入学式が終わった放課後。俺と凛は、生徒会室へ向かった。
「迅、本当に今日行くんですか?」
「ああ。早い方がいい」
廊下を歩きながら、凛が心配そうに聞いてくる。
「でも、入学初日に生徒会室へ行くなんて……」
「大丈夫だよ」
俺は笑った。
「時間を無駄にしたくないんだ」
世界大会まで、時間は限られている。一日でも早く、サッカー部を復活させないと。
生徒会室の前に到着しドアをノックする。
「失礼します」
「どうぞ」
中から、落ち着いた声が聞こえる。ドアを開けると——生徒会長らしき人物が、こちらを見ていた。
短髪の癖毛に鋭い目つき。かなり身長も高い為座っているだけでもかなりの威圧感があった。
「新入生か。どうした?」
「あの、サッカー部を復活させたいんですけど……」
俺がそう言うと、生徒会長は少し驚いたような顔をした。
「サッカー部? あの、去年廃部になった?」
「はい」
「……なるほど」
生徒会長は腕を組んだ。
「理由を聞いてもいいか?」
「俺は、サッカーが好きなんです」
俺は真剣に答えた。
「だから、この学校でサッカーがしたい」
「……そうか」
生徒会長は少し考えてから、聞いてきた。
「ところで、君の名前は?」
「天道迅です」
「天道……迅……?」
生徒会長は何かに気づいたような顔をした。
「もしかして、小学生の全国大会でベスト8に入った?」
「え、ご存知なんですか?」
「ああ。俺の弟がサッカーをやっててな。お前のことを話してた」
生徒会長は驚いたような顔で続けた。
「全国レベルの選手が、なんでこんな廃部の学校に……?」
「……それが、俺の目標だからです」
「目標?」
「廃部の学校から、全国へ。そんなチームを作りたいんです」
生徒会長は少し笑った。
「面白い奴だな」
「分かった。サッカー部復活、前向きに検討しよう」
「本当ですか!?」
「ああうちは自由な校風が自慢だからね。ただし——」
生徒会長は真剣な表情になった。
「条件がある」
「条件……」
「まず、部員を最低5人集めること」
「5人……」
「それと、集めた5人でこちらで用意した5人とミニサッカーをして、去年のようにならないように証明することだ。無論君は参加してはいけないよ、君だけが強いんじゃ意味がないからね」
生徒会長は机に肘をつき、俺の目を見た。
「去年の大敗で、サッカー部の評判は最悪だ。正直、復活を望む声はない」
「……分かってます」
「10-0で負けた恥ずかしい部活。そんなイメージが定着してる」
生徒会長は続けた。
「だから、部員を集めるのは相当難しいぞ」
「それでも、やります」
俺は拳を握った。
「必ず、復活させます」
生徒会長は少し考えてから、頷いた。
「期限は1ヶ月。それまでに条件を満たせば、正式に復活を認める」
「ありがとうございます!」
「頑張れよ、天道」
「ハイっ!」
生徒会室を出ようとした時、俺は振り返った。
「あの、生徒会長」
「ん? まだ何か?」
「1つ、お願いがあるんですけど……」
「何だ?」
「校内放送を、一度だけ使わせてもらえませんか?」
「校内放送?」
生徒会長は不思議そうな顔をした。
「何に使うんだ?」
「サッカーのパフォーマンスです」
俺は真剣に答えた。
「グラウンドで俺がプレーして今のサッカーを見せるんです」
「今のサッカー……?」
「はい。生徒たちに、サッカーの面白さを知ってもらいたいんです」
生徒会長は少し考えてから、言った。
「面白いな。いいだろう、一度だけ許可する」
「ありがとうございます!」
「ただし、期待外れだったら即中止だからな」
「分かりました」
俺は凛を見た。
「凛、頼めるか?」
「はい」
凛は微笑んだ。
「任せてください」
*
それから数日後、校内放送の準備が整った日。
「迅、準備はいいですか?」
俺は学校指定のジャージを着てマイクの前に座る凛の横に立っていた。ちなみに凛もジャージを着ている。
「ああ、いつでも大丈夫だ」
「では、始めます」
凛の声が、校内に響く。
『こちらは校内放送です』
凛の落ち着いた声。
『本日、グラウンドにてサッカーのデモンストレーションを行います』
『興味のある方は、窓からご覧ください』
校舎の窓から、生徒たちが顔を出す。
「何だ? サッカー?」
「あの廃部の?」
「見てみようぜ」
ざわざわと、興味を持ち始める生徒たち。
(よし、ここからだ)
俺はボールを手にして急いで凛と共にグラウンドへと走った。
*
グラウンドの中心に俺と凛は立っていた。周りには放送を聞いて興味を持った生徒たちが集まっている。ある程度人が集まったことを確認すると俺は凛に目配せする。凛は軽く頷くとデモンストレーションについて説明を始めた。
「これよりサッカーのデモンストレーションを行います。内容は私と天道迅による一対一のサッカーバトルになります。それでは早速始めていきましょう。お願いします」
凛は言い終えるとボールを持つ俺の前に立ち塞がる。
凛は長年共にサッカーで遊んだ幼馴染、マネージャー志望とはいえかなりの実力を持っている。手加減をする必要なんてない。俺はそう考えながら立ち塞がる凛を抜く為、足元のボールを軽くタッチし左、右、左とリズムを作りながら、間合いを詰める。すると、凛の重心が微かに揺れた。
(今だっ!)
左から素早く抜こうと見せかけた次の瞬間、俺は右足のアウトサイドでボールを逆方向へ切り返しフェイントを掛けるが――それを予測した凛はフェイントに騙されずなおも俺の前に立ち塞がり続ける。
「もらいます!」
ボールが奪われそうになった瞬間チャンスで気が緩んだ凛の股下からボールを通して抜き去る。
グラウンドの周りにいる生徒達から「おお」という声が漏れる。
「甘いな」
「くっ――」
凛を抜き去った後俺はボロボロのゴールに向かってシュートを放つ。
もちろんこれだけでは終わらない。
全身に力を入れると、体の周りに電気が流れ始める。
ある程度電気が溜まったところで、力強く地を蹴った。
瞬時に加速し飛んでいくボールに追いつく。
そして——雷を纏った足で、もう一度蹴り込む。
「轟け――雷霆‼︎」
轟音と共に青と黄色の閃光を纏ったボールは目にも留まらぬ速さでボールネットに突き刺さる。
「うおおおお!?」
「今の何!?」
「必殺技!?」
生徒たちが、大きくどよめいた。俺はどよめく生徒達に向かって声を張り上げる。
「俺はこの稲葉中にサッカーを復活させてテッペンを取る!一緒にテッペンの景色を見たい奴はついて来い!俺たちとサッカーやろうぜ!」
*
パフォーマンスが終わった後。
周りからは、まだ生徒たちの歓声が聞こえる。
「すげえ!」
「あんな技、見たことない!」
「サッカー、面白そうじゃん!」
生徒会長が、グラウンドに降りてきた。
「天道……」
「どうでした?」
「……なかなか良かったよ」
生徒会長は笑った。
「これなら、部員も集まるかもな」
「ありがとうございます」
凛が、俺の隣に並ぶ。
「迅、お疲れ様でした」
「凛もな」
さあ、後は部員集めだ。