レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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レゼダンスを眺めていたら遅くなりました、すみません。
日間でランキング10位になっていてびっくりしました、皆様のおかげです。

今回ちょっと長くなってしまいました。



第十五話

 私はレゼ、16歳(自認)。今日は初めて彼とデート♡

 

 いや、うん、わかってる。任務ね、任務。

 彼を私にメロメロにさせて、ソ連まで連れて帰る。こうだったね。

 

 ……うん、正直任務とかもういいわ。ていうか、達成する意味がないわ。

 ソ連に連れて帰ったところで、彼は殺されるでしょうし、私はまた兵器にされそう。

 

 でも、どうしたらいいんだろう……。

 

 道は3つあった、その内一つ、ソ連に帰るというのは、今却下した。

 多分デンジ君が生き延びる道はない。

 本来はこれ一択のはずだけど、彼を見てからは、もう彼を殺すことはできなくなった。

 つまり、彼を生かすためには、私はもうソ連に帰れないこととなる。

 

 そうすると、第二の道は二人で逃避行か……。

 これも無理だ。ソ連と公安の二正面作戦になる。いくら私でも国家二つ相手にするのは無理だ。

 都市一つぐらいなら壊滅できるとは思うけど、そのあとが続かない。

 しかもそれは大量虐殺だ。これをやったら私はもう人間じゃなくなる。デンジ君の傍にいる資格はない。

 

 どこか、無人島でも逃げれば追手がこない可能性もあるけど、楽観論にすぎる。

 ただ、彼が公安から逃げたいなら、私は彼とこの道を歩く覚悟はできている。

 

 第三の道は、私が亡命することで、公安に降ることか。これも可能性は極めて低い。

 手土産はソ連の情報プラス私自身。ただし、私の存在が危惧される場合、私は殺されるかソ連に引き渡されるだろう。

 

 (参ったな、完全に詰んでる……)

 

 今の私ではよい方法が浮かばない。まだ公安の情報が足りない。あと、ソ連の情報も。

 多分ソ連には私より強いデビルハンターはいないはずだけど、それでも国家を相手にするのは厳しい。私の知らない隠し玉もあるかも知れない。

 

 公安は全く未知数だ。運よく誰かと接触できればいいけど……。

 

 いずれにしても、もっと情報を集めよう。デンジ君を騙すみたいで悪いけど、彼から公安の事をもっと聞きださないといけない。

 

 そこから、デンジ君について思いをはせる。彼は学校に行ったことがないと言っていた。

 私と同じように、普通の暮らしをさせてもらえなかった。

 

 だから、彼に学校を見せてあげたい。本来、彼が当たり前に受けられる権利だったはずの、学校に通うということを教えてあげたい。

 

 ……いいや、違う。本当は私が学校に行きたかった。普通の子どものように学校に行って平和に暮らしたかった、何よりも

 

 「レゼとなら学校行きたかったな、なんか楽しそうだし」

 

 デンジ君が言ったこの言葉が耳に残っている。

 そうだ、私一人で行っても意味がない。私はジョンと行きたかった。大切な人と一緒に過ごす青春が欲しかった。

 あるいは、ミーシャにそんな青春を過ごしてもらいたかった。

 そして、私の望みはデンジ君はそんな青春を過ごしてもらいたい。私やジョンやミーシャの代わりに、彼にこそ学校に通うという普通の暮らしをして欲しいのだとわかった。

 

 だから今日はデンジ君の青春の思い出として残るくらい楽しんで欲しい、そして、これをきっかけに学校に通ってほしいと思う。

 

 さらに、できることなら私も青春を取り戻したい。16歳の私にとっても学校はあこがれの場所だった。デンジ君と一緒に学校を楽しんでみたいという自分勝手な願いも抱えていた。

 

 そんなことを考えているうちに夜になった。

 待ち合わせの時間だ、私は瞬時に36歳の母としての自分から16歳の娘に意識を切り替えた。

 今だけは過去も未来も忘れて、童心に戻って彼と学校を満喫しよう。

 

 「レゼ、待ったか?」

 

 デンジ君がやってきた。

 

 「ううん、今来たとこ」

 

 相変わらず私は嘘つきだ。

 

 「早パイがどこ行くんだって引き留めるから、遅れちまった、ワリィ」

 

 「大丈夫だよ、早パイって?」

 

 「前言ったっけ?イヤ~な性格の先輩」

 

 「ああ、一緒に住んでる人ね。でもそれ心配してくれてたんじゃないの?」

 

 「……まあそうかもな」

 

 「だったらいい人なんじゃないの?」

 

 「最近は……そうかもな、メシ作ってくれっし」

 

 「じゃあいつか挨拶にいかないとね」

 

 「おー、レゼならばっちりだぜ!」

 

 「じゃ、行きましょうか?」

 

 そうして、私たちは真っ暗な学校の中に入っていった。

 照明は全て消されていて月明りだけを頼りに暗い廊下を歩いて行った。

 

 「デンジ君、恐くないの?」

 

 と聞いてみると

 

 「あ~…恐いっつーか、変な感じっつーか……」

 

 「なんじゃそりゃ」

 

 多分、彼は自分の気持ちなどをストレートに表す語彙が足りないのだろう。

 でも、彼の言いたいことは伝わるから不思議だ。

 そして、彼からは私に手を出してこないのも分かった。

 

 (意外と紳士なんだよな、というか、女の子と初めて接する小学生みたいなもんか……)

 

 なら、ちょっとこちらから仕掛けてみますか。

 

 「少し怖いから……手、繋いでいい?」

 

 そう言って彼の手を取った。

 何故か彼は内心葛藤しているみたいだったが、私にされるがままになっていた。

 

 途中、彼が私の方を見つめてきたので、悪戯っぽくニカッと笑って見せた。

 それだけで、彼がドキドキしているのが繋いだ手から伝わった。

 

 (うーん、カワイイ!)

 

 なんか、ガサツに見えてピュアなところがとてもいい。

 ……急に36歳の母が顔をだすが、慌てて16歳に戻る。

 

 そして、手ごろな教室があったので、授業ごっこをしてみることにした。

 

 私が先生で彼が生徒だ。

 

 (ミーシャにも教えてあげたかったな……)

 

 だから顔を出すな、36歳一児の母!

 

 「では、この問題解ける人!」

 

 黒板に 1+1= と大きく板書した。

 

 「はいハイ!ハイ! 2! 2!」

 

 「正解! 天才!」

 

 完全にノリが小学一年生だった。

 じゃあ、デンジ君の好きな下ネタにしますか。

 

 「この英語はなんと読むでしょう!」

 

 黒板に書いた文字は ”Big ass”

 

 「ハイ!知らねぇ!」

 

 そりゃ知ってるわけないよな、どう見ても問題のチョイスが悪い。

 ていうか、なんでこんなの書いたんだろ。

 もしかして、私のコンプレックスか?そりゃまあ確かにデカいけど……。

 まあいいや、これで覚えるでしょ。

 

 「正解はデカケツです!」

 

 ニヤリと笑いながら教えると

 

 「エロ女!」

 

 と返ってきた。デンジく~ん、こんなのエロのうちに入んないよ。

 F××kだのP××syだの書かなくてよかった。デンジ君にはまだ早かった。

 

 と、デンジ君の目線が私のお尻に釘付けになってる……。

 

 (エロ男!)

 

 自分から意識させといて酷い言いぐさだけど、彼に女として意識してもらえるのはなぜか嬉しかった。

 

 「はぁ~……学校ってこんな感じなんだな、大体掴めてきたぜ」

 

 いや、多分学校でBig assとか習わないんじゃないかな……

 そして、今の授業ごっこでふと気になったことを尋ねてみた。

 

 「デンジ君って本当に小学校も行ってないの?」

 

 「あ?うん……」

 

 彼が小学校すら通ってなかったのが本当だとわかって、とても切なくなった。

 彼は物心ついてからずっと父親やヤクザに食い物にされて、デビルハンターなどというろくでもない生活をしてきたのだと聞いた。

 

 まるで、私とほとんど同じような生活だった。

 

 「それってさ……なんか……なんかダメじゃない?」

 

 「ダメ?」

 

 「ダメっていうか……おかしい」

 

 公安で彼がやってることって、私がソ連でやってたことと変わりないんじゃないだろうか?

 あの時私たちは若すぎて、何も知らなさ過ぎて、お互いがいればそれで良かった。

 

 でも、今なら言える。あれはおかしい。曲がりなりにも36年生きてきて、いろんなものを見てわかった。

 少なくとも生まれて15年、モルモットにされている時点で人間の暮らしじゃなかった。人間だったのは彼と子どもとの8年間だけだ。普通の人は、一生戦いとは無縁で、人間や悪魔を殺さずに生きて行ける。

 

 ミーシャがもし生きていて、ずっと戦いの中で生きて行くとしたら……私は耐えられない。

 そして、それはデンジ君も同じだ。ましてここは平和の国、日本だ。そんな平和な世の中で、彼と同じ年の子は普通に学校に通って、殺したり、殺されたりなんていう血なまぐさい戦いとは無縁の暮らしをしている。

 

 (デンジ君は……まだ間に合う!)

 

 いつしか、私は彼と亡き息子を重ねて見ていた。

 

 「16歳ってまだ全然子どもだよ?普通は受験勉強して部活がんばって友達と遊びに行って……」

 

 そう、普通の生活。普通の人にとってはありきたりな日常、それこそが私にとってどんなに渇望しても手に入らない宝物だった。

 

 「それなのにデンジ君は悪魔を殺したり殺されそうになったり……今いる公安っていう場所は本当にいい場所なの?」

 

 そう、ここだ。彼は本当に公安での暮らしに満足しているのか?

 

 私のソ連での暮らしは、諦めていただけであって、満足とはほど遠いものだった。

 彼はこんな暮らしに不満をもってないのだろうか?ここが一番の疑問だったけど……

 

 「まあ凄えいいトコだぜ?1日3回食えるし布団で寝れるし」

 

 あっさりとそんな暮らしを肯定されてしまった。しかも、その満足度のハードルがあまりに低すぎて、デンジ君が過ごして来た子ども時代がいかに酷いものだったか否応なしに想起させられた。

 

 「それって日本人としての最低限の……当たり前の事だよ?」

 

 そうなのだ、この平和な日本ならば、私のいたソ連と違って当たり前なのだ。デンジ君や私の生活がおかしいだけなんだ。それを彼に理解して欲しかったけど……。

 

 「う~~ん…………、考え過ぎて頭熱くなってきた」

 

 どうやら、彼に普通という概念はなく、オーバーヒートしてしまったようだ。

 デンジ君はその酷い生い立ちのため、教育も受けられず、知識もない。

 知識がないから、彼は自分で何かを考えることができないのだ。

 その結果、搾取され翻弄され続けてきたのだ。

 

  (教えてあげたい、そして守ってあげたい……)

 

 こんな不憫な暮らしをしてきた子どもが、その後も奴隷のように虐げられるのは許せなかった。

 そのためには、彼には生きるための、幸せになるための知識をいっぱい知って欲しかった。

 そして、誰かの思惑で流されるのではなく、自分で人生を歩けるようになって欲しかった。

 

 流されて、諦めてソ連のスパイをやっている私が言うことじゃないかもしれない。

 でも、私もデンジ君のために、そして自分のために一緒に道を決めて歩こうとしていた。

 

 彼にいろんなことを教えて、守りたい36歳の母としての私と、彼と一緒に初めて自分の道を歩こうとする16歳の少女としての私が同居していた。

 

 「じゃあ少し冷やしますか」

 

 幸せになるには、まずは女の子のことを知ってもらうのが一番だと思った私は、彼を夜のプールへと誘った。

 

 

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