パヴァーヌ突入までの間章。パヴァーヌ突入したらまた投稿止まります。
色々とあった。しかしアビドスの騒乱は、一旦終わった。まあ、まだもう一悶着あるが……この爆弾が表出するのにはまだ時間がかかる。終結した、といってもいいだろう。
ならば、次はどうするべきか。対策委員会の机を指でかつかつと叩きながら思案する。
ゲーム開発部の一件。これへの介入ははっきり言って無理だろう。アリスを見つけられるかになるが、結局外部の人間である自分にできるのは廃墟で動向を見ることぐらい。それに、私1人ではあの扉は開けられない。
エデン条約の一連の流れ。日程が公表される調印式の襲撃には関与できるだろうが、補習授業部やティーパーティーの内紛には介入できないだろう。アリウスも開始日時が不安定だから、余程のことが無いと難しい。
RABBIT小隊……いや、あそこに入り込むのは無理だ。関わるならSRTかヴァルキューレにならなければ厳しい。
百鬼夜行は尚更だ。あれは内部のゴタゴタの側面がかなり強い。観光なんかの方向で言い訳すれば向かえるかもしれないが……こうなると、なあ。結局根っこの部分はどうにもできないわけだし。
ハイランダーや雷帝の遺産、そしてホシノ先輩が突っ走っていくあれは……言うなればタイムリミットだ。どこに向かっても結局目的は遠のく。
これらの問題を一気に解決できるのがシャーレへの入部なのだが、私の目的を考えるとデメリットの方が大きい。“ヘイローを破壊する爆弾”はいくつかストックしておきたいし、オーパーツ集めもしたい。他学園への介入権が手に入るのは願ったり叶ったりだが、ゲマトリアとの交流が実質的に切れるのは非常に厳しい。
……思案を一度やめにし、意識を現実に戻す。忘れるな。私の目的はシロコを
砂狼シロコを、殺せ。
「……スラ、大丈夫?手が震えてるけど」
「あ、ああ。大丈夫。ちょっと寝不足でね。今度ゆっくり時間を取るよ」
そういえば、薬が切れたままだったか。また時間を見つけて調達しないと。
「ホシノ先輩とお昼寝してきたら?断られることはないだろうし」
「それは……ちょっとなあ……」
魘されているのを見られるのもそうだが、睡眠薬を飲んでいるのを見られるのも良くない。というか、最近何か探りを入れてきている気がする。
……むしろ、本命を隠すためにそちらを見せるのもあり……か?
「まあいいか。場所とかって分かる?」
「ん、今日は屋上に居た。適当なクッションでも持っていけば快適だと思うよ」
シロコの言葉を信じて、手を振って委員会室を出た。階段を登っていく。その道中で、ホシノ先輩が隠していたクッションを一つくすねていく。先輩の本命とは違うが、それはそれとしてスペアのクッションがいっぱい隠されているのだ。こういうのの隠し場所はどこでも変わっていなくて。普段は嫌なことを思い出してばかりの前での知識が、ほんの少し活かせる。そのことになんだか少し嬉しくなっていた。
重厚感を感じる無骨な鈍く輝く扉が、印象とは裏腹に軽く開く。その奥で顔を出したのは、眠たげな目を隠そうともせず屋上にブルーシートを敷こうとしているホシノ先輩だった。
「おー?スラちゃんもお昼寝〜?」
「砂狼からちょっと休んでこいって言われてしまって。折角ならご一緒しようかなぁ、と」
「いいよいいよ〜。これ敷いちゃうからちょっと待っててね」
ざふん、というごわごわした感触のもの特有の音とともに、即席の布団が出来上がった。四隅にその辺にあったシャベルやジョウロを置いて重石にして、そこに横になる。
「……案外快適だなぁ」
「でしょ?いろんな場所でお昼寝してるけど、こういう王道な場所もいいよね」
目を閉じて、砂混じりの心地いい風に身を委ねる。陽気が体を包み込む。頭の下のクッションは低反発だ。主張は控えめながらも、しっかりと頭を支えてくれている。
大きく息を吐いた。こんなことを意識したところで眠れやしない。自然に眠れなくなったのはいつからだろうか。
10分か、20分か、それとも1時間ほど経っているのか。ずっと冴えた頭のまま瞼の裏の暗闇に居た中、誰かからの声がかかる。
「スラちゃん、寝れないの?」
……ホシノ先輩も寝ていないのか、話しかけてくる。いや、当然ともいえる。彼女はそもそも、寝られないのだから。
「……一つ、聞きたいことがあるんだ。スラちゃん、お薬飲んでたりしてない?」
思考が完全に止まった。探りを入れられているとは思っていた。いや、しかし、どこでバレた?薬を目の前で飲むようなヘマもしていない。
がばりと起き上がってホシノを見やる。薄く開かれた2色の目がこちらの心を射抜いていた。全身の毛穴が開く感覚がして、体温が急に冷めていく。落ち着け。気取られてはいけない。ここで最悪バレてもいいのは、睡眠薬と精神安定剤。黒服の神秘関連の薬は絶対に存在を知られてはいけない。
あれが露見すると、良い方で軟禁、悪ければアビドス追放や完全にホシノ先輩と敵対する可能性すらある。
「……そうですね。昔からパニックとか、ちょっとそういうところがあって。抗不安薬とかを……」
「違うでしょ」
鋭い隼の瞳が、こちらを見透かした。
——恐怖。
ただただ、本能的なそれが、心を固め始めていた。
「スラちゃん。まだ隠してること、あるよね」
おかしいと思った。
今さっき、スラちゃんは“抗不安薬を飲んでいる”と言った。でも抗不安薬は症状が出た時に飲む薬。一度先生に聞いてみたけど、あの時……ビナーと戦っていた時にそんな兆候は無かったと言っていた。別の薬も飲んでいるかもしれないが、戦闘中に飲む物ではない。
何より、何も印字されていない薬の包装というのは連邦生徒会が禁止している。銀色の無地のまま、というのはありえない。その包装を取り出して、見せる。
「……この薬、何の薬なのかな?」
目がより一層大きく見開かれる。
「…………言えません」
「……どうしても?」
「はい……ごめんなさい。いつかは、話します」
動揺を隠しきれないままそう言われる。
「そっか」
睨むのをやめてもう一度ブルーシートに背中を預ける。燦々と日光がこちらを照らしている。今日はいい日だ。
「変な雰囲気にしちゃってごめんね。さ、スラちゃんも寝よっか」
「……ありがとうございます」
言葉をそれだけ交わしてまた眠りにつく。何も喋らない時間が過ぎていく。さっきまでの張り詰めた空気感は嘘だったかのように暖かい雰囲気が広がっていた。
「んにゅー……あったかいねぇ」
「……そうだなぁ……」
その会話を最後に、眠りに落ちた。
「ゔゔ……あ゙……あ゙ぁ゙……」
暗い。覚束ない足取りで瓦礫の山を歩く。私はなぜ歩けるのだろうか。全身に付けられた包帯が煩わしい。結び目に指を入れて結び目を解いてしまおう。その下にあった生々しい傷口が顕になるが、まあ、あまり気にするものでも、ない。
さわさわと風が肌をなでる。焼けるような痛みが脳を刺した。ああ、でも、いいかもしれない。誰も居ない場所でこうして果てるのなら。
そう思い、小石と化したヒトの文明に身を埋める。寝転んだまま上を見れば、空は数日前と変わらず曇りのままで、それだけ見ればよくある日常だろう。
その向こう側に広がっているのが、真っ赤な空だということを除けば。
空が落ちてくる。黒い雲からたくさんの手が伸びてきた。
その手達は、まるで手招きするようにこちらを持ち上げる。ホシノ先輩やノノミにハグされた時のような、包まれるような暖かさに包まれた。
ああ、でも……本当に、このままでいいのかもしれない。
このまま無為に誰かを巻き込むより。この意味も無い生を繰り返すより。この暖かさに包まれたまま眠ってしまった方が。
……その、仮初の暖かさも長くは続かなかった。肩が揺らされる。冷たい何かが肌に触れる。
ぼーっとした意識はそのままに目を開いた。
そこに居たのは……
「繧ケ繝ゥ�∝、ァ荳亥、ォ窶ヲ窶ヲ」
顔が黒く塗りつぶされた、憎むべき死神だった。
ホシノ先輩もスラも居なくなって、1人になった委員会室。特にすることも無くなって爪の調子を見ている。特に変わった様子は無く。いつも通りに手入れそしておけば良さそうだ。
そんな中、静かになった廊下から足音が響いてくる。ゆったりとしたその歩幅からノノミが来たのだろうと当たりを付けて待つ。
ガラガラという音とともに扉が開かれた。予想通り、そこに立っていたのはノノミ。ふわりと髪を靡かせて部屋に入ってきた。
「ノノミ?どうかしたの?」
「シロコちゃん、ホシノ先輩とスラちゃんってどこに行ったか分かりませんか?」
「多分2人とも屋上に居ると思うけど……何かあるの?」
「柴関が屋台で営業を再開したので、みんなで一度お祝いに行こうと思いまして!」
そういえば、資金を手に入れたから“初心に帰るつもりで”と言っていた。確かに一度開店祝いに行った方がいいだろう。
「ん、分かった。私は2人を呼んでくるから校門で待ってて」
「はい〜!セリカちゃんはすでにバイトへ向かっているので、アヤネちゃんと一緒に待っていますね!」
立ち上がって廊下で別れる。また静かになってしまったが、一階まで降りる時はもっと騒がしくなるだろうと考えていた。
金属製の扉を開く。ブルーシートの上で横になっている2人の胸は規則正しく上下している。
……よく寝ている。
しかし、次に耳に入ってきたのは心地良さそうな寝言ではなく、呻くような低い低い声だった。
「……スラ?」
苦悶の表情を浮かべて身体を曲げるスラの姿。どういう、こと?
すぐに近づいて様子を確認しようとする。肩を揺すって起こす。やけに艶っぽい声を上げて、その目が開かれ始める。
「スラ!大丈——」
「ッ……!」
頬に、衝撃。
「なに、が……!?」
「ア゙ァ゙ッ゙ッ゙……!!」
銃声。腹に衝撃。ここまでお膳立てをされれば私でも分かる。しかし、感情がその判断を否定しようとしている。
……目線を上げたそこには、その感情すらねじ伏せるものがあった。
明らかに昏く染まっているその目は、敵愾心に満ちている。いつもの“喧嘩”で済む撃ち合いじゃない。あれは確実に、殺しにきている。
鋭く放たれた蹴りを間一髪で躱す。
……何が、起こって……?
その思考を途切れさせるように、頬へ鋭い拳が叩き込まれる。体が浮いて吹き飛ばされた。
ごろりごろりと地面を転がる。追撃の弾丸を避けるために転がり、背負っている銃を抜いた。
「何が起きてるの!?」
ホシノ先輩も飛び起きたが、まだ状況は理解できていないようだ。一旦、私がなんとか……!
きっと、無駄な思考をしているのが良くなかったんだろう。
「ガッ……!?」
スラの左手が首を掴んだ。万力のような力で締め上げられる。抵抗虚しくフェンスに叩きつけられたかと思えば、大きな破砕音とともに下に落ちていく。フェンスが耐えられなかったようだ。
落ちながらもホワイトファング465のトリガーを引く。しかし、いとも容易くスラの右手で弾かれ、反撃で銃弾を撃ち込まれた。
地面が、近い。それでも思考はいやに冷静だ。銃弾を撃ち込まれた痛みも。ごうごうと吹く風の音も。向こうでこちらを覗き込むホシノ先輩も。憎悪に染まり切った、スラの眼も。とても……とても、良く見える。
「……死ね、シロコ」
地面に叩きつけられる直前のその声も、よく聞こえた。決定的な違和感、そして恐怖を感じながら、意識を手放した。
「シロコちゃん!」
「砂煙!?何が起こって……!?」
「シロコちゃんとスラちゃん……?何が起こって……!?」
かみさこスラは、しょうきをうしなった!
上廻スラの結末は
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哀れな愚者に永遠の救済を
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幸せな咎人に寛大な天罰を