本来この世に生まれるはずだった“赤子”とは、わずかに違う“何か”。
それは運命の盤面に割り込むようにして、この少年──アクアの肉体へと宿った。
静かに、しかし確かに世界の流れを変える意志を秘めた魂。
やれやれと息をつくその瞳の奥に、誰も知らぬ“もう一つの生”が脈打っていた。
だがこの世界は、その存在をまだ認めてはいない。
気配は微細で、だが重く、時折周囲の空気を震わせる。
小さな日常の裏側で、誰も気づかぬまま、歴史の歯車は静かに狂い始めていた──。
自宅マンションのリビング。
アイはソファで脚をぱたつかせ、ルビーはテレビを見て笑っている。
その横でアクアは黙々と雑誌をめくっていた。
その時——
ピンポーン。
「社長かな?」
アイは軽い調子で立ち上がり、玄関へ向かう。
「……おい、アイ」
アクアが低く呼び止めた。
その声音には、まるで鉄が擦れたような緊迫があった。
だがアイは気づかない。
「はーい!」と元気よくドアを開け——
ナイフの銀光が、外から一直線にアイの腹部へ伸びる。
その瞬間——
世界が、凍りついた。
空気が歪む。
テレビの笑い声も途切れ、ルビーの髪も揺れたまま止まる。
冷たく静止した世界の中に、アクアはひとり動いていた。
「……やれやれ。間に合ったな」
アイの前、止まった犯人のさらに後ろに、
アクアはいつの間にか立っていた。
「悪いが……あんたには、
ここで 再起不能 してもらうぜ」
背後に現れる青紫の巨人の幻影——
スタープラチナ。
拳に力が宿り、空気が軋む。
オラァ!!
「こいつは後で処理するとして…… “時は動き出す”」
ゴゴゴゴ……
世界の色が戻り、音が流れ始めた。
犯人は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、
共用廊下の端まで転がっていく。
(もちろん、部屋から見えない位置まで。)
――—
「……え?え?アクア?なんで玄関にいるの?」
腹を押さえながらアイがキョロキョロと周囲を見る。
もちろん刺されてはいない。あの刃は時の中に捨て置かれたのだ。
アクアは肩をすくめた。
「だから言ったろ、アイ。
不用意にドアを開けるなって……いつも言ってるだろうが」
「え〜?ごめ〜ん☆」
アイはいつもの調子で頭をかき、誤魔化し笑いを浮かべる。
そのまま二人でリビングへ戻ると、
ルビーが首をかしげて迎えた。
「ママ、誰だったの?」
「アクアだったよー」
「え、えぇ!?いまリビングにいたよね!?」
ルビーとアイがわちゃわちゃ混乱している横で、
アクアは深いため息をつく。
「まったく……やれやれだぜ」
リビングに静かに“ゴゴゴゴゴ……”という気配だけが響いた。
終わりです 本当は露伴先生が転生し「味もみておこう」でルビーを発狂させる予定でした ⋯誰も死なない?優しい世界が見たかったのでこうなりました