Skybound ace ―   作:心ここにあらず

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エピソード3

神凪リオが5年生になった頃、

東京練馬体育館のキッズバレー練馬ジュニアクラブには、いつのまにか“ある空気”が出来上がっていた。

 

 ――リオとリエーフ、どっちが凄いのか?

 

 そんな、子どもらしいけれど決して軽くない、

比較と期待と好奇心が入り混じった空気だ。

 

 リエーフは相変わらず長身で、4年の時点で150センチを超えていた。

 その長い手足がブロックに伸びるだけで、小柄な子たちはみんな怯む。

 

 一方のリオは、長身なのは勿論だがリエーフとそこまで変わらない。しかししなやかな筋肉が両手両足についていた

 

 そして跳んだ瞬間に相手を置き去るほどの跳躍力は健在だった

 

 

「リオくんのジャンプ、なんであんなに高いの……?」

 

「リエーフと同じくらいの身長なのに、なんで上から叩けるんだ……?」

 

 そう囁かれるほどに、

リオのジャンプはまるで空気そのものを押し上げるような、

独特の軽さと切れ味を持っていた。

 

(明日、初めて大会に出る。……ドキドキする)

 

 体育館での調整練習を終え、

人の少ないコートに腰を下ろし、リオはスパイクシューズを脱ぎかけた。

 

 そのとき。

 

 

「リオ~! 明日、絶対勝つぞ!俺の“初勝利”は、明日なんだからな!」

 

部活バッグを肩に下げながら、リエーフが駆け寄ってくる。

 出会った頃から変わらない、無邪気で少し強がりな笑顔。

 

リエーフの言葉に、リオは苦笑しながら肩をすくめるも本心は試合のことで頭がいっぱいだった。

 

「練習終わった?」

 

 リオの背筋がドキッと跳ねた。

 

 リエーフの姉、灰羽アリサ

 すらりとしたスタイルに白い肌、涼しげな瞳。

 明らかに周りの大人たちが見惚れるレベルの美人だ。

 

「あ……アリサさん、久しぶりです……」

 

 自分でも驚くくらい声が小さくなる。

 

 リエーフが訝しげにリオを見る。

 

「リオ、急に小声。なんで?」

 

「べ、別になんでもないし!」

 

 アリサはくすっと微笑み、

リオの頭をやさしく撫でた。

 

「リオくん明日が初めての大会なんでしょ? うまくいくといいね」

 

「は、はい……!」

 

 頭の上から、ほんのりシャンプーの香り。

 リオの心臓が跳ね、顔が熱くなる。

 

(アリサさん……やっぱり綺麗だ……)

 

 大会前日だというのに、緊張よりも“別のドキドキ”が胸を占めた。

 

 

「リエーフも頑張れ。二人とも応援するよ」

 

 姉の無邪気なエールに、リエーフの表情が緩んだ。

 

 こうして、大会前夜は静かに更けていった。

 

 

● 大会当日の朝

 

 大会当日。

 リオは日の出と同時に目が覚めた。

 

(緊張してる……)

 

 心臓がバクバクしている。

 けれど、この感覚は嫌ではない。

 

 父・レオナルドが言っていた。

 

《本物の選手はね、緊張を抱えたまま跳ぶんだ。

 緊張は弱さの証明ではないよリオ》

 

(うん。大丈夫、勝てる)

 

 早めに会場につくと、既に選手たちの熱気でいっぱいだった。

体育館の匂い。

 ボールの弾む音。

 試合前のざわめき。

 

 リオは深呼吸しながら、体育館を見渡した。

 

「リオ! 絶対勝つぞ!」

 

 いつものように大声で走り寄ってきたリエーフは、

緊張よりも気合いが勝っているらしい。

 

「あぁ……絶対に」

 

 二人は拳を軽く合わせた。

 

● 初戦――

 

初戦、リオのチームは緊張でガチガチだった。

 

 相手は中堅チーム。

 レシーブもアタックも小学生並のレベル。

 

「いっ……いくよ、トス上げるよ……!」

 

 6年セッターの手が震えている。

 リオは軽く笑った。

 

「大丈夫だよ。ぜんぶ、任せて」

 

 そして――

 

「はいっ!」

 

 高めのトスが上がった瞬間。

 

 リオの身体は、軽かった。

 

 視界の端で、相手の二枚ブロックが跳ぶ。

 けれど、リオはそれを“見てから”踏み切った。

 

(遅らせて……上に抜く!)

 

 ――バチィィン!!

 

 初得点はリオのストレートスパイクだった。

 

「すげぇ……あれで四年生かよ!」

 

「なんであんな跳べるんだ……?」

 

 会場にざわめきが広がる。

 

チームの緊張が溶け、動きが滑らかになっていく。

 

 その勢いのまま、練馬ジュニアの初戦は勝利した。

 

● 二回戦 ―

 

二回戦、相手は強豪ジュニアチーム。

高さも反射神経も、東京練馬ジュニアに匹敵する。

 

相手ブロックにリエーフのスパイクが止められる場面も出る。

リオがフォローでブロックに入ると、場面を打開。

小学生とは思えぬ迫力でボールを拾い、セッターに返す。

 

「リオ!ナイス!」

「リエーフも、スパイク決めろ!」

 

リオの安定力とチームの団結力がかみ合い、二回戦も接戦の末勝利。

 

その後も勢いのまま東京練馬ジュニアはトーナメントを勝ち抜いていきとうとう決勝戦までやってきた

 

 

 

●決勝の相手は― 千代田区ジュニア

東京体育館のメインアリーナは、普段の練習場とは比べ物にならない熱気で包まれていた。

決勝戦のコートを見渡すと、既に相手チームが準備を整えている。

 

千代田区ジュニア。

キャプテンは五年生にしてキャプテンマークをつける佐久早聖臣…彼の鋭い視線はコート全体を支配しているかのようだった。

小学生とは思えない落ち着きと冷静さ、そして何よりも“勝利への確信”が漂っていた。選手としてはパワーは無いが、上背はあり手首が異常に柔らかくその手首の動きでコースを打ち分けたり、とても取りづらい回転をかけたスパイクが武器の5年生にして全国でも有数のスパイカーだ

 

 

そしてチームの核としての選手がもう1人… OH(アウトサイドヒッター)の古森 元也だ。OHのポジションにつく選手だが守備がなにより上手くリベロ顔負けである。バディである「佐久早聖臣」が居るからこそ、”阿吽の呼吸”のコンビプレイは目を見張るものがある。

 

チーム全体がレシーブも正確で、セッターとの呼吸も抜群。本当に小学生チームとは思えない連携力だ。

 

 

「……強そうだな」

 

リエーフはリオの横で呟いた。

リエーフは背筋を伸ばし、緊張で少し唇をかんでいる。

 

 

「まあな……でも、俺とお前が負けてるとは思わないけどな」

 

「…リオ」

 

そう言い笑う二人の目には、先ほどまでの緊張が消え静かな闘志が宿っていた

 

 

観客席はすでに埋まり、アリサも手を振りながら応援している。

彼女の声援は、リオにとってもリエーフにとっても背中を押す存在だった。

 

コートを睨むリオの視線は、自然と相手の選手一人一人に向く。

• 佐久早:キャプテン。小学生離れしたジャンプ力と判断力。癖の強いスパイクも安定しており、ブロックも高い。

• 古森:守備兼スパイカー。動きが柔軟で、リベロ顔負けの守備力を誇る

• WS:高さはないが、速い攻撃と複雑なフェイントが得意。

・ ミドルブロッカー: チーム一の長身にしてブロックの要…佐久早と古森と揃う3枚ブロックは県内で抜かれているのを見たことがない

• セッター:ボールの出し方が多彩で、どのスパイカーにも正確にトスを上げる。

• リベロ:正確なレシーブで、一度でも崩れそうなボールはほぼ拾う。

 

リオは息を吸った。

 

(……全員強い。誰一人油断できない)

 

リエーフも頷く。

 

「でも、オレたちだって負けてない。絶対勝つ……」

 

その言葉を胸に、二人は試合に入る準備を整えた。

 

ホイッスルが鳴り、試合開始。

 

最初のサーブは、佐久早から。

完璧な場所に放たれたサーブがリエーフに襲いかかる。

リエーフともう1人のチームメイトの間にボールが落ちる寸前

 

「うっ……!」

 

リエーフは踏み込み、必死にレシーブする。

ブロックのタイミングを計り、リオがフォローでカバー。

「ナイスカバー!」

リエーフの声が、焦るリオの背中を押す。

 

セッターに上げられたボールを、リオは全力で跳躍しスパイクを放つ

 

“バァンッ!”

 

しかし、古森が柔軟に体を反らしてレシーブ。

ボールはセッターに返り、再び千代田区ジュニアの攻撃へ。

 

最初の数ポイントで、双方は一歩も譲らないのだった

 

 

 

佐久早のスパイクは、リオと同じくらい高く飛ぶ。

リエーフのブロックは届くが複雑な回転がかかったボールに弾かれる

速いトス、複雑な攻撃、完璧なレシーブ。

 

「……くそっ!」

 

 

リエーフは拳を握り締める。

何度も攻撃が決められることで、焦燥と悔しさが胸を締めつける。

 

リオも、リエーフの横で必死にカバーする。

背中が震えるほど緊張していたが、リオの一言で立て直す。

 

「リエーフ、落ち着け。俺がいるから大丈夫だ!」

 

リオの声は穏やかで、しかし強く、リエーフの心を支えた。

そして序盤は互角の展開。得点はお互いに重ね、15-15の大接戦。

リエーフが一度、緊張でミスをしかけるが、リオが励ますことでカバー

 

しかし佐久早の攻撃を止めるすべがなく最終的に、21-19で千代田区ジュニアが第1セットを先取。

 

 

● 第2セット ―

 

第2セットも序盤から互角の展開が続くと思われた

「ピッ!」

 

ホイッスルが鳴ると、体育館中に響く応援の声がざわめきとなって耳を包んだ。

第2セット開始。セットカウントは0-1で千代田区ジュニアがリードしている。

リオは深呼吸し、拳を握った。

 

「よし……今度こそ、止めてやる」

 

リエーフも隣で肩を揺らしながら頷く。

 

「うん、絶対、ここから逆転する!」

 

 

 

千代田区ジュニアの佐久早は冷静な瞳でコートを睨み、ボールを手に取る。

最初のサーブは佐久早から。

 

「バシュッ!」

 

サーブがリオに向かって飛ぶ。リオは瞬時に踏み込み、“パシッ!”とレシーブ。上手くレシーブすることに成功しボールはそのままセッター頭上に

 

リオは再び助走を取り、十分な助走距離から全力のスパイクを放つ

 

“ドゴンッ!”

 

轟音と同時に放たれたスパイクはミドルブロッカーと佐久早の間を打ち抜き見事得点となる

 

 

「「「うぉぉぉぉ!!」」」

 

 

「ナイスリオ!」

 

 

仲間たちが近寄ってきて口々に褒めてくる

 

ここから逆転かと思われたがリオのサーブは良いところに放たれるが古森が体を反らして“ビョンッ!”と拾う。

そしてセッターが正確にトスを上げ、佐久早がスパイクを叩き込む。

 

「うう……!」

 

第2セット開始早々、互角の攻防。両チーム一歩も譲らない。

 

 

そして得点はお互いに重ね、序盤で10-10のタイに。

 

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