過去篇続きです。
私はジェーン?名前は18番。15歳。
彼が私をジェーンと呼んだあと、彼にしては珍しくはにかみながら語っていた。
「最初はさ、すごいきれいな歌声が聞こえてきたんだ。なんかジェーンって子が教会でおきて彼とデートして……みたいな歌。誰が歌ってんだろ、ってすごい気になって見に行ったらさ、お前が花みながら歌っててさ……」
……聞かれていた、私が無意識のうちに歌っていた歌………
ジェーンという女の子が教会で目覚めてから、彼とデートして教会で眠りにつくという内容の歌。あの秘密の部屋で、幼いころ子守歌代わりに聞いた歌。
……そして、人間を確実に窒息死に至らしめるまでの時間と同じ長さの歌。
幾度となく私はこの歌とともにあった。ごく普通の少年と少女の恋の歌。それは決して私のようなモルモットに与えられるはずがない、遥か遠い理想郷の歌……。
私はジェーンになりたかった……でも、それは叶わない夢だと思っていた。
それを彼が聞いていた。
「そんでさ、こいつ強いだけじゃなくて超かわいいじゃんって思ってたらさ……気が付いたらずっとお前見てた。そっから俺がお前のこと内緒でジェーンって呼んでたんだ。だからジェーン、俺はお前を知ってるぜ……俺が知ってるお前は花をみて微笑んでた、やさしい子守歌を歌ってたかわいい女の子だよ」
と、言って彼は後ろに隠していた花を一輪差し出して来た。
それは白いガーベラだった。
「この花好きなんだろ、やるよ」
ぶっきらぼうに、でも顔を赤くしながら、彼は私に花を渡して来た。
一輪のガーベラ。意味は分かっているのだろうか、いや恐らくわかっていない。
なのに、彼はその花言葉のが表す意味と全く同じことを言ってきた。
「好きだ、ジェーン!俺のひとめぼれだ!」
雷が落ちたような衝撃だった。
初めて女の子として見られた……。
それでも私はまだ泣き続けていた。
彼が私を好きだと言ってくれた、誰一人女の子として、人間として見てくれなかったのに、彼だけがそう見てくれた……。
とても嬉しいはずなのに、いや、だからこそ悲しみが止まらなかった。
真っすぐな裏表のない彼が眩しくて、汚れきった私がこの人に好きになってもらう資格はない……。
彼にだけは、知られたくなかった……、でも、彼に言わなくちゃ……
「わ……私ね…………私……嫌だった、とっても嫌だったのにいっぱい汚されて……うぅ……あぁぁぁ!!……だからね、キミにね……好きになってもらう資格なんかないの!キミを好きでいる資格なんかないの!うぁぁぁぁぁぁ!!」
私は、訓練で自分が何度も汚されたことを告白しようとしたけども、それは途中から言葉にならなかった。それでも、何が起こったのかは彼にも分かったらしく、ショックを受けていたようだった。
(とうとう全て知られてしまった……もう消えてしまいたい……)
そう思っていたら、いきなり彼が私を抱きしめていた。
「辛かったよなぁ、ジェーン!俺が脳天気に戦ってた間にそんなことあったんだなぁ……」
そういって、彼も泣いていた。いつも飄々としていた彼がみせた初めての涙だった。
「でもよぉ、お前がどんなに汚されても、爆弾の悪魔になっても、俺にとっちゃお前はずっと俺の好きなジェーンだよ!そりゃ変わんねぇんだよ!」
彼は私を強く抱きしめながら叫んだ。
「だからよぉ、明日の手術、何があっても生き残れよ!俺はお前が悪魔だろうが兵器だろうがお前が好きだからな!」
私は泣き続けた、でもこの涙は今までと違う。
これは、人生で一番素敵な涙だ。私はすでに顔中グシャグシャにしながら、それでも笑いながら泣いていた。
決めた。私は死なない。彼が好きだと言ってくれた私のまま悪魔にでもなんでもなってやろう。彼がいてくれさえすれば、どんなに汚されようが、化物に堕とされようが私は耐えて、そして彼を守ってみせようと自分に誓った。
「……ありがとう……見てて、私絶対死なない。そして絶対生き延びて、強くなってキミと一緒に生きたい。だから待ってて。」
そして、彼を名前で呼ぼうとして、彼も当然私と同じく名前がないことにいまさらながら気づいた。
「お願いがあるの……、キミの名前を呼んでもいいかな?」
「俺の名前?うーん、ジェーンが相手だからジョンでいいんじゃね?」
「何それ、適当!」
そういいながら、私は訓練ではなく、初めて心から笑えた気がした。
「お、やっと笑ったな!じゃあ今日から俺ジョンな。よろしくなジェーン」
ジョン・ドゥとジェーン・ドゥ、私はこれが名無しの男女という意味を知っていたけど、それも私たちらしくて良いかと思って、お互いをそう呼ぶことにした。
…………その後、手術は無事に成功し、私は「爆弾の悪魔」の武器人間として生まれ変わった。それでも私はもう18番でも悪魔でもない、ジェーンだと胸を張って言える気がした。
幸いだったのは、見た目がほとんど変わらなかったことだった、唯一首の横から出ているピン以外は……。
(何か、隠すのが欲しいな……)
そこで、チョーカーをつけてみるとある意味おしゃれに見えたのでなぜかうれしくなった。
爆弾の悪魔の心臓を埋め込まれた私は、不老不死となり、身体も血を飲めば再生するため、文字通り死んでは生き返るという訓練を繰り返した。
爆発の能力は私に莫大な力を与える反面、爆発による痛みは容赦なく私に襲い掛かった。心がやすりで削られていくような辛さだったけど、それでも私は彼のために心を強くもって耐えることができた。
彼はその類まれなる戦闘センスで、私の悪魔としての能力を余すところなく引き出すよう、戦闘訓練の相手を務めてくれた。私の戦闘力はメキメキと上昇し、私は彼に初めて勝利することができた。
「だぁぁぁ!くっそぉぉ!ジェーン、もっかいだ、もっかい!!」
彼は悔しがってもう一本、もう一本と繰り返し、私たちの勝敗は結果的にほぼイーブンになった。その訓練結果を見て上層部は、彼も私と同じ武器人間にしようと計画を進めていた。彼は私と同じになって強くなるなら、と歓迎の様子だったが、それは結局未遂に終わった。
突然、秘密の部屋が閉鎖されたためだった。アメリカのジャーナリストによって報道され、国内外からの非難に政府が耐えられなくなった結果であった。しかもその時点で秘密の部屋にいた子どもたち、つまり私たちが撮影され、アメリカの雑誌に載ってしまった。その影響から、モルモットたちは人道的保護と称してアメリカの施設に移送されることとなった。
しかし、私たちは既に私たちはスパイとして、兵士として戦略的に手放せない存在となっていための措置だった。そのすぐ後に亡くなったとして、表向き存在しない人間とされた。
ただし、上層部が変わったためか、あるいは私たちの力が強くなったためか、以前のモルモットのような扱いではなく、それなりの待遇は受けられるようになった。
それから3年、私たちは過酷な戦場でもその能力をフルに発揮して、気が付けばエリートと呼ばれる地位についていた。私たちはバディとして活動し、気づけば二人でいるのが当然になっていた。武器人間である私が恋に落ちるなど到底許されるはずはないのだが、その方がパフォーマンスが発揮されるとわかってからは上層部も黙認していた。
そして私たちは、数種の悪魔を捕獲するという高難易度のミッションを愛の力でクリアした。私たちの結婚を認めさせるというニンジンをぶら下げられた結果、普段よりも倍ぐらいのパフォーマンスを発揮できた。
そのまま私たちは愛を育み、そしてその翌年に結婚した。