B小町ドーム初ライブ成功を祝うため、アイの自宅マンションには明るい笑い声が満ちていた。
テーブルにはアイ特製のケーキ。ルビーはフォークを握りしめてうきうきしている。
「ねぇアクア!ゴロー先生、まだ来てないよ!? 遅いよ!」
アクアは眉をひそめ、低く答える。
「昨日ライブ後に仕事があるって帰ったろ。言ったじゃねぇか」
だがルビーは机をバンッと叩き、ぷくーっと頬を膨らませた。
「やだ!先生いないとヤダ!先生も一緒じゃないと意味ないー!!」
完全なる駄々こねモードだ。
アクアは無言でルビーを見つめ──
(……やれやれ、なんでこう面倒なんだ…)
と心の中で深くため息をつく。
だがルビーの勢いは止まらない。
「だって先生いつも頑張ってくれるし!ライブも見てくれたんだよ!?今日いないのおかしいじゃん!!来るべきじゃん!!なんで帰ったの!? なんで!? やだーー!!」
アクアはついに困り果て、助けを求めるようにアイを見る。
(……頼む、なんとかしてくれよ)と目で訴える。
アイは「あー……しょうがないなぁ」と苦笑しつつ、ルビーの頭をなでた。
「ルビー。先生とは今度また遊ぶ約束するから。今日はみんなで楽しも?ケーキも焼いたし♪」
ルビーの表情がぴたりと止まり──
「……ママが言うなら、しょうがない」
と大人しくなりケーキを頬張りながら叫ぶ。
「ママのケーキおいしー!」
アクアは心の底から疲れ果てた顔でソファにもたれた。
そこへミヤコが柔らかい声で話しかける。
「アクアくんも大変ねぇ……ほら、お料理たくさん作ったから食べて」
「……ああ、すまねぇ」
アクアはフォークを手に取り、ようやく息をつく。
歓談が続いていたが、斎藤社長が唐突に言った。
「アイ、アクア。誘拐ドッキリ企画の話が来てるんだ」
「ドッキリだと? 俺たちに言っていいのかよ」
「この業界じゃよくあることさ」
「……ヤラセってやつかよ」
「演出、演出」ミヤコが苦笑する。
ルビーも「出たいー!」と手をあげるが、斎藤夫妻とアクアに同時に
「「「ルビーは顔に出るからダメ」」」
と言われる。
アイは「あはは……」と困り笑い。
ルビーはむくれるが、
「別の日にルビーはママとスイーツ食べ歩きの町ぶらね」
とアイに言われ、しぶしぶ納得する。
指定された“誘拐ドッキリ”の現場──廃工場。
薄暗い鉄骨、腐食した階段、風の抜ける音。
だがアクアはここに足を踏み入れた瞬間、不穏な“気配”を感じ取っていた。
(……妙だな。空気が軽すぎる。演出の雰囲気づくりにしては雑だ)
連れ込まれたアイとアクアは、予定どおり手錠をかけられる──
はずだった。
ジャラリ。
「……これ、本物の手錠じゃねぇか」
アクアの声が低く鋭く響く。
目の前にはカメラが一台。
不自然なほど真正面から二人をとらえている。
「普通、ドッキリならカメラを隠すだろ……見せる必要はねぇ」
(演出か……? いや、違う。これは臭うぜ)
背後から現れた男が、そのカメラに向かって叫ぶ。
「私の要求が飲まれなければ、こいつらを殺す!!
これは“リアル”だ!!」
アイは怖がるふりをして俯き──
アクアだけに見える角度で舌を出して、にししっと笑った。
アクアは深く息を吐く。
「……やれやれ。面倒なことになったぜ」
廃工場の冷風が唸り、鉄梁が不気味に軋む。
その中でアクアの瞳だけが、静かに、鋭く光っていた。
ゴロー先生忘れてたんで追加で ⋯