レゼさんじゅうろくさい   作:大学鯖

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第六弾特典、まさかのデンレゼ幼馴染概念。
第七弾はウェディングに違いない!


第九話

 私はジェーン、19歳、新婚。

 

 ソ連では一般的に結婚式は行われないので、軍で披露宴が行われた。上官にとっては飲むための口実にすぎなかったとしても。私たちには非常にありがたかった。

 

 私は白いドレスで、ジョンはタキシードだったが、どうみても彼はタキシードに着せられている感じでそこがなぜか可愛かった。その様子を写真に撮ってもらった。彼は照れ臭がったが、私はそれを宝物にするつもりだった。

 

 列席者の「ゴーリカ!(苦い!)」の掛け声と共にジョンとキスした。苦いから甘くしろというロシアの伝統だ。恋人たちがいちゃいちゃするのを甘いと表現するのは世界共通なのかもしれない。

 

 新居は官舎であったが、ちゃんと用意してくれた。打算があったにせよ恩をうけたらキチンと返すのが私のポリシーだ。ジョンとの暮らしは、まさに夢が叶ったというべきものだった。朝目覚めて、横に愛する人がいる。

 

 生まれて初めて、家族という存在を手に入れた私は、たとえ世界を敵に回してもこれを手放すつもりはなかった。そのぐらいの覚悟はとうにできていた。

 

 私たちの任務はより過酷になってはいたが、ジョンが横にいれば何も怖くなかった。諜報任務の時は私が単独で受けなければならなかったが、私の帰りを待つ人がいるというだけで、その暮らしを守るという思いだけで全ての任務を成功させてきた。

 

 ジョンは、私が単独で任務を受けるときは、とても心配そうにしていた。

 私は不死身だからそんな心配しなくていいよ、と言っても彼は気が気でなかったのだろう。

 

 ある日、ジョンと昔の秘密の部屋の思い出話になった。部屋の子どもたちは一度は文字と言葉を覚えるために置いてあったイソップ物語の本を読んだことがあった。その中で、「田舎のネズミと都会のネズミ」の話になった。田舎のネズミは食べ物は貧しいが安全で、都会のネズミは美味しいものが食べられるが危険だという話だった。

 

 「なあ、ジェーン、ジェーンはさ”田舎のネズミ”と”都会のネズミ”だったらどっちがいい?」

 

 不意に彼が聞いてきた。今までの私たちではそもそも意味のない問いかけだった。

 なぜなら、私たちは生きてこの部屋を出るという考えすら浮かばなかった。

 

 しかし、秘密の部屋はなくなり、私たちも人並みに家庭というものを持って、改めてこの問いが意味を持ってきた。

 

 (そうか、昔と違って選べるかもしれないんだ……)

 

 「だったら私は”田舎のネズミ”かな、平和が一番だよ」

 

 「だよな、俺ぁさ、今まではずっと都会のネズミだと思ってたんだよ。なんせ田舎じゃ戦いもないし退屈じゃんか、でもな、ジェーンと一緒ならそんな暮らしも悪くないのかな……って最近思うんだ」

 

 「そっか、じゃあさ、二人で退役するまで頑張ってそれから田舎で暮らそっか。」

 

 私たちはモルモットであり、兵器だ。軍をやめるとか許されることはないだろう。それでも、このくらいは夢見たかった。いずれ私たちに子どもができたら、その子は平和な暮らしの中で生きてほしい。そのためには二人で長生きして……

 

 (あれ?私は………)

 

 気づいてしまった。できたらずっと気づきたくなかった……。

 

 (私って死ねるの………?そもそも、歳をとるの……?)

 

 私は、いくら死んでもピンを抜けば生き返る。生き返ると元の私だ。

 

 ふと鏡を見ると、そこには15歳のころの私がいた。今年で19歳になるのに……。

 

 こう考えたときに、新しい恐怖が生まれた。

 

 死が二人を分かつまで……結婚の常套句だ。どちらかが死ぬその時まで、一生涯お互いを大切にするという誓いの言葉

 

 ……死ぬのは確実に彼。私は死なない、いや、死ねない。そして私は一人残される。

 

 正確には、再生させなければ死んだ状態にはなるのだが、ソ連が私という兵器をそのままにしておくとは思えない。別の適応体が現れればその限りではないが、現状では武器人間は私だけ、しかもあの非人道的な実験の結果なので、今後それが現れる可能性も低い。

 

 ……そうなったとき、私は正気でいられるのか?

 彼が天寿を全うしたとして、その後、私は彼なしで生きていけるのか?

 

 そんな考えが頭をぐるぐると回ったが、彼が心配そうにこちらを見ているのに気づいて、

 

「うん、いいよね。ずっと一緒……」

 

 と笑顔を取り繕うのが精一杯だった。気が付けば彼にしがみついていた。彼がいなくなることを想像しただけで怖かった。

 

 「ジェーン?どうした?」

 

 ジョンが、私を抱きしめながら心配そうに尋ねてきた。

 

 「なんか心配してんのか?言ったらちっとは楽になんじゃね?」

 

 そう言ってくれた彼の優しさに甘えて、私は泣きながらさっき浮かんだ考えを、ポツリ、ポツリと話し出した。

 

 「あはは!そりゃ俺はラッキーじゃねえか?俺にゃ永遠に美人で若い嫁さんがいるってことだぜ!」

 

 ジョンはなんでもないことのように笑った。

 

 「んで、俺が死んでもさ、俺たちの子どもがいて、さらに孫がいて、ずっと続いていくのが見れるじゃんか。ある意味永久機関だぜ!そしたらジェーンは寂しくなんかないだろ?」

 

  そっか、子どもがいれば……と思い直してまた気づく。私は、はたして子どもを授かることはできるのか?

 何度も凌辱されても妊娠はしなかった。多分薬物や実験の結果だろうと思って、そのころは逆に安堵していたけど、今になってその過去が呪いになって襲ってきた。

 

 そう思うと、さらに怖くなって、また泣きながら彼に話してみた。

 

 「そんなの一杯ジェーンとエッチすりゃいいんだろ、バッチコイだぜ!ずっと若くて美人なんだから何発でもできるぜ!俺のパワーと愛があったら大丈ブイ、だぜ!」

 

 「……バカ」

 

 ……こういう人だった。デリカシーのかけらもないけど、それでもまっすぐ私を愛してくれる。

 私はトマトみたいに真っ赤になった顔を見られたくなくて、ジョンにしなだれかかった。

 

 ……その日はたくさん愛してもらったっけ………。

 

 そうやって一杯愛してもらった結果、ジョンの言ったとおりに子どもを授かって、十月十日で健やかに生まれた。男の子でジョンにそっくりだった。

 

 私は、生まれたばかりのわが子をこの手に抱きながら、ジェーンの歌を子守歌として歌った。

 

 悪魔になった私が結婚して子どもを授かるなんて、とっくの昔に諦めていたのに……。

 

 悪魔が神に感謝するなどお笑い種でしかなかったけども……私は、この奇跡に心から神に感謝した。

 

 そして、神に祈った……

 

 この幸せが、ずっと続きますように………。

 

 

 

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