月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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前回のあらすじ

SANチェックを失敗した。


予約投稿してると自我出すの疲れますね



失踪、その始まり

 

 

 ……目の前で死神は気を失っている。さあ、ありったけを撃ち込んで殺してしまおう。そうだ、それで終わりだ。今までの歩みも、ここまでの苦労も。私の青春も。

 

 背後から、殺気。即座に左腕のグレネード散布機を盾にして防ぐ。小さな影が文字通り“落ちて”きていた。衝撃が伝わって肩にダメージを受けたが、些事だ。まだ動く。

 

「スラちゃん、何をしてるの」

「……邪魔、しないでくださいよ。シロコが居たら、みんな幸せにならない……みんな、死んでしまう」

 

 左手でシロコの襟を掴み上げ、立ち上がった。

 なぜか絶句している。どうして?みんな、みんな……どこのみんなも、シロコが殺していったじゃないか。

 

「ふーん……じゃあ、おいたをするなら、こっちも手段は選んでられないなぁ」

 

 ああ、やっぱりそう来るんだ。“私の”ホシノ先輩なら、そうするんだろうなぁ。やっぱり、優しい。でも、その優しさが、今は邪魔だ。

 

 左手に持ったシロコをそこらに放り、近づく。

 

 向こうもショットガンと盾を構えて突っ込んでくる。まともに付き合うつもりはない。盾の縁(へり)に足を引っ掛けて飛び越す。そのまま回転しながら3発の弾丸を撃ち込んだ。

 

「もぉ、痛いなぁ!」

 

 ……効いている様子は無い。どうすれば勝てるのか?

 

「ホシノ先輩、援護します!」

 

 ノノミの声。殺気はないが、確実に当てにきている。これ以上のホシノ先輩への攻撃は諦めて、横っ跳びで銃弾を避けていく。校舎にもダメージを与えながら執拗にこちらを狙ってきている。走りながらリロードをした。

 視線を切るために、ノノミの方へ向けてスモークグレネードを投げ込む。近くに居たアヤネも一緒に視界を塞ぐ。

 

「よそ見しすぎじゃない?」

「チッ……!」

 

 こちらに来たホシノ先輩と、そのまま一進一退の攻防が続く。銃が放たれれば避けて防ぎ、拳や蹴りはいなし続ける。

 その均衡を破ったのは、外側からの介入だった。

 

「あがっ……」

 

 頭に、アヤネのドローンがぶつかってきた。痛い。

 

「今ですホシノ先輩!」

「ありがとアヤネちゃん!」

 

 やはり、その明確な隙を逃してくれるほど甘くない。急接近して撃ってきた散弾を一度ごろりと転がって避け、ある物に近づく。

 

 そして、それを目一杯握り込んでホシノ先輩に向かってぶん投げた。

 

「シロコちゃん!?」

「隙がぁ、できた!」

 

 それは、気絶したシロコ。ぐったりとしたままのそれはホシノの重量バランスを崩すには十分な重量があった。そして、ホシノ先輩はそれを受け止めた。

 

 お姫様抱っこのように抱えられたシロコごと蹴りを打ち込む。衝撃を逃しきれず吹き飛んだホシノ先輩へ向けて、グレネード散布機の中身を一斉にぶち撒けた。

 

 混ぜ合わさったグレネードの中身が眩く輝く。砂と煙が混ざってできた煙幕が、場を覆い尽くした。

 

「次っ!」

 

「スラ先輩、こっちに来ます!」

「大丈夫、です!」

 

 ミニガンを、捨てた——!?

 

 その困惑の一瞬の内に、両手首をがっしりと掴まれる。

 

「この距離なら、その“盾”も使えませんね!」

 

 抜け出せない——!

 

「……ごめんね、ノノミちゃん。スラちゃんは、ちょっと一回眠ってよっか」

 

 その言葉が耳に入ってきたのと同時に、頭部に強烈な衝撃が走った。

 

 意識が朦朧とする中気がついたのは、ここが、夢ではないということと、空が青いという、ただそれだけのことだった。

 

 

 

 


 

 

 

 アビドスのみんなから呼び出された私は、急遽仕事を投げ出して砂漠のど真ん中に向かっていた。……前回の二の舞にならないようにホシノに迎えを頼んで。

 スラ、シロコ、セリカを除いた3人から一斉に連絡が来て只事ではないことだけは分かっているが、それ以外のことは書かれていなかったために何も分かっていない。

 

「“ホシノ、何があったの?”」

「……スラちゃんがね、暴れ出したの」

「“スラが?”」

 

 移動しながらホシノの話を聞いていく。

 

 急にシロコに攻撃し始めたこと。ホシノ達とも戦っていたこと。絶対に正気ではなかったこと。そして……シロコを、殺そうとしていたこと。

 

「“それは……”」

「うん。おじさんだって信じたくない。でもあの雰囲気は、命を狙いに来てた」

 

 そう言ったきり、ホシノは口を噤んで話さなくなってしまった。一体全体私が居ない間に何があったのか。

 

 空は若干暗くなり始めている。

 

 早歩きのホシノに置いていかれないように小走りになる。少し息が荒くなっている自覚はあるが、気にしていられる状況ではない。

 

 到着したアビドス高等学校は争いの臭いが色濃く残されていた。

 一階の窓ガラスはほとんどが砕け散っており、壁には未だ熱を持ったままの弾痕が目立つ。屋上を見上げると、一部が無くなりその周辺がひしゃげているフェンスがある。

 

 いつものような和やかな雰囲気は鳴りを潜め、月明かりに照らされた校舎はひどく冷たい雰囲気を私に感じさせてくる。

 

「先生、こっち!」

「“ま、まって……”」

 

 息を切らせながら、なんとか廊下を走る。開け放たれたドアの奥には保健室があった。ベッドには二つの人影。

 

 苦しみなのか安堵なのか、読み取れない表情を浮かべるスラと、所々に絆創膏をつけていつも通りの変わらぬ表情を浮かべるシロコ。そして座って看病をしているノノミ。

 

「あ、先生。この前ぶりだね」

「“シロコ!その傷は大丈夫なの!?”」

「安心して。そこまで酷くはない。どちらかと言うと背中が痛いかも」

 

 そう言って背中をさすり始めた。とりあえず無事なことを確認して、話を聞く姿勢を整える。

 一度息を整えて、正面から向き合う。話を聞く準備を整えたとシロコは判断したのか、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

 

 


 

 

 目を覚ました私が見たのは、こちらを覗き込むノノミの姿。目から涙がぽつりぽつりと落ち始める。煩わしそうに顔を拭ってみせると急に視点が動く。

 柔らかい香りとともに締め付けられる。

 

「シロコちゃん……!」

「ん……ノノミ、ちょっと痛い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“とりあえず、何があったのかを話してもらえる?”」

「わかった」

 

 

 

 

 

「あれは、うん。ホシノ先輩と一緒にスラが寝てると思って、2人を呼びに行った。その時は2人とも寝てた」

 

 先生はうんうんと首を縦に振っている。心の中の恐怖を押さえつけながら、口を開く。

 

「でも、スラはすごく魘されてて……そして起こそうと思ったら、急に殴られた。そのまま銃も撃たれて……目を見たら、私を見ているような、ここ以外を見ているような、暗い、暗い……」

 

 身体が震える。あの拒絶のような、隔絶のような、底冷えする視線が心臓に纏わりついている。

 様子を見かねた先生が、手を握ってくれた。

 

「“大丈夫だよ、落ち着いて。ゆっくり……ゆっくり、話して”」

 

 

「そのまま、スラは攻撃をしてきた。状況が飲み込めないまま私は、首を思いっきり絞められて、っ!」

 

 喉がきゅっと閉まる。あの時に向けられた殺意が肌に残ったままだ。背中に氷柱を差し込まれたようなあの空気感が、私の口を縫い付ける。

 いっそう強く手が握られる。少し圧力を感じるそれに少し意識を向けて、なんとか出来事を吐露する。

 

「……私は、そのままフェンスに叩きつけられた。がしゃんという音がして、フェンスが崩れて、そのまま落ちた。そして、地面にぶつかって……そのまま」

 

「“ありがとう。その中で、何か気づいたことはある?”」

 

 ……一度黙り込んで、何か変なことが無かったらかを思い出してみる。でも、全部が変だ。スラが急に攻撃してくるとは思えない。

 

 でも、明確に、そう、絶対にやらない事がある。

 

「スラは、私との模擬戦で首を狙ってくることは無かった。多分、殺さないようにとかそういう気遣いだったんだろうけど……」

「それはおじさんも変だと思ったなぁ。だから殺そうとしたように思っちゃった」

「でも……多分、殺しにきてたのは本当だと、思う」

 

 俯く。重苦しい雰囲気がその場に満ちた。

 

「それと、私のことをシロコって呼んでた。スラは私のことは苗字で呼ぶ……もう、何がなんだか」

 

 その日は一度そこまでにしてゆっくりと休もうという結論になった。細かいことはスラが起きたら聞こうということになり、先生も一旦アビドスに泊まることにしたようだ。

 普段の明るい雰囲気とは違う暗い落ち切った空気感に、バイトから帰ってきたセリカが困惑したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 


 

 

 

 起きる。真っ暗だ。

 隣でシロコは絆創膏を付けたまま眠っている。

 

 私は、何をした——?

 

 

 ホシノ先輩と一緒に昼寝をして、そして、瓦礫の中に居て……!?

 

「違う、違った。シロコ、じゃない。悪いのは、私だ」

 

 息がどっと荒くなる。焦点が合わない。合わないじゃない、合わせろ。

 ……落ち着け。これからどうする?どこに向かう?きっと、謝れば許してくれるだろう。シロコも、ホシノ先輩も……みんな、優しいから。

 

 このままアビドスに居たままだと大きく行動が制限されてしまうだろう。どちらにしろ、こんな危険人物を遊ばせていく意味は無いだろうし、多分シャーレに監視付きで押し込まれるのが定石だろう。法的に真っ黒なことは何もできなくなるのは御免だ。

 

 次に、知人の居場所に転がり込むこと。……そうしようか。なんとかアビドスから逃げられる場所。そこに、一つ心当たりがあった。

 

 

 そうと決まればすぐに行こう。壁掛け時計を見ると、ちょうど一時半頃。これだったら、とりあえず抜け出すことはできるだろう。

 

 銃はいい。勝手についてくる。グレネード散布機と、スマホ。あった。近くの棚に置かれている。

 

 乱雑なようで丁寧に置かれたそれを手に取る。窓を開け放って外に飛び出した。冷たい夜風が肌を撫でる。目から流れ出た涙が、顔を冷やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分走った。自宅には寄らなくてもいいだろう。あそこから回収するべき物は特に無い。というか、アビドスからの脱出手段はどうしようか。歩きで出るには物資不足だし、公共交通機関は大体死んでる。

 

 こういう時に頼るべきは、友人、だよな。

 

 

「もしもし?——うん、久しぶり」

 

 

 

 

「あー、うん。ごめん、ちょっと色々とあって……あー、その、帰りにくいというか……」

 

 

 

 

 

「うん。分かってる。ただ、少し時間が欲しくて……うん、ありがとう、ユウカ。明日にはそっちに行けるだろうから……うん、ありがとう、本当に」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 私とミレニアムサイエンススクールの関係は、それこそ中学生の頃まで……つまり、私ではなく“上廻スラ”であった頃まで遡る必要がある。

 

 というのも、違和感は無いだろうか。私はこのグレネード散布機をジャンク品から作った。それもこの身体に入ってきて数日もしない内に、だ。……そう、自宅に金属の加工が可能な工具一式が揃っている。切断や溶接、曲げなど、まあ一通りはできるそれなりに充実した設備。

 そして極め付けは日記である。この世界の上廻スラ……というより、どの世界の上廻スラも本来ミレニアムを第一志望校にしていた。志望理由はエンジニア部の存在。……もちろん、過去の私も。しかし、何があったのかそれがどこでもアビドスに変更されている。私も何故そう決めたのか記憶が無い。忘れてしまった。なにがあったのかは日記でも語られていないので、本人にでも聞かない限り不明のままとなる。

 

 閑話休題(はなしがそれた)。まあ、ミレニアム志望の縁で中学時代に結構そっちへ向けてお勉強をしていたのだ。そうした設備がどの私でも持っているのは正直非常にありがたい。過去の私に感謝している数少ないものだ。

 ……その代わりに、ミレニアムのとある人とも縁ができてしまっているのだが……これを話すと話が長くなる。また今度にしよう。

 

 今はそんなミレニアムに向けて歩を進めている。アビドス自治区からミレニアム自治区までの道は直線距離でいえばヴァルキューレの周辺を経由するのが一番近いのだが、腐っても警察組織であるヴァルキューレに顔を抑えられるわけにはいかない。となると、トリニティと閉鎖済みのSRTを経由するルートかゲヘナを通過するルートを通ることになる。*1

 エデン条約が近くピリついているトリニティを通るのは確実に面倒事になる。向かうべきはゲヘナだ。

 

 身に付けていたGPSをその場に捨てて、携帯電話のGPS機能も切って夜の街を駆ける。脱走が公になる前に、自治区の外へ。

 

 空に浮かぶ星と円環を目印に、住宅地を抜けてゲヘナ自治区へと向かう。夜の砂漠の冷たい風が、治りきっていない生傷を撫でた。

 

 地図はもう覚えきっている。一歩がどれくらいの距離なのかも、身体が感覚で理解してしまっていた。自分の罪からの逃亡という重いはずの行動がやけに軽く感じてしまう自分の心に、もう嫌気が差していた。

 

 

 

*1:
2ndPVの0:11周辺にて、一部学園間の位置関係を見ることができる。詳細は省くが、おおよそ本文中の通り。




Q.なんで1話時点でサクッとグレネード散布機作れてんの?

A.元ミレニアムエンジニア部志望で、そういった金属加工用の機材を一通り持っていたから。

Q.一周目でアビドスじゃなくてミレニアムに行ってたらどうなっていたの?

A.ミレニアムの一般モブCぐらいになってました。多分その方が幸せな終わりを迎えられてる。

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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