レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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公安if、学生ifどちらもいけるようにしましたが、一応この話は第一部で完結予定です。とりあえずそこまでは走り抜けたいと思いますのでご支援のほどどうぞよろしくお願いします。


第四十話

 私はレゼ、元ソ連のスパイ。

 

 たった今、岸辺から衝撃の事実を聞かされる。

 銃の悪魔は既に倒され拘束されている。

 

 私は銃の悪魔を夫と子どもの仇と認識していた。

 流石にそこは嘘ではないだろうと考えていた。

 

 いや、正確に言うとそこが嘘であって欲しくないという願望に近いものだった。

 なぜなら、そこが嘘だとすると私にとって最悪の可能性に行きついてしまうからだ。

 

 しかし、今の話が事実なら根底から覆る。

 

 銃の悪魔の最後の目撃地はソ連だ。

 

 (ソ連はとっくの昔に銃の悪魔を確保している…?)

 

 つまり、それは……

 

 (私は最初から道化だった…ジョンとミーシャの本当の仇は…)

 

 残念ながら最悪の仮定が現実味を帯びてきた。

 

 さらに岸辺が続ける。

 

 「現在、銃の悪魔の肉片は、アメリカが20%、ソ連が28%、中国が11%、その他の国が4%を保有し、そして残りの37%の肉体は肉片となって世界中に飛散して方々の悪魔が所持しているらしい」

 

 この情報は実は正確ではない。私はこの13年間で銃の悪魔の肉片を相当数集めている。そして実はこの肉片は一部だけを上に提出している。

 

 (私が最悪に備えていた万が一の保険が当たってしまった…)

 

 「……そうですか」

 

 「そして、マキマの狙いは銃の悪魔を日本に召喚して自分の配下に置くことである可能性が高い」

 

 「…何ですって!?」

 

 「これが成った場合おそらくもうマキマに逆らえる存在は世界中にいない。世界は奴に支配されるだろう」

 

 マキマが銃の悪魔を配下にする。これは悪夢だ。そうなったらもう勝ち目はない。

 

「そうなる前に恐らく各国はマキマを仕留めに来るだろう。その場合勝ち目がある国は?」

 

 各国の有力なデビルハンターは知っている。

 

 「例えば、貴方もご存じの中国のクァンシ。ただ、彼女でも銃の悪魔の従えるマキマに勝てるかと言えば…」

 

 「難しいだろうな」

 

 「なら、アメリカはもう有名なデビルハンターはあまり居ません」

 

 この手で屠ったものも多いので良く知っている。だから私をチーズ呼ばわりしたあんなレベルの低いのしか居ない。

 

 「ソ連はどうだ?」

 

 「私が最強である自負はあります。が、先ほどの話が事実なら私に対抗する手段がある可能性が高いです。そして何よりも…」

 

 最大の問題は

 

 「ドイツのサンタクロースですね」

 

 そう、これが最悪だ。しかも厄介なのがこのサンタクロースは元々東ドイツにいた、つまりソ連と関わりがある可能性が高い。つまりマキマとも繋がっている可能性を否定できない。

 

 「あれか…あれだけは来てほしくないな」

 

 「同感です、一度調査に行きましたがその時は邂逅できませんでした。しかし聞こえてくる能力は強力無比ですね、あとドイツは他にも厄介な悪魔を飼っているという噂も聞きます」

 

 これはもう逆に言えば心配しても仕方がない領域になる。

 

 「では、サンタクロースとマキマが戦えば?」

 

 それは比較がしようがない。

 

 「正直、全く予測がつきません」

 

 「ではお前とマキマが戦えば?」

 

 「マキマの不死身のからくりさえ分かれば、勝てる可能性はあります。あと遠隔地の人間を殺したからくりは…」

 

 「それに近い能力なら聞いたことがある。京都公安の契約悪魔に近い奴がいる。罰の悪魔、おそらくそいつだろう」

 

 「罰の悪魔…すると何かの攻撃を受けたことをトリガーにした反撃のようなものですか?」

 

 「おおむねそれで合っている。ただし、本来の罰の悪魔はそこまで強力でない。多分奴の力で増幅したのだろう。あと奴はヤクザに襲われたがそのヤクザを大穴開けて殺している」

 

 「大穴…まさか…」

 

 私はその人体に大穴を開けて数多の人を殺して回った悪魔を知っている。

 

 「銃の悪魔…?」

 

 「恐らくそうだ、だがなぜ奴が銃の悪魔の力を使える…?」

 

 「悪魔だからでしょう」

 

 もうここに来て私は確信した。マキマが銃の悪魔の能力を使ったその手段に心当たりがある。

 

 「何?」

 

 「マキマが人間ならば無理です。しかし、悪魔なら自分が肉片を食べれば良いのでは?」

 

 「そんな手が…?」

 

 「使えます」

 

 「なぜ断言できる」

 

 「なぜなら私が食べたからです」

 

 そう、これが万が一の保険。私自身を銃の悪魔の肉片で強化する。

 はっきり言って狂気の沙汰だけど、あの時以来デンジ君に会うまで私は復讐に狂っていた。

 

 そして、私のみならずラーゲリ、マトリョシカ、オルカ、カメレオン、沈黙、蛾、ヒグマなど捕えてある他の悪魔にも食べさせてある。

 

 「何だと!?」

 

 流石に驚かれた。

 

 「そして、ご存じの通り私は爆弾の悪魔。この力と銃の悪魔の力を組み合わせると一人でほぼ軍隊に匹敵します」

 

 「なんでソ連はこんな奴を手放すのか……?」

 

 人間が機械の様に冷徹なら私の意思を奪ったりしただろうけど、生憎そうやって使う技術はソ連には無かった。そして拷問と恐怖で人間は支配できると侮ったのだろう。人間はそんな簡単なものではない。

 

 「所詮モルモットだと侮ったのでしょうね」

 

 私がその間にどれほど牙を研いでいたかも知らずにね。

 

 「…とりあえず今分かってるのはそれぐらいだ」

 

 「承知しました。マキマを止めるというのなら協力します。その代わりお願いがあります」

 

 ここが分水嶺だ。聞き入れられないなら、行く末は逃亡しかない。

 

 「何だ?」

 

 「一つはソ連の対処に協力してください」

 

 「どのみちそれは必要事項だ、ましてマキマと組んでいるならなおさらだ」

 

 「とりあえず、向こうの切り札さえ倒せればあとは私が何とかします」

 

 「何とかって、ソ連に攻め込むのか?」

 

 「いいえ、保険が生きてきます」

 

 「保険?」

 

 「向こうも保険をかけてるでしょうからこちらがそれに対処できるか…ですけどね」

 

 「わかった、とりあえず日本に来た奴は公安にとっても敵だ。他には?」

 

 「デンジ君に普通の生活を。日本人で16歳で学校にも行かず搾取されるなどあってはならない」

 

 ここだけは譲れない。最悪私は公安の悪魔扱いでいい。デンジ君だけは普通の暮らしをして欲しい。

 

 「ふむ、まずそいつはお前ではなくデンジが決める事だ。そこは奴を信じてやれ。ただデンジが望むなら…とりあえずデンジとお前の戸籍は用意してやれると思う。あとは日常生活だが、住居と生活費は保証してやる」

 

 その条件だけでも御の字だ。私は彼を思うあまりに、知らず知らずのうちに我が子を守る母のつもりになっていた。彼は息子ではなく私のパートナーだ。彼の意思を尊重すべきだと諭された様に思える。いずれにせよ、ここまでの条件なら協力は望むところだ。

 

 そう考えていると、岸辺さんがとんでもない提案をしてきた。

 

 「そうだ、お前ら学生になれ」

 

 ……え、それって。私とデンジ君が学校に行ける…、普通の生活が送れる…。

 とうとう夢が目の前に見えた。しかも私も学校に行ける…もういちど青春…。

 

 「…破格の条件ですね」

 

 「ああ、お前が学生生活に耐えられるならばな」

 

 ん、どういう意味…ちょっと待て、私が本物の女子高生?36歳の女子高生?いいのか、それ?

 

 今まではバイトで誤魔化してたけど、本当に若者の中に混ぜられるのか?自分の子どもと同じ歳の子ども達に混ざって一緒に勉強したり、遊びに行ったり…。

 

 ヤバい。今回の任務よりヤバい。36歳、女子高生をリアルにやらないといけないのか。ガールズトークとか…キツイ…。

 

 「野茂から聞いている、その見た目からは信じられん歳らしいな」

 

 「…歳の事は言わないでもらえますか」

 

 首のピンに手をかける。

 

 「冗談だ、さてみんな待ってるから今後の予定を言う」

 

 「…はい聞きましょう」

 

 ピンから手を放して聞く。

 

 「まずはマキマの手駒を減らすかこっちの手駒を増やさねえといけない」

 

 「なら一気にやりましょう」

 

 「できるのか?」

 

 「ビーム君と天使君の要領で」

 

 「なら一人欲しい奴がいる。

 

 「なるほど、マキマの配下の魔人ですね」

 

 「暴力の魔人という。何故かやたら理性があるので使いやすい。東山コベニという隊員とバディを組んでいる」

 

 「あとの連中はマキマが直接管理してるので手を出せん。それ以外だと民間で吉田という男を雇ってある」

 

 「使えますか?」

 

 「今の俺よりはな」

 

 「またまたご謙遜を」

 

 「ちなみにお前たちが学生になったらこいつも同級生だ。」

 

 「え、ちょっと…公安が同級生はキツいんですけど…?」

 

 「ああ、お前さんの女子高生ぶりを報告してもらう」

 

 まあそりゃ私もデンジ君も監視がいるでしょうけど…。

 どうみても公安で笑いものにされる未来しか見えないけど…。

 デンジ君と私の未来のために耐えるしかない…。永遠の16歳…、でもデンジ君と一緒なら…。

 

 「くっ…わかりました。あとは何かありますか?」

 

 「あと、頼みてえのは…アキだな」

 

 やはり感づいていたか。

 

 「アキ君もマキマの影響を受けてそうでしたね」

 

 「ああ、その可能性が高い」

 

 「分かりました、今夜話してみます」

 

 「お前はデンジだけではなくこの短期間で色んな奴の信頼を得ている、流石スパイだ」

 

 「未だに疑ってます?」

 

 「いいや、クァンシの目を信じる。さっきのメモにこう書いてあった。もしお前がソ連のスパイなら抹殺した方がいい、だが、恐らくはソ連のスパイを辞めているだろう…ってな」

 

 クァンシは恐らくソ連上層部の私が裏切るであろう情報を何かを掴んでいたのだろう。恐らく情報部の権力闘争の行く末だろう。そして、それに私が気づくか試していた。

 

 「なるほど、彼女には感謝しないとですね」

 

 「ああ」

 

 「では、とっておきを一献」

 

 そう言って冷凍庫からウォッカを取り出してグラスに注いで渡す。

 

 「ああ、乾杯」

 

 私達はグラスを鳴らしお互いに一息に呷った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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