レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

35 / 60
いつもご愛読ありがとうございます。
また、お気に入り登録、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。

難産で切りどころが分からず長くなってしまいました。


第三十五話

 私はレゼ、36歳。現在大ピンチ

 

 天使の悪魔の投げた槍が私の胸を貫いた。

 幸い心臓や肺は外してある。それでもダメージは大きい。

 

 ズグン!!

 

 槍が脈打つ。どうやらこの槍は私の力を吸収していくようだ。

 

 これは形振り構ってはいられない。

 天使の悪魔は上空にいて、次の槍を投擲する準備に入っている。

 

 即座に首のピンを抜く。その瞬間、天からの槍が私の胸を貫く。

 もう2本の槍が刺さったこの胴体は使い物にならないと判断した瞬間、私は首の根本を爆破して頭を落とす。

 

 流石に天使の悪魔も私の行動は理解できなかったのだろう。私は首を拾い、その首を天使の悪魔目掛けて高速で投げつけた。

 

 「ばあ」

 

 天使の悪魔に当たるその瞬間、私の頭は大爆発を起こす。

 

 「ぐあっ!」

 

 辛うじて天使の悪魔は直撃を避けたが、爆風に巻き込まれて飛行が制御できていない。

 

 その瞬間ボムになった私は天使の悪魔の背後から羽交い絞めにし、その首筋に噛みつき血を啜る。

 

 「うぐぐぎぎ…」

 

 天使の悪魔は羽ばたいて逃れようとするが、もうスリーパーホールドに入っている。

 ただし、学校でキモイ殺し屋を殺したときと異なり、頸動脈を締めて失神させるのが目的だ。

 

 天使の悪魔も本来空を飛べるので空中姿勢の制御ができるが、私が完全にコントロールしているので逃れる術はない。何やら片手でナイフを持って刺そうとしているけども完全に極まった状態からは無意味だ。やるとすれば自分ごと私を刺すぐらいしかないけど、その刃渡りの剣を振るう猶予は与えない。

 

 そして、吸血と頸動脈の締めが効いてきたのか天使の悪魔が動きを止めた。どうやら失神しているようだが、そのフリの可能性もある。

 

 私たちは真っ逆さまに落ちていく。

 私は爆発で落下スピードを制御しながら、相手の頭が先に地面に落ちるように体制を入れ替える。間もなく地面だ。

 

 後で知ったが、これは日本の忍者の技で飯綱落としというらしい。

 ソ連でも空を飛べる私くらいしか使ってないので私のオリジナルだと思っていた。

 

 丁度、湖の砂浜に落下した。落下直前にスピードを大幅に緩めたので、天使の悪魔は死にはしていないものの頭を強打して動けないようだ。

 

 早速ラーゲリを呼び出し、吸収させる。

 すると、やはり鎖が現れ抵抗するが、気のせいかビーム君の時より鎖がボロボロな気がする。現にラーゲリに引っ張られるといとも簡単に壊れてしまった。

 

 「マキマ!!」

 

 どうやら天使の悪魔も記憶を取り戻したようだ。

 ラーゲリの吸収を止める。

 

 「僕は何て、何て事を……マキマぁぁぁ!!」

 

 「何か思い出した?」

 

 「キミは?」

 

 「さっき君に槍で貫かれたデンジ君の彼女だよ」

 

 ボムの姿で言ってるのでどう見ても悪魔だが。

 

 「いや、どうみても悪魔だし…体型も違うし……」

 

 余計なお世話だこの野郎!…まあ実際ボムの姿の時は身体が成長するのか、その…胸も普段より3カップほど上になる。

 

 「これで信じてもらえるかな」

 

 そう言いながら変身を解除する。しぼんでいく胸が悲しい…ってあれ、服は!?

 あ、ヤバい。頭だけで復活したんだった。

 

 私は武器人間の特性上、ピンさえ抜けば頭だけでも復活できる。血は足りなくなるので補給する必要はあるが。

 そして、基本はプラナリアのように頭から復活するので、胴体に身に着けていたものは復活時には身に着けていない。したがって今私は全裸である。ボムの時はエプロンがあるので誤魔化せるが、変身を解くとどうしようもない。最も戦闘時にはスイッチが入ってそんなことを気にはしないので、今頃になって羞恥心を感じる。

 

 「ああ、うん…すまなかった。ちょっとあっちを向いているよ」

 

 天使の悪魔はこう見えて男性であるらしい。天使って性別あったんだ…。

 まあ、何にせよデンジ君以外には見せたくない。急いで胴体が着ていた服をはぎ取り身に着ける。

 穴が開いて血まみれだが、今は仕方ない。

 

 「もういいよ、ありがと」

 

 服を着替えて天使の悪魔に声をかける。

 

 「それで、何か思い出した?」

 

 しばらくして彼はポツリと話し出した。

 

 「……僕はマキマに操られていたようだ」

 

 やはり間違いなかった、ビーム君の時と全く同じだ。どうやら今のところ悪魔は鎖で縛られているらしい。

 

 「だろうね、今はどう?」

 

 もはやマキマの影響下にはないと判断して話を続ける。

 

 「思い出したんだ…酷い出来事を」

 

 「何を思い出したの」

 

 「僕は昔、とある南の島にいた。そこに居た人たちは皆優しくて、僕に言葉や泳ぎ方を教えてくれたり、家を作ってくれたんだ。そうしているうちに、僕は一人の女の子に恋をしていた」

 

 私と同じだ、このような力を持ちながらそれでも束の間の安息を得ることができていた。しかし、幸せを得られたからこそそれを失った時のダメージはより大きくなる。

 

 「……」

 

 「それはとても幸せな時間だった、でもマキマが現れて僕の力を使うように命じた。僕は当然拒否した。僕の力は人の寿命を吸い取って殺してしまう。そんなの当然嫌だった」

 

 己の幸せを奪うものは敵だ。当然敵の言うことを聞く道理はない。

 

 「そうだろうね、でもそれならどうして…」

 

 どうして皆を殺したの、とは言いいたくなかった。分かっていた。なぜなら私たちは兵器だからだ。兵器は使われれば人の命を奪う。そこに兵器の意志はない。

 

 「そうしたらマキマは再度僕に力を使うよう命じた。そこから僕の記憶は無くなった。気が付けば周りには村の人たちが全員物言わぬ骸になっていた。そして、僕は……好きだったあの娘の手を握っていた。その娘も僕の力のせいで既に事切れていた」

 

 「……それは、辛いね」

 

 その辛さは痛いほどわかる、自分のせいで愛する者を死なせてしまった。筆舌に尽くしがたい辛い思いだ。

 

 「僕はずっと僕のせいでみんなが死んでしまったと思っていた。でも違った、思い出した。マキマ、あいつが僕にみんなを殺させたんだ!!」

 

 これでわかった。やはり彼は私と同じ殺戮兵器だ。しかし、兵器は能動的に人を殺しはしない。人を殺すのはその兵器を用いる者だ。これは私がデンジ君に教えられたことだ。兵器自身は邪な者に使われれば、多くの命を奪ってしまう。本人が望むと望まないとにも関わらず。そして、兵器自身が例え心の中で泣いていたとしても。

 

 彼は以前の私と同じく、自分が大量の命を奪ったと自分自身を責めていた。しかし、この場合責があるのはその力を振るうよう命じた者、つまりマキマだ。

 

 デンジ君はそんなソ連に使われていた兵器である私を救ってくれた。

 ならば、私も同じようにすべきだ。

 

 「許せない、マキマ!そして、そんなものに操られていた自分が一番許せない!」

 

 天使の悪魔は歯を食いしばり、拳を握りしめ怒りを堪えていた。その拳から血が滲み出るくらいに強く握りしめていた。そんな彼を今救えるのは私だけだ。

 

 「……あなたも私と同じ」

 

 「え……!?」

 

 「私も昔、ソ連の殺戮兵器だった。上層部の命じるまま多くの人の命を奪ってきた」

 

 「……」

 

 「どんなに私がその力を振るいたくないと思っても無意味だった。幸い私が上層部と対抗できるほどの大きな力を得たことでやっとそれを止めることができた。私は無辜の人々だけは手にかけないよう誓いを立てた」

 

 「…僕もそれ以来殺しはやってない。でも、それでもあの日の事が蘇る」

 

 「そうだよね。かつて犯した罪が消えるわけではない、ううん、自分が愛するものを得て、それを奪われたからこそいかに自分が罪深いことをしたのか、それをまざまざと見せつけられる日々だった」

 

 「でも君に迷いは見えない、ボムガール。それはなぜ?」

 

 「デンジ君が私を救ってくれたから」

 

 「あのチェンソー君が?」

 

 どうやら彼には意外だったらしい。まあ、一見彼がそんな哲学的な話をするようには見えないだろうけど。しかし、彼は学がないからこそ、本質を見抜き、それを彼なりの言葉で分かりやすく伝えることに長けている。なので、私も彼の言葉をそのまま使わせてもらう。

 

 「彼の言葉を借りると、包丁で人を刺したら、その刺したやつが悪いんで、包丁が悪いわけじゃない…ですって」

 

 「……へ?」

 

 「だから、同じ言葉を貴方に贈りたい。貴方も私も包丁なんだと。だから貴方は自分で自分を責めるべきではないの」

 

 天使の悪魔は、最初呆気にとられた顔をしていた。しかし、すぐにその言葉の持つ意味を悟ったようだ。私と全く同じ反応だった。

 

 「……それは、そうなのか。操られていた僕はただの兵器で……」

 

 そして、やっと霧が晴れたかのような笑顔を見せた。

 

 「……ありがとう。長い間ずっと考えていた。僕はこの世に存在してはいけないのではないか…って。でもあの島ではそんな僕を受け入れてくれていた。…チェンソー君はすごいな。まさかそんな言葉を彼から聞けると思わなかった。……だから君は彼に惚れたのかな?」

 

 天使の悪魔はデンジ君の話を噛みしめてどこか吹っ切れたようだった、そしてデンジ君に初めて関心したようだった。

 

 「そうね…私は最初から彼に一目ぼれだったけど、心底惚れたのはこの言葉を貰ったからだったわ。こんな罪深い女でもいいと、許しを得られた。とても都合のいい話だけど、私にはそう思えたの」

 

 「…そうか、君には許してくれる人が居たんだね」

 

 「貴方にもいるはずよ」

 

 断言する。アキ君が彼を見放すはずがない。

 

 「そうかな……」

 

 「アキ君はああ見えてとても優しい人。今は復讐とマキマに囚われてるけど、本来は誰よりも優しい人。だから貴方を見捨てるはずがない」

 

 「……彼が許してくれるかな」

 

 「そして、彼だけじゃない。デンジ君も私も他の人たちも…ここの人たちが貴方の失くした人たちの代わりになってくれるはずよ」

 

 「…ありがとう、ボムガール」

 

 「レゼって呼んで、貴方は何て呼べばいい?」

 

 「僕に名前はないけど、呼びやすい名前でいいよ」

 

 「じゃあ天使君でいいかな」

 

 「そのまんまだね、でもそれもいいかもね」

 

 とりあえず、天使君とは友達になれそうだった。

 ならばここからが本題だ。

 

 「そう。こうやって私たちは平和に暮らしたい。けれどそれを許さないものがいる」

 

 「……マキマだね」

 

 「そう、彼女が私たちの力を使おうとする限り私たちは平和に暮らせない」

 

 「田舎のネズミにはなれない…か」

 

 「ええ、田舎に居ようが都会に居ようが彼女はやってくる。そして私たちから平和を奪い去るか…私たちの意志を奪い去る」

 

 「意志を奪い去る…その先は…僕たちが兵器として使われる」

 

 「ええ、私たちは兵器に逆戻り。大量虐殺を自分の意志とは無関係にさせられる」

 

 「真っ平ごめんだね」

 

 「ええ、私たちは人間にせよ悪魔にせよ意志がある。恐らくだけど、この意志を強く持つことがマキマへの対抗策かも知れない。多分彼女は洗脳ができる。そして、洗脳の対抗策は強固な意志を持つこと、冷静であること、そして何よりも自分ひとりじゃなく、仲間がいること。仲間が居れば自分がおかしくなっても分かってくれる」

 

 「……」

 

 「だから私たちは力を合わせてマキマに挑まなければならない。お願い天使君、力を貸して!」

 

 「…わかったよ、レゼ。本来僕は働きたくないんだけど、どうやら働かないと怠けられないようだ」

 

 そして、今度は本当の意味で握手を交わす。

 

 さて、そろそろ出ないとみんな心配してるだろう。

 

 「さあ、行こっか」

 

 「うん…アイスもう一つ食べないと」

 

 「ははははは!なんじゃそりゃ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。