レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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第二十七話

 私はレゼ、16歳。今はデンジ君の家。現在お片付け中。

 

 私の事を思ってくれてたのは嬉しいけど……なんでパンツかなぁ……。

 

 なんかいい感じだったのに、全部台無しになっちゃった。

 いけない、いけない、暴力ダメ、絶対!

 

 とりあえず、全部片付いたので差し入れのコーラとポテチを出す。

 

 「デンジ君ごめんね、これお詫び。こういうの好き?」

 

 「レゼ……ごめん。まさかレゼが来ると思ってなかったから」

 

 「うん……その……なんでそれ持ってたのかな」

 

 「ああ、アキが洗濯してレゼに返すっつってたから、そしたらもうレゼに会えなくなんのかなぁ……って思ってたら、なんか悲しくなってさ」

 

 え、早川君洗濯したの!?うわー、うわー恥ずかしすぎる!

 男の人にパンツ洗ってもらうとか、もうハラキリレベルの恥なんだけど!

 

 「そしたら、これ俺が持ってたらまたレゼに会えんのかなって思ってさ」

 

 いや、なんで!?

 

 「……デンジ君、それだけじゃないよね、私の服。なんでパンツ?」

 

 「いや、なんか一番しっくり来て…」

 

 「はぁ…なんかもういいや。とりあえず、後で服と靴と一緒に持って帰るからそれと一緒に置いてきて」

 

 「ん、わかった…」

 

 そういって隣の部屋に入っていった。それから、しばらくは落ち着くまで二人でお菓子を食べながら過ごした。

 

 私も話したい事がいっぱいあったけど、デンジ君が何か言いたそうにしているのを見て、彼が話し出すまで待つことにした。

 

 デンジ君はなかなか決心がつかなかったのか、彼にしては珍しく、考えながら話し出した。 

 

 「あれからさぁ、いろいろ考えたんだ…。今まではいろんな女の子とエッチしてえとか…でもそれってモテてぇとかヤリてぇってだけで、相手のことなんか全く考えたこたぁなかったんだよ」

 

 「うんうん……」

 

 やっと気づいたな。よし、小学校卒業だな。

 

 「その点、マキマさんが言ってたこと自体はやっぱり合ってると思うんだよ。相手のこと知った方がエッチは気持ちいいって。でもさ……俺、マキマさんのことよく考えたら何にも知らねぇんだよ」

 

 「そっか……」

 

 これは、本当に日本語の「そっか」だ。他に意味はない。

 

 「じゃあ何でマキマさんが好きになったかっつーと、ツラが良くて胸がデカいのはそうなんだけど、多分俺マキマさんに甘えてた。俺、母ちゃんがいないからさ……、もしかしたら俺、マキマさんに母ちゃんを重ねてたかも知れねぇ。でも……」

 

 「勘だけど、マキマさんは多分俺の事を見てねぇと思う」

 

 デンジ君、鋭い。恐らく洗脳してただろうから。

 

 「それが、レゼに会って分かった気がする。レゼは俺ん事見てる。俺は俺のことが好きな人が好きだ。俺はマキマさんが好きだったけど、マキマさんが俺の事が好きかってーと違えって気がする」

 

 「……デンジ君」

 

 よく見てるね。デンジ君は野性のカンというか、動物的本能というか、直感で本質を見抜く。

 

 「気が付いたらずっとレゼん事考えてた」

 

 「そしたら、やっとレゼが何で怒ったか分かったんだ」

 

 「レゼはずっと俺ん事見てたのに、俺がレゼ見てなかったんだなって」

 

 すごい、そこまで気づいたらもう一人前の男だよ。紳士だよ。

 

 「そしたら、もうレゼに会えねぇんじゃねえかって……何か、すげえ悲しいっつのーかな、そんな気分になって」

 

 「…デンジ君、本当に、ごめん、ごめんね」

 

 そんな思いをさせてたのか。相手を見てなかったのはむしろ私のほうだ。演技でもなんでもなく、素で泣きそうになってきた。

 

 「俺、レゼの事がもっと知りてえ。そんで、これが好きってことじゃないかって気がすんだ」

 

 「私も、私もデンジ君が好き。だからもっとデンジ君の事教えて」

 

 罪悪感を抱えながら、私はデンジ君に答える。

 この期に及んで、まだ「私の事を教える」言わない私はどうしようもない嘘つきだ。

 

 「もっと一緒にいてえ、もっとレゼと話ししてえ、もっとレゼん事知りてえ、そんで俺の事見てほしい」

 

 「もちろんだよ、デンジ君。私ももっと一緒に居たい。ずっと見てるよ」

 

 私の事を隠したままで、こういう私は偽善者だ。

 本当はもう、早川君にもバレているのだから、自分から全部バラしてしまいたかった。

 でも、ソ連のスパイであなたを殺しに来ていましたとか、そんな事を言って嫌われたくなかった。

 百歩譲って、許してもらえたとしても、36歳で旦那と子どもがいたとか16歳のデンジ君に言えるはずもなかった。私の年齢は早川君は気づいているだろうけど、さすがにそこまでは分かっていないはずだ。

 

 「……んで、レゼとエッチしてえ」

 

 「……バカ」

 

 頬を赤らめながら、呟く。本当に恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかった。

 

 「レゼみてえな美人が俺を好きんなる理由がわかんなかった。俺ぁバカだからまた騙されてんのかとも思った。そんでアキにもそれは言われた」

 

 電話ボックスに入るまではそうだった。そこからは完全に素だ。

 

 「でも、何でかこれに関しちゃレゼが嘘ついてるように思えなかった」

 

 そして、やっぱりデンジ君は見抜いていた。

 

 「最初はダチみてえで、んで、何でかわかんねえんだけど母ちゃんみてえになって……」

 

 (ドキッ)

 

 私が必死になって隠している、本当の私の姿を彼は直感で見抜いてしまうのではないか……。

 そう思うと怖かった、バレることが怖い、ううん違う。バレることでデンジ君に嫌われるのが怖かった。

 

 「そんで最後は女の子になって。なんか、いろんなレゼが見えたんだ。」

 

 「………」

 

 本当に彼は真実を見抜く目を持っているのかも知れない。私の中にはいろんな私がいる。

 

 「そうするとさ、いろんなレゼがいてさ、俺を見てるレゼと」

 

 「うん……」

 

 デンジ君と遊ぶ無邪気な友達の私、デンジ君を誘惑する娼婦のような私、デンジ君を導く母のような私、そして、デンジ君と結ばれたいと願う女の私。

 

 「俺の向こうに誰かを見てるレゼがいて……」

 

 「……!」

 

 未だに夫を愛している私、デンジ君を騙す嘘つきのスパイの私。これらの私も見抜かれていた。

 

 「俺を子ども扱いしてるレゼもいて」

 

 今は亡き子どもの姿をデンジ君に重ねる私。ここまでも。

 

 「そしたらわかんなくなってさ、どれがレゼなんだろって。でもさ……」

 

 「……」

 

 どれが本当の私か?私にだって分からない。というより私自身が教えて欲しい。生れ落ちてからずっと悩み続けていることだ。私は本当に人間なのか。モルモットでも殺戮兵器でもなく。

 

 「それ全部レゼなんだよな」

 

 「………!!!」

 

 衝撃が走る、彼の目をまだ見誤っていた。彼は私が想像していたより遥かに正確に本質をとらえていた。

 そうなのだ、それらは全部私なんだ。ジェーンもボムも、もちろんレゼも。

 

 長らく求めていた問いに、答えを出してくれたのは、私の息子と同じ歳のまだ未熟な若い男の子だった。

 彼を導くつもりが、気が付けば彼に導かれていた。

 

 「そうすっと、レゼって俺とそんな歳変わんねえのに、俺よりずっと大人なんだなって」

 

 「……そんな事ないよ」

 

 違うよ、デンジ君。私は歳だけは重ねているけど、君の方がずっと大人だよ。

 

 「でも、マキマさんときみてえに俺が何も考えねえんじゃダメな気がすんだ」

 

 すごいデンジ君、この1日で急に大人になった気がする。

 

 「俺、レゼの事もっといっぱい知って、レゼにいろんな事教わって、レゼみてえに大人になりてえ」

 

 「教えてあげる、デンジ君の知らない事、できない事、私が全部教えてあげる」

 

 こういうものの、実際は私が彼から教わっていることの方が多い気がする。

 

 「だから、レゼ。もっとレゼん事教えて欲しい」

 

 「レゼの子どものときとか、どんな学校行ってたとか、どんなダチがいたかとか……」

 

 うん、私も覚悟を決める時が来た。彼には本当の私をさらけ出すべきだ。裸の心を彼に見せる覚悟をしなければいけない。

 

 「好きなやつがいるか……とか」

 

 当然、この問いにもこたえなくてはいけない。

 

 「デンジ君……ごめんなさい」

 

 高い崖から飛び降りる覚悟で口を開く。

 

 「デンジ君、ホントはね……私も学校いった事なかったの……」

 

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