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第七弾特典GETしました。ほぼ満席でした。すごいですね。
私はレゼ、36歳、ソ連のスパイ。今大ピンチ。
デンジ君は既にマキマ、あの魔女の配下だったことが分かった。
そして、彼がマキマを好きだという事も……。
何よりも、最大の問題は今、うかつにロシア語を使ってしまったことだ。
レゼは日本の女子高生のはずだが、ロシア語をネイティブで話す時点でもう怪しさ満開である。
ずぶ濡れやUFOどころではない。大失態だ。これをどう誤魔化すか考えていたけど、デンジ君は別段怪しんだ様子もなく私を見ていた。
幸いだったのは、さっきのロシア語の悪態は「そっか」と聞こえたらしい。
とりあえず第一の問題はクリアした。私はこの沈黙がマキマに対して効いていることを祈りながら聞く。
「……デンジ君、その人の事……好きなの?」
「……マキマさんは、俺を公安に連れてきてくれて、3度のメシとあったかい寝床をくれたんだ」
話を聞いてみると、彼がマキマを好きだという理由は至極単純だった。
犬が餌をくれる人に懐くのと同レベルだった。
最初に出会ったときに、犬っぽいと思ってたけどそのまんまだった。
「……それだけ?」
「いや、ツラはいいし、おっぱいはデカいし」
……どうせ私なんか。自分の胸を見て思わずへこむ。ボムの時ならかなりあるけど……。
「映画を一日中みてデートしたり、そんで、俺に心をくれたんだ……」
それデートじゃない……。と思いながらデンジ君が妙な事を言ったのでひっかかった。
「心?」
「俺ぁ、人の心がねぇって言われてたんだけどよぉ、マキマさんがそんな俺でも心があったよって教えてくれたんだよ。だから、俺の心はマキマさんのものなんだ……」
そんなことないよ、デンジ君はまだちゃんと人間だよ。私と違って……。
しかし、マキマはもうガッチリと彼の心をつかんでいたようだ。例えそれが彼の思うような恋愛的な好意じゃなく、むしろ人間がペットに対するような、そんな一方的な関係であったとしても……。
デンジ君がそれでいいなら、私の出る幕はなさそうだ。私はどうやら少しだけ夢を見てしまったようだ……。
「そっか……じゃあ、デンジ君の心に私が入る余地なんてなかったんだね……」
「いや、でも俺ぁレゼん事、好きだぜ」
……ん?
「俺ぁ、俺んこと好きな人が好きだ。で、それがツラのいい女ならなおさらだ、だから俺ぁレゼも好きだぜ」
デンジ君、もしかして……すごいバカなんじゃないか?
そう思いながら、彼にとって究極の質問を投げてみた。
「じゃあ私とマキマさん、どっち好き?」
……すごい顔をしながら悩みだしてしまった。
さっきまでの紳士的に私を気遣った彼はどっかに行って、煩悩に塗れた顔をしていた。
さしずめ、彼の頭の中ではマキマと私が迫っているのだろう。もしかしたら服すら脱がされているかもしれない……。
この時点で、さっきまでの熱情は完全に冷めてしまって、どうしようもないバカ息子を見る母の目になっていた。
「じゃあさ、デンジ君が仮にマキマさんとつきあったとして、私が、ううん、他にカワイイ娘がデンジ君のこと好きだとしたら付き合っちゃうの?」
もしかして、コイツ女ならだれでもいいんじゃ………?
「おお、俺ぁ彼女10人くらい欲しいな!」
……ものすごーく擁護するなら、彼はピュアなんだろう。
ある意味、動物に近かった。よく考えたら、彼の欲求というのは生理的欲求を満たす、ある意味生物としてはピュアなものだった。でも、それは人間からほど遠いんだけど……。
もうここまでくると疑いようがなかった。デンジ君はどうしようもないバカだった。
そう思いながら、こちらでは当たり前の常識を聞いてみることにした。
「日本だと結婚は一人しかできないけど、どうするの?」
「いや、俺はエッチはしてえけど結婚はしたくねえぞ!」
………斜め下の答えが返ってきた。ダメだこりゃ。
ん……待てよ、なら何で私とのエッチを躊躇する?
その理屈で行けば、とっくに私を押し倒しているはずだけど……。
「でもさ、デンジ君。さっき私とエッチするの躊躇ったじゃん?それってマキマさんが好きで他の女の子とエッチすんのダメだって思ったんでしょ?それでも彼女10人くらいもってみんなとエッチしたいの?」
「え……あ?……」
どうも、デンジ君自身もこの矛盾に気づいてなかったらしい。
と、いうか無意識のうちにデンジ君はマキマに支配されていたのかもしれない。
そして、今、それが溢れ出る性欲という本能と矛盾したのかもしれない。
(もしかすると、マキマは人を洗脳する能力があるのかもしれない……)
瓢箪から駒というレベルで、マキマの能力の一端が分かったかもしれない。
それが無差別に行使できるなら、こんな危険な能力はない。出会った瞬間に終わってしまう。早急に対策が必要になる。
そんな私の思いを他所に、デンジ君は究極の選択を突き付けられたように悩み続けていた。
(バカすぎる……)
ミーシャがこんなバカになっていたらと思うと、悲しくて涙が出る。
でも嫌いになれなかった。むしろ母性的にこのバカをきちんと一人前にしなければという使命感が溢れてきた。
まだ間に合う。さっきまでの彼は見事なダンディだった。
まだ彼は知識が足りないだけだ、泳ぎ方と一緒ですぐ覚えるはずだ。
私が決意を新たにしている間に、彼はこの選択に自分なりの答えを出したようだ。
「俺ぁ、俺ぁもっとちやほやされてぇ!マキマさんだけじゃなくてレゼともやりてぇ!たくさんの女とエッチしてぇ!」
良かったね、デンジ君。自分なりの答えが出せて。最低の答えだけど。
そして、ある意味これはマキマの呪縛から逃れる第一歩になるかもしれないな、とも思った。
例え浮気男になっても、マキマの犬よりはマシだ。
彼は自分のことが好きなカワイイ娘が好きというが、自分から女の子に声をかけるという発想はなかったみたいだ。
「うん、デンジ君……」
とりあえず、第一歩を踏み出した彼を、私なりに祝福しよう。
「デンジ君のバカー!!!!!!」
ビンタが彼の頬に炸裂する。彼からは何が起こったかすらわからないだろう。
バチーーーン!!
「おごっ!」
デンジ君はマンガのように1回転して、そのまま卒倒した。
彼の頬には真っ赤な紅葉の跡があった。
目を回したデンジ君をベッドに寝かせる。
こうして見ると、まだあどけない顔をしている。
どうしようもなくバカだけど、やっぱり私は彼が好きだ。
そんな事を思いながら、そっとベッドに潜り彼に寄り添う。
そして、子どもを抱くように彼の頭を胸に抱き寄せて包み込んだ。
時間にすると、5分、10分……。そんな長くなかったかも知れない。
デンジ君は安心したのか寝息を立てている。
「ダンディになるにはまだまだだね……」
と、彼の頭を撫でて立ち上がる。
そして、次の用事のため立ち上がろうとして、ふと振り向くと
「レゼ………」
と彼が呟くのが聞こえて、その後すぐに寝息が聞こえた。
寝言で私の名前を呼んでいたようだ。どういうシチュエーションで呼んだかわからないけど、それを見てまたデンジ君が愛おしくなって、眠っている彼にささやいた。
「デンジ君……初めてのキス、もらうね」
そう言いながら、彼の唇に私の唇を重ねた。彼は幸せな夢の中にいるようだ。
私は、ここから現実に立ち向かわなければならない。
そう、マキマとどう向き合うかだ。
しかし、まずはそれ以前にここからどう上手く逃げるか、だ。
(とりあえず、表のサメをどうにかしないとだね……)
私は静かに保健室を出る。
サメはまだ自分が気づかれていないと思っている。
カメレオンの悪魔の能力を発動させる。それと同時にアクティブソナーを打つ。
どうやら廊下の床の下にいるようだ。
さて、穏便にすむかな?
「マトリョシカ」
私の切り札ともいえる悪魔の力を発動する。