レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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第四十三話

 私はレゼ、デンジ君の恋人。

 

 デンジ君と熱い一夜を過ごして意識を失った。

 どのくらい時間がたったのだろう…しばらくして気が付くと、横でデンジ君が白目をむいていびきをかいていた。

 

 (もしかして、私もこうだったのかも……)

 

 デンジ君に見られていたら…

 

 (もうお嫁にいけない……)

 

 と思ったけど、そもそもデンジ君に嫁入りしようとしているのだし、それ以前に何回も切腹レベルの恥は見せてきた。

 

 とりあえず、大急ぎでグシャグシャのシーツを取り除いて、代わりにタオルを引いてその上に寝ることにした。そして布団を一緒にかぶる。

 

 エッチとはある意味、他人に絶対に見せることができない自分の全てを自分の伴侶だけに見せる行為なのだと痛感した。そして、恥ずかしい部分も含めて全てを相手に見せて委ねることでお互い強い絆が生まれるのだと理解した。

 

 (もう何も怖くない…)

 

 これから激しい戦いが待っているだろうけども、デンジ君と一緒なら恐くない。

 

 そう思えるような夜になった。

 

 一枚の布団を一緒にかぶって、彼の胸の中で寝ようとしてふと、デンジ君の胸をみると、チェンソーのスターターが目についた。なぜかそのスターターが気になってしばらく手の中で弄んでいた。

 

 前に一緒に寝たときにみたポチタ君の尻尾だ。

 

 「ありがとう、ポチタ君。夢が…叶いました」

 

 そうお礼を言いながら、なぜかとても愛おしくなってデンジ君の胸を抱きしめた。

 

 「ポチタくん。デンジ君の彼女のレゼです。いつか君にも会いたいです。これからもよろしくね」

 

 そう言いながら眠りに落ちた。

 

 「レゼちゃん…レゼちゃん…」

 

 夢の中で誰かが私を呼んでいる。

 微睡の中、私はこれが夢だと何故か分かってしまっている。

 目の前に奇妙なオレンジ色の犬がいた。

 その犬の頭からは何故かノコギリが生えていた。

 

 初めて見るはずなのに、なぜか私は知っていた。

 

 「ポチタ君…?」

 

 「はじめまして、レゼちゃん」

 

 奇妙な犬(?)は流ちょうに人間の言葉をしゃべった。

 

 「ポチタ君、会えて嬉しいよ」

 

 「私もだよ、レゼちゃん。デンジの夢を叶えてくれてありがとう」

 

 デンジ君の夢…女の子と付き合ってエッチしたい、だっけ。叶っちゃったね。

 

 「私こそデンジ君に合わせてくれてありがとう、ホントにポチタ君のおかげだよ」

 

 「さて、デンジの夢は叶ってしまったけど…次の夢は?」

 

 …ん?その質問を私にするの?デンジ君の夢のこと?それとも私の夢のこと?

 

 「デンジ君じゃなくて私の夢?」

 

 「今のデンジの夢は聞いた。それは君の夢を叶える事だそうだ」

 

 ……デンジ君、キミはすごいよ。最初は単に自分が生きるという最低限の目標が夢だったのに、今は自分よりも私を優先してくれるなんて…。私はなんて幸せなんだろう。でも私の夢もデンジ君と一緒。

 

 「私の…夢。デンジ君と一緒に普通の生活を送って…学校に行って…そして一緒に仕事して…」

 

 「それもすぐ叶うんじゃないかな」

 

 そう、障害は大きいけれどそれを乗り越えたら叶うところまでやってきた。そうすると次は…。

 

 「早川家とか周りのみんな、魔人も悪魔も一緒に楽しく暮らしたいな」

 

 これは今までの私なら考えられなかった。でも日本に来てデンジ君の周りの人の温かみに触れて、この人たちもデンジ君に必要な人たちだと痛感した。だから、欲張りな私は誰一人死なせずにみんなを守りたい。

 

 「魔人も悪魔も…いいね」

 

 ポチタ君がちょっと意味深に言う。

 

 「あとデンジ君のお嫁さんになって子どもが欲しいな」

 

 最後に究極の願い。叶うなら彼との子どもが欲しい。そして子どもを一緒に育てられる平穏が欲しい。

 

 「…実は、デンジは家族というものにトラウマを抱えている。だからそれは難しいかも知れない、でも君となら克服できるはずだ。それをぜひ私に見せて欲しい」

 

 そう言えば前にエッチはしたいけど結婚はしたくないって言ってたっけ。最初はなんて最低な発言だって思ってたけどそれってそういう意味だったんだ…。でも大丈夫、私でも家族ができてママになったんだもん、デンジ君なら絶対いいパパになるよ。

 

 「私も酷い生い立ちだったけど、それでもママになれたよ。だからデンジ君も大丈夫だよ」

 

 「……ここだけの話、デンジ自身が封印した記憶がある。それを知るとデンジが壊れてしまうと思ったから私が開けないように見張っている」

 

 「…え?もしかして、彼の過去の話?」

 

 「そうだ、いずれデンジはその扉を開いてしまうかも知れない。その時はレゼちゃん、君がデンジを支えてほしい」

 

 何となく何が起こったのかを察してしまった。彼が封印する記憶、幼少期だとすると恐らく両親のことだろう。母親は心臓の病で亡くなったと聞いた。そして父親は自殺したとも聞いた。

 

 ここに前から疑問があった。本当に父親は自殺だったのか?聞いた話では飲んだくれのロクデナシだったらしい。幼いデンジ君をネグレクトして飲んだくれているような父親が自殺などするだろうか?私の経験上こういう輩は自殺などするくらいなら人を殺す。なので自殺に見せかけて殺されたのではないかと推測した…。

 

 誰に?誰に殺された?

 ヤクザではない。殺すくらいならもっと有効に金にする。そうすると、答えは一つしかなかった。

 

 (デンジ君が殺した…)

 

 ほぼ間違いなく自己防衛のためだろう。

 しかし、幼い彼は罪の意識で壊れないように自分を守ったのか…。

 

 「…大丈夫、私が守ってあげる…ううん、違う。一緒に乗り越えていこう」

 

 私も人殺しだ。それも一人や二人じゃない。

 私の足跡は血にまみれている。そんな私でもデンジ君は受け入れてくれた。

 なら、次は私の番だ。デンジ君がどうであっても受け止める。罪も一緒に背負っていく。

 

 「レゼちゃん……デンジの相手が君で良かった」

 

 「ポチタ君……ありがとう」

 

 デンジ君を今まで守ってくれて、私を受け入れてくれて、本当にありがとう。

 

 ……目が覚めると私はデンジ君の胸に耳を当てる格好になっていた。そしてデンジ君のスターター、つまりポチタ君の尻尾を握りしめていた。

 

 やがてデンジ君が目を覚ました。

 

 「…ん…うう…」

 

 「おはよ、デンジ君」

 

 「ん、おお、おはようレゼ…んえ゛ぇ゛!?」

 

 しばらくぼーっとしていたデンジ君が突然真っ赤になって叫び出した。

 

 「ん…なぁに?どうしたの…?」

 

 と言いかけてやっと気づいた。そう、昨日はあの後そのまま寝てしまった。

 なので、今はお互い一糸纏わぬ姿だった。

 

 「レっレゼ!…はっ裸…」

 

 「んふふ、思い出した?昨日のこと」

 

 私も恥ずかしかったが、昨日のうちにそれ以上の恥をいっぱいさらしている。

 今更裸体を見せるぐらいは抵抗はなかった。

 なので、昨日のことは置いといて年上の女の余裕を見せるのだ。

 

 「レゼ…やべえ…朝からまた…」

 

 前言撤回、朝からそんなことをされては身が持たない。

 今日は昨日の打ち合わせ通り一仕事あるのだ。

 

 「だ~め!ほら、シャワー浴びて、顔洗って!」

 

 そう、このままではとても外出できない。今のうちにベッドを片付けて予備のシーツを敷き、そのまま洗濯を始める。そういえば早川家では朝はどうしてるのだろう?

 アキ君を手伝おうかと思ったけど、私もシャワーを浴びないと人前に出られる状態ではなかった。

 

 …その後シャワーを浴びて着替えてから二人でマトリョシカから出て早川家のリビングに行くとアキ君は既に朝食を準備していた。

 

 「おはようございます」

 

 キッチンのアキ君が卵を焼いているところだった。アキ君は完全に吹っ切れたのかさわやかな顔をしていた。

 

 「おはようございます。あ、朝食できますよ。ほらデンジ準備しろ」

 

 「ごめんなさい、何か手伝えますか?」

 

 「いや、今日は大丈夫…いやデンジ、パワー起こしてきてくれ、レゼさん準備手伝ってもらえますか?」

 

 「はい、すいません遅くなって」

 

 そう言いながらテーブルを片して食器を並べていると、デンジ君が叫んでいるのが聞こえる。

 

 「おお、おらーパワ子!起きろー!」

 

 ドンドン!

 

 デンジ君がノックすると眠そうなパワーちゃんが出てきた。

 

 「…なんじゃぁ、うるさい脳…ん、んんん!デンジ!!貴様!交尾の臭いがするぞ!!さてはこいつ等ヤッとったなー!!」

 

 何を言い出すんだ、この子は!!

 また口封じに行こうとする前に、デンジ君がパワーちゃんの頭を殴っていた。

 

 「朝っぱらからバカな事いってんじゃねー!」

 

 「やったな!!このー!!」

 

 パワーちゃんが殴り返して朝から喧嘩が始まる。

 

 「うるせー!!てめーら!メシ抜きだ!」

 

 アキ君がキレた。

 

 「「はい、やめます!!」」

 

 いつもの早川家の風景だった。

 

 (ホント、騒がしくて…でも暖かくて…)

 

 私たちの居場所はここだ。それを守り抜くための闘いが始まろうとしている。

 

 

 

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