擦切れ続ける片羽の蝶   作:yuki_06090570

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壱:命短し無限の蝶

二度目の姉の葬儀が終わり、一つ一つ現状を整理していく。

まず第一に、今自分が置かれている状況。姉の葬儀でのあれこれ。葬儀中、その後の墓前でのカナヲ、アオイ、きよ、すみ、なほの振る舞い。何もかも既視感があったことを踏まえると、やはり過去へと戻って来てしまったのだろう。

 

何故私は過去へと巻き戻っているのか。姉の死に様を見た直後の場所に戻って来るなんて、偶然にしてはあまりにも現実離れし過ぎている。

となれば、間違いなく"血鬼術"の類。

思い当たる節は一つだけある。

 

姉と私の二人で十二鬼月と対峙したとき。あのときは姉が柱になれるかどうかを見定めるための任務だった。

私が鬼の足に刀を突き刺して動きを鈍らせたあと、姉がとどめに首を刎ねたのを覚えている。お互いボロボロになってたからそれ以外の記憶は曖昧だけど、鬼が消滅する直前に何かを言っていた。

 

‐お前だけは許さない。死んでも逃れられない苦しみを与えてやる‐

 

思い返せば、あの鬼は戦いの最中に血鬼術を使わなかった。もし使われていたのなら、私も姉もそこで命を落としていたはず。

もしかすると死ぬ間際、私に何らかの血鬼術をかけていたのかもしれない。

 

死んだら一番絶望した場所に戻らせる血鬼術……みたいな。

 

両親が死んだ場所に戻らなかったのは、術をかけられる前に起きた出来事だからだろうか。それとも家族を救えないことを確定させるためだろうか。もしくは両親より姉が死んだ時の方が絶望していたからか。

 

分からないことは分からないままで良い。次に考えるべきは、どうすればこの死に戻りの術から逃れられるか。

術をかけた鬼は既に絶命しているし、可能性があるとしたら

 

「生き残って鬼を滅ぼすこと……くらいか……」

 

お館様の見立てでは、鬼舞辻無惨が死ねば他の鬼も死ぬ。なら鬼舞辻を倒すことで、かけられた血鬼術も消滅するはず。

 

……自分で言うのも何だけど、到底できるとは思えない。

私は柱の皆みたいに頸を斬れる訳ではない。カナヲみたいに目が良い訳でもない。炭治郎くんみたいに鼻が利く訳でもない。善逸くんみたいに耳が良い訳でもない。伊之助くんみたいに肌感が鋭い訳でもない。玄弥くんみたいに鬼を喰うことで鬼になれる訳でもない。

鬼を殺す毒を作っただけ。ただ自分ができないことを別の方法でできるようにしただけで、凄くも何ともない。"鬼を殺す毒を作ったちょっと凄い人なんですよ"と言っていたのも、自分が無価値な存在ではないと自分自身に言い聞かせるため。

 

「……はぁ……」

 

自分に落胆したところで何の意味もない。

何はともあれ、柱の地位につかなければ融通が利かず、刀の申請もできないし、資金の都合で隊士の治療もままならない。

柱の介入無しで十二鬼月の討伐は既にできているし、毒さえ完成させてしまえば柱の一人として認められる。それは前回で確認済みだから、逸早く毒を作るのが先決。前回は研究に時間を費やしたことで一年くらい掛かったけど、今回は材料さえ集められればすぐにでも完成させられる。

半年もあれば柱になるのも可能なはず。

 

 

………………………………………

 

 

そうして、姉が殺されてから一ヶ月。

 

「この度蟲柱として就任いたしました、胡蝶しのぶと申します。皆様よろしくお願いいたします」

 

私は柱の地位に上り詰めた。ここまでは特に難しいことは何もない。

ここからどういう風に立ち回っていくかによって、この死ねない呪いが消せるかどうか決まる。少なくとも毒を摂取することは愚策中の愚策。結局死んでしまっては意味がないのだから。

 

兎も角、直近で気になることから順に整理していって、対策を考えるべきか。二度も三度も死にたくはないけど、何度も死んで正解の道を見つける他ないことは容易に想像できる。……そもそも正解の道があるのかどうかすら怪しいけれど。

 

今年の冬は炭治郎くんのご家族が襲撃される。此処に私が介入することで何が起きるか。そもそも誰が彼の家族を襲撃したのかを私は知らない。もしただの雑魚鬼なのであれば、竈門家を救えるかもしれない。そうすれば、ヒノカミ神楽を扱える剣士が一人か二人……いや、鬼狩りなんて危険なことに巻き込んでしまうのは良くないか……。

何方にしても、救える可能性のある命を見殺しにするのは、私の鬼狩りとしての信念に反する。

どうせ一度死んだ身なんだ。手当たり次第に情報を集めて正解を探せば良い。

 

 

………………………………………

 

 

隊士の治療を優先するために任務が少なくされていたことが功を奏した。屋敷の皆には生薬の買い付けに行くと言ったし、外出してても不審がられることはない。

 

人喰い熊……"穴持たず"の件で、冨岡さんが騒がれていたことを踏まえると、炭治郎くんの実家はあの宿場からそう遠くない。時期も近いということは、年末年始辺りのはず。

 

「……寒……。こんな所に人なんて住めるのかしら……」

 

雲取山。向かいの山といえば恐らく此処になる。雪は腰まで埋まりそうなくらい積もりに積もり、月どころか日の光までも遮断出来うる程に薄暗い雲が空全体に広がっている。冷たい強風は呼吸を乱れさせ、風に舞う雪が視界を大きく遮ってくる。

人が通った形跡のある獣道を頼りに先へと進んで行くと、次第に鈴の付いた紐が増えてくる。凶暴な野生動物への対策がされているということは、竈門一家がこの先に住んでいるのは間違いない。篝火のような灯りも少し見え、もうすぐ到着できそうだ。

 

「…………」

 

………………私はなんて愚かなんだろう……。一度死んだ所為で頭が馬鹿になってしまったのかもしれない……。

禰豆子さんが鬼にされた。つまりその場で鬼にできる者が居たということ。そして鬼を生み出せるのは、上弦の鬼と……

 

「……鬼舞辻無惨……!」

 

風が冷た過ぎて気配に全く気が付かなかった。

目の前の惨状を見る限り、ついさっき襲撃を終えたところらしいけど、血の匂いも冷たい風に紛れて少しもしなかった。

 

「……序でだ」

 

鬼舞辻は此方を観た瞬間、静かに腕を伸ばしてきた。直後、その腕から黒い茨のような鞭が四方八方からやって来る。目で追えるような速度ではなくて、あの日見ていなければ間違いなく避けられなかった。

 

-蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹-

 

ギリギリでなんとか茨の鞭は躱せた。後は間合いを詰めて刀を突き刺すだけ。突き刺しさえすれば……毒を使った攻撃はこれまで一度だけしかしていないし、共有された情報は少ないから、もしかしたら……

 

「……ぁ…」

 

声を出す暇もなかった。気付いたら異形と化した腕に右半身を囓られていた。

立てない。痛みで体に力が入らない。

刀は……刀は何処に……。突き刺しさえすれば……突き刺しさえ……すれば…………

 

鬼狩り鬼にするのは二度目だが、黒死牟ですらあの程度なら大して期待する必要もないであろうな

 

何か喋ってる……けど……聞こえない……。視界も……霞んできた……。こんなに……呆気なく…………

 

 


 

 

「起きたか」

 

母の謝る声が聞こえて目を覚ますと、刀を持った長髪の男性が腕を組んで木の側で立っていた。禰豆子は……斬られていない……。俺が気を失っている間に何かあったのだろうか。

 

「狭霧山に住む"鱗滝左近次"という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え」

 

狭霧山……。此処からだと何日掛かるんだろう。それでも行くしかないのは変わらないけど。……いや、それよりも聞かないといけないことが……。

 

「今は陽が差していないから大丈夫なようだが、妹を太陽の下に行かせるなよ」

 

「あの!! 聞きたいことが!!」

 

何とか声を出せて良かった。冨岡義勇さんはさっきの言葉で多分此処から去るつもりだったけど、俺の声で留まってくれた。

 

「……何だ」

 

「俺の家に……多分その……鬼狩り様が一人……」

 

多分暇なんてないんだろうから、引き止めたことに少しばかり怒ってるというか、呆れたような匂いがした。でも鬼狩り様と言ったら、凄く真剣な面持ちをされた。

 

「……案内しろ」

 

 

……………………………………

 

 

"鬼狩り様が一人"と聞いて、何となく嫌な予感がした。理由は分からない。長年鬼狩りをしてきた勘だろうか。それともこの少年の妹が鬼にされたからだろうか。強烈な胸騒ぎが止まらない。

 

「あの人……です……」

 

案内され、彼の言う鬼狩り様を見て唖然した。

胡蝶カナエの妹。姉が殉職してから一月(ひとつき)で柱になった奴だった。何度か蝶屋敷には世話になったことがあったから、姉妹のことは多少知っている。

出血量からして、既に息絶えているという見て良い。だが血の量に対して負傷がやけに少ない。

 

「……あれ……傷がさっきより減ってる……?」

 

「下がれ」

 

嫌な予感というのは、どうしてこうも当たるのだろう。鬼の始祖が少年の妹を鬼にしたというのなら、胡蝶の妹も序でで鬼にされたと考えるのは何もおかしなことではない。

 

顔見知りだからだろうか。異様に身体が震える。頸を斬ることを拒絶している。先程は冷酷にも頸を刎ねようとしたというのに、今は斬らずに済む方法が無いかを考えてしまう。

 

いや……鬼舞辻の血に適応しきれなければ起きることなく死ぬ。傷は治癒していっているようだが、意識を取り戻すかどうかは別だ。

 

……頼む……ここまで来たら目覚めないでくれ……。このまま適応できずに死んでくれ……。

 

「ウゥ……アァ……」

 

……どうして嫌な出来事はこうも順調良く進んでいくのだろう。

目を覚ましてしまった胡蝶の妹は、直ぐ側にあった自身の日輪刀を持って立ち上がった。

瞳の形状、獣のような呻き声、唾液を垂らす口から僅かに見える牙。誰がどう見ても鬼だ。理性があるのかどうかは分からない。今し方目を覚ましたということは、まだ人の血肉を喰らってはいないだろう。もしかしたら……この少年の妹のように、人を喰わない鬼に……

 

「アァ……ァガ……!!」

 

……刀を握る力が増している。やはり無理か……。頸を刎ねるしか……

 

「ゥゥ……グッ…!!」

 

「……!!」

 

「ひぃ!!?」

 

少年には余りにも衝撃的な出来事。いや、散々頸を刎ねてきた俺ですら言葉を失う出来事。

胡蝶の妹は自身の日輪刀を己の頸に突き刺してしまった。刺した直後、肉体は紫色に変色しながら爛れていき、その場で息絶えた。

 

「…………」

 

理性があったのか……? それとも鬼への怒りが本能を上回るほどだったのか……? 俺には分からない。何しろ理性を保ち、人を襲わない鬼を見たのは今日が初めてだから。

 

「……埋葬は手伝う。終わり次第、狭霧山へ向かえ」

 

「……はい………ありがとうございます……」

 

兎に角……今日の出来事はお館様にご報告しなくてはならない。人を喰わない鬼のこと。何故か此処に居た胡蝶の妹が鬼にされ、目覚めた直後に自害したこと。

 

…………厄介極まりない任務だ。

 

 


 

 

……………………………

 

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

「うぅ……」

 

吐き気が酷い。殺したいほど憎んだ鬼に、私がなってしまうなんて。何とか本能が剥き出しになる前に死ぬことはできたけど…………嗚咽が止まらない……。

 

幾ら死んでも戻るとはいえ、考え無しに突っ込むのは流石に阿呆が過ぎた。禰豆子さんが鬼にされたのなら、襲撃犯が鬼舞辻なんてことはすぐに想像できたはずなのに。

 

ただ竈門家襲撃の犯人が鬼舞辻であるということを知れたのは大きい。その時点で迎え討てば今後の展開を完全に無視して解決できるから。

案としては悪くはなさそうだけど、戦力があまりにも少ないのが問題。煉獄さんのお父さん、悲鳴嶼さん、宇髄さん、冨岡さん、不死川さん、そして私。

伊黒さん、甘露寺さん、時透くんは居ないし、カナヲや炭治郎くんたちも居ない。薬の弱体化が見込めない以上、この六人で鬼舞辻を倒すのはほぼ不可能に近い。

 

……いや、できるかどうかは私次第(・・・)か…………




【あとがき】

お読みいただきありがとうございます。

今後も大体こんな感じの流れで進んでいきます。

セーブポイントが更新されないリゼロみたいなものと思ってください。
死に方は色々ありますが、ネタが尽きれば爆速で物語を終わらせる予定です。

しのぶが死んだ世界線についての描写は特にする予定はありませんし、彼女が死んだ時点で存在しているのかもあやふやですが、仮に存在していたとしても無惨を討伐できるかどうかはお察しの通りです。

誤字脱字があれば報告していただけると幸いです。
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