劇場版 ほしをつぐもの
試写会場の照明がゆっくりと落ち、スクリーンが静かに光り始める。
赤いシートに身を沈めながら、アクアは隣を見る。ルビーは胸を張り、どこか誇らしげだ。
「すごいでしょ? 宇宙が舞台なんだよ。編集もめっちゃ時間かかったんだから」
「……お前、ちゃんと芝居できたのか?」
そう言うと、ルビーは待ってましたとばかりにドヤ顔を作る。
アイはその様子を見て、嬉しそうに目を細めた。
――娘が、こんな場所に立っている。それだけで胸がいっぱいだ。
客席の前方に、有馬かなと黒川あかねの姿が見える。
ルビーが手を振ると、二人はぎこちなく振り返した。
アクアと目が合うと、なぜかすぐ逸らされる。
(……なんだ?)
アクアが首をかしげる間に、映画は始まった。
未知の銀河。
移民船を襲う敵。
極限状況の中で芽生える想いと、別れ。
かなの感情を削り出すような演技。
あかねの静かで深い存在感。
スクリーンの中の世界は、確かに“本物”だった。
アクアはいつの間にか、前のめりになっていた。
胸が締め付けられる。
――これは、いい映画だ。
だが。
物語が終盤に差し掛かり、絶望が頂点に達した瞬間。
画面が暗転し、静寂が訪れる。
そして。
スポットライトのような光の中に、ルビーが現れた。
『わたしの歌を……聞いて』
次の瞬間、会場に響いたのは、
まっすぐで、無防備で、感情を一切隠さない歌声だった。
(――――)
アクアは硬直した。
それは演技ではない。
計算でもない。
ただ、心をそのまま差し出すような歌。
「……っ」
顔が、熱い。
横を見ると、アイが口元を押さえて俯いている。
耳まで真っ赤だ。
「……ル、ルビー……」
スクリーンの中では、敵も味方も、
次々とその場に崩れ落ちていく。
それを見ている現実の試写会場でも、異変が起きていた。
「……な、なにこれ……」
「恥ずかし……いや、強い……」
「直視できない……」
観客たちは、なぜか目を伏せ、肩をすくめ、
椅子の上で小さくなっている。
アクアも例外ではなかった。
全身がむず痒い。
胸の奥を直接握られているような感覚。
(やめろ……ルビー……これは……これは
スクリーンの中で、ルビーは最後まで歌い切る。
世界を救うように、祈るように。
そして――暗転。
エンドロール。
照明が戻った瞬間、
会場には拍手と、困惑と、妙な沈黙が混ざり合っていた。
「……」
アクアは立ち上がれなかった。
アイも同じだ。
試写会後。
ロビーで待っていた監督とスタッフの前で、二人は深く頭を下げていた。
「すみません……うちのルビーが……」
「本当に……すみません……」
監督は苦笑いしながら言った。
「いえ……あれは……強烈でした。前代未聞ですが」
少し離れたところで、ルビーはきょとんとしている。
「え? みんな、どうしたの?」
アクアは目を逸らしながら、心の中で呟いた。
(……これが、
誇らしくて、
恥ずかしくて、
どうしようもなく――守りたい。
そんな感情が、胸の奥で静かに渦を巻いていた。
アナザーのヤツがコチラの世界では映画になりました ⋯⋯
それでは、良いお年をー