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今回難産で長めになりました、でも途中で切ることができなかったのでそのままになります。
いよいよデンジ君に全て知られます。
私はレゼ、36歳、未亡人、元ソ連のスパイ。
今からデンジ君に全てをさらけ出す。
本当の私を知ればデンジ君は私を嫌いになるだろう。何せ、デンジ君を殺しに来たのだから。そして、デンジ君よりも遥かに年上で、旦那も子どももいたのだから。普通、こんな女を好きになる若い男の子はいない。
しかし、例えデンジ君に嫌われたとしても、もう彼に嘘はつけない。そして、彼に嫌われたならば、私はもうどこにも行くことはできない。その時どうすべきか…。私はもう覚悟は決めた。
嫌われたなら静かに彼の前から消えよう。
誰にも利用されぬよう海の底にでも沈むのがいい。彼との思い出を抱いたまま泡と消え去るのがお似合いだ。
そして、それでも彼が私を好きだと言ってくれるなら……。
彼に全てを捧げて、私に彼を刻み込んでから、私は戦いに赴こう。
おそらくソ連を相手に、マキマを相手に。万に一つの勝ち目もないだろう。
それでも、打てる手は全て打つ。そして、もしも奇跡が起きて生き延びることができたなら…。
いつになるかわからない。それでもその時を迎えることができたなら、そして彼がまだ私を好きでいてくれるなら…。
なんて、少しだけ夢を見てしまう。
さあ、告解の時間だ。私は、こめかみに銃を当て引き金を引くつもりで言葉を紡ぐ。
「デンジ君、本当にごめん。今までの私は全部嘘っぱち。でも、もうデンジ君に嘘はつきたくない、だから本当の私を知ってほしい」
デンジ君は黙って、固唾を飲んで聞いていた。
「……デンジ君、本当の私はソ連のスパイなの。幼いころからスパイとして訓練されてきて……、だから私も学校行ったことないの、デンジ君と同じ」
「……!!」
「そして任務はチェンソーマンの心臓を持ち帰ること。つまり、キミを殺すこと……だったの」
「レゼ!!」
「ホントはね……初めて会ったあの日、電話ボックスでキミを殺すつもりだったの……」
そう、デンジ君を見るまでは。デンジ君に夫の面影を見るまでは……。
「……!!え、マジで……!?」
「でもね……殺せなかった。覚えてる?私が泣き出したときに、お花をくれたでしょ?あれ、実はすごく嬉しかったの」
あの花の意味、デンジ君は多分知らない。そして、私はまだ夫の事を言えずにいる。夫からのプロポーズと全く同じ花だったという事も……。
「おう、何か突然泣き出したからさ、何とかしなきゃっていっぱいいっぱいだったんだよ、あれ」
やっぱりデンジ君は優しい。あの時、私は顔を見せていない。もちろんハニトラも仕掛けていない。目の前で女の子が泣き出したから、つまり誰であっても彼はそのように行動しただろう。下心も何もなしに、彼は咄嗟に行動した。そこから、彼との思い出を辿るように話す。
「それから、二道でおしゃべりしたり、学校に遊びに行ったり……、とても楽しかったの」
この時は私も揺れ動いていた。そして、夫のこともも子どものことも忘れて一人の女としてデンジ君に向き合っていた時間は確かにあった。
「俺もだよ、レゼ」
……デンジ君もそう思っていてくれたんだ。
「そしたらね……もうデンジ君を殺すなんて、絶対に無理って思っちゃった」
「……」
「だからね……私、辞めたの。ソ連のスパイ」
「え!?レゼ大丈夫なのかよ!?…その、ソ連から追手とか」
デンジ君は純粋に私の身を案じてくれている。私が彼を殺しに来た刺客であるのもかかわらず…。
「多分、ソ連から追手は来ると思うけど……大丈夫。こう見えて私強いんだよ」
「レゼ……」
「だからね……、今日はデンジ君に私の全てを知ってもらうの」
いよいよ、私の忌まわしい過去を彼に話す時が来た。既に早川君や彼の上司には知られているはずだったけど、それでもデンジ君に話すには躊躇いがあった。しかし、それを表に出さず淡々と話し続けた。
「昔、ソ連のおとぎ話で、軍の弾薬庫に秘密の部屋があったの。そこには身寄りのない子どもがぎゅうぎゅうに詰め込まれて、物のように扱われて死ぬまで体を実験に使われる…なんて言われてたの」
「……」
「そして、その部屋はおとぎ話じゃなくて実際にあったの。アメリカのジャーナリストが突き止めて、そこの子どもたちの写真も新聞に載ったの」
「その中に、一人の女の子がいたの。彼女はその写真が載ってすぐに亡くなった…はずだった」
「実は、その女の子は死んでいなかった。その女の子は人体実験で悪魔の心臓を埋め込まれて、武器人間として改造されていた、そう……デンジ君と同じ悪魔の心臓を持つ人間」
「レゼ!?」
「その娘は訓練されて、ソ連でも指折りのスパイになりました。これが私」
間を空けて、いよいよ核心に迫る。
「……今から18年前のお話」
「え!!!それじゃあ……」
「そう、見た目はキミと同じ。でも武器人間は歳を取らない。私が武器人間になったのは15歳のころ、だから見た目はその時のまま。そして、秘密の部屋の存在が発覚したのがそれから3年後……」
そして、今から最もデンジ君に知られたくない事の一つ。内心は震えながら、努めて平坦に告げる。
「だから、レゼという少女はいないの。ここにいるのは……36歳の女」
ついに言ってしまった。女子高生のレゼに別れを告げる。
「こんなおばさんがデンジ君と同い年のフリをしてたの……。今まで騙していてごめんなさい」
デンジ君は、あっけにとられている。そりゃそうよね。今まで友達、あるいは好きだった女の子が実際は自分の親ぐらいの年の女だったなんて……。終わった……ほんの3日の私の青春。でももう一度見られて幸せだった…。
そう思って消え去ろうと考えていたら、デンジ君は全く予想外のリアクションを返して来た。
「ってことは俺たちずっと青春じゃんか!」
「……へ?」
「だってよ、レゼも俺も歳取らねえんだろ?じゃあすっと若いままじゃんか!すげえじゃん!ってこたぁ、ずっと一緒に居られるってわけだ」
…私の今までの心配事を、まるでそれの何が問題なのか?と純粋な子どものように吹き飛ばしてくれた。
ああ、デンジ君。キミはいつも私の闇を照らしてくれる。それでも、キミは私には眩しすぎる。私と一緒に地獄に行くには忍びない。私は彼に再考を促すように続ける。
「……あの、私たち親子ぐらい歳が違うのよ。…デンジ君みたいな若い子に相手してもらえるような女じゃないのよ」
「いや、レゼって案外子どもっぽいとこもあったから、ちょうど見た目通りでいいんじゃねぇの?」
ガーン!!子どもっぽい……子どもっぽい……自分の子どもと同じ歳の子に言われた……。
「あ、でもそれでレゼが母ちゃんに見えたり、大人の女に見えたんだな、やっとわかったぜ。でもすげえじゃん。若い体と大人の心って無敵じゃね?」
デンジ君、本当にキミは天才だ!そうなのだ、物事は捉えようで如何様にも見える。私は、自分のような存在が生きている価値はない、とか国家のために忠実な兵器であれと教育されてきた。その結果、私は諦めとネガティブが価値観のベースになっている。
しかし、彼は違う。私と同等の悲惨な境遇で育ちながら、常に楽観的でポジティブだ。そして、彼は教育を受けていないだけで本質を直観的に捉える頭の良さを持っている。それは私にはないものだ。
「デンジ君、ありがとう…。私、今までそんな風に自分を見たことがなかったの。そんな風に言ってくれたのはデンジ君が初めて!」
本当に嬉しかった。これだけは夫のジョンとすら共有できなかった、私の最大の悩みだった。どんなに愛し合ってもジョンは人間で私は悪魔で……いずれ確実に死が二人を分かつ、しかも残るのは私ということは分かっていた。そして、彼を失った後、私は永遠の孤独を生きると思っていた。ジョンは子どもを作ることで見守ると言ってくれたが、彼に言えなかったのは、子どもたちは子どもたちの人生があって、遠い子孫になれば、もはやそれは私とは無縁の人ではないか、という疑念は常に付きまとっていた。
しかし、この問題を解決できる世界でただ一人の存在がここにいた。彼ならば私と同じ時間を生きてくれる。そう、私たちは永遠に孤独ではなくなる。
だからこそ、私のこれまでの過去が疎ましかった。彼と生きるためには、私はあまりに罪を重ねすぎていた。そう、私は人殺しの悪魔だ。彼は悪魔の心臓を持っているけど、人殺しはしていないはずだ。やはり、人殺しが彼の傍に居てはいけない。私は懺悔するように、彼に知られたくなかった事を話す。
「本当にありがとう、でもやっぱり、私はデンジ君の隣にいるにはふさわしくないの……」
「何でだよ!レゼ!」
「私の中にいるのは”爆弾の悪魔”っていうの。文字通り爆弾でいろんなものを爆殺させる能力。そんな兵器として育てられて、人を沢山殺して何かを破壊することだけが存在意義だったの。私はこの力をソ連の命令で使ってきた。そう、私は人殺しの悪魔なの。」
「それでね、それ以外にもスパイとして沢山人を殺して来たの。ううん、それだけじゃなくてね……」
ここで、今まで言えなかった、彼に一番知られたくなかった事、つまり、私の身体は既に多くの男に抱かれ穢れきっているという事を伝えなければならなかった。
ジョンは私と同じ歳で境遇だったので受け入れてくれた。
でも、デンジ君は違う。このころの男の子は相手に純潔を求めるはずだ。これが一番怖かった。
「……デンジ君、私、私ね……」
身体が震える、でも言わなければならない。
「私ね、スパイの訓練とか、任務でね、さんざん好きでもない男に抱かれてきたの。それこそモルモットの時はね、色んな酷い事いっぱいされて……もう、私の身体は穢れきってるの。だから、デンジ君に愛してもらう資格なんか……」
私の罪の全てを告解した。改めて見返すと、本当にひどい人生だった。こんな人間が幸せになろうというのがおこがましい。しかし、デンジ君は間髪を入れずに反論してきた。
「いや、その人殺しはさぁ…仕方なくねえけど仕方ないな。レゼはさ…人殺して楽しかったか?」
「…そんな訳ない。ずっとずっとイヤだった…。でも命令には逆らえなかったから、心を殺してた……」
「だろ、レゼが人を殺してえっつーんならそりゃダメだけど、命令だろ?だったら命令した奴が悪ぃんで、レゼ悪ぃんじゃなくね?ほら、包丁で人刺したら刺したやつが悪いんで、包丁は別に逮捕されねえじゃん」
目から鱗とはこのことだ。私はずっと兵器として育てられたと言っていた。そうなのだ、兵器が罪を犯すのではないのだ。それでも、私に罪悪感はずっと澱のように残っていた。それは人間だからだ。夫と子を持った人間だから、他の人の痛みが分かるから、無辜の人間にだけは手を出さない、大量殺戮はしない事を戒めとしてきた。
それを、デンジ君は思い出させてくれた。もう、例えこれで嫌われても私は晴れやかに消えることができる。
そう思っていると、デンジ君はさらに、ちょっと言葉を濁しながら、そして照れながら、でも真剣に答えてくれた。
「んでさ、その…訓練とか任務とかでエッチなことさせられたってさ……、それもレゼがやりたかったんじゃねえんだろ?」
「…ずっと、ずっとずっとイヤだった!!それなのに無理矢理……」
途中から言葉にならず、思わず泣き出してしまった。
「やっぱ好きでもねえやつとヤっても気持ちよくねえんだな。今ならよくわかるぜ。レゼがしたくてやったわけじゃないんだったら、あ~、何つうの? 犬に噛まれた、だっけ?まあ悪魔被害みてえなもんだろ」
デンジ君…こんな穢れた私でいいの?彼は自分のことは全く顧みず、ひたすらに私の事を思ってくれている。言葉こそ拙いけど、彼の気持ちは痛いほど伝わる。
「それに穢れきったっつーけど、レゼは綺麗だぜ。なんせプールでも保健室でもバッチリ見たからよ」
ボンッ!
顔から火が出るとはこういう事を言うのだ。ボムの変身ではなく私の顔は爆発のように真っ赤になった。頬を赤らめる訓練などなんの意味もなかった。
「////////////バカ…」
「だからさ、レゼ…やっぱレゼの話聞いても俺がレゼを好きなのは変わんねえな」
「ホントにデンジ君、こんな私でいいの?おばさんで人殺しでビッチだよ?」
……並べてみると本当に酷過ぎる。こんな女誰だって願い下げだと思っていた。
「いや、こんなじゃねーんだ、俺ぁレゼがいいんだ。そんで、ソ連のスパイ辞めたんだろ?じゃあもう人殺しも嫌な奴に抱かれたりもしなくていいじゃん。これからは俺だけだから大丈夫だぜ」
「……!!」
こんなことがあってもいいのだろうか?私は夢をみているのか?こんなどうしようもない私をデンジ君は好きだと言ってくれるのだ。
しかし、この期に及んでなおデンジ君に告白できていないことがあった。
どう切り出そうか悩んでいるうちに、彼の方が口火を切った。
「…でもさ、そんだけ人生経験豊富ならよ、やっぱ……その……好きだったやつとかも……」
デンジ君が聞き辛そうに聞いてくる。やっぱり気になるよね。
そして、私も一番答えづらい質問だ。でも、これで私の全てを彼に伝えることになる。これが最後の隠し事だ。これを言えば、私の心はもう一糸纏わぬ姿になる。恥ずかしい、それでも彼に全て見て欲しかった。
意を決して伝える。
「……………夫と子どもがいました」
「………え!?ええええええ!?」