レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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感想、お気にいり登録ありがとうございます。
ここからしばらく辛くなります。
それでも、最後にはレゼは絶対に幸せになってもらいますので
お付き合いいただけると幸いです。



第十一話

 私はジェーン、23歳 一児の母……だった。

 

 その時私は、ドイツにいた。ドイツにサンタクロースという恐ろしいデビルハンターがいるということで、私はその偵察に派遣されていた。辛うじて老人らしき人物がそれらしいということは突き止めたが、それ以上の情報は得られなかった。

 

 ベルリンにあるセーフハウスに帰ると、本国からのエマージェンシーコールがあった。

 

「任務は中止だ。大至急帰国せよ」

 

「え?」

 

「銃の悪魔が現れた、国内で10万を超える被害が出た」

 

「え!?私の夫は、子どもは!?」

 

「今日は子どもを連れて外出していた。連絡が取れん、戻り次第状況を知らせる」

 

「……承知しました」

 

 そう答えるのが精いっぱいだった。

 世界が壊れる音がした。冷たい汗が、私の背筋をつたった。

 膝から崩れ落ちそうになるのをこらえ、急いで帰り支度をした。

 

(あなた……、ミーシャ……お願い、私はどうなってもいいから……無事で、無事でいて!)

 

 そんな願いも空しく、帰国した私を待ち受けていたのは、私の夫も、子どもも、すべて亡くなったという知らせだった

 

 何が起こったのか、脳が理解を拒んでいた。

 

 銃の悪魔の被害者は、我が国で15万5302人だったらしい。

 

 私は、かつて住んでいた官舎へと向かった。どうしてもこの目で見ておきたかった。

 その辺りは既に更地になっており、家の基礎部分だけが残っていた。

 遺体は既に回収されていて、埋葬されたらしい。

 そもそも、バラバラでほとんど残っていなかったということだった……。

 その時ただ一つ残っていたものだと、写真立ての1枚の写真を渡された。

 

 そこには、幸せそうに微笑むタキシードとドレスの私たちがいた。

 写真ももっとあったはずだった、夫の写真、子どもの写真

 なぜ私は手元に持っていなかったのか……。

 任務で無くすのを嫌ったのだが、結果的にすべてをなくしてしまった。

 

 私は唯一の写真を抱きしめ、この世の終わりのように泣き続けた。いや、私にとっては正真正銘この世の終わりだった。

 

 (結局、死に目にも会えなかった……)

 

 死が二人を分かつまで……死というものがこんなにも近いものとは思ってもみなかった。 長い人生の果てのことだと、それでも恐怖していた自分はなんと愚かだったのだろう。悪魔がはびこる世界では、死などすぐに訪れる隣人のようなものではないか……。

 

 そんなことはモルモットだった時にさんざん目の当たりにしたじゃないか……。

 

 私はそんな事すら浮かれていて忘れていた。幸せとは、世界とは、たった一つの理不尽でことごとく壊れてしまう、薄氷の上にあるものだった。

 

 悪魔の力? 世界を敵に回して戦う?

 

 私はちっぽけで無力で、何も救うことなどできない。

 ただ壊して、殺すことしかできない、無力な存在だった。

 

 泣き続けて、もはや涙も枯れ果てたころ、心が擦り切れてただ一つの感情だけが残った……

 

 それは、自分の全てを奪ったものに対する復讐の念だけだった……。

 

 力が欲しい、こんな理不尽に抗えるような……、そんな大きな力が欲しい

 

 銃の悪魔に復讐を、それに与するものも同罪だ。

 それが例え国家であっても、私は復讐を完遂する。

 

 そして、私は情報部が保有する新たな悪魔と契約を結んだ。

 

 一体目は「マトリョシカの悪魔」

 

 見た目はまさに人間大のマトリョシカ人形だった。契約条件はミルクを飲ませることだった。

 

 これは、マトリョシカ人形のように内部の様子が分からなくなる、いわば簡易的なセーフティハウスを作る能力があった。

 他にも能力があるようだが、使用条件が満たせないようで不明になっている。

 

 そして、もう一体が切り札になる。

 それはソ連兵の恰好をしていたが、その防止の下は鉄格子になっていて、その奥は暗闇だった。コートのボタンを開けると腹に空洞があり、その向こうはシベリアの冬景色と柵と門が見えた。

 

 その名も「ラーゲリの悪魔」悪名高い、強制収容所の悪魔である。これは文字通り倒した悪魔を捕虜として収容できる。これは生きていても死んでいてもどちらでも良いようだ。そして、収容された悪魔を強制的に労働させることができるものである。

 

 契約はまず左腕を一本捧げること。これは身体が再生する私にとっては軽い条件だった。切り離した左腕を空洞の中に入れると、その腕からソ連兵の恰好をした私の姿が再生した。どうやらこれがラーゲリの監視員のようだ。

 

 そして、次に起動条件は悪魔、もしくは魔人を一体ラーゲリの基礎として捧げることであった。私は情報部が用意した魔人を倒し、中に入れようとすると、穴が広がって魔人を飲み込んだ。すると突然柵と門の向こうに簡易な宿舎がいっぱいできた。ここに収容していくようだ。

 

 そして、最後の条件がソ連に忠誠を誓うこと、これを守らなければたちどころにして自分自身がこのラーゲリの悪魔の虜になるということらしい。

 

 モルモットのころからずっとソ連に忠誠を誓うことは当たり前であり、疑う余地はなかった……かつての私だったなら……

 

 今はかつての私が知らなかったこともたくさん知っている。その内の一つが今までの常識を疑うということだった。既に私は全てを失っているので、恐れるものは何もなかった。そして、直感というか虫の知らせというか、そのようなものがこれに従うのはまずいという警告を与えてきていた。

 

 しかし、この悪魔がいなければ私は復讐のための力をえることはできないので、一つ細工というか賭けをしてみた。

 

 なんということはない、表向きは忠誠を誓う宣言をするが、内心では私は誰の支配も受けないという意志を貫くという、シンプルな方法だった。

 

 宣言をしたとたんに、心の中にソ連という強大な国家の恐ろしさ、モルモットとしての悲惨な体験、国に従えという圧力が私の心に襲い掛かってきた。

 

 ラーゲリ、すなわちソ連という国家の象徴は、私をモルモットとして、兵器として支配

するためにあらゆる方法で私の心を折ろうとしてきた。

 

 私は表向きは顔色一つ変えずに心の中で戦っていた。

 血の滴る無くした左腕を右手で押さえながら、私は誰にも縛られないとする意志の力だけでその巨大な圧力に抗っていた。蟷螂の斧という言葉通りの分の悪い戦いだった。

 

 それでも、銃の悪魔などという世界が恐れる存在に立ち向かうのであれば、国家に負けてはいられない。

 もし、ここで負けるようなら、私は意志を無くしてモルモットとして、兵器として生きるのがお似合いだということだ。

 

 そうだ、これは今までの私の人生への反逆だ。

 

 モルモットとして、兵器として国家に仕えるだけの人生からの脱却して、人間としての、私としての人生を生きるための闘いだ。

 

 それでも、挫けそうになったとき、私は横にいるはずのない人影を見た気がする。

 大きな人影と小さな人影……そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。

 

 「ジョン……ミーシャ……」

 

 私は今は一人になってしまったけど、少なくともずっと一人ではなかった。

 愛する家族を思い出して、左腕をギュッと強く握りしめながら再び圧力に抗おうとすると、不意にスッと圧力が消えた。

 

 同時に、ラーゲリの全体が見渡せるようになったと同時に、この悪魔の能力が頭の中に入ってきた。

 

 そして、ラーゲリの奥のシベリアの深い森の中に、夫の姿が見えたような気がした。

 

 (ジョン!? 私はここよ! )

 

 心の中で叫びだしたかったが、ふっとそれは姿を消した。あれは果たしてジョンだったのだろうか……?

 

 表向きは私はラーゲリの支配を受け入れたかのように、何も映さない光のない眼をしていた。情報部の上官がそれをみて満足そうに笑みを浮かべた気がする。

 

 私にやるべきことの優先順位が変わった瞬間だった。

 

 銃の悪魔ならびに夫と子どもを死に追いやったものへの復讐は変わらないけども、それよりも夫と子どもの死の真相、さらには、彼らを救う方法を探すことが最優先になった。

 

 彼らがよみがえる方法があれば……ないならばせめて彼らの魂が救われるならば……

 

 私はこの身が滅びようが手段を択ばずなんでもするつもりだった。

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