レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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二道のモデルと目される喫茶店に行ってきました。
店内は二道よりも小さいですが、外観はそっくりでした。
クレープ美味しかったです。


第五十八話

 私はレゼ、現在二道。

 

 マキマと二人きりで話すという罠のようなチャンスのような、岐路に立っている。

 ここが「二道」というのが最高に皮肉が効いている。

 

「……レゼ?」

 

 デンジ君がこちらを心配そうに覗き込む。

 正直、ここでマキマの誘いに乗ることはとても危険だ。

 しかし、逆を言えばマキマを葬るチャンスでもある。

 

 「デンジ君……大丈夫。心配しないで」

 

 そう言いつつ彼のそばに寄り

 

 チュッ♡

 

 と頬に口づける。

 

 「レっ!!レゼっ!!!」

 

 あんなことまでしておきながら、キス一つで動揺しているデンジ君がかわいい。

 そして、その隙に彼の襟にメモを仕込む。

 

 私が戻れなかった場合のことを書いたメモを。

 

 マキマと2人で二道に戻る。

 

 「倉橋君、悪いけどコーヒーを2つ、そのあと内密の話があるから席を外してもらえるかな?」

 

 「……あー、分かった。ただし、レゼちゃんに危害は加えないようにね」

 

 マスターが私の身を案じてくれる

 

 「それは誓います」

 

 マキマが答える。そういえばマスターも支配されてない…というかできないのかも。

 マキマの支配の基準がよくわからない。とりあえず今のところ私は大丈夫そうだ。

 

 やがてコーヒーが2人分出されて、マスターは静かに店を出た。

 

 「じゃあ、レゼちゃん、あとはよろしく」

 

 「はい、マスター」

 

 マスターが出て行ってしばらく私たちはコーヒーを飲んでいた。

 

 「…これは、絶品ですね。もっと早く来れば良かった」

 

 マキマがマスターのコーヒーを賞賛する。

 

 「コーヒーは絶品なんですよ。他はイマイチだけど」

 

 「あはは、そりゃあ倉橋君はどっちかっていうと不器用だから」

 

 マキマが笑って答える。

 

 「マスターとは公安で?」

 

 「ええ、私が小さかったころから」

 

 「……岸辺隊長は岸辺さんでマスターは倉橋君なんですね?」

 

 素朴な疑問だったが聞いてみた。

 

 「階級の問題で、私が上司になったからね。彼は出世したくないタイプだった……というかある時から銃の悪魔に対する復讐者になったから」

 

 「……そして銃の悪魔の実態を知って辞めた…と」

 

 「知ってましたか…、さて本題に入りますか」

 

 そう言った後マキマは

 

 「レゼさん、何か腑に落ちないようですね」

 

 とストレートに聞いてきた。

 

 「ええ、いくつかあるけど…まずはなぜサンタクロースを支配して配下にしなかったの?」

 

 「…簡単なことです。私の望む世界には不要だからです」

 

 「不要?なぜ?」

 

 「まず誤解されがちなのですが、私は人間を愛しています」

 

 そこなのだ。とても今までの行動を見ているとそうは思えない。そう思っているとマキマが続けた。

 

 「人間は意志があり、己の力で道を切り開くからこそ美しいのです。一方、このサンタクロースが作り出すものは意志なき人形です。この力を使ったが最後、人間は滅びてしまいます。そんなことは許さない」

 

 なんということだろう!私が人間であろうと誓ったのは、意志なきモルモットや殺戮兵器から脱却するためであり、デンジ君と共に人間として生きていくためだったが、まさかそこがマキマの理想とも一致していたとは想像もできなかった。

 

 「よってこの人形の悪魔は私にとって唾棄すべき存在なのです。そして、レゼさん…」

 

 言いかけたときに、マキマが何かを察した。

 

 「……極めて無粋ですね、貴女の国は」

 

 何だろう、何かこれではないことを言おうとしていたのは分かった。そしてそれは私が今聞くべきだったか、あるいは聞かなくて良かったのか……。

 

 「急用ができました」

 

 そう言い残してマキマは二道から去っていった。

 

 「レゼ!!」

 

 マキマが去ってすぐ、デンジ君が駆けつけてきた。

 

 「大丈夫か!?」

 

 「メモに気づいた?」

 

 私がマキマに支配された場合、躊躇いなく殺せと書いておいた。

 

 「ああ、それ読んですっ飛んできた」

 

 「幸い無事だった。というか、マキマが少しわからなくなってきた」

 

 デンジ君に率直な感想を伝える。

 

 「マキマさんが?」

 

 「ええ、それまでは魔女、倒すべき敵としか認識していなかったけど…」

 

 何だろう、私のマキマに対する認識が少し変わった。

 

 「今でも倒すべきなんだろうけど…少なくとも彼女は彼女なりに人間を、この世の中をよくしようとしているのかもしれない……」

 

 そして、その手段とそこに至る思考が私たちと相容れないだけかもしれない。

 

 「…レゼ。俺ぁな、マキマさんって悪い人じゃねえと思うんだよ。何つーか、俺を助けたのも気まぐれで、何か企んでるんだろうけど、必ずしもそれだけじゃねえっつーか…」

 

 「デンジ君…今ならなんとなくわかるよ。でもそのためにデンジ君を失うのは許容できない」

 

 そこだけは譲れない。逆に言えば私たちが平穏に暮らせるならば……悪魔とだって和解できるのかもしれない。

 

 「ああ、俺もレゼを殺すっつーんなら、マキマさんでも容赦しねえ」

 

 デンジ君はもうマキマと私の間で揺れたりしない。でも、何だろう……マキマの本当の望みって…。

 

 「デンジ君…」

 

 時間が許すなら、このまま二人で…。

 でも今はそんなことをしている場合ではなかった。

 

 「マキマを追わないと」

 

 理由は分からないが、なぜかそうしないといけない気がした。

 そして、デンジ君もそう思ったようだった。

 

 「…行こう、マキマさんを放っといたらなんかヤバい気がする」

 

 この嫌な予感はなんなのか。

 そして、もう一人ここで嫌な予感を感じて動き出した人がいる。

 

 「僕も行くよ」

 

 「マスター?」

 

 「僕のカンが正しければ…奴がくるかもしれない。そんな気配がする」

 

 「奴…!!」

 

 まさか…いや、ありうる。

 動かせるとしたらソ連かアメリカ。

 

 アメリカがこちらに放つ動機は薄い。

 唯一あるとしたらマキマだ。

 

 一方ソ連は…いくらでもある。

 サンタクロースが失敗した今、最もその可能性は高い。

 

 (さっきマキマが言ってた貴女の国は無粋だっていうのは……)

 ほぼこれが答えだろう。

 

 さて、どうやって追跡するかと考えたときに、表に車が2台止まった。

 公安の車だった。

 車の窓から岸辺隊長が呼んでいる。

 

 「一大事だ。マキマを追うぞ。戦力は一人でも多い方がいい」

 

 「何があったんですか?」

 

 「アメリカにいた銃の悪魔が太平洋を猛スピードで渡ったらしい」

 

 「それって…」

 

 「ああ、あと3時間ほどで日本にくるぞ」

 

 なるほど、だからマキマは急いでいたのか。

 

 「急ぐぞ、奴が銃の悪魔を倒す前に」

 

 銃の悪魔、しかもソ連の…

 それは紛れもなく私の仇だ。

 そして、マスターにとっても。

 

 「場所はどこですか?」

 

 「このままだと恐らく茨城県の大洗あたりだろう」

 

 「わかりました。私とデンジ君で先行します」

 

 「どうやって?」

 

 「飛びます」

 

 そう言い残してデンジ君を抱えて飛ぼうとすると

 

 「お前ら、大洗がどこか分かってんのか?」

 

 ……そうだった。一応地図は頭に入ってたけど飛んで把握できるか怪しい。

 

 「とりあえず乗れ、1時間半ぐらいで着くだろう」

 

 そうしてここにいるメンバーは全員乗ることになった。

 聞けば早川君と天使君は先行しているらしい。

 

 あれ、彼らだけで銃の悪魔やマキマと会うのは危ないのでは…?

 

 そう思いながら車のラジオでニュースを聞く

 

 「たった今速報が入りました!アメリカの爆撃により、モスクワが壊滅しました!!」

 

 「何ですって!!!」

 

 有り得ない、いくら強力な爆弾でもモスクワを一瞬で壊滅させるのは無理だ。

 しかし、アメリカはそれを為したらしい。

 

 「本日現地時間11時2分、日本時間で17時2分にアメリカの新型爆弾がモスクワに投下されました。これは先の銃の悪魔による攻撃への報復と見られており、モスクワ上空にて爆発しました。この爆弾は、プルトニウムと呼ばれる化学物質の反応を利用したもので、従来の兵器と大きく異なる模様です……」

 

 その途端に、私の脳内に急速に知識が流れ込んできた。

 

 これは核爆弾と呼ばれる爆弾で、巨大なものになると文字通り国を滅ぼすこともできるものであると。そして、その形状は……私の頭部と同じ形であると……。

 

 そして、私はこの使用方法も分かってしまった。

 今まで私の頭部だけが爆弾として使えなかった理由がこれだ。正確に言えば使えなかったのではない。使い方、いや概念そのものが忘れ去られていたのだ。

 

 「チェンソーマン……消していたのは、これか………」

 

 チェンソーマンが食べることによってその概念ごと葬り去っていたものが、人間の力だけで復活してしまった。そして、その概念は人類を滅ぼし得る力を持っている。

 

 そして、今……私は…その力を持ってしまった…。

 

 青ざめて震える私をデンジ君が抱きしめてくれた。

 

 「レゼ…今ニュースで言ってたのお前の祖国だよな…。例え今追われる身になってても故郷だもんな、辛えよな」

 

 「……ううん、ありがと」

 

 デンジ君の気遣いは例え見当違いであったとしても嬉しかった。彼の手から伝わる温もりで、私はまだ自分が人間でいられるのだと思えた。

 

 しかし、この力を振ってしまえばもう人でいられなくなるのではないか、そんな恐ろしい考えが頭をよぎった。そして、皮肉にもこの力がないと銃の悪魔は倒せないのではないかと思った。

 

 その時は…私はどうすればいいんだろう……。

 それでも、私は人間でありたい。そう心から願った。

 

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