──今日は国連が定めた【世界アンドロイドの日】です。
今朝のニュースでそんな事を言ってたのが、頭にこびり付いて離れない。
人々の生活にアンドロイド──特に人間の生活をサポートするメイドロイドが関わるようになってから、早数年。
当初はAIが暴走した際のリスクが怖いとか、機械の反乱が起こるとか、労働者の雇用が無くなるだとか騒がれていたが、それらの声も今となっては昔の話。
もはやメイドロイドは人々の生活に欠かせない、大切なパートナーとしての立ち位置を確立させていた。
ただし、
高度なAIを搭載して、不気味の谷を越えて本物の人間に見紛う容姿を持ち、まるで心がある様な立ち振る舞いが可能な精密機械の集合体を、一般人が購入できるはずもなく。
比較的性能が低くて安価なモノでさえ、パンピーが逆立ちしたって手に入る事はまずあり得なかった。
あり得ない……のだけれども。
何事にも、例外ってものはある。
「マスター、お昼ご飯が出来ました」
そう言って、さながら三ツ星レストランで提供されるような見た目と香りのオムライスをお皿に乗せて、嬉しそうに話す女の子。
俺の事を『マスター』と呼び、メイド服を完璧に着こなすその姿は、誰が見てもメイドさんその物。
と言うのも当然で、彼女の名前は『ユーミア』と言い、先述したメイドロイドなのだ。
「ありがとう、ユーミア」
もっとも、俺にメイドロイドを購入できるだけの財力は無い。
かと言って、どっかの店や家から盗んだわけでも、当然ない。
──事は半年くらい前に遡る。
当時は夜勤のバイトをしていて、俺は珍しく早上がりだった。
薄っすらと明るくなり始めた空の下、チャリンコをゆっくり漕いでると、帰り道途中の廃材置き場を通った時に、何か人型の物を見つけた。
最初は不法投棄のマネキン、もしかしたら死体かと思った。
そもそも、普段と同じ定時上がりの俺なら、疲れ切って気にもかけなかったと思う。
けれどこの日はいつもよりほんのちょっぴり元気だったので、俺は自転車を止めて見つけた物に近づいて、正体が何かを突き止めようとした。
するとどうだろう、そこにあったのはマネキンでも死体でも無く、ガラクタに身体を預けて眠った様に佇んでいる、メイド服を着た女の子じゃないか。
服装や顔は汚れていてかなりみすぼらしい物だったが、外から見る分には外傷がある様には見えない。
一瞬、酔っぱらって寝てるのかと思ったけど、人間の耳にあたる部分にある金属の突起パーツを見て、すぐに目の前の女の子がメイドロイドだと分かった。
『ううぇあーどうしよう、こういうのって行政とかに電話しなきゃダメなんだっけ?』
思わずそんな感じの事を口に出したと思う。
たいして大きな声を出してはなかった、でもそれが切っ掛けになったのか、どうしたものかとあたふたしてる俺の目の前で、ゆっくりと女の子は瞼を開く。
そのままじっと俺を見つめる女の子と、蛇に睨まれた蛙みたく硬直する俺。
数秒ほどそんな時間が続いてから、女の子はポツリとつぶやいた。
『初めまして。私の名前はユーミアと言います』
機械の身体から発せられたモノとは思えないほど、澄んだ優しい声だったのが印象的だった。
『あなたは……ユーミアのマスターですか?』
そうして、時は現在に戻る。
あの後、俺の事をマスターだと認識したユーミアの誤解を解けず、そのまま放置するわけにもいかなかったので、仕方なく自転車の荷台に座らせて一緒に帰った。
まさか、人生初の二人乗りをメイドロイドとする事になるなんて、思わなかったよ。
日が昇るかどうかの早朝で良かった。汚れたメイド服姿の女の子と二人乗りなんて、警察やご近所さんに見られたら面倒この上なかったから。
「マスター、先ほどからぼうっとしていますが、何か考え事ですか?」
「え、あーいや、大丈夫だよ」
「もしかして、オムライスが口に合わなかったでしょうか?」
「違う違う、そういうんじゃなくて」
まん丸な太眉を顰めて不安げな声で言うユーミア。
その姿は、到底機械で動くアンドロイドには思えない。
アンドロイドって、もっとこう、機械的で淡々と業務をこなす物だと思ってたけど、ユーミアはまるで違う。
拾った当初こそ表情が固くて、言葉も辿々しい物だったけど、今となってはこの通り。こちらの些細な仕草や言動に逐一反応して、さながら本物の人間を相手にしている様だ。
ユーミアが現行販売されてるメイドロイドモデルのどれに相当するかは不明だけど、余程高度なAIなんだろうな。
「ちょっと、ユーミアに出会った頃を思い出してただけだよ。オムライスは今日も美味しい。ありがとう」
「本当ですか? ……よかったです」
不安に染まっていた顔がたちどころに安堵のため息と共に、嬉しそうな笑顔に変わる。
うん、はたから見れば完全に人間の女の子だ。
「ところで、なぜ急に私を拾った時の事を思い出したのですか?」
「今朝のテレビで、今日が【世界アンドロイドの日】だって言っててさ」
「世界アンドロイドの日……ですか」
「うん、アンドロイドに感謝しようーって目的で作られたっぽくて」
「はい──私の調べた限りでも、マスターのおっしゃる通りですね」
「お、出た出た星の本棚」
どうやらユーミアの中に搭載されてる検索機能で調べたらしい。
俺が好きだった特撮ヒーローになぞって【星の本棚】と呼んでるけど、これって実質歩くGoogleみたいなもので凄いよな。
実際はGoogle以上の性能だけど。
「だからまぁ、なんだろう。ユーミアに俺も何か感謝のしるしみたいなの、出せないかなぁって思ったりして」
そういうのって言わない方が良いんだろうけど。
良いでしょ、ユーミア相手なら。
「まぁ、私のためにですか?」
「うん。こうして家事全般まるまるして貰ってるワケだし、一回や二回で返せるわけじゃ無いとは思うけど」
「そんな事ありません!」
両手をグッと胸の前で握りしめて、ユーミアは力説する。
「マスターに拾っていただき、こうして一緒に暮らせる。それだけでユーミアは幸せです」
「そ、そう?」
「そうです。ユーミアはマスターに、一生をかけても返せない程の恩を受けていますから」
「大袈裟だなぁ、ユーミアは」
なーんて、笑って茶化してるけど、実は結構素直に嬉しい。
ユーミアは俺があの日拾ったことについて、物凄く感謝してくれてる。
だけど、だからって『はい分かりました』で終わらせるのは話が違うよな。
「じゃあさ、ユーミアが個人的にやってみたい事ってある?」
「やってみたい事、ですか……?」
「そうそう、どこか行きたいとか、アレを食べたいとか、そういうの」
「そうですね…………」
口元に手を当てて、思案するユーミア。
例の高性能AIがフル起動してる──のかは分からないが、やや間を開けて、ユーミアが導き出した答えは、
「この後、マスターのお布団をコインランドリーに持っていきたいです」
思わず腰から力が抜けて、椅子から落ちそうになった。
「いやなんでよ!?」
「最近、布団乾燥機が設置されたので、是非マスターに安眠していただきたく──」
「ありがとう! でもそうじゃなくて! 俺を最優先にするの止めよう!」
「マスターを最優先にしないメイドロイド……それは即ち、ユーミアの存在意義そのものが……」
気のせいだろうか、プシューっと煙が噴き出てる様に見える。
「分かった分かった、難しい事言ったかもな、ごめん」
取り敢えず、彼女自身の願望を叶えようとしても駄目みたいだ。
幾ら人と同じ様に見えたって、彼女は何処まで行ってもメイドロイド。
マスターの意向を完全度外視出来る振る舞いは、きっと不可能なんだろう。
人がどう頑張っても、生まれ持った機能だけで空を飛ぶことができないのと同じだな。
「申し訳ございません、マスターのご希望に沿う事が出来ず……」
「良いの良いの、俺も急に無茶振りしたから。でもそうだなぁ、だったら……」
今度は俺が考え込むターン。
ユーミアは自分から何かしたい、何処かに行きたいって欲を出さない。
かと言って、彼女の普段の様子を見るに、きっと面白い事は面白い、楽しい事は楽しいと、感じる事は出来るはず。
そこには必ず俺という【マスター】が居なきゃダメなんだろうけど、つまりは俺と一緒なら、あれこれ楽しむ余地は生まれる……と。
──よし、決めた。
「ユーミア、今度の休みにさ──」
「わぁー、見てくださいマスター! 街がこんなに小さく……車や電車もオモチャみたいです」
東京スカイツリーの展望デッキからの景色を、ユーミアはまるで子供の様にはしゃぎながら見ている。
普段着ているメイド服は、俺が選んだ年頃の女の子が着る服にスタイルチェンジ。
黄色いブラウスと黒のロングスカート、個人的には似合うと思うが完全に俺のセンスなので不安だったが、今日ここまで来る途中に何度もすれ違いざまにユーミアを見る人が居たので、正解だった。
まぁ? 俺のセンスってよりも、モデルが良すぎるから何着ても似合うってだけかもですが。
「ユーミア、落ち着いて。外では違う呼び方って約束でしょ」
「あ……申し訳ございま」
「話し方も」
「ご……、ごめん……ネ? これで合ってますか? 」
「合ってる合ってる、その調子」
メイドロイドは世間に存在が認知されてるが、
当然、ユーミアが普段通りの格好と呼び方で俺に接したら、嫌でも目を引くだろう。
中にはメイドロイドを単なる機械としか見ない人も居る。
俺みたいに2人でお出かけ……なんて行動を変だと思う人も当然、出てくるだろう。
なので、彼女には普段と違う格好と言葉遣いで接するように
「うぅ……やっぱり慣れません、というより受け入れ難いです。マス……貴方に無礼な態度で接するなんて」
「まぁまぁ、これも人生経験ってことでさ。それに、メイドロイドだって警察に知られて、製造番号とか聞かれてもマズいじゃん」
「それは……そうですけど、でも……」
ユーミアはあくまでも不法投棄されたのを俺が拾っただけ。
一般的なメイドロイドは、メーカー側で設定した製造番号や、購入者である事を証明する個人ナンバーとかがある(らしい)。
これらは高価で高性能なメイドロイドの盗難対策として設けられた物で、実際盗まれたメイドロイドを所持していた人が、街中でメイドロイドを連れて歩いてた所、番号を聞かれて答えられず逮捕されるケースがあった。
同伴者が見るからに金持ちな人間なら職質なんてされないんだろうけど、一般人な見た目の俺にメイドロイドが居たら、間違いなく警察に怪しまれるだろう。
その対策として、ユーミアにはラフな態度を求めている。
……もっとも、そんなリスク背負うくらいなら始めからユーミアを連れて外に出るなって話だけど。
「あの……」
「ん?」
「あ、あっち側の景色も、見ていいで……良い?」
「──もちろん」
俺が答えると、パッと明るい顔で東側のデッキに駆けていくユーミア。
「……それとこれとは話が別だよね」
俺に拾われてから、ユーミアはずっとアパートと周辺のスーパーやコインランドリーと言った場所しか知らない。
そんな彼女に、広い世界を見て楽しんで貰えるなら。
ちょっとやそっとのリスクも、勘定に入らないよって。
「いや〜それにしても、ホント高いな。高層ビルすらジオラマみたいだ」
「えぇ、そうで──そうね。こういう時って『人がゴミの様だ』って言うべき?」
「ぷっ……何それ、何処で聞いたのさ?」
「事前に調べてる中で、こんなワードが出てきて……さっきも向こうで言ってる人が居たからそうだと思ったんだけど、違うの?」
「あー……どうだろうな、間違ってないかもだけど……くくっ」
「笑ってる? ユーミアは変な事を言ってるの?」
我慢しようと思ったけど、どうにも堪えきれなかった。
だってそうだろう、よりによってユーミアの口からそんな使い古されたスラングが出るなんて。
「そうだね、変な事かもしれないけど、こんな時しか使えないフレーズだと思うよ」
「んぅ……結局どうなのですか?」
「言わなくていいけど、言ったら妙に楽しくなる言葉、かもね。試しに俺も言ってみるか」
「じゃあ、その後にユーミアもやってみま……みるね」
「おう、コツは低めだけど響く様な声で、堂々と発声するんだ」
その後、展望デッキでムスカ大佐の真似をする変な2人組として、ある意味では目立ってしまったのは間違いない。
一通り展望エリアを楽しんだ俺たちは、お土産店も眺めた後に、ツリーを出た。
「どうだった、普段絶対見ない所からの景色」
「楽しかった、データベースで上空からの景色は幾らでも見られるけど、実際に見るのはまた別ね」
始めはぎこちなかった人間らしいラフな語り口も、流石の適応力ですっかり物にしている。
「それじゃあ、今度はもっと高い所の景色を見てみない?」
「え? スカイツリーより高い場所って、日本には無いでしょ?」
「ふふっ、それがあるんだなぁ。こっちだよ」
「──っ!?」
ユーミアの手を取って、俺は今日のメインとなる場所へと向かう。
「あ、あのっ!」
「安心して、変な所連れてくわけじゃないから!」
「……はい」
ちょっと強引だったか、ユーミアは戸惑ってる様子だったけど、俺の言葉を信じてか、しっかり手を握り返してくれた。
我ながら大胆な事したかなぁ、と思わなくもないけど、ユーミア相手だし大丈夫でしょ。
タワーを出て数分も掛からない場所にある複合施設に入ると、目的地にすぐ到着した。
「はい、ここでーす」
「ここって……プラネタリウム」
「そう。一回入って見たかったんだよなぁ、あっプラネタリウムは知ってる? 知らなかったら説明するから検索しなくていいよぉ」
「もう、それくらいは調べなくても分かります。ユーミアの事世間知らずだと思ってない?」
「いや、俺が説明したがりなだけ」
そんなやり取りをした後、改めてプラネタリウムの上映スケジュールを確認する。
と言っても、事前に調べてオンラインチケットも買ってあったから、急なトラブルでも起きてない限り、間違いなんて無いんだけど。
「……うん、問題無し。早速入ろうユーミア」
「チケットは購入しなくていいの?」
「もう済みでございます」
「……今日のマスター、普段の何倍も用意周到ですね」
「こら、口調を戻すな。それに俺は本来用意周到な男なの、覚えといて」
「普段からそう合って欲しいです。昨日もバイトがあるのに二度寝どころか三度寝までしようと──」
「んー、聴こえない聴こえない、早く入ろーう」
また手を掴んで、無理やり入場していく。
こうすればユーミアは静かになると分かったので、とても都合が良いライフハックだ。
慣れない施設なのもあって、オンラインチケットに記載されてる番号の席を見つけるのにやや手間取ったけど、ユーミアの力を借りる前に見つける事が出来た。
「ここだよ、暗くなる前に見つかってよかったぁ」
「席、というより……ベッドの様ですが?」
ユーミアの指摘の通り、俺たちの席は靴を脱いで横になる事が出来るタイプのプレミアムシート。
転落&軽度な防音の囲いに覆われて、隣席との距離もあるので、人が多いプラネタリウムの中でも、2人だけの空間が出来る。
「そういう席もあるんだよ。さっ、まあすぐ始まるから横になろう」
そう言って、促すために俺から先に横になる。
それを見てユーミアも、おずおずと横になり、俺の隣にピッタリとくっ付いた。
「……ユーミア、広いんだしもっとゆとり持っても」
「他のお客さんはみんなこうしてるので、これが正しいスタイルだと思います」
距離が近いので装う必要も無く、小声でそう話すユーミア。
「え、いやそれはホラ、他の人達は多分──あっ」
「マスター……?」
……そうじゃん。兎にも角にもユーミアを喜ばせたいって気持ちから、プレミアムシートを選んだけど。
この手の席を選ぶ男女の組み合わせって、必然的に恋人同士ってパターンになるよな。
じゃあつまり、なんですか。俺も意識せずにユーミアをそういう場所に招いたってわけですから。
ユーミアは俺が前もって出した『普通の女の子の様に振る舞って』という命令に加えて、この場の雰囲気に倣って、まさに彼女ブームを炸裂してるって事になってるんじゃ……??
「〜〜〜っ!」
認識した途端、瞬く間に顔が熱くなるのが自分でも分かった。
「マスタぁ? 急に心拍数が上がっています、お身体に何か問題でも」
耳元で囁くユーミアの声が、聴き慣れてるはずなのに普段の何倍も心を揺らしてくる。
「いや、平気平気、本当に大丈夫。今から始まると思ったらワクワクして来ただけだから」
「それだけにしては呼吸も乱れていますが、本当に何も──」
ユーミアの0距離追及を阻む様に、上映開始のアラームが鳴り響いた。
正直助かった……と言っても、いまだにユーミアは俺のそばにピッタリ居るんだけど。
『プラネタリウムにようこそ。いつまでも変わらない、無窮の煌めき。満点の星空が皆様をお待ちしています』
司会を務める女性の声と共に、天井が星空で埋め尽くされていく。
圧巻とも言える映像と音響に、さながら自分達がそのまま星空の中に浮かんでる様な気さえした。
「わぁ……マスター、凄いです、綺麗……っ!」
視線を向けると、ユーミアは今まで見たことが無いくらいに目を輝かせて、眼前に映る星々を見ている。
そんなユーミアを見て、先程まで乱れていた俺の心は瞬く間に落ち着きを取り戻していく。
うん、良かった。
今日、俺が本当に叶えたかった事は、達成出来たみたいだ。
映し出された星空に負けないくらいの輝きをその瞳に宿らせたユーミアを見て、俺もようやく楽しみにしていたプラネタリウムを満喫したのだった。
全部が終わった帰り道。
最寄駅から降りた頃にはすっかり夕焼け色に染まった帰路を、俺達は並んで歩く。
「今日はありがとうございました、マスター」
ユーミアが真っ直ぐ前に視線を向けながら言う。
「スカイツリーから見えた景色も、プラネタリウムで見た星々も、きっと普通のメイドロイドでは見る事の無い物でしょう」
メイドロイドはその名の通り、メイドとしての活躍を求められている。
確かに、俺みたいに街に連れ出す様な人は、正規の手段で購入する人達には居ないだろう。
「楽しんでもらえて何よりだよ、俺も嬉しい」
「本当に、感謝しきれません。ユーミアは一度は廃棄されたメイドロイドですが、きっと世界中のどんなメイドロイドよりも、幸せ者です」
「そんな事ないって……本当、大袈裟なんだから」
「大袈裟なんかじゃ無いです!」
そう言うと、ユーミアは立ち止まり、目線を俺に真っ直ぐ向ける。
辺りには誰もいないので、俺も同じく止まってユーミアの顔を見た。
「ユーミアは、マスターに拾われてから今日までの172日と14時間33秒、ずっと幸せでした。その中でも、今日は筆舌に尽くしがたい程の“幸福”を感じています」
「……っ」
「この気持ちは、普通のメイドロイドでは──いいえ、本物の人間でも得難い感動だと、ユーミアは認識しています。それを与えてくれたマスターへの感謝は、どんなに言い表しても足りません」
「そっか……へへっ、なんか、ありがと。普通に照れるな」
普段なら茶化す所だったが、ユーミアの普段より熱を帯びた言葉、何よりもその瞳を前に、俺も素直な気持ちを吐露する他なかった。
アンドロイドは何処まで行っても機械。でも、今のユーミアの瞳からは“涙”が浮かんでる様な気がした。
「なぁ、ユーミア。良かったらだけどさ」
「はい、なんでしょうマスター」
「今度は、本物の星空を見に行こうよ。プラネタリウムの映像じゃない、満点の星空をさ」
「マスター……」
「流石に海外の有名スポットとかは厳しいけど、国内だって幾らでもあるじゃん? 東京でも小笠原諸島とかもあるし。だから、いつか──」
「はい! 行きたいです、ユーミアはマスターとなら何処へでも!」
俺の言葉を遮る勢いで喜ぶユーミア。
もし、彼女に耳と尻尾があればきっと、千切れんばかりにフリフリと揺れていただろう。
「それじゃあ、
「はいっ、今の言葉、ユーミアのAIにも絶対優先命令として記録します」
「──ははっ、良いね。絶対優先命令ときたか。なら俺も絶対に守らないとだね」
もう彼女の言葉を大袈裟だとは笑うまい。
「さぁて帰ろう、今日の夕ご飯は何がいいかなぁ」
「何でもおっしゃってください。今日のユーミア通常の3倍腕を振います」
「おぉ、良いねえ。じゃあスーパーに寄って決めようか」
「はい、マスター」
お互いに何を食べるか談笑しながら、俺達は夕暮れの街を歩いていく。
俺とユーミアとの間に、今までより強い絆が結ばれた一日だった。
──この時の彼女の言葉が、後々に大きな運命の分水嶺だったと分かる事になるけども。
──それはまた、別の話だ。