イナズマイレブン 異界の雷鳴伝説   作:茶伽丸

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第2話 成長、そして稲葉中へ

時は流れる。

 

 赤ん坊だった俺は、やがて歩けるようになった。

 そして――前世の記憶が、完全に蘇った。

 

 5歳の春。小さな庭で、母親が買ってくれたサッカーボールを蹴る。

 

「迅ー、ご飯よー」

 

「はーい!」

 

 元気よく返事をしながら、俺は心の中で呟く。

 

(天道迅。それが、この世界での俺の名前)

 

 前世と同じ名前だ。偶然か、それとも神様の粋な計らいか。ボールを蹴る感触。前世では怪我で失った、この感覚。

 

(痛くない。膝が、痛くない)

 

 何度蹴っても、走っても。膝は何ともない。当たり前のことが、こんなにも嬉しい。

 

(ありがとう、神様)

 

 そして——俺は神様の課題を思い出す。

 

(サッカー部のない学校から始めて世界に挑む)

 

 途方もない目標。でも、やってやる。今度こそ最後まで。

 

 *

 

 そんなある日。

 

 庭でボールを蹴っていると、木の上から声がした。

 

「ほう、なかなかの蹴りじゃないか」

 

「!?」

 

 見上げると、一羽のフクロウがこちらを見ていた。

 

 純白の羽に、金色の目。普通のフクロウに見えるが――

 

「お前、喋った!?」

 

「ああ、喋るぞ。俺は天使だからな」

 

 天使……ああ、神様が言っていた監視役か。

 フクロウは木から飛び降り、俺の目の前に着地した。

 

「俺の名前はセラだ。お前の監視役として、神様から派遣された」

 

「監視役……」

 

「安心しろ、別に四六時中見張ってるわけじゃない」

 

 セラは羽を広げた。

 

「困った時はアドバイスもするし、神様への報告も俺の仕事だ」

 

「よろしく、セラ」

 

「ああ、よろしくな。天道迅」

 

 不思議と、頼もしく思えた。この世界で、初めて前世のことを知っている存在。

 

「で、お前の課題、覚えてるか?」

 

「サッカー部のない学校から始める、だろ?」

 

「正解」

 

 セラは満足そうに頷いた。

 

「ちなみに、お前が行く学校はもう決まってるぞ」

 

「え?」

 

「稲葉中学校。数年後、サッカー部が設立してすぐ廃部になる学校だ」

 

「10-0で負けて、『弱い』『恥ずかしい』って汚名が定着するらしいぜ」

 

「……厳しいな」

 

「だろ? でも、それがお前の課題だ」

 

 セラは首を傾げた。

 

「どうする? できそうか?」

 

「……やるしかないだろ」

 

 俺は拳を握った。

 

「ゼロから作る。それが、神様の課題なんだから」

 

「いい返事だ」

 

 セラは満足そうに笑った。

 

「じゃあ、稲葉中に入るまで、しっかり準備しとけよ」

 

「ああ」

 

 *

 

 それから数ヶ月後。

 

 近所に、引っ越してきた家族がいた。

 

「こんにちは。今日からお隣に住むことになりました」

 

 母親に連れられて挨拶に来たのは、一人の女の子。黒髪のロングヘアに、金色の目。年は俺と同じくらいだろうか。

 

「立花凛です。よろしくお願いします」

 

 まだ幼いのに、丁寧な敬語で話す女の子。

 

「俺は天道迅。よろしく!」

 

「迅さん、ですね」

 

「気楽に迅でいいよ」

 

「凛ちゃん、迅くんと仲良くしてね」

 

 母親たちがそんな会話をしている間、凛は庭に置いてあるサッカーボールに目を留めた。

 

「迅はサッカーをするんですか?」

 

「うん! 大好きなんだ!」

 

「そうですか」

 

 凛は少し考えるようなそぶりを見せるとボールを見つめて動かなくなる。

 

「君もサッカーやってみる?」

 

「え……いいの?」

 

「もちろん!サッカーはみんなでやったほうが楽しいからな!」

 

「……ありがとう!」

 

 そう言って、凛は微笑んだ。

 

 ——これが、俺と凛の出会いだった。

 

 *

 

 それから、俺と凛は毎日のように一緒にサッカーをした。

 

「凛、今日はパスの練習しよう」

 

「うん!」

 

最初は敬語が気になったが、今ではそれが凛らしいと思えるようになった。何故敬語なのか聞いたこともある。

 

「礼儀正しくしたいんです。お母さんにもそう教わりましたから」

 

真面目な性格なんだろう。そして——凛は、どんどん上達していった。

前世の知識を活かして教える俺に、凛は真剣についてくる。

 

「凛、将来はサッカー選手になりたいの?」

 

「いえ」

 

凛は首を横に振った。

 

「私は、マネージャーになりたいです」

 

「マネージャー?」

 

「はい。選手を支える、裏方の仕事です」

 

 凛は真剣な表情で言った。

 

「迅のような選手を、サポートしたいんです」

 

 ——この時、俺は確信した。

 

 凛は、俺の最高の右腕になる。

 

 *

 

 小学生になった俺は、地元のサッカークラブに入団した。前世の経験と記憶。転生後に鍛え上げた体。両方を活かして、日々練習に励む。エースストライカーとして、チームを牽引した。

 

「天道、すごいな!」

 

「また点取ったぞ!」

 

 チームメイトは喜んでくれるが――

 

 

(これじゃダメだ)

 

 俺だけが強くても、意味がない。前世で学んだ教訓。チーム全体が強くならなければ、最後には負ける。

 

 そして、小学6年の全国大会。結果は、ベスト8。俺が1点取ったが、それだけだった。

 1-3で敗退。

 

(やっぱり、俺だけじゃダメなんだ)

 

 ——仲間が必要だ。

 

 *

 

 試合後、凛が声をかけてきた。

 

「迅大丈夫?」

 

「ああ、凛」

 

「悔しいですか?」

 

「……ああ」

 

「でも、これで分かったんじゃないですか」

 

 凛は静かに言った。

 

「貴方一人では、世界大会には勝てない。だから——」

 

「……仲間が必要だ」

 

「はい」

 

 凛は微笑んだ。

 

「中学で、最強のチームを作りましょう」

 

「ああ!」

 

 俺は拳を握った。

 

(稲葉中で、ゼロから作る)

 

 本当の、最強チームを。

 

 *

 

 春になり、俺は稲葉中学校の校門をくぐった。隣には、凛がいる。中学生になった凛は、赤のカチューシャをつけていた。黒髪のロングヘアが風に揺れる。

 

「いよいよですね」

 

「ああ」

 

周囲を見渡す。新入生たちが、楽しそうに話している。

 

「おい、あそこ見ろよ」

 

「グラウンドの隅。ゴールポストがあるけど、誰も使ってないぞ」

 

「ああ、去年サッカー部が潰れたからな」

 

「10-0で負けたんだってさ。恥ずかしい」

 

そんな会話が聞こえてくる。

 

(10-0か…)

 

相当な大敗だったんだな。それで廃部。

「サッカー部、復活するのかな?」

 

「無理でしょ。誰がやりたがるんだよ」

 

「恥ずかしいし、弱いし」

 

周囲の反応は、予想通りで誰も、サッカー部の復活を望んでいない。でも——

 

(だからこそ、やりがいがある)

 

俺は拳を握った。

 

「凛」

 

「はい?」

 

「一緒に、伝説を作ろう」

 

「はい」

 

凛は微笑んだ。

 

「喜んで」

 

——天道迅、中学一年生。

 

異界の雷鳴伝説が、今始まる。

 




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