レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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今回は番外編です。
クァンシ姐さん書きたいって思って出したら勝手に暴れだしました。



第十三話

 私はレゼ、33歳

 

 夢の中でクァンシとの出会いを思い出した。当時、任務で香港に行った時のことだ。その時のコードネームは奇しくも今回と同じレゼだった。香港にいる悪魔を討伐し、支配下におくことが任務だった。

 

 任務はあっという間に完了した。悪魔をナイフで切り刻んであとはラーゲリに叩き込もうとしたその時だった。

 

 カメレオンと沈黙を発動させていたにも関わらず、何か襲い掛かってきた。

 

 (躱せるか!?)

 

 思いっきり体ごと転がると、私のいた場所に銀色の光が見えた。

 

 ーーーヒュパッ!

 

 遅れて空気を切り裂く音が聞こえて、私の少しだけ切られた髪が宙を舞った。

 

 即座に距離を取って、改めて襲撃者を見た。

 

 長い銀髪を後ろで束ね、黒い眼帯をした目つきの鋭い、そのくせ虚無的な表情をした女のデビルハンターが腰に差した曲刀を抜いてこちらに向かってきた。

 

「お嬢さん、その美貌を傷つけたくはないけど上からの命令でね、悪く思わないでくれ」

 

というや否や、クラウチングスタートのような低い構えから一足で刀の間合いに飛び込んできた。

 

 とっさにナイフでその刀を止めようとしたが、恐ろしい剣速だったので刀身が持たないのがわかった。

 咄嗟にナイフを捨てて腕を取ろうとした。

 

 すると、その女もそれを察知し、腕を引いた。

 

 「なるほど、これは一筋縄ではいかないな。久々に腕が鳴る」

 

 と言いながら、さらに刀を構えてきた。

 私は、システマの構えを取りながらその女を見た。

 

 (これが、中国のクァンシか……厄介な相手がきたわね)

 

 クァンシというその女は、最古のデビルハンターとも呼ばれており、恐ろしい強さだった。

 

 そこから先はいわゆる死闘となった。お互い武器はすでになく、格闘戦に入ってからは私はシステマとコンバットサンボを中心とした主に寝技、関節狙い、彼女は中国拳法をベースとした一撃必殺狙いだった。

 

 お互い必殺技だけはもらわないように、それ以外はコラテラルダメージと割り切った結果、満身創痍となって丸一日ほど闘い続けて、どちらからともなく休戦となった。

 

 彼女も絶対達成しなければならない任務というよりは、むしろ私がどのようなものなのかという威力偵察が目的だったようで、そういう意味では任務を果たしたようだ。

 

 そうしていると、突然クァンシが話しかけてきた

 

 「お嬢さん、とんでもない腕だな。私はクァンシ。君の名はなんという?」

 

 「名前はない……けども、とりあえずレゼと」

 

 「レゼ……レゼか。もしよかったらこの後一杯付き合ってくれないか?」

 

 先ほどまで殺しあっていたというのに、呆れてものが言えなかった。

 ただ、これは純粋に私のことが知りたい、あるいはもしかすると……

 そうであったとしても、私の方もより力を得るために、有力者とのパイプはつないでおくに越したことがないので、彼女の誘いを受けることにした。

 

 (私のカンが正しければ……)

 

 彼女が私に向ける目は、男性が女性に向けるそれだ。

 

 (彼女はいわゆる同性愛者かもしれないな……)

 

 そして、その誘いにのるということは……

 

(まあ、ある意味ハニートラップみたいなものかもね)

 

 そして、それでこんな強力なデビルハンターを味方につけられるなら安いものだと割り切りはできていた。

 

 彼女は中環(セントラル)の市街地にある外資系の有名なホテルのラウンジで私を待っていた。

 

 「やあ、お嬢さん、先ほどぶり」

 

 先ほどのコンバットスタイルとは大違いで、美しい銀髪を整え、ダークスーツに身を包んだ彼女は、どこからどう見ても絶世の伊達男だった。

 

 (女……なんだよね……)

 

 私は思わず息を飲んだ。

 

 「……お嬢さん、そいつは危険なスタイルだな。この場で襲ってしまいそうだ」

 

 「なあに、さっきの続きかしら?」

 

 見ると、向こうも私を見て動揺しているようだ。

 私の今日のスタイルは、紫のスリットの深いチャイナドレスだった。

 脚線美を強調したそのスタイルは、中国に潜入するときによく用いる正装だった。

 

 「いや、そういう意味じゃなくてだな……まあいい、飲もうか」

 

 と言ってウェイターを呼んだ。

 

 「私はカシスソーダを、キミは?」

 

 思わずずっこけそうになったけど、気を取り直して

 

 「ウォッカをストレートで」

 

 見るとクァンシがずっこけそうになっていた。

 

 ウェイターがなにかヤバいと感じたのか早々に立ち去った。

 

 「人は見かけによらないな……」

 

 「そっちこそ」

 

 そうくるか、カシスソーダってその見た目で……それジュースじゃん。

 しかも、私がその意味を知らないとでも……。

 花言葉みたいにカクテルも意味がある。

 カシスソーダは「あなたは魅力的」だよね。結構直球でくるなと思ってたら

 

 「その可憐な見た目でウォッカのストレートとは、恐れ入った、さすがロシア人だ」

 

 彼女は半ば呆れながら私の注文したウォッカを見ていた。

 

 「というか、失礼ながらお嬢さん、キミは今いくつだい?もしかして酒を飲んではいけない年齢じゃないか?」

 

 と、聞いてくるので、

 

 「残念ながら、とっくの昔に成人してますよ、あなたと同様にね」

 

 と、ちょっとジャブを当ててみた。すると、

 

 「……キミもそうなのか。すると私のことは知っているな」

 

 「少なくとも私と同類ということだけは」

 

 やはり確定か。彼女も武器人間だ。

 

 「そうすると、やはり情報はあっていたということか、爆弾のお嬢さん」

 

 「ええ、そうよ弓矢のお姉さん」

 

 「やれやれ、それで変身せずに私と互角とは末恐ろしいね」

 

 「あら、最強のデビルハンターと噂のあなたにそう言ってもらえるなんて光栄だわ」

 

 そうこうしているうちに、酒が届いた。

 

 「まあ、こうしているのも何かの導きだ、出会いに乾杯」

 

 「乾杯」

 

 そう言って私は一気にウォッカのグラスを呷った。

 

 「……すごいな、キミは。私が驚くことなんてそんなにないんだけどな」

 

 「女って秘密が多いほど魅力的、そう思わない?」

 

 「違いない」

 

 なんて言いながら、2杯目を頼む。

 

 「じゃあウォッカにちなんで、スクリュードライバーを貰おうか」

 

 「あ、ウォッカのストレートで」

 

 おいおい、スクリュードライバー「あなたに心奪われた」ってか

 どんどん直球になってきたね。

 

 「キミは酔わないのかい?」

 

 「これでないと酔えないかな」

 

 「そうか、キミもこの世をハッピーに過ごすコツを知ってるのかもね」

 

 「ハッピーに過ごすコツ?」

 

 「バカになることさ」

 

 確かにそうだ。世の中にはあまりにも辛い事、理不尽なことが多すぎた

この人もそんな目にたくさんあってきたのだろう。

 かつてこの人は日本の公安に所属していたことがあったはずだ。そして、日本最強のデビルハンターである岸辺のバディだったはずだ。

 

 「そうね、だからお酒があるのよね……」

 

 「そうとも、そしてバカになるには酒だけでもない……」

 

 と、彼女はつぶやいてオーダーした。

 

 「シェリーを」

 

 来たか、さらに直球だ。意味は「今夜あなたにすべてを捧げます」

 

 「そう、バカになるには酒だけじゃない。一番いいのは美人と快楽に耽ることさ」

 

 そう言いながら、ホテルのキーをテーブルに置いた。

 

 「朝まで一緒にいかがかな、お嬢さん?」

 

 さあて、どうしようか……ちょっと逡巡したあと、私はオーダーした

 

 「……ギムレットを」

 

 それを見てクァンシは少し寂しそうに微笑んだ。

 

 「フラれてしまったか……」

 

 「ううん、素敵なアプローチだったわ」

 

 実際、これまでのスパイ活動で同性愛も経験済みだし、抵抗はなかった。

 彼女とそういう関係になることで、今後の私の目的には大きなアドバンテージになるという打算もあった。

 ………ただあの人の顔が浮かんでバカになりきれなかっただけだ。

 

 「ギムレット、遠い人を思う……か」

 

 「そう、遠い人……二度とは会えない、遠いところに行ってしまった人……」

 

 「ふふふ……お嬢さん、キミは素敵な恋をしてきたようだね」

 

 「ええ、遠い昔にね……」

 

 「私たちは時の流れには乗れない、幸せな形であれ、残酷な形であれ、別れはいずれ訪れる」

 

 と、クァンシは言いながらシェリーのグラスを空けて

 

 「だからこそ刹那に生きるのさ、しかし長い時間を共にできる人なら話は別だ」

 

 「キミとは今後も良い友人でいたいものだよ、お嬢さん」

 

 そういって片手を差し出して来た。

 

 「ええ、これからもよろしくね」

 

 と私はその手を握り返した。

 

 その後私たちは彼女の部屋で、たばこをくゆらせながら語り明かした。

 彼女とは恋愛的な、ましてや肉体的な関係ではなく、いわば同志あるいは同類としての関係を続けていきたいと思った。

 

 そして、目が覚めた時彼女の寝顔が横にあった。着衣に乱れはなく、どうやらお互い自然にぬくもりを求めて添い寝していたようだ。

 

 (こんな関係も悪くないかも……ね)

 

 お互い鉄火場を生きるなかで、同じ時間を生きる、心許せる存在というのは貴重だと思った。

 

 やがて、彼女が目を覚ましたので帰ることにした。

 

 別れ際に2枚のメモをくれた。うち一つを指して

 

 「こっちは私の連絡先だ、困ったことがあればいつでも力になるよ、お嬢さん」

 

 そう言いながら、もう一枚のメモを指さし、

 

 「それとこっちは、もし日本に行くことがあれば岸辺というやつがいるので、そいつに見せればある程度便宜は図ってくれると思うよ」

 

 「ありがとう、クァンシ。じゃあこれは私から」

 

 そういって連絡先のメモを渡し、

 

 「レゼって名乗ったけど、ジェーンって名乗ってることの方が多いかも」

 

 そう言いながら

 

 「私があなたに対して力になれることがあればいいけど……」

 

 「そうだな、さしあたって人肌恋しい夜はお願いするよ」

 

 「ふふふ、バカね」

 

 「ああ、その方がハッピーだからな」

 

 などと軽口をたたきながら別れた。

 

 その後、想像もできない場所で再開することも、とんでもない戦いに巻き込まれることもこの時の二人には想像することもできなかった。

 

 

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