及川は続ける。
「それだけじゃない。
君となら、“ウシワカを倒す矛”を作れる。
ウシワカ超えは、ウシワカのコピーじゃ不可能。
ウシワカを倒すのは、ウシワカと同じ能力以上で“異質”を放つ怪物だけ」
「君はその怪物だよ、リオ。
俺と組めば、君は“最強”になれる。
あいつの横や後ろなんかじゃなくて、あいつの“上”に立てる」
その瞬間、俺の中で何かが決定的に点火した。
及川はゆっくり、満足そうに笑った。
「よし。
じゃあ——本気で“最強を奪いにいこっか”」
屋上の風の冷たさよりも、胸の熱のほうがずっと強かった。
(ちなみにまだ行くとは言ってないんだけどな。ま、この人らしいか…)
どうしても及川さんが県内で燻ってるのが納得できないんだぁ!!