第六弾特典ゲットしました。
知らなかった設定が書いてあり、貴重な資料でした。
そして、一日一回の上映になってしまいましたが、大行列でした。
私はジェーン、20歳、一児の母
私も夫も人間としての暮らしをさせてもらえなかった。なので、子どもをどうやって育てていいか全くわからなかった。それでも、本能なのだろうか、この子をとても愛おしく思えるし、私たちが守ってあげたいと自然に思えるのだった。
しかし、この子を人間として育てる最初の難関が待っていた。
「名前どうしよう……」
そう、私たち夫婦にはもともと名前がなかった。今はジェーンとジョンと名乗っているが、それもいわば「名無し」という意味だ。
「ん-……」
夫は手にしたものを見ながら
「ピロシキとか?」
ゴン!!
言い終わる前にジョンの頭をげんこつで殴っていた。
「……真面目にやって」
「ハイ……ん-でもよ、名前って呼びやすくて覚えやすかったらそれでよくね?」
「いやいや、私たちと違ってちゃんと両親いるんだからちゃんと考えてあげないと」
「ん-、ライカとか?」
「だからそれ犬!」
「ん-、じゃミーシャは?」
「それ熊!……あ、でも悪くないかも」
ミーシャ、正しくはミハイルか。大天使と同じ名前だ。
ソ連では当初は無神論だったが、悪魔がこんだけ現れたらもはや上層部もそうは言ってられなくなり、黙認されるようになった。むしろ悪魔対策に教義の研究も進んでいるらしい。
「んじゃ決まりだな、よろしくなミーシャ」
そう言ってジョンはワシャワシャと赤ん坊の頭をなでた。
「あ、コラちょっと!まだ首が座ってないんだから!」
それから私たちは研究室の近くの官舎に引っ越すことになった。
何せ、悪魔との融合実験が私しか成功例がない以上、その子どもというのは科学者にとって垂涎ものの研究対象に違いなかった。私は秘密の部屋の実験を思い出し、断固拒否するつもりだった。
サンプルが一例しかない以上、それを使いつぶすようなマネは決してしないと確約を得て、さらに私たちも研究対象にするなら、その期間は公務扱いで育休にするという条件で、私たちは研究に協力することになった。
これで研究期間中は、私は愛する家族とずっと一緒にいられることになった。子育ては試行錯誤の連続だったけど、私は確かに母になったのだ。
この間、私の人生はまさに絶頂期だったのだろう。愛する夫と子供と家族。これさえあればもう何もいらなかった。私は幸せすぎて、怖かった。
秘密の部屋の私は、何も持っていない、愛する人も愛してくれる人も誰もいない、それが当たり前だった。
だから失うものなど何もなかったし、それゆえに命令であるならば人の命を奪うことに何のためらいもなかった。そして、兵器である私は、命令通り数多の命を奪ってきた。
今、自分が新しい命を育んでわかった。私はもう兵器に戻れないかも知れない。
そして、兵器でなくなった私に存在価値はあるのだろうか。私は全てを失ってしまうのではないか、そのように考えだすと震えが止まらなくなった。
ふと、赤ちゃんの泣き声で現実に帰った。この子は何も知らず、こんな人殺しの兵器をよりどころとして生きている。
(私がしっかりしなきゃ、私がどうなってもこの子は、この家族だけは守らないと……)
そう思うと、居ても立ってもいられなくなり、予定よりも早く鍛錬を再開した。
幸い、悪魔の体は子どもを産んでも劣化することはなく、私は早々にカンを取り戻せた。
こうして、私は前線復帰が可能になったが、契約で基本的には育休扱いにしてもらえるのがありがたかった。
もっとも、私たちはいわゆるエースという存在だったので、やむを得ない場合は私か彼が出撃することがあった。そんな時は残った方が子どもの世話をしていた。
幸いミーシャはすくすく育ち、無事三歳になった。母子ともに健康と研究機関のお墨付きだった。しかも、私たちに似て運動神経は発達しているようで、体操やサンボの基礎を教えると、すぐに習得していった。
ソ連の短い夏の間に、私はこの子に泳ぎを教えたかった。
車で少し行くと湖があったので、そこで泳ぎを教えることにした。するとジョンが
「……実は俺も泳げねーんだよなぁ」
と言い出した。
「訓練しなかったの?」
と、聞くと、どうやら筋肉の密度が高すぎて水に浮かないらしい。うん、それはどうしようもないね。
かく言う私も、爆弾の悪魔の時は爆発が使えないので水中が弱点になる。
その弱点の克服のために水泳はかなり鍛えられた。今でもかなりの間は潜っていられる。
「じゃあ、ミーシャは泳げるようになってパパを助けてあげないとね」
と言いながら、車中で水着に着替えることにしたら……ジョンがのぞいていた……
バゴン!!
「エロ男!」
カバンをブラックジャックのようにしてスナップを効かせて殴る。
並の人間ならKOしているが、さすがはジョンだ、倒れない。
「きゃっきゃっ、エロ男、エロ男!」
ミーシャが喜んでいる。教育に悪い。
「さー、パパはほっといて泳ぎにいきましょーねー」
「うぉーい、待ってくれぇぇぇ」
先に行こうとすると、情けない声でジョンがやってくる。
ミーシャが駆け出して行ったので、慌てて後を追う。
7月の湖はひんやりと冷たく、火照った肌に心地よかった。
湖畔は草原になっていて、熱い風が草花を揺らしていた。
岸辺の浅瀬は子どもでも足が付くぐらいの水深で、ちょうどここで泳ぎを教えられそうだった。
ミーシャはここでも呑み込みが早く、すぐに顔をつけたり、浮くぐらいはできるようになった。
私は彼の両手を持って、バタ足の練習をさせた。
「ほら、息継ぎ、息継ぎ」
自分の子どもが一生懸命新しいことを覚えようとしているのが、母として感無量だった。
(この子に私の知ってること全部教えてあげる、ママがずっと守ってあげる……)
自分がこんなにも人を愛せるとは知らなかった。親を知らなくても母性本能というものは備わっているのだと、子どもを授かって初めて知った。人を愛するということは理屈や知識だけでは決して得られないものだと知った。
(こんな私でもママになれたんだ……)
そう思うと、心の底から喜びが沸き起こってきた。
私はモルモットでも、殺戮兵器でもなかった、私は人間なんだ!
そう思いながら泳ぎを教えていると、岸辺からジョンがこちらを呼んでいた。
「おーい、ジェーン。ちょっと休憩しようぜ!」
「はーい、あなた!」
彼が知らぬ間にビーチパラソルのようなものを立ててくれていた。
私たち3人はその陰で昼寝をすることにした。
たとえ体は悪魔であっても、誰が何と言おうと私の心は人間だ。
愛する夫がいて、子どもがいて……
(私は兵器としてはもう使い物にならないかもしれない……)
改めてそう確信してしまった。それでも、愛するものを守るためなら、たとえ人殺しだろうがなんだろうがやり抜く覚悟は以前よりも強くなった。
身勝手といわれようが、私はそれも人間の業だと思っている。
が、せめて、無辜の人間だけは手にかけないようにしよう。このあたりが今の私にできる妥協点だろう。
私の能力は大量虐殺が前提となっているところがある。
(技をもっと精密に、ピンポイントに使えるようにしなきゃね……)
例え人を殺めることがあったとしても、私が人間であるために、その枷だけは外さないようにしようと誓った。
そして、何があってもこの幸せと家族を守るのだ。
決意を新たに、幸せな眠りに落ちていった……。
そんな私の決意をあざ笑うように、1983年の11月18日がやってきた…。