月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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感想という物は、頂けるだけで嬉しいものです。



会話、その始まり

 

 

倒れてしまったスラちゃんだったが、風紀委員会の子がちゃんと息をしている事を確認したため情報共有のために戻ってきた。便利屋の子達は気絶などでばたばたしている時に離脱できたようだ。何があったのかはまだよく分からないが、まあひとまず良かった。

どこかばつが悪そうな表情浮かべながら彼女は口を開く。

 

「引き止めて悪かったわ。アコのことも…あなたはあの子のところに行ってあげて」

「気にしなくていいよぉ、風紀委員長ちゃん。一応、私が代表だからね」

 

謝罪はすでに受け取っている。向こうは一応とはいえこちらに誠意を見せた。ひとまず、ここでの戦闘は“問題なかった”、そういう形で収まるだろう。

 

「ええ。内部から“大蛇が出た”なんて通報が無かったらもっと到着は遅れるところだった」

「もしかして、情報部からアレのこと仕入れてたりするの?」

「あまり大手を振って言うことではないけど、言ってしまえばそうね。とはいえ、存在が確認されている程度だけれど」

 

大蛇…昔、生徒会の資料で見たことがある。あの時は眉唾物だと思っていたけど、実在してさらには敵対してくるなんて。目的はわからないけど、今後警戒して損はなさそう。確か名前はビナーだったか。

 

「それじゃあイオリ、撤収よ。中隊に指示を出しなさい」

「あっ、は、はい!」

「アコは謹慎処分。他校の自治区へ無断侵入して、あまつさえ武力行使…謹慎と反省文で済むだけ幸運だと思ってちょうだい」

『はい…』

「チナツはそのままその子の面倒を見てもらって構わないわ。…ほら、ちゃっちゃとする」

 

そのまま部下達をまとめ上げて引き上げていってしまった。

わからないことが多すぎる。ビナーの出現もそうだし、黒服も何を考えているのか分からない。何より、スラちゃんのことだ。普通の戦闘で発熱と鼻血しか目立った外傷が無いなんてそうそうあり得ることじゃない。

何か隠していた疾患でもあったのか。

 

「とりあえず、近場の病院へ搬送します。細かいお話はそちらで」

「“うん。よろしく、チナツ”」

 

スラちゃんは病院に向けて救急搬送されていった。風紀委員のあの子も特に害意は無さそうだし、まあ大丈夫かな。

 

 

 

そう思って歩き出そうとしていた時、足の裏に違和感を覚えた。見てみるとそれは錠剤の包装シートだった。しかし、薬の名称などは書かれていない。それにここまで大規模な戦闘が起こっていた場所でゴミが文字通り塵にならないということはないだろう。つまり、これは比較的最近に使われた物。

 

「これは、ちょっときな臭くなってきたかもね」

 

 

 


 

 

 

あの大規模な戦闘から1日。柴大将は退院の目処が。スラはなんとか峠を越えたということで、アヤネ、そしてセリカと一緒にお見舞いに行った。

チナツも最低限の仕事は終えたということで、ゲヘナへと帰ったらしい。

 

その病室で聞いたのは、柴関に退去命令が出されていたということ。

 

「“カイザーコーポレーション、ですか?”」

「いや、詳しいことは覚えてねぇ。だが…いや、そんな名前だったかもな」

 

一度思考を巡らせる。ヒナは「カイザーに注意しろ」というようなことを言っていた。やはり、この辺りにはカイザーコーポレーションが一枚噛んでいるのか…?

 

セリカに肩を叩かれて思考が引き上げられる。

 

「私達は色々と探し物をしてくるから、先生は先に教室に戻ってて!」

 

注意されない程度の速さで2人は駆け出した。すぐに後を追おうとするも、スラのことを思い出したので戻って声をかける。

 

 

「“ごめんね、スラ。またお見舞いに来るから”」

 

 

…“また”、ここに来ることは無かった。

 

私たちはこの時の気づきで、アビドスのさらなる問題に踏み込んでいくことになる。カイザーの暗躍、“大人”との戦い…

言い訳なんていくらでもできる。でも、私はこの時の選択を後悔している。

 


 

 

スラちゃんが起きないまま2日。

 

 

「どうするのよ!?」

 

セリカちゃんが叫ぶ。

 

判明した土地の権利の状態。理不尽にも引き上げられた利息。今、この状況に陥った原因がカイザーにあると分かってもそう簡単にはどうにかできそうにない。

 

わいわい、がやがや。

 

会議は踊る、されど進まず。

 

…本当は、ゆっくりとスラちゃんのことを調べていきたかった。薬のことも、まだ分かっていない。

 

でも背に腹は変えられない。手を挙げる。空間がしんと静まり返った。物怖じはせずに、口を開く。

 

「もしかしたら、なんとかなるかもしれない手はあるよ」

 

これがどれだけ自分勝手な選択かなんて分かっているつもりだ。でも、この状況をどうにかするにはこれしかないと思ってしまった。

…思って、しまったのだ。

 

 

 


 

 

 

ここは、シャーレだ。

 

大窓から見える外は晴れ渡っていて、顔見知りの生徒達が仲睦まじく話している。

 

どうして私はここに居るんだろう。当番は無かった、というか、シャーレに入部すらしていなかったはずなのに。入り口を潜ると、皆こちらに手を振ってきた。その手はそのままにみんながこちらに近づいてくる。

ホシノ、ノノミ、セリカ、アヤネ…

 

「あれ?シロコと先生は?」

 

近づいてきたみんなが何かを言っている。

 

そして、全力で突き飛ばされた。オフィスの扉が開いて頭上を通っていく。

 

「は?」

 

廊下の地面すら無視して落ちていく。暗い暗い闇へと落ちていった。

 

…そうだ、夢を見ている。

これは、遠いいつかのことかもしれないし、近くのどこかのことかもしれない。今の私にそれを知る手段は無かった。

ただ、あの夢に身を委ねていられたらどれだけ楽かと。そう思った。

 

 

 


 

 

 

 

「…は?」

 

知らな…あー、いや…どこかで見覚えのある天井だ。この意匠を見るに、カイザーの施設。このタイミングならPMCの基地だろうか。

なんだか最近、誘拐されてばかりな気がするな。どこぞの2Dアクションゲームの姫…だめだ思い出せない。ゲーム開発部の子達と結構やってたんだけどなぁ…

 

見た感じは病室だろうか。扉に鍵はかかっていなさそう。ひとまず息を殺しながらどうしてこうなったか考える。

…まあ、人質だろうな。所在が分かっている意識不明の怪我人なんぞ、喜んで人質にするに決まってる。アビドス攻撃のついでに病院にも突っ込んで誘拐していったんだろう。保護とかの名目を使って。

全く、中途半端に悪い大人の考えそうなことだ。

 

ドアから近い死角に身を潜める。見回りは来るだろう。私のことはここまで拘束が緩いのは気になるが、今となってはそれすらもありがたい。そして、毎度の如く私の愛銃もここにある。人質から武器を没収していないなんてことはないだろう。普段は忌々しく感じるこの執着っぷりも、今は有り難かった。

極力気配を消し、とにかく待った。そして、ようやくの足音。

 

ドアが開かれた。異常に気づかれる前に首を突いて意識を奪った。あっさり倒れたことを確認して装備品を漁る。

…アサルトライフルとマガジンがいくつか。まあ上等だろう。それとフロアマップ。なぜか三つ折りになっている。

 

「ここはスランピアか何かかよ」

 

ありがたいが、この建物の構造は前の周と変わっていない。それだけ分かれば十分。地図は捨て置き、銃に誤作動が無いか確認した。

 

 

 

気絶させたやつは私の入っていたベッドに突っ込んでおく。こいつがやられたという発覚をなるべく遅らせたいからだ。どこでもいいから隠しておきたい。

 

 

開いたままのドアから出て、出口を目指す。

ホシノの元に向かっても意味はないだろう。結局のところ、私もまとめて捕えられて終いになるのが目に見えている。

 

耳を澄ませても異常は無い。

そうして歩みを進めていくと、やけに不自然に開けた場所に出る。

だだっ広い空間の真ん中に洒落た机と椅子が置かれていた。

 

2つある椅子の片方には、特徴的な黒い人影が座っている。

 

「…こんにちは。お急ぎですか?」

「いいえ、急いでなんていませんよ」

 

ぐるりと首を回してこちらを見てくる。不気味であったが、この程度の仕草は見慣れたものだ。強奪したアサルトライフルはその場に放り近づく。

 

「それで?うら若き乙女をこんな施設に連れ込んで何の御用で?」

「ククク…“うら若き”、なんて歳でもないでしょうに」

「ははっ。黒服、やっぱあんたやるね」

 

椅子に座り向かい合う。眼前にはまるで予定調和かのようにコーヒーが湯気を立てている。

 

「大方、カイザーに茶々を入れて私を確保したんだろうが…何が目的だ?」

「こうしてまたお話をと思いましてね。まあ、あなたをどうこうしようとする気はありませんよ」

「そいつはありがたい。私のコーヒーはあるかい?」

「欲しいのなら、見回りの方に頼んでは如何ですか?きっとあなたは連れ戻されるかと思いますが」

 

冗談を交わしながら足をぶらぶらとする。いつまでもこうしてジャブを打ちあっているわけにはいかない。目を細めて本題を促した。

 

「…先生もそうでしたが、最近損な役回りばかりしていますね」

「はははっ。やっぱり勧誘は断られたか。ま、ホシノの確保はできたんだろ?私というスペアも。お釣りが出るんじゃないか?」

 

やれやれと観念したように立ち上がり、部屋に設置された大きな窓を背にこちらに体を向けた。

 

「以前、“はずれ”、などと言われてしまいましたからね。私も少々ムキになってしまったのですよ。私らしくないものです」

 

翼のように腕を広げた。光が漏れる穴から確かな視線を感じる。実に楽しげに、心を躍らせながら口元の光る穴が広がった。

 

「改めて答え合わせといきましょう…あなたの名前は上廻スラ。そこに相違はありませんね?」

「ああ。当然だな」

「それでは一つ質問をさせていただきましょう…」

 

視線と光量が一層強まる。

 

「あなた、“上廻スラ”ではありませんね?」

 

一瞬、雰囲気が弛緩した。しかしくつくつと私の喉奥から漏れ出る笑い声が、また空気感を引き締めた。

 

「ははは。いやー、さすが黒服だ。そうだ。私は上廻スラではないよ」

 

言葉を紡ごうと頭の中で算盤を弾く。かちかち、かちかち。頭の中の動きと秒針の音がシンクロする。分針が弾かれて動くと同時、口を開いた。

 

「改めて自己紹介をするなら、他人の身体を乗っ取る亡霊ってところかな」

 

黒服はしばらく顎をさすっていたと思えば、指を鳴らして椅子に座る形で向かい合った。椅子が嫌な音を鳴らす。

 

「…おおよそ推論は固まりました」

 

 

しかし、彼はその推理をここで語ることはなくちびちびとコーヒーを飲み続けている。

 

「ええ、しかし、しかしですね。あなたにとっては自明で、私にとっては驚くべきものを考えつきましたが…その推論を語るには、これからの時間は少々短すぎる」

 

どこからか取り出した端末を眺めそう言うと、立ち上がった。その動きに呼応するように地上から爆発音が響く。

 

「…あいつらも来たか」

 

相当な時間寝ていたらしい。残された4人と先生の突入が始まっている。ここまで聞こえるということは、風紀委員会とトリニティとも協力関係を結べたらしい。

 

「私はここで失礼します。今先生に見つかるのは御免ですから」

「じゃ、またどっかで。ああ、そうそう、一つアドバイスだ」

 

背中を向けながら、いつの間に置かれていたグレネード散布機を手に取る。出口に向かうまま口を開いた。

 

「色彩は来るよ。遠くない未来、いずれね」

 

そう吐き捨て外へ向かう。人払いがされているのか出払っているのか兵士はほとんど居ない。誰にも邪魔されることはなく、戦闘音の方に向かった。

 

 





PMC侵入は丸々カットします。あまりにも変化に乏しいので…

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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