レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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仕事でしばらく書けませんでした、すみません。
ここからしばらくレゼさんの過去の回想になります。


第七話

 私は18番、15歳

 

 1975年当時、私には名前がなかった。ただ18番と番号で呼ばれていた。

 私たち「モルモット」は過酷な訓練を受けていた。そして、その訓練の結果、優秀なものはさらに薬物投与により強化され、兵士やスパイとなるためにされなる訓練が施された。一方で優秀でないものはふるいにかけられ、最終的には文字通りモルモットとして人体実験の材料とされた。

 

 彼は16番という私と同じモルモットで、私より先にこの部屋にいた子だった。私が物心ついたときにはすでにいたので、ある意味兄のような存在だった。

 

 ギザギザの歯にボサボサの金髪のどこかアジア人の血が入った彼は、底抜けに脳天気だった。前に彼にここの暮らしが辛くないのか聞いてみたら、殴られたりはむかつくけど、俺は戦いが好きだし、メシも食えるから別に、なんて信じられない答えが返ってきた。

 

 昔からよく一緒に訓練を受けていたが、彼はスパイの適正はゼロだった。頭が悪いというよりは、バカ正直で腹芸ができない人間だったので、諜報活動は無理という烙印を押されていた。

 

 じゃあそんな彼がなぜ残ったのかと言えば、彼は戦闘の天才であった。こと戦闘に関しては野性的なカンと意表をつく戦闘センスで他を圧倒していた。私は諜報活動も学問も暗殺術もトップだったが、こと一対一の戦闘に関しては彼に勝つのは難しかった。彼の方も、私以外は戦闘で相手にならなかったので、模擬戦は私たちが組むことが多かった。

 

 彼は私に好意を持っているようで、何かと話しかけてきた。彼は単純で裏表がないため、他の人間と比べて付き合いは楽だった。そのような環境の中で、お互い距離が近くなっていったのはある意味必然だった。

 

 しかし、スパイとしての訓練は、彼を意識し始めた私にとって地獄の苦しみだった。

 

 ハニートラップの訓練と称して、下衆な教官に純潔を雑に奪われた。繰り返し行われる凌辱の中で、女としての感情も情緒も摩耗して、こんな私に彼を好きになる資格なんかないと諦めるしかなかった。

 

 彼はその後も相変わらず呑気になにかと私に話しかけようとしていた。

 私は、ハニートラップの訓練で培った微笑みを浮かべながら、上っ面だけの付き合いですませようとしていたけども、その内心は、彼に対する罪悪感で一杯だった。

 

(こんな私に惚れちゃだめだよ……)

 

 既に何度も汚された自分は彼にふさわしくないという思いで、彼に惹かれている自分に嘘をつき続けた。そうして、うわべでも、内心でも嘘をつき続けていたら、いつしか自分のすべてが偽物で、本当の私なんてどこにもないと思いこむようになっていた。

 

 そして、そんな私に更なる絶望が襲いかかってきた。

 

 忌まわしい実験の末、悪魔の心臓を人間に埋め込むという計画がスタートし、多数の犠牲を出したうえで、私が適合者となったことが研究所の所長から告げられた。

 

 「18番喜べ、お前が第一号の適合者だ。埋め込む心臓は“爆弾の悪魔”だ。お前はこれから偉大な力を得て国家に更なる繁栄をもたらすのだ」

 

「失敗は許されないプロジェクトだ。お前はこれから人間をやめ、兵器となるが、決して魔人にはなるな。悪魔に乗っ取られてはならない」

 

 所長が続けたその言葉に私は絶望した。

 

(もう人間ですらなくなっちゃうんだ……)

 

 涙が溢れそうになるが、訓練の成果で表向きには感情は一切出さなかった。

 

「手術は明日行う、今日は明日に備えて休息せよ。体調は完全にしておくように」

 

 そう告げられ、私は部屋に戻された。ドアを閉めて一人になってベッドの上の毛布を頭からかぶってやっと私は声を殺して泣いた。

 

(私って一体なんなんだろう……)

 

 ただでさえ自分が何なのか、存在自体が嘘でしかないものだと思い込んでいたなかで、人間ですらない、なんて考えることをやめて、ただの兵器になってしまった方が楽なのかも……

 

 などと堂々巡りをしていると、ドアをたたく音がしたので私は我に返ってドアを開けた。

 

 そこには彼が立っていた。

 

「おーい、大丈夫か?」

 

 と呑気に彼が尋ねてきた。

 

「なんか泣いてそうだったから来てみたけど、邪魔だったら帰るわ」

 

「……中に入って」

 

 未だ張り裂けそうな気持ちに整理がつかないまま、無意識に彼を招きいれた。

 

 ドアを閉めて、またふさぎ込む私を見て彼が

 

「そういやお前あのマッドに呼ばれてたよな、何だったん?」

 

 と、聞いてきたので、私は重い口をポツリ、ポツリと開きながら彼に説明していった。

 

「私……人間じゃなくなっちゃう……、爆弾の悪魔になっちゃうの……」

 

 話しているうちに、私の感情は次第に暴走して歯止めが利かなくなった。

 

「嫌!!悪魔になんかなりたくない、人間やめたくないの!!もういや……」

 

 彼に内心を隠し続けた私が、その心の鎧すべてを投げ捨てて彼に泣きついた。

 

「ん-、でもよ、別に俺たちゃモルモットで今でも人間扱いされてないじゃん。それ強ぇーんだろ、だったらよ、もっと待遇良くなるかもじゃん」

 

 彼にはデリカシーという概念がなかった。私はそんな彼に激高した。

 

「私の気持ちがキミにわかるわけない!!悪魔にされる私の気持なんか……」

 

「うん、そこは悪ぃけどわかんね。でもよ、人間だろうが、モルモットだろうが、悪魔になろうがよ、自分は自分じゃね?そこは変わんねーじゃん。大事なのは自分自身のここだと思うぜ」

 

 と、自分の胸をこぶしで叩きながら笑ってみせた。

 

「でも、私……自分なんてないの……」

 

 私は彼の胸のなかで泣き叫びながら

 

「キミが見てる女の子はどこにもいないの!!ずっとキミに嘘つきつづけてきたの!

笑顔は訓練の成果なの!キミの好きな愛想よく微笑む女はどこにもいないのよ!もう体も人間じゃなくて化物になって自分の心臓もなくなって!!私ってなんなの!私も自分が何なのかもうわかんないよ!」

 

「いや、俺はお前を知ってるぜ、ジェーン」

 

 突然に彼は私を18番ではなく、ジェーンという名で呼んだ。

 

 ジェーン……なぜ?

 

 

 

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