12月24日の早朝。まだ白み始めた空の下、宮城の風は鋭く冷たい。吐く息は白く、駅のホームに立つリオの耳は冬の空気に刺されるように赤く染まっていた。
肩に掛けたバッグの中には、アリサへのクリスマスプレゼント——小さな箱に入った細身のネックレス。何度も確認したせいで、箱の角が少しだけ柔らかくなっている。この日のために爺ちゃんに頼み込んで自営のお店の手伝いをしてアルバイト代として少しずつ貯めながら買った念願のプレゼント…
「よし……忘れてねぇな」
ホームに滑り込んできた始発の新幹線に乗り込むと、リオは席に深く座り込み、スマホを取り出した。
アリサから届いたメッセージは既読のまま、昨日の夜で止まっている。
『明日、楽しみにしてるよ。無事に来てね。』
短い言葉だけど、何度読み返しても胸が温まった。
車窓に映る自分の顔は、思いのほか柔らかい。誰かと会うために遠出するのは初めてじゃない。けれど、「恋人に会いにいく」という感覚は、まったく違う緊張を伴っていた。
——アリサさん、今日喜んでくれるかな。
そんなことを考えているうちに、新幹線はあっという間に速度を上げ、宮城の景色を置き去りにしていった。
■東京駅、午前十時
観光客と通勤客が入り混じる巨大な駅構内で、リオは改札前に立っていた。人の波が絶えず押し寄せる中、スマホを見ながら少しだけ背伸びをする。
アリサは東京生まれ、東京育ち。街に馴染みすぎていて探すのは難しい——はずなのに。
「リオ!」
その声は、すぐにわかった。
人混みの向こう、白いダッフルコートを揺らしながらアリサが駆け寄ってくる。息を弾ませ、それでも明るい笑みを浮かべて手を振る姿に、リオの胸が一気に軽くなる。
「ごめんね。待たせた?」
「ううん。今来たところ。……えへへ、本当に来てくれたんだね」
アリサがリオのコートの袖をつまむ。触れた瞬間、顔を赤くして手を離しそうになるが、リオが軽く笑ってその手を包むと、彼女はさらに赤くなった。
「身長…伸びたね…すっかり大人っぽくなっちゃって…」
「はは…そうだね。もうアリサさんより大きいからね。アリサさんと並んでも大丈夫なくらいカッコよくなったかな?」
「何言ってるの!?元々リオはカッコいいよ!それにたとえ身長が小さくてもリオのことを好きになっていたと思う…」
「っ!?」
思いがけない反撃を喰らってしまいこちらが顔を赤くしアリサと見つめ合ってしまう
「…だめだめ!まだ早い!朝なんだから…」
「ん?大丈夫?」
思わず手を出しそうになったのを理性で必死に止め顔を振りながら煩悩を抑える
「大丈夫大丈夫!それより早くいこ?早くアリサさんと色んなとこ行きたいんだ」
その言葉に、アリサは照れ隠しのように視線をそらして、反対の手でマフラーを引っ張った。
「……じゃあ、行こっか。最初は渋谷のクリスマスマーケット行きたいんだ」
「了解」
自然と手は繋がれたまま、二人は駅を出た。
■渋谷のクリスマスマーケット——
到着すると、すでに多くの人で賑わっていた。煌びやかなライト、甘い匂いのホットワインや焼き菓子。外国の音楽が流れ、どこを見ても楽しそうな笑顔であふれている。
「わぁ……今年も可愛い……!」
アリサが目を輝かせながら、手袋越しにリオの手を強く握る。
「こういうの好きなんだね」
「うん、大好き! ほら見て、ツリーの飾りもすっごい凝ってるんだよ?」
彼女は子どものようにきょろきょろと周囲を見渡し、そのたびにリオも視線を向け、彼女の横顔を盗み見た。
アリサは本当に、笑顔が似合う。
リオは胸の奥がじわりと熱くなるのを感じながら、マーケットの屋台に向かった。
「ねぇアリサさん、これ食べよっか?」
「えっ、ジンジャークッキー!? 食べる食べる!」
クッキーを2枚買い、片方を差し出すとアリサは嬉しそうに受け取った。
一口かじると、唇に付いた砂糖を指でぬぐいながら、ふわっと笑う。
「甘い……でも、リオの選ぶやつってなんか特別おいしい気がする」
「そりゃ、アリサさんが好きそうなもの選んでるからね」
「えっ……」
恥ずかしそうに肩をすくめるアリサ。
その反応がかわいくて、リオは思わず笑ってしまう。
■渋谷スクランブル交差点——
昼前、2人は渋谷の街を歩きながら色々な店を見て回った。雑貨店ではクリスマス限定グッズを眺め、服屋ではアリサに似合うニットを想像し、カフェに入れば、ホットチョコレートを分けながら小さなイタズラのようにマシュマロの取り合いをした。
「リオってさ、東京の街、案外似合うよね」
「俺が? いや宮城にもう慣れちゃって東京は人多すぎて落ち着かないよ」
「ふふ、確かに。でも……リオと一緒なら、私はどこでもいいなっ」
「……っ」
さらっと言うアリサに、リオは思わず歩みを止めそうになる。
そんなこと、不意に言うなよ——と心の中で頭を抱えながら、アリサの頭を軽くくしゃっと撫でた。
「……ほんと可愛い」
アリサは少し驚いたあと、顔を赤くし目を細めて笑った。
■夕方、イルミネーションが灯る表参道
日が少し傾くと街に光が灯り始めた。表参道の並木道が一斉に輝き出し、黄金色の光がゆっくりと歩道を染めていく。
「きれい……」
アリサは息を呑み、光のトンネルの中へ足を進める。
その横顔はまるで物語の主人公みたいで、イルミネーションの反射が瞳に揺れていた。
「リオ、写真撮ろ?」
「うん!撮ろ撮ろ!」
2人で並び、スマホを構えて撮影すると、アリサは満足そうに画面を眺めた。
「……ねぇ、もう一枚。今度は——手、繋いでるやつ」
そう言うアリサの声は小さかったが、リオは聞き逃さなかった。
「はいっ」
自然に手を絡ませると、アリサは安心したように頬を緩める。
シャッターが切れる瞬間、リオはふと思った。
——こういう時間が、ずっと続けばいいのにな…
■夜、東京タワー近くの展望スポット
ディナーを済ませ、最後にアリサが行きたいと言った場所。
東京タワーを間近で見上げられる小さな広場は、冬の夜なのに多くのカップルで賑わっていた。
ライトアップされたタワーは鮮やかな赤と白で、空気の冷たさとは対照的にどこか温かみを感じさせた。
「リオ。……ここで言いたいことがあるの」
アリサが立ち止まり、街の明かりを背にリオを見上げる。
「今日、一緒にいて思ったの。リオといる時間って、私……ほんとに幸せなんだなって」
声が震えていた。
「私、ただの恋人じゃなくて……もっと、特別な存在になりたい。ううんそれは…まだ早いのは分かってる…でもリオの、一番近くにいたいの」
その言葉は、真っ直ぐすぎて胸に刺さる。
「…俺もだよ…正直まだ東京には戻れないけど3年後必ず東京に迎えに行く…こんなガキみたいな俺の言うことなんてなんの説得力もないけど…それまで待っていてほしい」
そしてリオは少し息を吸うと、バッグの中を探った。
そして、小さな箱を取り出す。
「……アリサさん…これアリサさんに」
箱を開けると、中には細いチェーンのネックレス。
アリサの瞳が大きく開かれる。
「これ……クリスマスプレゼント?」
「うん。似合うと思って色々探したんだ」
「つけて、いい……?」
「もちろん…てか俺がつけてあげたい」
リオがアリサの髪をそっとかき分け、後ろからネックレスを留める。
金具がカチリと音を立て、アリサの首元に小さな光が揺れた。
「……きれいだよ、アリサさん」
その言葉にアリサは顔を真っ赤にし、胸の上でネックレスをそっと指で触れた。
「リオ……私、本当に……リオのことが好き。会えなくなってから余計に思うようになっちゃった」
「…俺もだよ…今はまだ向こうにいるけど何度でも会いにくるよ」
そしてゆっくりと、お互いに顔が近づいていく。
街のざわめきも、タワーの光も、すべて遠い。
アリサがそっと目を閉じ、リオもまた静かに瞼を下ろす。
冬の夜風の中で、二人の唇が触れた。
強くもなく、弱くもない。
けれど確かに想いが伝わる、静かで深いキスだった。
こんな感じのもありでしょうか?評価が良ければ定期的に挟んでいこうと思います!