月は堕ち、日は昇らない   作:ハイカスカス

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前回のあらすじ

カイチョーに直談判

本作内で表記揺れがあった“グレネード散布機”と“グレネード投射機”を“グレネード散布機”に統一しました。
UAが謎に伸びてるなと思いましたが、ランキングに載っていたようです。ありがたいですね、ナナチ。




瑕疵、その始まり

 

 

 

 

 

 ユウカが心ここに在らずといった様子であったために一度帰した。引き受けた書類を熟しつつ、ノアもまた気が気でない様子だったので、そちらも一度帰した。

 

 ふと、溜息を一つ吐く。

 

 中学の時の後輩は元気にしているだろうか。

 ……あまり気にすることではないかもしれない。進路なんて人それぞれだし、高校選びなんてその最たるものだ。

 

 そうだとしても、ヒマリに多少詰(なじ)られながら、チヒロに半分呆れられまがら、キラキラとした目でこちらに教えを乞っていた彼女の姿を思い出すと、ミレニアム(ここ)に入ることを諦めるとは思えないし、思いたくない。

 

 何より、音信不通のまま失踪するというのも変な話だ。

 

 ……いけない。今日は2人の分も書類を処理しなければならないのだ。過去の感傷に浸るのは合理的ではない。それは後でもできる。

 紙のものはペンで。電子上のものはタブレットで処理していく。

 

 無駄な予算申請は弾き、機材の要請も必要不可欠なら承諾する。そういった会計業務が佳境になったころ、廊下を歩く二つの足音が耳に入る。

 ……2人が、戻ってきたようだ。

 

「ただいま戻りました、リオ会長」

「2人ともお帰りなさい。ユウカはもう大丈夫かしら?」

「あー……それ、なんですけど……」

 

 そこで話し始める。元居た場所で起きた諸々の事情により、自分達を頼ってきた生徒がいること。その生徒について、どこかしら寮の空き部屋を使わせてやることはできないか、と。

 

「私達も部屋で内部文書を処理することがありますし、あまり同じ空間に部外者を入れるのは……」

「ホテルを貸し出すのではいけないの?本人に持ち合わせがないとしても、セミナーが押さえている場所も何軒かあるけれど」

「そ、その……本人の精神状態が悪く……すぐに顔見知りが駆けつけられない場所にはあまり居てほしくないんです」

 

 話を一通り聞いてみる。……とはいえ、許可する必要性はあまり感じない。機密が漏らされている可能性もある。一応その生徒について情報を聞き出しておいて、元の学校の方に返せばいいだろう。

 

「名前と現在の所属を聞いておいてもいいかしら」

「上廻スラ————」

 

 思考に電気が流されたような衝撃が走る。

 

 今、彼女は何と言った?

 

 そう、上廻スラと言ったのだ。

 

 それは奇しくも、中学の時の後輩と同じ名前であった。

 

 

 

 


 

 

  2人はリオ会長の下、セミナーへ行ってしまった。

 私は1人ここに残されてしまった。普通なら目新しさにうろうろしてしまいそうなところだが、ユウカの部屋はもう見慣れてしまった。

 

 前に、結構お世話になることが多かったし。

 

 あまりこの部屋を荒らしたくはないので、隅でじっとしている。端末は点けない。本当に、1人になってしまったように感じる。

 

 大丈夫。私は1人じゃない。

 

 そう、そのはず、なんだ。こんなに虚しいのは、なぜなんだろうか。

 

 

 

 静まり返った部屋で長針が何度回った時だろうか。固定電話のコール音が静寂を切り裂いた。

 

「もしもし」

『あ、スラちゃん?会長が一度会って判断したいって……』

「分かりました。セミナーに向かいますね」

『いえ、迎えは出すのだけど……』

「大丈夫です、分かりますよ。守衛さんの方にだけ話を通してもらって大丈夫ですか?」

『そ、そう……あ、鍵は玄関に置いてあるからそれで戸締りだけよろしくね』

 

 その言葉を聞いて受話器を置く。部屋は先程までの少しの騒がしさが嘘のように静まり返った。

 一つため息を吐いて、玄関へ向かう。この静かな部屋から抜け出して、早く道を歩く人々の喧騒に身を委ねたかった。

 

 

 

 

 


 

 

 少し前、私とミレニアムの関係について話したことがあっただろうか。

 まあ、そもそもの話をすると、私は元々頭があまり良くない。今は繰り返しの中で下駄を履いてなんとかしているが、元々はあまり良くなかった。

 

 しかし志望はミレニアム。キヴォトスの中で知力が相当必要な学校だ。中学生の頃、私は背伸びをしてミレニアム自治区内の中学校に通っていた。少し早起きして電車に乗れば、割と通える距離だった。

 ……正直言って、後悔していた時もあった。勉強とか。あと勉強とか。

 

 そんな中で、私が頼っていた人が居る。

 

 当時才媛と呼ばれ、高嶺の花とされていた彼女。切れ長の赤い瞳に、独特の美的センスを持つ彼女。それでいて、運動神経以外の全てがずば抜けていた彼女。

 

 どの世界でも、ミレニアムのセミナー会長を務めていた、調月リオであった。

 

 それはもう、全力で頼みこんでいた……ような気がする。そこそこ後輩として可愛がってもらっていたし、勉強や技術に関しても結構教えてもらった……はず。なにせ、自分の体験はもう記憶が曖昧なのだ。砂粒のようにしか残っていない記憶を掴んで、一つ一つ思い出すしかない。

 

 

 そして、そんな彼女を裏切って、私はアビドスに行った。

 

 

 今思うと狂っているとしか言いようがなと思うし、私もそう思う。

 

 ……で、どうして今になってこんなことを考えているのかというと。

 

 

「お久しぶりです、リオ先輩」

「……ええ、久しぶりね、スラ」

 

 ……こういうことである。

 

 

 

 


 

 

 

「2人とも、一度退室してもらっても構わないかしら?」

「ええ。行きましょうか、ユウカちゃん」

「はい!スラちゃんも何かされたら逃げてきていいのよ」

「はは……分かってますよ」

 

 座ったままの私の正面に、彼女が立っている。彼女が音信不通になってから2年が経ったが、顔立ちは変わっていなかった。しかし、いくらか萎びたような印象が見受けられる。

 

 足音が十分に遠のいたのを確認して、話を切り出した。

 

「改めて言うけど、久しぶりね」

「久しぶり……と言うのも、あまり正しくないような気がしますが、まあ、そうですね。お久しぶりです」

 

 その要領を得ない発言に首を傾げ、睨みを効かせて続きを促す。

 

 違うはずだ。さっきのユウカへの返答も彼女らしくない。私の知る上廻スラは……非常に失礼だが、もっとアホっぽい。ここ2年で変わったと言われればそれまでだが……だとしても、この変わりようはおかしいと思ってしまう。

 

 10秒。たったそれだけの時間であったが、この部屋の空気が数段冷え込んだ。黙り続けていた彼女の口が開かれる。

 

「あなたには、通さなければいけない義理があると考えているので。2人をここから離してくれたこと、感謝します」

 

 纏う雰囲気が変わった。先程までの柔和なもとは違い、彼女は氷のような冷たいものになっている。

 

「……正しい自己紹介をしましょうか。初めまして、調月リオ。私の名前は上廻スラ。アビドス高等学校の2年生です」

 

 その言葉に耳を疑う。上廻スラと名乗っているのに、なぜ彼女はそんなことを言っているんだ?

 同姓同名?双子?記憶喪失でも起きたのか?

 ……ありえない。脳内の推論を否定していく。

 

「どういうことかしら」

「あー……まあ簡単に一言で言い表すと、ですが。俺……じゃないや。私はあなたの知る上廻スラを乗っ取っているんですよ」

 

 睨む。そんなことがあり得るのか?他の可能性は排除できないのか?

 ……しかし、提示された違和感は、この言葉を全て受け入れるだけで説明がついてしまう。

 

「私としても、本当はこの身体の本来の持ち主に返したい。しかし私には、まだやらなければならないことがある」

「なんのつもり?」

「言ったでしょう。あなたには通さなければならない義理がある、と」

 

「ええ、そうですよ。上廻スラが音信不通になったのも、ミレニアムから居なくなったのも。私が居るから、です」

「あなたは……!」

 

 その場の感情任せに首根っこを掴む。しかし、後に言葉も、行動も繋がらない。口を固く閉ざしたまま数秒が経つ。

 

「……いいんです。いいんですよ。あなたにはそれだけの権利があります。あなたから後輩を奪い、その未来を奪い、こうしてのうのうと生きている私に、罵詈雑言を浴びせ、拳を振るい、鬱憤晴らしをする権利が」

 

 その甘言に、右手がぴくりと動く。今にも振り上げてしまいそうなそれを必死に抑え込んで、手を放した。

 怒りは、ある。だがそれ以上に、彼女のその目に、どこか同情してしまったのも、また……事実だ。

 

「……」

「ここであなたを殴っても、何も解決しないわ。それで、私にこうしてコンタクトを取ったのは何が目的かしら?」

「理由は、特に。……ただ、何か償いをしたい、と思っていたことも事実です」

「そう……じゃあ、ひとつ質問をするわ」

 

 だったら、これを聞いておきたかった。

 

「……ここに来る前のあなたは、この世界の彼女と、同じような道を歩んできたのかしら?」

 

 少し首を傾げて思案した後、彼女は言った。

 

「……ええ。あなたを追い、教わった……とても楽しい、私の青春でした」

 

 その顔は、どこか遠い場所を見ているようであった。

 

 私は受け入れる。私にとっての上廻スラではなく、ユウカを頼りここまできた1人の生徒として。彼女は真相を語らない。だか、そのどこを見ているか分からない目は、私でも分かるように雄弁に事実を語っていた。

 

 

 

 


 

 

「……そういうことで、ここに来た」

「そうですか」

 

 

 ……気まずい!やっぱあいつ合理の悪魔だわ。というかなんでお前の隠し札をこうも簡単に部外者に晒してんだよ。部外者だぞ。やっぱあいつ合理の悪魔じゃないわ。

 

「……それで、スラは今後どうするつもりですか?」

「どうしようもないんだよ……私をここに置いてって、ユウカ達への説明は私がするって……」

 

 解せない。私が今居るのはミレニアム内の秘匿された一室。ビッグシスターにあれよあれよと連れ込まれ、今に至るというわけだ。

 私が呑んだ条件はただ一つ。このことを他言せず、こちらに協力すること。

 

「あんな甘い奴だったか……?」

 

 なんともらしくないと思ってしまう。とはいえ、こうしてAL-1Sの騒動の流れに介入できるようになったのは重畳。使えるものは使うつもりだ。

 

 あいつが来るまで世界を生かし続けろ。目的を忘れるんじゃない。

 




Q.過去の上廻スラはどうやってリオに教えを乞いたの?

A.粘着しまくって何度も教えを乞い、“対応した方が合理的だ”と思わせる。ちなみにこの経験により態度が若干軟化してる。


調月リオ
失踪した後輩と同じ顔と声の奴が訪ねてきた。あなたも私との思い出はあるのかと聞いたのは、彼女は自分の知る上廻スラと同じなのか知りたかったから。最初は疑念を抱いていたが、きっと彼女も同じだろうと、そう信じた。

どうしてあなたはそんなことを言うんだ?あなたの後輩を奪って、歪めて。そうしたのは、全て私の責任だったのに。……もっと、あなたに非難をしてくれた方が、心地がいいはずなのに。

小鳥遊ホシノ=ヘクトール(FGO)説を適当に流布しておく人間

22日は投稿をお休みします。祝日なので。

上廻スラの結末は

  • 哀れな愚者に永遠の救済を
  • 幸せな咎人に寛大な天罰を
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