三人の休日が、珍しく同じ日に重なった。
アイがキッチンカウンターに身を乗り出しながら言う。
「せっかくだし、今日はママがご飯つくるね。アクアとルビーはリビングでゆっくりしてていいよ?」
その声音には、どこかうれしそうな、くすぐったいような響きがあった。
“母親らしいことをしたい”。
そんな思いが、いつもより少しだけ強く滲んでいるのが分かる。
「私も手伝う!」
ルビーが元気よく手を挙げた。
アクアは思わず眉をひそめる。
ルビーが手伝う=キッチンが壊滅する可能性。
条件反射のように警戒したが、アイはふふっと笑って、
「じゃあね、野菜を洗うのお願いしようかな?」
と、優しく肩に手を置く。
「それなら……まあ。火を使わなければ大丈夫か。」
アクアは小声でつぶやいた。
キッチンでは、アイが思った以上に手際よく動いていた。
包丁の動きも無駄がなく、下ごしらえも慣れた様子。
「えへへ、ちょっと前から練習してたんだ〜」
なんて、照れたように笑う。
ルビーも今日は珍しく失敗しない。
洗った野菜を得意げに掲げてアイに見せ、
「すごいじゃん、ルビー」と褒められて、胸を張っている。
アクアはリビングのソファーに腰を下ろしたまま、その光景をぼんやり眺めた。
胸の奥に、じんわりとした温かさが満ちていく。
(……なんだ、これは。やけに優しい気持ちになるな)
自分でも理由は分からない。
けれど、母と妹が肩を寄せ合い笑っている姿。
それだけで、何か満たされていくような、不思議な感覚があった。
やがて料理が完成すると、アイが声をかける。
「アクア、運ぶの手伝ってくれる?」
「ああ。」
トレーを手に、三人分の料理をダイニングへ運ぶ。
並んだ皿は家庭的で、どこかあたたかく、
アイが心を込めて作ったのが伝わるものばかりだった。
食卓につくと、ルビーが真っ先に箸を握りしめた。
「いただきますっ!」
アイが笑い、アクアも小さく手を合わせる。
「いただきます。」
料理はどれも優しい味で、アクアは一口食べるごとに
なんとなく胸の奥がじわじわする。
アイは料理の説明をしながらも、二人の表情を見ては
嬉しそうに頬を緩めていた。
三人での会話はたわいもなく、
最近の学校のこと、仕事の裏話、どうでもいい話題で笑い合う。
けれど、その何気ない時間がとても貴重で、
当たり前のようで、当たり前じゃなくて。
アクアはその瞬間を、心のどこかに刻みつけるように味わっていた。
食べ終わるころには、テーブルの上には柔らかい空気だけが残り、
ゆっくりと時間が流れていく。
「今日は……なんか、すごくいい日だね」
アイがぽつりとつぶやいた。
「そうだな」
アクアは静かに答えた。
大きな出来事なんて何もない。
ただ、三人で同じ時間を共有できたというだけ。
けれどそれが、何よりも贅沢で、
何よりもあたたかい“家族の休日”だった。
最終話みたいになりましたが
もう少し続きます