この素晴らしい陰の実力者に祝福を! 作:魔力はどこだ!魔力ゥゥ
僕が転生してから、多分10年ほど経った。
この世界は、僕のいた地球で言う、中世のような世界観だった。
そして僕はミドガル王国の貴族、カゲノー男爵家の長男として生まれていた。
そんな僕が今何をやっているのかと言うと、剣術の特訓だ。
この国の貴族は、幼い時から魔剣士としての訓練を積み、王都にある魔剣士学園に行くのがセオリーらしく、僕も魔剣士としての訓練をさせられている。
魔剣士は名のとおり、魔力を使って戦う剣士だ。
そんな魔剣士が魔力を流せば常人の何倍もの強さになれ、
鍛えた魔剣士が魔力を使えば、普通の兵士百人分にも勝るらしい。
そんな中、
この10年間魔力を使い続けたことで魔力量が増え、
今では膨大な量の魔力を持つ僕は魔剣士として期待されている…
訳ではなく、極々平凡な魔剣士見習いとして過ごしている。
期待されているのは僕ではなく、僕の姉だ。
僕の姉のクレア・カゲノーは魔剣士としての才能に溢れているらしく、家にいる大人の魔剣士でさえも子供ながら倒してしまう位には強いらしい。親には、次期当主として期待されている。
この国では、魔力で身体強化ができるため男女間の差はあまりないらしく、魔剣士として活躍する女性も多いらしい。
本気を出せば、僕の姉くらい余裕で倒すことができるが、僕が目指す陰の実力者は実力をそう簡単に
ひけらかすような者ではないので
普段の僕は魔力を抑えて、
『うわぁぁ。お姉ちゃん強いぃ。』
と毎回姉に花を持たせている。
そのおかげか男爵家の中では僕は、これといって良い所の見つからない極々平凡な長男として、扱われている。
◆
皆が寝静まる夜、僕は屋敷を抜け出し付近の森林へと走り盗賊を刈る。これが僕の日課である。
盗賊は商人を襲って商品を奪い殺すような輩なので、殺したとしても誰も文句を言わない。
今日は最近開発した新装備の耐久性を試しに来た。
どこかに手ごろな盗賊はいないかなぁ………
おっ、いた。それもかなり大人数で火を囲って宴会をやってる。
傍には商人の死体と馬車の残骸。
どうやら、あの盗賊たちは奪った品で宴会をやってるらしい。
そんな悪い奴らを殺しても誰も文句を言わないだろう。
僕は気が付かれないようにそ~~っと近づいて、
「ヒャッハーァァァァァァァァ!
てめぇら金目のものを全部出せェェ!」
そういって、近くにいた盗賊Aの首を蹴り飛ばした。
飛んでいった首は血飛沫を辺りに飛ばしながら、焚き火の中へと入っていった。
「何だこいつは!」
「やっちまえぇ!」
「ウワァァアァ」
「オラオラァァ!金目の物と命、全て置いていけぇ!」
盗賊に向けて剣で攻撃する。
放った斬撃で盗賊たちの武器もろとも頸を刎ねる。
斬撃からかろうじて逃れた盗賊共も手から生やした剣で斬り捨てる。
「オラオラオラオラァァ!どうした!」
そうやって斬っている内に気付けば大勢居た盗賊共は残り一人になっていた。
「あらら。たった一人しか残らなかったか。ま、君で新機能を試せばいっか。」
「野郎、いきなり出てきて仲間を殺しやがって!」
「見たところ、君がこの盗賊共の親分みたいだね。」
「俺は、あいつらみてぇにそう簡単には殺られねぇぞ。
何てったって俺は元冒険者だったからな。オラァァ!」
そういって斧を僕に向けて振り下ろしてくる。
食らったら一溜りもないだろう。
だが僕はあえてその攻撃を受けた。
ドガァァアン!と辺りに響き渡る音が攻撃の威力を伝えている。
「ハッ。ガキ風情が。」
「グワァァァ!…………なーんて痛くな~い。」
僕が着ているのはスライムボディスーツ。
スライムというのは身体中が魔力でできていて、魔力の伝導率が高い。
最高級のミスリルの剣でも流した魔力の七割をロスしてしまう。
それに比べて、スライムの魔力伝導率はなんと驚異の99%。
だが一体のスライムから取れる粘液はあまり多くない。
そのため近くのスライムを狩り尽くして、隣国までいったりもした。
そうしてようやく完成したのがこの服だ。
魔力を流せば攻撃を受けても大丈夫な防御力にもなり衝撃を吸収してくれる。
おまけに全身から剣を生やすこともできる。
苦労して作る甲斐があった。
「な、てめェなぜ生きてやがる!」
「あ、もう君は用済みだから死んでいいよ。」
グサッとブーツの爪先から生やした剣で相手の胸部を穿つ。
僕は剣を引き抜き、ブーツをもとに戻す。物言わぬ死体と
成った盗賊からボタボタと血がながれ落ちていく。
「よし、ちゃんと機能するね。」
「そういえばこの盗賊元冒険者とかっていってたっけ。
それにしては、弱かったけど。」
僕は盗賊のいった言葉を思い出していた。
冒険者、それはこの国とは別の国のものだ。
なんでも、各々の魔力や身体能力、運などを測定して、それに合う職業につき、魔物を討伐してお金を手に入れるらしい。
その国では職業によっては魔法を使えたりもして、この国とは大分違う方向へ成長を遂げている。
正直、冒険者になってみたい気持ちはあるんだよね。
やっぱり陰の実力者足るもの、単純な魔力だけでなく魔法とかも使えた方がカッコいいからね。
でも確か、冒険者登録すると、強さがバレるんだっけ。
手のひらが解りきっている陰の実力者なんてダサい。
よし、このプランは無しだ。
「さてさてさて、戦利品を確認しますか。」
「僕が盗賊なんかよりも有意義に使います。だから、安心して成仏してくれ。」
死んでしまった商人たちも盗賊なんかに使われるより僕に使われた方がマシだろう。
僕は、商人たちへ祈りを捧げる。
「できるだけ現金がいいなぁ。美術品とかはかさばるし、売れないしで面倒なんだよねぇ。」
ガタガタと揺れている布のかかった鉄の檻。
「ん?何だ?奴隷でもいるのかなぁ。参ったなぁ。」
被さった布を取ると、そこには奇妙な肉塊がいた。
「悪魔つきかぁ。可哀想に。今楽にしてあげよう。」
そうして、剣を振り下ろしかけたその時、僕は気付いた。
この肉塊は、魔力で満ちていると。
それも、鍛え続けた僕の魔力の何倍も多い魔力を内包している。もしかしたら、これは魔力暴走なのでは?
あれは、僕がまだ幼かった頃、一度、
限界まで魔力を放出してみたらどうなるんだろう。
と思い、痛い目を見たのだ。
この肉塊はきっと魔力暴走に違いない。
使えるぞ、この肉塊。
魔力操作のトレーニングにはピッタリだ。
◆
あれから、数ヶ月が経った。
僕はあの肉塊を使って色々試した。
試す内に、どんどんと魔力の操作が精密になっていくのが実感できて、僕は嬉しかった。
そして、僕は魔力の神髄に達した。
そう思ったとき、僕の目に目映い光が入ってきて、
再び目を肉塊に向けたときには、そこには肉塊は無く、
美しい金髪のエルフがいた。
はじめ、僕はなんとか故郷の森へ返そうとした。
でも、あのエルフは
『帰りたくない!ここにいさせて!』
って頼むものだから困った。
仕方なくここに留めさせようとした僕の頭にある一つの名案が出てきた。
よし、このエルフを陰の組織の一員にしよう!
元々、一人で活動するには、あまりにもこの世界が広すぎると思っていたのだし、ちょうどよかった。
陰の実力者に憧れてきた僕に、それっぽい設定を造り出すなど、造作もない。
ぼくは金髪エルフに、
この世界を陰で操っている組織、
『ディアボロス教団』
がいて、そいつらは、金髪エルフのような悪魔憑きを集めている。あの魔王も実はコイツらの生み出したものであること。
そして、あの魔神ディアボロスを復活させようと目論んでいて、僕は奴らを倒すために対抗組織を作ろうと思っていること。
を話した。
はじめは、信じていなかったエルフだったが、
話を聞いていく内に信じ込んでしまっていた。
このエルフはチョロかった。
エルフに名前を聞くと、
「もう昔の名前なんて要らない。貴方が名付けて。」
なんて言ってきた。
僕は咄嗟に
「君はアルファだ」
と言った。
「そして我はこう呼べ、『シャドウ』と。」
「分かったわ。シャドウ。組織の名は何かしら。」
「我らは『シャドウガーデン』だ。
陰に潜み、陰を狩る。」
「いい名前ね。」
決まった。そう思った。
これは誰がどう見ても、完璧な陰の実力者ムーヴだ。
そうやって僕は油断していた。
だから、アルファの放った言葉には戸惑った。
「2人では心許ないわね。他にも仲間を集めましょう。各地にいる、悪魔憑きを仲間にして、奴らに反逆をしましょう。」
「えっ。まっ、まぁほどほどにね」
かくして、この世界にシャドウガーデンが誕生した。
◆
あれから、シャドウガーデンのメンバーはどんどんと増えた。アルファが子犬みたいに拾ってくるのだ。
そして、姉さんは王都に連れていかれた。
魔剣士学園に行ったのだ。
姉さんは行くのを渋って僕から離れようとしなかったけど、最終的には王都に送られていった。
それにディアボロス教団との戦いも進んだ。
教団と言っても僕が適当に盗賊に対して
「貴様らディアボロス教団を我等は排除する。」
とか言って、皆がそれに便乗しているだけの、
ただの盗賊狩りだけどね。
僕は最初の7人を『七陰』と名付けた。
やっぱり、陰の組織に幹部クラスは複数必要だよね。
あとは、皆に地球の知識を『陰の叡知』として、授けた。
まあ、うろ覚えで語ったのもあるし、そんなに再現出来ないでしょ。
そんなある日、アルファがいきなり告げた。
「私たち、世界中に散ろうと思うの。
だから、貴方とは一旦お別れになるわ。」
僕は驚いた。
理由は、世界中から情報を集めたいからとかなんとか言ってたが、僕には分かる。分かってしまった。
彼女たちは気付いたのだ。
ディアボロス教団なんていないことに。
でも助けてもらった恩はあるから、いきなりは居なくならないよ。
そういうことだったのだ。
彼女たちは前世のあの子達と同様に現実に気付いたんだ。
僕はちょっぴり寂しくなった。
でも、これもまた人生、そう思っておとなしく見送った。
◆
寂しくなった僕は少し旅をすることにした。
僕はその旅でいろんなものを見た。
例えばメスしかいないオーク。
個性ある名前の人たちのすむ集落。
なんとこの集落には、魔法を習う学校があった。
僕も学びたかったが、気配を隠して誰にも気付かれず来た陰の実力者、という設定でいたので、断念した。
それにしても、この世界に銃あったんだ。物干し竿みたいにかかってたけど。不思議だなぁ。
他には、カジノ大国。
僕はここで陰の実力者になるための軍資金を稼ごうとした。しかし、リターンが大きい分、リスクも大きい。
陰の実力者がギャンブルで負けるなんてダサすぎる。僕は勝てる勝負しかしたくない。だから僕は泣く泣く我慢した。
他にも、空を飛ぶキャベツ、畑に生える魚なんかも見た
。この世界は色々とおかしいみたいだ。
それから数年経った。
魔王が討伐されたらしい。
討伐したのは『勇者 サトウカズマ』らしい。
日本人じゃん。
僕は今まで、
何で地球とおんなじのが異世界にもあるんだろう。
そう思ったことが何度もあった。
この世界には、僕以外にも地球からの来訪者がいたのだ。