レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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第一話

 私はボム、ソ連のスパイである。

 

 コツ、コツ、コツ……

 司令部への誰もいない廊下に私の靴音が響く。

 まだ春とは名ばかりのうすら寒さに、憂鬱になりながら司令部のドアを開ける。

 

「ボム、参上いたしました」

 

「うむ、そこへかけたまえ」

 

 栄養過多で制服がはち切れそうな上官が、はげ頭をなでながら声をかけてきた。

 

「失礼します」

 

 応接セットのソファーに腰掛けながら、私は上官の返答を待った。

 

「さて、先日の任務はご苦労だった同志ボム。帰ってきたばかりだが、君には次の任務に赴いてもらいたい」

 

 ほらきた。上官には私を休ませるという概念は存在しないみたいだ。

 

「次の任務地は日本だ。日本に現れたチェンソーマンの心臓を奪取してもらいたい」

 

「承知しました、概要をお聞かせくださいますか」

 

「うむ、現在チェンソーマンはこの男と融合しているようだ。経歴は不明だが若い男のデビルハンターのようだ」

 

 と言って上官はその男の写真を渡してきた。遠景からの、しかもあまりピントが合っていないもので、顔もよくわからなかったが、日本人には珍しいボサボサの金髪が特徴的だった。

 

「あの、もう少し鮮明な写真などはなかったのでしょうか?」

 

 これでターゲットを探すのは一苦労だと思い尋ねてみたが

 

「最近、なぜか日本の防諜が厳しくなってな、詳しい情報は取れなかった」

 

 と、頼りない返事が返ってきた。

 

 「そこで、君にはまずターゲットを探す潜入調査から頼みたい。東京の公安の近くにいる可能性が高いので、その近辺に潜伏して目的を達成してほしい。なんとしてもチェンソーの心臓を奪うのだ、頼んだぞ!!」

 

 ……相変わらず無茶ぶりであるが、残念ながら私に否という選択肢はない。

 

「承知しました、それで今回はどのような身分で潜伏しますか」

 

「うむ、まずはこのパスポートを偽造しておいた。今回の君の名前は“レゼ”という。君の見た目は日本でも違和感はないからそのままで良い」

 

 そういって上官が渡してきたパスポートを見て

 

「……あの、一つお尋ねしてよろしいでしょうか?」

 

「うむ、なんだね」

 

「生年月日を見ると、1980年生まれとなっているのですが……」

 

「うむ、ターゲットは若い男だからな、同じ年ぐらいの女子高生に言い寄られたらイチコロであろう」

 

「はぁ、それはそうなんでしょうが……」

 

「どうした、浮かない顔だが何か不服かね」

 

「いえ、不服というか……」

 

「古今東西、男は若い女に弱い、これは鉄則だからな」

 

 上官は完璧な作戦だとドヤ顔をしているが、私にはどうにも納得できなかった

 

「何か不服かね、同志ボム?」

 

「いえ、不服というよりは無理がないかな……と」

 

「無理とは?」

 

「私、今年で36になるのですが?」

 

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