星の子   作:猫太鼓

6 / 25
歌姫

 

照明を落とした控え室には、先に休憩していたタレントがつけっぱなしにしていったテレビだけが光を投げていた。

アクアは長い脚を組み、どっかりとソファに腰を下ろす。

筋肉質でしなやかな体躯は、スポーツバラエティの衣装でも隠しきれない迫力を放っている。

 

画面では素人参加の“のど自慢”番組が始まっていた。

アクアは特に興味もなく、ただ眺めていた──が、思考は自然と別のところへ向かう。

 

(…アイの“子持ち発表”が、あれだけで収まるとはな)

 

ネットで炎上するどころか、ファン同士が連携するように“守る空気”すら生まれた。

母としてのアイを祝福する声すらある。

アクアは静かに息をつき、わずかに目を細める。

 

(妙な話だが…悪くねぇ)

 

そう思っていた、その時。

 

画面が急に切り替わり、見覚えのある金髪が映った。

 

──ルビーだった。

 

地方のホールらしき会場がざわつく。

年配客たちが手を振り、名前を呼ぶ。

その歓声は、アイのライブとは違う温度を持っていた。

孫を見守るような、柔らかな愛情の声。

 

アクアは目を細める。

 

(この前ルビーが言ってた番組……これか)

 

ステージ上のルビーは、天真爛漫そのものだ。

歌う前から客席のおばあちゃんに話しかけられ、飴をもらい、

生放送だというのに普通に包みを開け──嬉しそうにもぐもぐしていた。

 

会場は爆笑。

おばあちゃんは“ほんとに孫ができたみたい”と言う顔で微笑む。

 

アクアはソファにもたれたまま、

呆れながらもどこか優しい視線を向ける。

 

(まったく…お前はどこへ行っても愛されるんだな)

 

司会者が「せっかくなので、ゲストのルビーさんにも一曲!」と煽り、

会場が再び沸く。

 

アクアの眉がぴくりと動く。

 

(ルビーの歌……鼻歌しか聞いたことねぇが)

 

それでも観客は期待しかしていない声援を送り続ける。

ルビーはドヤ顔でマイクを握り──歌い始めた。

 

最初の数小節、アクアの表情は変わらない。

だが、途中から明らかに“ん?”という顔になる。

 

会場では

「がんばれ〜!」

「大丈夫だよぉ〜!」

「ほら、ゆっくりでいいよ〜!」

と、子供に声をかけるような応援が飛び交う。

 

ルビーは歌い終えると、やり切った感満載のドヤ顔でゲスト席へ戻る。

その瞬間、またしても客席から“孫娘を見る眼差し”で声援が降り注ぐ。

 

例のおばあちゃんは立ち上がり、飴玉をもう一つ差し出した。

 

ルビーは満面の笑みで「ありがとう〜」と受け取り、ぺろり。

 

その光景を見ながら──

 

控え室でアクアは、

耳まで真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。

 

(……どこまで世話が焼けるんだ、お前は)

 

照れ隠しのように前髪をかき上げる仕草だけが、

彼の静かな照れを物語っていた。




アクアの現在の体格は
承太郎の影響で色々でかいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。