星の子   作:猫太鼓

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生存確認 後編

 

廃工場の冷風が、低い唸り声のように鉄骨の隙間を吹き抜けている。

金属音が遠くで キィ…キィ… と軋み、まるでこの場所そのものが“死を望む観客”のように息づいていた。

 

アクアの瞳だけが、その闇の中で鋭く光る。

仕掛けられたはずの“誘拐ドッキリ”は、すでに茶番の域を逸脱していた。

 

男の要求──。

「聖人を差し出せ」とか「国家の罪を償わせろ」だとか、もはや何を言っているのか分からん。

実現不可能な上に、筋の通らねぇことばかりだ。

 

アクアは内心で鼻を鳴らす。

 

「コイツ……頭脳がまぬけか?」

 

思考がガラクタみてぇに散らばっていやがる。

だが──そこでアクアの眉がわずかに動く。

 

(……いや、違うな。バカのふりをした“何かの時間稼ぎ”か?

 それとも、もっと別の意図があってこの茶番を続けているのか……?)

 

アクアの脳裏に、別の可能性が鋭い刃となって閃く。

自分たちを誘拐した“本当の理由”、そしてこの“見せすぎのカメラ”──誰かが見ている。

この空間のどこかではなく、もっと遠く……離れた場所から。

 

その時だ。

 

アイがアクアの腕にそっと寄り添い、微笑んだ。

恐怖を装っていたはずの表情が、ほんの一瞬だけ母の柔らかさを宿す。

 

「大丈夫。ママがついてるからね、アクア」

 

アクアの胸に熱が灯る。

その笑顔は、どんなスタンド能力よりも強く、迷いを焼き払う。

 

(……ま、グダグダ考えても仕方ねぇ。

 いつもどーりのアイを連れ帰り、ルビーの“おかえり!”を聞く……

それが、“たったひとつの単純シンプルな答え”だ)

 

アクアの瞳が決意の色に染まり、ゆっくりと判断を切り替える。

まずは何らかの“能力者”が見ている可能性を考え、時止めは温存。

スタンドも全身顕現は避け、

この世界に溶け込むほど薄く、腕・脚・視界へ限定的に纏わせる。

 

 

「アイ、落ち着け。これは“ドッキリ番宣”だ。

シナリオはこうだ……俺がエキストラの“誘拐犯”を派手に倒す。

それをカメラが撮って、決め台詞を吐く……SFXモリモリの、よくあるやつだ。」

アクアは手錠を見せつけ、拳を握り込む。

 

次の瞬間——

メキャ。

乾いた破砕音とともに、二人を繋ぐ手錠が粉々に砕け落ちた。

 

「わっ……!」

アイが目を丸くした瞬間、奥から男がこちらに気づき、叫びながら突進してくる。

 

アクアは肩を一つ回し、低く呟いた。

 

「……クライマックスだ。」

 

スタープラチナの力を“纏うだけ”に抑え、

SFX演出と思われるギリギリの速度と破壊力で、

——男を“生きているだけ”の状態へ叩き落とす。

 

コンクリ片が弾け、鉄骨がきしみ、

アクアの視界を覆う“紫の残像”が、静かに周囲の安全を確認していく。

 

そしてカメラの前へ歩み、低く、重く告げる。

 

「お前が誰だか知らねーし、興味もねェ。

どっかの大統領でも、マフィアのボスでも関係ねェ……。

だがな——

俺の家族に手ェ出すってんなら、話は違う。

 

その時は、この星野アクアが……

じきじきにブチのめす。」

 

その“覚悟”の一言が放たれた瞬間、

空気が震え、廃工場の梁がわずかに揺れた。

 

背後でアイが両手を合わせ、

「うちの子、男前〜〜〜っ♡」

と悶えまくっているのは聞こえなかったふりをした。

 

「帰るぞ、アイ。」

「はーいっ♡」

 

帰り道、アイはテンションMAXで喋り続ける。

「最近のSFXってすごいね〜! 本物みたい!」

「……ああ。ありゃ、ハリウッド越えたな。」

 

夕方の風が二人の髪を揺らし、

アクアは静かに思う。

 

“これでいい。これが一番、単純シンプルでいい答えだ。”

 

 

翌朝。

星野家のマンションに差し込む光はいつもどおり明るいのに、

アクアの胸中だけは、まだ昨夜の“廃工場の鉄の匂い”を引きずっていた。

 

リビングのテーブルには、新聞が数紙。

テレビもワイドショーをつけっぱなしだ。

番組司会者が愉快そうに笑いながらこう言う。

 

「昨日の“B小町ドッキリ番宣”すごかったですね〜!

 手錠が砕けるなんて、特撮SFXの域を超えてましたよ!」

 

アクアは新聞を一枚めくり、静かに眉を寄せる。

 

(……どの媒体も同じか。まるで“誰か”の意思で統一されてるみてぇだな。

 やりすぎたドッキリ番宣……? どこからの圧力だ?)

 

ページを指で挟む手つきは、少年のものとは思えないほど落ち着き払っている。

その瞳は、昨日男を叩きのめしたときと同じく、

底の見えない冷静さを湛えていた。

 

しかし──。

 

「この星野アクアが〜じきじきに〜ブチのめす〜っ!」

 

突然、背後で全力のモノマネが炸裂した。

振り返るまでもなく、声の主はひとりしかいない。

 

ルビー。

アイに抱きつかれながら、テンションMAXでアクアを指さしていた。

 

「ルビーめっちゃ似てる〜!」

アイが楽しそうに笑いながらルビーの頬をむにむに引っぱる。

「でもね〜アクアじゃなくて〜“アクアマリン”なんだよね〜?」

 

「そーだそーだ! アクアマリーン!!」

ルビーは両手を広げてアクアの名を全力で叫び続ける。

 

アクアのこめかみがピクッと動き、

新聞の端がほんのわずかに折れ曲がった。

 

(クソ……イラッとするぜ……)

 

しかし、次の瞬間。

 

アクアはゆっくりと息を吐き、

ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「……ったくよ。

 ……こういうのでいいんだよ。」

 

わずかに呟いたその声は、

昨日、廃工場を揺らすほどの“覚悟の宣言”を放った同一人物とは思えないほど柔らかかった。

 

アイはルビーの頭を撫でながら、

「ね、アクアも一緒に遊ぼ〜?」と無邪気に笑う。

 

ルビーも負けずに笑顔を向ける。

「アクアマリン〜ほらお兄ちゃ〜ん!」

 

アクアは新聞を閉じ、深く沈んでいた思考の箱を静かに閉めた。

 

(……まあ、悪くねぇ。

 昨日どんな奴が見ていようが……

 こっちの“日常”までぶっ壊させる気はねぇからな)

 

そして星野家には、

昨日の騒動が嘘のようにあたたかく、賑やかな空気が満ちていた。

 

──こうして、今日も。

星野家には、“平穏な日常”という名の騒がしく幸せな時間が、

ゆっくりと流れていくのだった。




ゴロちゃんは前編だけ ⋯
しかも本人に出番ナシ
ゴロちゃん生存フラグは
アクア(承太郎) 受胎まだスタンド操作が上手く出来ず(ジョジョ本編留置所シーン)射程距離が曖昧な状態で半オートだった為、母体のアイを守る為のアイテムにゴロちゃんもふくまれたからです
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